2010年のゲーム発売からTVアニメ、ライブなど多方面に展開を続け男性アイドル作品の金字塔とも言える『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズ。昨年10月から放映されたTVアニメシリーズ4期から、12話と13話にてOAされた決戦ライブシーンのメイキングを紹介する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 227(2017年7月号)からの転載記事になります

TEXT_大河原浩一(ビットプランクス
EDIT_小村仁美 / Komura Hitomi(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

CGWORLD Entry.jpでも今年3月に開催された「CGWORLDゼミ A-1 Pictures」セミナーにおいて同シーンのアニメーション制作について語られた内容の記事 が掲載されているが、本稿ではキャラクターメイキングに主眼をおい て、アイドルグループのCG制作のポイントをA-1 Pictures CGディレクタールームの方々に解説してもらった。

  • 写真左から CGキャラクターリギング&セットアップ担当:宮地克明氏、キャラクターモデリングディレクター:宮嶋克佳氏(フリーランス)、CGディレクター:中島 宏氏、CGアニメーター:工藤菜央氏、CGキャラクターリギング&セットアップ担当:水原良氏(以上、A-1 Pictures)

ライブシーンではほぼ3DCGによってキャラクターが表現されているが、CGディレクターの中島 宏氏はこのCG制作の中で注力したポイントを「ライブシーンでは、作画では難しいカメラワークの部分を3DCGが担当しているため、3DCGならではの表現というよりは、いかに作画に馴染むルックを3DCGで作成するかがポイントとなりました」と話す。作画でもやれないことはないが、効率やコストパフォーマンスを追求した結果として3DCGで制作するという判断だという。決戦ライブには、3グループ18人ものキャラクターが登場するため、かなりバリエーションやボリュームのあるモデル制作となるが、様々なCGアニメ作品のモデリングに関わり、フィギュアのデジタル造形も手がける宮嶋克佳氏がキャラクターモデリングディレクターとして参加しており、作画に非常に忠実なアイドルキャラクターが3DCGで実現されている。

TOPICS 01 キャラクター造形

決戦ライブの準備が始まったのは、2016年1月。モデリングの本制作に入る前に、中島氏や宮嶋氏が作画監督やキャラクターデザイナーと直接打ち合わせをして、イメージの擦り合わせを行なったという。「作画監督とは、先行して作成していたモデルを見せながら、意識の擦り合わせを行いました。他のプロジェクトでも同じですが、作画スタッフとCGスタッフが密にやりとりをしながら作業を進めていくというのはワークフロー的にとても難しく、どうしても意識のズレが出てきてしまいます。そこでなるべく早い段階で打ち合わせをして、少しでも意識のズレがなくなるようにしました」と宮嶋氏は話す。具体的には、例えば作画のこの線はシワなのか衣装のディテールなのかといった線の解釈の仕方、設定画には描かれていない靴の裏の設定や衣装の構造など、3Dモデル化にあたって必要になる細かな部分を詰めていったという。シリーズ3期に登場したキャラクターについてはモデルデータが存在するが、若干シルエットが変更されているため、最新の設定に基づいて修正を施しているとのこと。

モデリングの作業は、社内外を含めて約9名のモデラーが担当し、その全ての作業を宮嶋氏がチェックしてクオリティを担保している。宮嶋氏によるチェックバックは非常に細かく丁寧に行われている。「チェックをする際に気をつけていたこととしては、もちろん一番は顔なんですが、男性アイドルなので身体の筋肉の付き方などにも気を配りました。活動的なアイドルだということを念頭に置いていましたね」と宮嶋氏はモデルチェックの際のポイントを語る。モデラーごとにモデリングに使用しているツールは異なるが、最終的にはテクスチャとPencil+3によるマテリアルを設定した状態で、3ds Maxにてテストレンダリングして確認したという。キャラクターの質感設定では、ライティングだけでは作画のような影が出ない部分が多いため、テクスチャに影を描き込んでいる部分も多く、ハイライトも極力テクスチャで表現している。ただ、目線はモーフターゲットによって動かしているため、テクスチャに瞳に落ちる影などを描き込んでしまうと変形することから、影を落とすためのポリゴンを配置して対応している。テクスチャは1体につき10枚から15枚程度使用されており、顔のテクスチャについては2K解像度で用意されたとのこと。

