Softimageゼネラリストとして活躍しているLand-Y氏。デザインからCG制作までトータルに手がける同氏が、オリジナルプロジェクトとして制作を進めている『七尾の狐』のキャラクターについて、3DCGならではのキャラデザのポイントを解説する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 229(2017年9月号)からの転載となります

©Land-Y

TEXT_Land-Y
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

  • Land-Y
    Softimage ゼネラリスト。プロデューサー&ディレクター。2017年度に法人化。表に名前は出さないので本格的に黒幕として行動中。お仕事常に募集中です。アートは趣味でやっていきます。
    www.cveld.net
    Twitter:@Land_Y

デザイン篇 キャラクターと世界観をデザインする


使用ツール:Softimage 2015、Mudboxmental rayRedshiftNUKEPhotoshop

2014年10月から開始した自主制作。企画、開発、営業、資金集めを全部ひとりでこなしています。2017年になってやっと集中作業ができるようになりました。今回紹介させていただく『七尾の狐』は、動画投稿サイトの「テーブルトークRPGリプレイ」動画枠などで人気、"SAN値が下がる"のフレーズが有名なクトゥルフ神話ベースのホラージャンルです。彼女の名はFake・daemon。通称フェイクさん。廃工場をリフォームし、遊び部屋を提供。本作品ではプレイヤーたちを恐怖の淵に誘う。TRPGのゲームマスターであり、ストーリー考案者。見た目は小柄な少女だが、酒が合法的に飲める年齢。謎多き人物です。

アニメーションを前提にしたデザインはトータルコストを考える必要があります。限られた時間と労力で、最適な品質を目指していきます。ロングスカートやラッパ袖、マントなどは、Clothシミュレーションや高度な衣装リグを仕込まない限り、魅力的に見せるのは非常に難しいと考えています。布は体に衝突し、重力の影響を受けて初めて画的な魅力と説得力が出るものです。採用する技術が増えれば増えるほど、コストが「べき乗」されていってしまいます。

フェイクさんの場合、初期デザインではペザント袖(ひじから下が膨らんでいる袖)を考えていましたが、これは重力と肌への干渉があってこそ素敵に見える衣装だと気づき、破棄しました。体に干渉したり、腕を上げてもこの形状を保持したままなど、格好悪いことをするとシルエットは美しく見えません。もう面倒だと思い、パフスリーブに切り替えました。こうした「衣装のシワがあまり気にならないシンプルな構成」はベターです。セカンダリアニメーションも極力少なくしました。おかげでモーション制作作業がかなり楽です。「トータルコストを考えてデザインする」ことは、作品を納得いくレベルで完成させる可能性を高めます。

1 フェイクさんのデザイン変遷



原画に合わせてパーツをつくり上げます。前述のように、袖はテクスチャをつくる前に破棄。そのほか、細かいデザインは3D上で変更。そこから先はSoftimageができることだけで品質を確定させます。何度もシェーダを変えたり、リグを改造したりして磨き上げます

2 服や小物のデザイン

品や優雅さをテーマにし、動かしやすい衣装設計に。浅いホットパンツとボーダーニーソックス、猫のしっぽ......と、"萌え"の記号は多めにしました。けれど、カラーリングと上着はシックにまとめることで「あざとさ」はだいぶ薄まります。さらに、エメラルドのベルトをセパレーションカラーにしてメリハリを付けました。色数が少ないと印象が単調になるためです。赤系もいくつか試しましたが、アクセントカラーにすると腰周りに目が行きすぎるので、中間色を選択。また、ヒールの裏には肉球マーク。ベルトに猫バックル。主張しない場所に配置することで、ふと意匠に気づいてもらえるとき、粋な喜びが生まれるかな、と。なお、猫耳は主張しすぎなので不採用です

3 ストーリーづくり



キャラクターデザインの基礎になるストーリーのフローチャートを作成します。詳細は別途大量のテキストを用意。地図をつくり、村をひとつつくり上げます。主要キャラクターの相克図や性格決めには四柱推命(中国で生まれた占いの一種)など活用し、破綻を防ぎます。設定をしっかり決めておけば、キャラクターたちが勝手に脳内で喋りだすし、必要なデザインは決まります。あとは矛盾や不満がほぼなくなるまで、脚本を書いては捨てるをくり返します

