昨年12月にリリースされたスマートフォン向けゲームアプリ『修羅道(Shurado)』。美しいグラフィックスと和風でダークな世界観で話題を呼んでいる。開発にあたったガンバリオンに詳しい制作の様子を取材した。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 240(2018年8月号)からの転載となります。

TEXT_谷川ハジメ(トリニティゲームスタジオ
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

剣戟アクションゲームアプリ『修羅道(Shurado)』
開発・配信:ガンバリオン、配信日:配信中、価格:基本無料(一部アイテム課金有)、Platform:iOS、Android、ジャンル:剣戟アクション
ganbarion.com/jp/shurado
©2017 GANBARION Co., Ltd.

モバイルに一閃を浴びせる本格アクションゲーム

ソーシャルゲームを中心に、長らくライトカジュアルゲームが席巻してきたモバイルゲームに、昨年末、一閃の太刀を浴びせるが如く登場した『修羅道(Shurado)』(Android /iOS)。本作は、九州は福岡を拠点にゲーム開発を行なっているガンバリオンが開発・配信する剣戟アクションゲームで、同社がリリースする2本目のオリジナルタイトルだ。

  • 左より、ディレクター・キャラクターデザイン&モデリング・太田直人氏、武器デザイン&モデリング・近藤紀幸氏、エフェクト&UI・三浦佳奈恵氏、背景デザイン&モデリング・荻山通子氏、エンジニア・濱浦誠悟氏/写真なし、プロデューサー・吉田秀治氏(以上、ガンバリオン)
    www.ganbarion.co.jp

ゲーム世界はダークな和テイストのファンタジーで、ゲームとしての「遊びどころ」は張り詰めた緊張感のある戦闘と収集したアイテムでの武器強化に絞り込まれている。モバイルとしては一歩抜きん出たビジュアルクオリティの高さに加え、プレイヤーキャラクターの敗北が即、弱体化につながるというコアなゲーマー好みのストイックな仕様で、リリース以来高い注目を集めてきた。カジュアルゲームファンにもプレイヤー層が拡大し、モバイルゲームらしい簡単操作も相まって、爽快な剣戟アクションにハマるプレイヤーが続出している。

そんな本作のビジュアルクオリティを支えているのは、2大ゲームエンジンの一方の雄、Unreal Engine 4(以下、UE4)だ。モバイルゲームの開発ではどちらかというとUnityが定番というイメージがあるが、モバイルプラットフォームにおいてもUE4が確かなビジュアルクオリティを担保することは本作が証明している。ただ、スペック向上が著しいとはいえ、モバイルにはAPU特性のちがいやAPIの対応度に加え、消費電力量の問題もあって、PCや据置型コンソールとは開発における勘どころが異なる。ガンバリオンとしてもUE4の採用は本作が初。しかもモバイルゲームということで、挑戦的で野心的なタイトルとなったと言えるだろう。今回は長年にわたって家庭用ゲームに注力してきた同社が、いかにして他社とは一線を画した本格モバイルゲームの開発、配信に成功したのか、そのノウハウの一端を紹介していきたい。

Topic01
他作品とは一線を画した独自の和テイストキャラクター

エンジンの得意な表現に絞り込み既存のモバイル標準を凌駕

『修羅道(Shurado)』のプロジェクトがスタートしたのは2017年の6月。開発初期段階ではディレクターの太田直人氏とエンジニアの濱浦誠悟氏の2人で検証を行い、その後、本格的な制作がスタートしてからは基本的に8人程度で開発が進められた。リリース直前の1ヶ月間は最大15人で集中して開発にあたっていたという。

キャラクターデザインとモデリングはディレクターである太田氏が自ら担当。プレイヤーキャラクターをはじめ、主要なキャラクターたちはモノトーンと言っていいほど幽玄で抑えた彩色が施されているが、鎧や兜の意匠にはメタリックなパーツが多用されており、暗闇の中でもエッジのハイライトが映えて良いアクセントになっている。このデザインの方向性は、制約の厳しいモバイルゲームにおいてはおおいに有利に働く。というのも、本作で採用しているUE4をはじめ、PBR前提のモダンなゲームエンジンが最も得意とするビジュアルに沿ったものだからだ。APU性能的に計算コストをかけても比較的パフォーマンスを出しやすいPCやハイエン ドコンソールであれば、ソフトなものを多用したデザインであっても多様な表現手段を講じることができるが、モバイルの場合はまだまだそうもいかない。デザイン段階からターゲットとするプラットフォームに有利となるハードでソリッドなデザインにすることで、いたずらに計算コストをかけることなく、かつ作品の世界観にマッチしたキャラクターを創造している。