<コンセプト>

作画に馴染むCGキャラクターST☆RISH



ST☆RISHの2D設定画【画像上】と3DCGで制作されたキャラクターたち【画像下】。「いかに作画に寄せるか」を3DCGモデル制作のテーマとしたというとおり、作画と3DCGを見比べてもまったく見分けがつかない仕上がりだ。ST☆RISHは軍服風衣装でまとめられた王子様系のデザインになっている。装飾に紐類のアクセサリーが多く、全体的に硬い生地でできた衣装なので、リガー泣かせのデザインだったという。トゥーンの表現はPencil+3が使われている

QUARTET NIGHT

QUARTET NIGHTの2D設定画【画像左】と3DCGで作成されたキャラクターたち【画像右】。白をベースとした貴族的なデザインの衣装でまとめられている。ST☆RISHの衣装と比べてデザインの方向性がかなり異なるが、世界観を統一するために、全体を通して個々のキャラクターモデルのつくり方を変えていることはないという

HE★VENS



HE★VENSの2D設定画【画像上】と3DCGで作成されたキャラクターたち【画像下】。青をベースとした現代的な衣装で統一されており、3グループの中では柔らかめの生地をベースとしたラフなデザインの衣装になっている。厚めの生地を使っているグループとHE★VENSのように薄手の生地を使っているグループがあるが、布のつくり方としては同じ手法を用いており、作成手法で差別化はしていないとのこと

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キャラクターモデリング

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<キャラクターモデリング>

3Dモデル化を意識した衣装設定


キャラクターモデル制作では、初期段階で宮嶋氏と作画監督との間でイメージの擦り合わせが行われた。【画像上】は愛島セシルのステージ衣装の設定画。作画監督との打ち合わせを経て、靴の裏や衣装の内側の構造が描き足されている。通常はTポーズで作成した状態でのチェックが多いと思うが、本作では極力設定画の状態に合わせ、わかりやすくするためにAスタンスのポーズでレンダリングしてチェックが行われている



  • 愛島セシルの3DCGモデルのシェーディング画像



  • Pencil+3で作画に合わせてレンダリングしたもの。設定画にある線についても、事前にどのように解釈したら良いか打ち合わせで意識を統一した上でCGのルックに反映された

モデリング監修によるリテイク

宮嶋氏による3DCGモデルに対するチェックバックの例だ



  • 修正前の状態



  • 修正前のモデルに対して、宮嶋氏が画像のように非常に細かく丁寧なチェックを入れていく

縫製処理の統一やエッジの形状が硬くなっているため金属的に見えるなど、ディテール処理の仕方で材質感にリアリティを与えるという、フィギュアのデジタル造形も手がける宮嶋氏ならではのチェックバックが記載されている。ST☆RISHのメンバーは前期にも登場しているが、設定画にも変遷があり、本作でも若干の修正が施されているため、モデリングには最新の設定画が用いられている


©UTA☆PRI PROJECT

【画像上】は1期の四ノ宮那月の表情設定画。この表情に対して3期では【画像下左】【画像下右】のように修正が加えられているため、本作でもこの修正に準じてモデリングが行われた

<質感>

質感設定



  • 一ノ瀬トキヤのシェーディングモデル



  • Pencil+3でレンダリングされた画像



  • 顔のアップのシェーディングモデル



  • レンダリング画像

作成されたモデルは、シーンに配置した3DCGのライトでは作画のような影が出ない場合が多いことから、極力作画に合わせたルックを実現させるため、【画像左】のような影を描き込んだテクスチャがマッピングされている。髪の毛などのハイライトも【画像右】のように極力テクスチャに描き込んでいるという。1体につきPNG形式で統一されたテクスチャが10~15枚使用されている