4 ポーズと表情

3DCGの利点を活かして大量にポーズと表情を生産。3回ほど全部つくり直し。その都度、リグやシェーダも何度か大きな修正を行いました。それくらい磨き上げなければ品質を客観的に評価できないからです。モデリングはほぼシルエット調整くらいで、"魅せ方"にとにかく時間を使います。目的は自分の中にある、理想とする品質の一線を超えること


ポーズ集


ポーズつくり直し中の作業画面

5 実際の立ち絵

長尺作品なので、アドベンチャーゲームのように、目パチ・口パクのみの「立ち絵」と決まったポーズ集を利用して会話が進みます。静止画で使うため、かなり気を遣って何度もつくり直しています。ときおりフルアニメーションのムービーを挿入。24分で1話の作品をひとりでつくるための工夫です。制作時に気をつけていることは1ポーズ1フレーム丁寧にポージングを付けて、画の品質を高めること。以前、「3DCG作品は1フレームごとの品質を疎かにしてしまう傾向にある」と言われたので、気をつけています

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3DCG篇 トライ&エラーでキャラクターを磨き上げる

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3DCG篇 トライ&エラーでキャラクターを磨き上げる

デザインしたキャラクターをいかに3DCGにしていくかを解説します。ドローイングのイラストはあくまで設計段階のひとつで、最終品質は3DCG上で決定します。まず、モデリングですが、語るところがあまりないため今回は省略します。それよりも力を入れたのは、後でリグを使いシルエットや表情をかなり自由に調整できるようにしたこと。それにより、ライティングとポージング、シルエット調整にこだわり「キャラクターの魅力をいかに最大化させる」かに注力しています。3DCGの課題は「出来上がったキャラクター」を磨き上げるトライ&エラーの回数があまりにも足りないこと。それをサポートする研究は最優先事項です。例えば、映画の撮影をイメージしてみましょう。特定のカットが気に入らなければ、何テイクも撮影をし直すはずです。しかし、3DCGは「レンダリング速度」とアニメーションの「フレームレート(fps)」がボトルネックとなり、時間に押されて、1回しかリテイクできなかった......、となることがよくあります。ショウモナイ技術的な理由で美の追求ができないのは悲しいことです。最優先で改善していきましょう。

私はレンダリング後にレタッチしたくありません。3D上で完結させるため、MetaSLを利用してリアルタイムライティングを採用しました。MetaSLはmentalrayシェーダで組み上げたマテリアルをリアルタイムプレビューできるものです。トゥーン系はミリ単位でのライト調整が品質のキモとなります。それをリアルタイムで品質確認できれば、最高の画づくりにのみ集中できます。キャラクターのポーズも何度もつくり直しますし、ライティングも何度も調整し直します。見た目がシンプルゆえに、陰影の形にもかなり気を遣いました。たとえ造形がいまひとつでも、美しく魅せるシルエット調整リグ、カメラアングル、ライティングを早急に見つければ、満足できるかもしれない......。それを叶えるのはトライ&エラーを重ねる「リアルタイム性」です。

1 リアルタイムでトライ&エラー


キャラクターにはmental rayを採用。MetaSLを活用したリアルタイムビューの恩恵を得るためです。様々な制約があったり、微妙に色味や影の形が変わったりしますが、十分です。あくまでプレビュー品質


本番用の素材数は相当量になります


背景と干渉するライトとマスク、被写界深度はRedshiftを採用

2 ビューキャプチャの回数を減らす工夫

アニメーションが24fpsしっかり出るとビューキャプチャの回数が減るため、最終品質へのトライ&エラーの回数を相当量減らすことが可能です。レンダリング後、ライティングの不満を減らせます



  • 「1_Proxy」とあるのは簡易アニメーション用のレンダーパスです。使うのは箱人間。24fpsを超えるため、大きなながれや複数キャラクターでアニメーション作業するときに利用



  • 「2_LO」はセカンダリリグを排除し、表情も付けられるモデル。フェイスリグが重いため、24fps出すために顔だけ隠すことも。ここでシルエットの6割確定。なお、袖のまくれ具合はここで手動調整。とにかくビューキャプチャの回数はゼロに近づけたいものです


