宮藤官九郎監督による「超絶地獄コメディ」の世界をケレン味のあるVFXと自由なアイデアで彩る。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 211(2016年3月号)からの転載となります

TEXT_大河原浩一(ビットプランクス
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』予告編
©2016 Asmik Ace,Inc. / TOHO CO.,LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku.Inc./ KDDI CORPORATION / GYAO Corporation

自由な発想が活きた映像制作

今回は、宮藤官九郎監督作品の映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』のVFXショットのメイキングを紹介する。本作は修学旅行の最中に不慮の事故で亡くなった高校生大助(神木隆之介)が、地獄からの生還を目指して赤鬼キラーK(長瀬智也)の鬼特訓を受けながら奮闘するという、ハイテンション・コメディだ。このハイテンションな地獄の世界観を表現するにあたり、地獄のシーンはスタジオセットで撮影され、その映像にエフェクトを中心としたVFXを加えるという独特の画づくりが実現された。本作のVFXは、道木伸隆VFXスーパーバイザーを中心に8社のプロダクションが参加している。今回は代表して道木氏、日本映像クリエイティブ、wise、タイトルデザイナーの大槻彩乃氏に話を伺った。


▲左から久村英徹(日本映像クリエイティブ)、道木伸隆(ピクチャーエレメント)、在原聖乃(日本映像クリエイティブ)、豊 直康(日本映像クリエイティブ)、津田侑子(日本映像クリエイティブ)、廣羽裕紀(wise)、大槻彩乃(TITLE-AYA)、安 優輔(wise)、天川貴弘(wise)。以上、敬称略

本作のVFX制作の話が道木氏にオファーされたのは2014年12月。宮藤監督の前作『中学生円山』(2013)での参加が縁で今回のオファーとなったという。ほかのプロダクションの座組が決まったのが翌年の1~2月。ここから本格的な制作が始まった。ほぼ全編絵コンテが描かれており、その内容を基に撮影前に入念な打ち合わせやプランニングが行われている。宮藤監督や演出部とCG部でのやりとりがけっこう多く、日本映像クリエイティブの豊 直康氏も初期段階からブレインとして参加したひとり。「自分が描いた絵コンテはただの指針だから皆さんのアイデアを借りたいと宮藤監督が言ってくれていたので、他の部署を含め楽しみながら制作しました。宮藤監督に台本も絵コンテも描いてもらっていたので、宮藤監督からの要望を基にVFXで何ができるかを自分たちで考えて、宮藤監督に提案しながら落としどころを決めていった感じです」と道木氏は話す。

これから紹介するショットを見てみてもらえるとわかるが、各スタッフが楽しみながら映像をつくっていることを感じられる作品だ。「宮藤監督の魅力は引き出しが多すぎること」と道木氏は宮藤監督との仕事の印象を話す。大槻氏によれば宮藤監督は自分の引き出しを開けるだけでなく、その中にスタッフのアイデアを積極的に取り入れて制作を進めていけるタイプの監督なのでとてもやり甲斐のある仕事ができたという。それでは、代表的なVFXショットのメイキングを紹介したい。

01 イメージベースト・モデリングを利用したシーン制作

セットの一部を3DCG化する

地獄が舞台のシーンでは、スタジオ内に建てられたセットでの撮影が行われたが、右に挙げたえんま山が隆起するシーンの例のように、セットの一部を動かしたり壊れたりするような演出では、実際に制作されたセットを3DCG化して差し替えられている。えんま山を3DCG化するために、まず70枚程度の写真をあらゆる角度から撮影し、その写真データから3Dモデルを作成している。メッシュデータに加えてテクスチャも作成することができるので、セットと非常に近い状態の3DCGアセットが作成可能だ。

3DCG化されたえんま山は、隆起する際に崩れたり破片が飛んだりするので、パーツを3ds Maxで分割してアニメーションが付けられている。「砕いたパーツのクリーンアップが大変でしたが、外観に関してはほぼ修正していません。テクスチャも同時に作成できるのでとても時間の短縮になりました」と日本映像クリエイティブの久村英徹氏は話す。


▲スタジオに制作されたえんま山のセット。かなりの大きさがある

▲モデリングするために撮影された写真の一部



  • ▲生成されたメッシュデータ



  • ▲自動的に生成されたテクスチャがマッピングされた状態


▲3ds Maxで不要な部分を取り除きクリーンアップされたえんま山のモデルデータ


▲モデルデータは、シミュレーションおよびアニメーションの手付け作業用に分割などの加工が行われた


▲3ds Maxによるアニメーション付け



  • ▲レンダリングされた3DCG素材



  • ▲デプス素材



  • ▲土煙などのエフェクト素材



  • ▲完成ショット

PhotoScanによる3DCG化

写真を使ったモデリング手法では、PhotoScanを使った手法も使われている。下の例は、wiseが担当したショットのためのテストショットの例だ。実際のショットでは、撮影した俳優の顔写真をPhotoScanでメッシュ化し、顔をマッピングする際のアタリとして利用している。マッピング用に撮影した素材は5方向から撮影した映像を使ってアニメーションさせたモデルに対してプロジェクションしているという。