目の落ち影


キャラクターの表情は、モーフターゲットを使用して変化させている。視線の動きも球体モデルを動かすのではなく、モーフターゲットによる変形で実現。作画ではよく眼球にも影が落ちているように描かれていることが多いが、テクスチャに影を描いてしまうと、変形させたときに影も変形してしまい作画のような表現にならないのだという。そこで、眼球や二重の影については、画像のような影専用のメッシュを作成して、ライトによって影を落としている。一方で変形による乱れが生じない部分については先述のようにテクスチャを作成している

レンダリング素材

本作では、撮影の工程は全て外部の撮影チームのスタッフが担当しているため、CGルームからはレンダリングした素材を提供するというフローになっている

撮影で加工できるように、【画像右】のような素材分けで主にカラー素材のほかにカット処理に合わせたマスクデータが出力されている。また、特殊なマスク素材として、【画像左】のような衣装のラメや衣装に投影されるプロジェクションマッピング用のマスクも出力



  • 衣装のラメ表現の例



  • プロジェクションマッピングの例

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TOPICS 02 リギング&アニメーション

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TOPICS 02 リギング&アニメーション

キャラクターモデルが完成したところで、リグが組まれる。シリーズ3期まではBipedが使用されていたが、アニメーターからの要望もあり今回からCATに切り替えられた。モーションキャプチャをベースとしたアニメーション工程では、Bipedを使用したリグの場合いったんMotionBuilder上で修正を行なった上でBipedによってアニメーションを作成していくという手順が採られることが多いが、今回はなるべく3ds Maxだけで作業を完結したいという方針により、動きの修正がしやすいCATに変更されたという。ただし、CATだけではリグの移動やスケールの変更に対応しづらいため、首を縮めたりといったスケールのオフセットを付けられる補助リグを加えるなど、様々な工夫が付け加えられている。18体のキャラクターのリグは、プライマリについては共通のリグが使用されている。

セカンダリについては、衣装の構造が異なるため、キャラクターそれぞれに特徴のあるリグが組まれている。男性キャラクターならではのポイントとして、「舞台衣装なのでロングジャケットやカーディガンなどがあるのですが、男性キャラクターの衣装は、女性キャラクターの衣装に比べて衣装の重ね着の数が多かったり挙動が狭かったりするため、めり込みが発生するなどコントロールが難しい衣装が多いんです。そのためコントローラの数も増やさざるを得ず、手数が多い印象ですね」とリギングを担当した宮地克明氏は語る。また、紐などの揺れものについては長めのものにはSpring Magicを使っているが、その他は手動のコントローラを作成して対応しているという。「短髪のキャラクターが多いのでシミュレーションだと髪がなびいているという印象が付けづらく、見映えが良くない場合が多い。カット数も多いのでなるべくまとめて手付けで制御できるようなコントローラを加えました」と同じくリギングを担当した水原 良氏もふり返る。

ダンスのアニメーションについて、3期にもCGディレクターとして参加した工藤菜央氏は、実際のアイドルグループの振付を参考にしながら、グループごとのパフォーマンスの差別化をしているという。「特に男性キャラクターなので、筋肉の見せ方や動きのダイナミックさがポイントになっています。顔だけではなく手の表情や動き全体で映えるように気をつけています」と話してくれた。

キャラクターのリグ構造

ボディに関してはプライマリ【画像左】とセカンダリ【画像右】の2種類のリグが用意されている。プライマリセットアップでは、アニメーターが個別に操作を覚える必要がないように全てのキャラクターモデルで統一されたセットアップが使用されている

CATは単純な指や手のひらの動きしかできないため、豊かな手の表情をつくり出すためにオリジナルのリグが作成された【画像左】。また、脚を使った大きな振付もあるため、股関節の形状を調整するコントローラも仕込まれている。セカンダリセットアップでは、キャラクターごとに個別のリグを作成。揺れものは作画的な動きの表現に合わせるため手付けで効率良く動きを付けられるセットアップが施された。同じようにモーフターゲットを使ったフェイシャルリグも変形しやすいように工夫されている【画像右】