さらに本作ではPBRを採用しているといっても、必ずしも現実的・実在的であることにはこだわらず、あくまでゲームとして映えるビジュアルを具現化することを優先している。各パラメータやマップをアーティスティックに調整することで、リアルなルックでありながら印象に残るような画づくりが行われた。

本作独自の鎧武者デザイン

ゲーム企画段階の草案を経て、和テイストの武者が確立した初期検討段階のデザイン。装具のディテールに、モデルとは異なるデザインも見て取れる

プレイヤーキャラクターの最終デザイン。3Dモデルにした際にスキンの伸びでソリッドな印象を損なわないこと、鎧の垂れの部分と大腿が干渉しないことなどを確認しながら制作されている

敵キャラクターのデザイン。格付けにかかわらず、ボスにいたってもプレイヤーキャラクターと同様の方向性でデザインされている

デザイン起こしからモデル制作まで一貫した作業体制

アート全体のコンセプトワーク、キャラクターデザイン、モデリングをディレクターである太田氏が一手に引き受けていたこともあり、武者のデザインとモデリングは一体的に作業が行われている



  • まずはMaya上でポリゴンモデルを作成



  • 続いて、ディテールをスカルプトしていき、完成したハイポリモデルをノーマルに落とし込む

こうして得られたアルベド、ノーマルに加え、R値にラフネス、G値にメタルネスを格納したマップを用意

完成したモデルとテクスチャ

次ページ:
Topic 2 『修羅道(Shurado)』の真の主役は大胆な意匠を施した武器モデルにあり

[[SplitPage]]

Topic 2
『修羅道(Shurado)』の真の主役は大胆な意匠を施した武器モデルにあり

重要度にしたがったリソース割り当ての好事例

本作の武器ビジュアルは一般的なほかのゲームと比較してもかなり豪華な部類に入る。アイテム課金を前提としたゲームの場合、武器の見た目のリッチさと性能、入手難度はリンクしていることが多く、ユーザーの購買行動を喚起するための一種の動機付けになっている。対して、本作では武器アイテムに対する課金は行なっておらず、純粋にゲームプレイをくり返す動機付けの役割を担っている。つまり、本作ではこの武器こそが真の主役と言ってもいい。ゲームの基本ルーティーンであるステージ攻略、戦闘、強化用アイテム収集、武器アイテムの強化というサイクルを回す動機付けのために、累積的な成長要素とそれに紐付いたビジュアルの段階を用意する必要があり、ランタイムのモデルリソースも開発時の人的リソースも、大きく武器に割かれている。

多くの武器では最も豪華な成長段階の武器がデザインされ、そのデザインを構成する要素を省略することで成長過程にある武器のデザインとしている。これにより、同種の武器が成長している印象を強くすると共に、多くの意匠を発案しなければならないという負荷も軽減。スカルプトにはZBrushMudboxを採用し、テクスチャマップ制作にはSubstance Painterを活用している。いずれも効率化を目的としたもので、ツールを柔軟に有効活用することが、少人数プロジェクトの成否を左右する好例と言えるだろう。

細部までこだわった武器制作のワークフロー

武器デザインとモデリングを担当したのはアーティストの近藤紀幸氏



  • キャラクターモデルの制作と同様、デザイン画を起こしている



  • ポリゴンモデル作成

スカルプト

ノーマルへの落とし込み、PBRマップの作成といった標準的なゲームモデル制作のワークフローを採っている

完成した武器モデル

スカルプトツールを使い分け、作業を効率化

前述した通り、スカルプト作業には、MudboxとZBrushの2つのツールを使い分けている。Mudboxを使うメリットはMayaと同じAutodesk製のツールということもあって、データの可搬性や相互可用性に優れている点にあるという

Mudboxで作成されたオブジェクトの一例。Mudboxは比較的シンプルで曲面が少なく、直線的な形状のときに利用することが多いという

ZBrushで制作された武器の一例。ZBrushは生物的な意匠を含むものや、曲面が多く複雑なもので活用されている

テクスチャ制作はSubstance Painterで効率化

武器モデルのテクスチャ作成には積極的にSubstance Painterが活用されている。作成したテクスチャをスマートマテリアルに変換して、同じ属性をもつ武器にも適用することで、武器制作の進捗に従ってライブラリ化が進み、制作効率がアップしていったとのこと