▲PhotoScanのシステム


▲モデリング用に撮影された人物の写真。専用の撮影リグを使って同時に複数枚の写真を撮影できる


▲PhotoScanでの作業画面。テクスチャも自動生成される



  • ▲PhotoScanで作成された人物のテストモデル



  • ▲実際にショットで使用されることを考えて衣服や頭部をリビルドした状態


▲PhotoScanでは同時に様々な角度から写真を撮影できるので、一瞬の表情もメッシュ化することができる

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02 自由な発想が産み出すケレン味のあるエフェクト

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02 自由な発想が産み出すケレン味のあるエフェクト

放電に浮き出る骸骨

地獄でのシーンの数々には、登場人物たちのハイテンションな演技に合わせて、アイデアとケレン味にあふれたエフェクトが使われたVFXが満載だ。これらのVFXは担当スタッフが楽しみながらアイデアを出し合って制作が進められたという。下に掲載したショットは感電した大助の身体に骨が浮き出るシーンだが、もともと宮藤監督から骨が浮き出るという表現は求められていなかったという。「今回素材がスタッフに渡るのが早かったので、その分時間に余裕も生まれ、スタッフがいろいろと遊び心を発揮してくれています」と道木氏。久村氏も「こちらから提案したアイデアを宮藤監督が喜んでくれるので、とてもモチベーションを高くもって制作できました」と語る。


▲3DCGの骸骨モデルをアニメーションさせた素材



  • ▲放電のグロー素材



  • ▲骨のマスク素材



  • ▲放電のグロー素材その2



  • ▲手描きで作成された放電素材。プラグインで作成したものではない



  • ▲放電のマスク素材



  • ▲実写プレート


▲完成ショット

手描き表現によるエフェクト制作

これまで多くの特撮ヒーロー作品に携わってきた日本映像クリエイティブならではのエフェクトが、下に挙げたようなAfter Effectsのプラグインによるエフェクトに加えて、手描きによるエフェクトが足された放電アニメーションだ。「エフェクトの色や形状なども全て任されていたので、眼から出た光線が地面にあたって爆発しちゃえとか、やりたいようにやらせてもらえました。宮藤監督にも道木さんにも納得してもらえるエフェクトになったので、大変でしたが楽しかった」と久村氏と話す。既製のプラグインでは表現できない荒々しくもケレン味のあるエフェクト表現になっている。

えんまの眼から出た光線が地面に直撃するシーン



  • ▲手描きによって制作されたエフェクトのマスク素材



  • ▲マスク素材を基にTrapcode Particularで加工して作成したグロー用マスク素材



  • ▲それぞれの素材をAEで加工して作成したエフェクトの完成素



  • ▲実写プレート



  • ▲眼の光などのエフェクト素材



  • ▲地面の爆発素材


▲完成ショット

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03 タイトルバック制作

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03 タイトルバック制作

遊び心満載のタイトル制作

宮藤監督の作品らしく、本作はタイトルやクレジットなどの見せ方もポップで遊び心の多い表現が満載だ。アバンタイトルやキラーKの演奏に合わせて表示されるテロップ、エンドクレジットなどをまるごと担当したのがタイトルデザイナーの大槻氏だ。通常タイトルまわりの制作はワークフローの最後の方で制作することが多いが、宮藤監督はこのようなタイトルやクレジットでも画をいじることが多いため、早い段階で制作に入ったという。「今回はCG班やコンポジット班と同じようなワークフローで制作を行えたのでとても制作しやすかったです。上がってくるCGカットを見ながら作業できるので、テイストも合わせやすく、タイトルと背景の画とのバランス調整などのコンポジット作業もやりやすかったです」と大槻氏は話す。

タイトルバックの見せ方などは、全て絵コンテなどで決められているわけではなく、大槻氏の方で何種類かのサンプルを作成して宮藤監督に提案し、宮藤監督と話をしていくなかで内容を作り上げていったという。「宮藤監督はこちらがやりすぎかなと思った2割増しくらいで考えて提案すると喜んでもらえます。最初から絶対にこうしてくれというオーダーがないので、自由にやらせてもらえました。タイトルなどもちょっとした遊びを忍ばせたり、こちらが面白いと思ったアイデアを素直に喜んでくれる監督なので楽しかったです」と大槻氏。本作では「アイデアを思いついた者勝ち」と道木氏は語る。

タイトルまわりで難しかったのは、実写映像との色合わせだったという。Logで撮影された実写素材に合わせて白いテキストや絵を乗せると、真っ白な色にならなかったりねらった赤が出なかったりと調整が難しかったが、タイトルが乗る映像は早めにグレーディングを行なってもらい、タイトルを合成して戻してまたチェックするといった連携ができたことで、スムーズに制作を進めることができたという。

劇中で演奏される楽曲の歌詞テロップの例



  • ▲吹き出しのデザインの基になった大和絵の火炎



  • ▲地獄絵図の火炎なども参考にされている



  • ▲Illustratorで作成した吹き出しの素材



  • ▲吹き出しに入るテキストをAEでアニメーションさせる


▲下絵のグレーディングに合わせて、吹き出しの色を調整している



▲大槻氏が制作したタイトルワーク

▲スタッフ間でショットの確認に役立った、ピクチャーエレメントが開発したPE RUSH!。撮影したプレートや、コンポジット作業後のショットなどを専用サーバにアップすることで、iPadを使ってどこででも確認することができるアプリだ

  • 映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

    監督・脚本:宮藤官九郎
    撮影:相馬大輔(J.S.E)
    美術:桑島十和子、小泉博康
    VFXスーパーバイザー:道木伸隆
    カラーグレーダー:齋藤精二
    出演:長瀬智也、神木隆之介、尾野真千子ほか
    製作:アスミック・エース、東宝、ジェイ・ストーム、パルコ、アミューズ、大人計画、KDDI、GYAO/制作プロダクション:アスミック・エース
    配給:東宝=アスミック・エース
    ©2016 Asmik Ace,Inc. / TOHO CO.,LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku.Inc./ KDDI CORPORATION / GYAO Corporation
    www.TooYoungToDie.jp

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.211(2016年3月号)
    第1特集「モーショングラフィックス 匠の技」
    第2特集「キャラクターリグ最新事情」

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:152
    発売日:2016年2月10日
    ASIN:B019NDFPHC