これにより魅力あるキャラクターのステージアクションが実現された

表情


一十木音也の表情集。これらの表情は、ターゲットモーフとフェイシャルリグで表現されている。ターゲットモーフは基本的な発音の口の開きと、感情表現の最低限のパターンをターゲットモーフで用意し、その他の表情についてはフェイシャルリグを使って個別に作成できるようになっている。非常に単純化されたコントローラが用意されており、コントローラの操作だけでモーフターゲットを操作することができる。また、作画らしい画にするため、撮影するカメラの方向によって顔のパースが変形できるリグも準備した

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TOPICS 03 ステージ演出

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TOPICS 03 ステージ演出

キャラクターたちがライブを行うステージセットも、A-1 Picturesが制作を担当している。美術設定を基にまずはラフモデルを作成し、カメラワークを考慮したバランス確認が行われた。ラフモデルを使って実際にレイアウトをとってみて、観客との距離感やステージの高さなどを調整していったという。ステージにキャラクターのアニメーションを加えた各カットの制作については、演出側から要望に従って進められていった。「QUARTETNIGHTとHE★VENSは実際のライブ演出に近いかたちのカメラワークになっていましたが、ST☆RISHは主役のグループということもあって、あまりカメラを動かさずに正統派アイドルとして振付をカッチリ見せたいという要望が監督からありましたので、カメラワークのほかに振付の統一感などに気をつけながらカットを制作しています」(中島氏)。

キャラクターの見せ方以上にステージの制作で難しいのは、観客席を埋め尽くす観客の処理だ。数万の観客がペンライトを振るといった演出もあるため、いかに省力化しながら、演出を実現していくかがポイントになったという。まず、カメラがダイナミックに動いたり、引きで観客が大量に映り込むカットは、Mayaと群集シミュレーションプラグインGolaemを使って作成されている。その他のカットでは、観客のテクスチャをマッピングした平面ポリゴンを配置したり、アリーナ席の観客などには簡易的なモブキャラクターを作成・配置して対応している。また、全ての背景を3DCGで出力するのは効率が良くないため、一部背景は美術で対応したり、遠景のペンライトの動きについては、モブキャラクターのマスクとペンライト素材を撮影サイドに渡して撮影時にコンポジットして処理されているという。「Golaemでの群集アニメーションは社内でしか作業できない事情があり、時間的な問題が危惧されていました。そこで、背景美術や外注スタッフでも作業できるようテクスチャやモブキャラといった素材を提供することになりました。カットによって3パターンから手法を選べる状況をつくることができたので、その分苦労が実ったかなと思っ ています」と宮地氏は語る。ペンライトの色はグループによって使用される色が決まっているが、ST☆RISHのカラーである7色をベースとして、After Effectsでの色替えによって対応しているという。

ステージ制作のながれ


ステージの美術設定

美術ボード

3DCGで作成されたライブステージは、美術スタッフが作成したステージの美術設定を基にCGチームがまずラフモデルをベースとした美術ボードを作成し、演出陣とスケール感や細かい仕様、バランスが検討されていったという。方向性が決まったところで、ラフモデルを基に本番用のステージがつくり込まれていった


本番モデルでは、観客とアイドルが極力被らないようにステージの高さが変更されたり、モニタの位置なども修正が加えられている


また、照明や電飾なども非常に細かくつくり込まれた

階段など、大写しになるような部分は美術にテクスチャ素材を発注して作成された素材が使われている。逆に観客席など暗く落ちてしまうような部分はCGルームが主導で作成したとのこと

観客のペンライト制作

アリーナを埋め尽くす観客は、Golaemを使用した群集シミュレーションと、簡易モデルを使用したもの、板ポリゴンにテクスチャを貼ったものなど、複数の手法をカットによって織り交ぜて表現している

【画像左】のように広い範囲で観客が捉えるカットではGolaemを、【画像右】のような近接するカットではオブジェクトで作成したペンライトを使用している

また、カットによっては3Dシーンで観客を配置するのではなく、撮影段階で合成していることもあるという


そのような場合には、CG側で【上の3つの画像】のような観客がペンライトを振っている連番のループ素材を撮影側に渡して、角度に応じて合成処理を行なっている



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.227(2017年7月号)
    第1特集:アイドルCGキャラクター研究
    第2特集:プログレッシブ・エンバイロンメント

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2017年6月9日
    ASIN:B071466CXS