次ページ:
Topic 3 迫力とリアリティを兼ね備えたモーションキャプチャによるアニメーション

[[SplitPage]]

Topic 3
迫力とリアリティを兼ね備えたモーションキャプチャによるアニメーション

外部スタジオと協力してのモーション制作

デスペナルティが大きいというゲームデザイン上の理由もさることながら、戦闘に視覚的な緊迫感を与えているのはモーションキャプチャによるリアルなアクションにある。画面タップというモバイルらしい簡単操作でありながら、迫力のある殺陣をくり広げるキャラクターからはストイックな魅力を感じる。ダンスや歌唱シーンといったキャラクターの動きで魅せるゲームを中心に、3Dモバイルゲームにおいてもモーションキャプチャを積極活用する作品が増加傾向にあるが「剣戟」を魅せる本作も、そうしたトレンドを押さえた仕様を採用していると言えるだろう。

本作では業界内でもモーションキャプチャに強いことで知られるCGCGスタジオに協力を依頼。キャプチャしたモーションのクオリティはアクターの演技の質に依存する部分が大きいのだが、今回は殺陣もこなせるアクターを起用することで高いクオリティレベルを実現した。スケルトンやリグに関しても、負荷軽減のための簡素化を無理に行わず、データの可搬性と円滑なワークフローを優先して、DCCツールやUE4標準のジョイントをもつものを使用している。

これらの方針が奏功して、CGCGスタジオから納入されたアニメーションは申し分なく、ガンバリオンの社内では尺の調整や角度の細かな修正を行うだけで完成させることができたという。モーションキャプチャの積極活用は本作において、クオリティレベルを維持しながら効率的にゲームを完成させるために採った重要な施策のひとつだと言えるだろう。

鎧武者に生命を吹き込むキャプチャアニメーション

開発初期のビジュアル

戦闘時におけるキャラクターの一連のアニメーション。【開発初期のビジュアル】を踏襲しながらクオリティアップを行なっていることがわかる

戦闘以外の動きも収録したモーションが使われている。 CGCGスタジオの全面的な協力もあり、ガンバリオンの社内では戦闘中のカメラアングルを踏まえたポーズ調整、武器の重さ(軽量級・中量級・重量級)による振りの速度や傾きの調整など、繊細な演出部分に集中して作業を行うことができたという

リグとランタイム物理シミュレーションのセットアップ

本作のリグ。主目的はキャプチャモーションのながし込みの受け口であるため、シンプルなものが用意されている。調整用に用意されたリグも手足のIKと武器用のリグのみと、非常にシンプルだ

ランタイムではUE4の物理シミュレーションPhATで、キャラクターの前垂れや布がアニメーションするように設定されている。当初は肩鎧や喉輪などもPhATで制御していたが、めり込みの回避や理想的な動きにするた めのパラメータ設定の難度が高く、手間がかかりがちだった。さらに、効果が期待ほどではなかったこともあり、柔らかい揺れものや目につきやすい部分のみPhisicsTypeで制御し、胴体など物理設定をしないボーンは全てkinematicに設定して、シミュレーションの影響外としている

次ページ:
Topic 4 ライティングと和テイストのオブジェクトでダークなフィールド空間を演出

[[SplitPage]]

Topic 4
ライティングと和テイストのオブジェクトでダークなフィールド空間を演出

リッチなビジュアルとパフォーマンスのバランス

ゲームの舞台となるステージフィールドは和テイストを強調する鳥居、石灯籠、ロウソク、狛犬といったオブジェクトが随所に配置されている。この空間をさらにダークに演出しているのが効果的なライティングだ。PBRどころかライティングすら断念してしまうモバイルゲームも多いだけに、本作のゲームフィールドはいやが上にも目を引いてしまう。

UE4を採用し、ハードウェアの動作環境をiOSデバイスではA9プロセッサ搭載のiPhone 6s 以降、AndroidではSnapdragon 820以上と絞り込んでいるのも、ビジュアルクオリティにこだわった本作のゲーム空間を実現するために必要な措置で、一般的なモバイルゲームにありがちな可能な限り多くのハードで動作させるための妥協はいっさいしなかったという。とはいえ、ポイントライトを多用することによるライティングはパフォーマンスの観点から現実的ではない。そこで、高負荷に対処するために、ロウソクや灯籠の明かりが数多く設置された場所ではこれらをライトの事前計算とビルボードのシークエンスアニメーションに完全に置き換えて、ランタイムではポイントライトとパーティクルエフェクトを使用しないという負荷軽減策が採られている。こうしたデータを工夫してのパフォーマンス向上は、どのプラットフォームでも共通するものがある。本作のクオリティは必ずしも動作環境の絞り込みとゲームエンジンの機能によってもたらされたものばかりではなく、ハードの個性が強いコンソールゲーム機で開発を行なってきた同社スタッフのノウハウが活きていると言えるだろう。