「3_HQV」は揺れもの&ライト調整用パス。影の形や位置で演出の意味も品質も変わるため、リアルタイムライティングは今後、必須条件だと感じます

3 サポートツール

自分でサポートツールを探し当てるかつくらなければ品質も効率も上がりません。一番苦手分野ですが、ツールをつくってくれたり、スクリプトを教えてくれる仲間がいたため、最低限の用意ができました。例として、フェイスリグ操作&補助スクリプト集、INKライン生成ツール、ポーズライブラリなどを用意しています



  • 自社開発したインクライン生成とトゥーン表現補佐ツールのToonTools



  • シノプティックビュー


ポーズライブラリ

4 七尾シキ

最もコストの高いキャラクター「七尾シキ」。髪、スカート、袖もヒラヒラ動くため服に埋まりやすいのですが、陰影がしっかり出ていることもあって、レンダリングせずに修正するべき箇所が見つけやすいです


リグシステム全体



  • コントローラ



  • リアルタイムビュー


リアルタイムビュー

※七尾シキのメイキングについては本誌199号『七尾の狐 七尾色』(ニコニ立体 3Dモデリングコンテスト入賞作)の記事にて詳しく解説しています

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5 自動での口パクや目パチ

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5 自動での口パクや目パチ

立ち絵用に口パクや何種類かのポーズ集を制作しています。何度も修正するため、ここも工夫しました。まず、NUKEで「全身」「口」「眉」「目」を特定フォルダへ出力。リネーム&フォルダ移動、命名規則が特殊なため、DOSコマンドのバッチファイルを書き、自動「口パク」「目パチ」ツールの指定フォルダに移動させます


NUKE


  • 素材合わせ


  • 表情例

6 マシンスペックとシステム改善


マシンスペックへのこだわりは大事です。システム開発をがんばるよりも、お金を出せば解決するならしましょう。とはいえ、システム改善も必要です。シーンデバッガーを見ながらしくみの最適化も怠っていません。Softimageはエンベロープなど「1コア」しか使わない機能があるため、CPUをシングルスレッドが高速なものに切り替えました。i7-3930k(6コア3.80GHz)からi7-7700k(4コア4.50GHz)に変えて、モーション制作時fpsが倍になったときは愕然としました。早くに切り替えていれば、もっともっと効率化が図れていたはずなのに......と、おおいに反省。なお、コンポジット作業では、最新のM.2規格の高速ストレージ3枚差しのRAID0ストライピング採用し、読み書き3,000~4,000MB達成。OS起動が約10秒を切り、スリープの復旧並に速いです。OpenEXRの画像を多用するとその速度にアドバンテージが出ます

完成


オリジナルキャラクター制作にこだわる所感は「自分の子供が一番かわいい」。それに通じる感覚を得られることでしょうか。なぜ生まれて、何を思いながら生活しているのか。その衣装は何を主張しているのか。キャラクターの一生を含めてデザインすると愛着が生まれます。そして、自分の理想や人生観を押しつけて、好みの造形にしていきます。愛着が強くなれば、多少出来が悪くても何度も修正をかけられるし、楽しいアニメーションをつくれば自然と品質が上がっていくものです。つまり、モデリングにこだわる以上に、どれだけそのキャラクターを効率良く磨き上げるかが大事ではないかと考えています

まとめ

キャラクターに対する思いとデザイン業務に関わりたい人へ

本作の女性3キャラクター中、最後に制作したのが今回紹介したフェイクさんです。衣装面では一番コストが低く、動かしやすくて気楽です。逆に、七尾シキはリグが多くて動かしづらくClothシミュレーションも併用しなければ品質を担保できないので、お世話に時間がかかります。まあ、重要なところだけ登場するので、コストに見合った働きをしていただいています。全キャラクター手抜きを前提にせず、キャラクター設定に見合った仕込みを心がけました。ただ、キャラクターの個性は髪型に肝があります。ロングヘアは大変ですが、コスト増は気にせず自由にデザインしています!

3D制作者は、デザイナーという肩書はもらえますが、決められた仕様を遂行だけのするオペレーターであることも多々あります。もし、コンセプトからのデザイン業務に関わりたいのであれば、そういう仕事がしたいと主張し、営業を続けてください。そんな中、留意したいのはこの記事でも紹介したように、現状3DCGの問題は技術とコストと品質のバランスです。



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.229(2017年9月号)
    第1特集:映画『東京喰種 トーキョーグール』
    第2特集:キャラデザからCGまで

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年8月10日
    ASIN:B07451M2QW