和テイストのステージフィールド

実際のゲーム画面。パフォーマンス向上のためにランタイムでのライティングは全レベル共通のディレクショナルライトのみ。シーンにはディレクショナルライトに加え、スカイライトやポイントライトも存在するが、これらは事前計算によるライトマップとライトマスの焼き付けのために使用されている。また、反射表現のために同様にスフィアリフレクションキャプチャを設置している

自動生成フィールドを実現したアセット群

飽きのこないゲームプレイのルーティーンを実現するため、ステージフィールドは毎回自動生成されるゲームデザインが採用されている

背景アセットの一例。自動生成を意識したフィールドユニット単位で用意されている

ルート分岐点に現れる狛犬。当初、こうした狛犬などは個別のオブジェクト単位でひとつのアセットとしていたが、ドローコールを減らす目的でいくつかのオブジェクトをまとめてひとつのアセットとして取り扱うように、アクターをマージする機能を活用してエディタ上で最適化が行われた。なお、これら一連のデザインとモデリングを担当したのはアーティストの荻山通子氏だ

背景に多様性を付加するマテリアル

本作の基本マテリアル。フィールドの反射を表現するために、PBRの作法に則ってひとつのマテリアル対してアルベド、ノーマルの各マップとR値にラフネス、G値にメタルネス、A値にハイトを格納したマップの合計3枚のテクスチャが用意されている



  • これを基本として地面や崖にはハイトマップを使用し、パララックスマッピングを行なっている



  • さらに、鳥居や地面など同じ意匠の連続によるループ感を軽減するため、バーテックスカラーをブレンドして、印象を変化させるためにブレンドマテリアルを使用している

Topic 5
エフェクトとユーザーインターフェイスに見る世界観の補完

エフェクトが強調するダーク世界のコントラスト

スペキュラやライティングと同様に、ダークな和テイストのフィールドには輝度の高いエフェクトが良く映える。本作ではダメージエフェクトや鬼火といった画面中に一定時間表示された後消失するタイプのエフェクトにはパーティクルを、ロウソクや灯籠の明かりといった定位置に固定され永続して表示されるものにはビルボードのシークエンスアニメーションを、それぞれ使用している。そのほかのエフェクトも含めて、いずれも本作世界にふさわしいデザインでダークな雰囲気を盛り上げている。

こうしたテイストの統一は3D空間内のみならず、インターミッションの操作画面や戦闘中のオーバーレイ表示といった2D部分にいたるまで、ゲーム全編にわたって浸透しており、完全に均整のとれたアートデザインに仕上がっている。これには初期段階からのディレクターによる明確なコンセプトの提示、少人数プロジェクトであることによるチーム全体の円滑なコミュニケーション、プロデューサーである吉田秀治氏による明確な意思決定と、理想的な人的開発環境が整備されていることが大きい。

ダークな空間を演出するエフェクトの具体例

代表的なエフェクトの一例



  • 戦闘中のダメージエフェクト。3種類のテクスチャを使用したパーティクルエフェクトで実現している。ダメージを受けたタイミングでキャラクターのジョイントに設定したエミッタから発生。なお、発生位置に揺らぎをもたせるために、一定範囲内でランダムに発生箇所がオフセットされる処理がプログラム側で行われている



  • フィールドエフェクトの代表格、石灯籠にゆらめく炎の表現。パフォーマンスを考慮して最終的にシークエンスアニメーションに落ち着いた。相当数のアニメーションパターンが用意されている

Unreal Editorでのユーザーインターフェイス制作

本作のUIを担当したのはアーティストの三浦佳奈恵氏。もともとUIデザイナーでもあった太田氏のベースアイデアを基に、ブラッシュアップするかたちでデザインを進めている。画像はUI制作中のUE4画面

キャラクターの状態を示すアイコンを表示するための処理フロー

Photoshopで制作した素材をインポートして、標示物のレイアウトを行う

標示物のアニメーションはそれぞれUnreal Editor環境で制作されている。こうした開発ツール群がひと通り揃っていることも、ゲームエンジンを採用するメリットのひとつだ



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.240(2018年8月号)
    第1特集:プロシージャルの活かし方
    第2特集:オトナのCG♡

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2018年7月10日