『ペルソナ3 ダンシング・ムーンナイト(以下、P3D)』&『ペルソナ5 ダンシング・スターナイト(P5D)』のOPムービー制作について、ドメリカの取り組みと共に紹介してきた前篇に引き続き、後篇では『P3D』&『P5D』それぞれの特徴ある画づくりについて解説する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 247(2019年3月号)からの転載となります。
TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
©ATLUS ©SEGA All rights reserved.
『ペルソナ3 ダンシング・ムーンナイト』OPムービー
『ペルソナ5 ダンシング・スターナイト』OPムービー
『ペルソナ3 ダンシング・ムーンナイト』、『ペルソナ5 ダンシング・スターナイト』
発売日: 2018年5月24日(好評発売中!)
ハード:PS4&PS Vita/ジャンル:サウンドアクション/価格:PS4 7,480円(税別) 、PS Vita 6,980円(税別)
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persona-dance.jp/p3d、persona-dance.jp/p5d
前列左から、作画・髙橋伸輔氏、美術監督・渡辺敦之氏、監督・市川量也氏、CG監督・飯田祐輝氏。中列左から、作画・清水朱音氏、CG・兼平 葵氏、作画監督・髙田真理氏、演出・松浦有紗氏、作画・関絵理奈氏。後列左から、作画・大西佑希氏、CG・折笠真由美氏、撮影監督・鎌田麻友美氏、CG・寺田良介氏、作画・海江田美幸氏。以上、ドメリカ
www.domerica.net
POINT 03
青をイメージカラーとした『P3D』らしい画づくり
水中を彷彿とさせる美しき世界
美しくスタイリッシュな映像に仕上がっている『P3D』のOPムービー。冒頭の水泡から始まり、コンセプトのひとつである「水中」を感じさせるようなシーンが続く。そうした空気づくりのためには、エフェクトや撮影の力が欠かせない。本作では、CGだけでなく作画のエフェクトも多用されており、レイヤー数が多くなりがちだったという。そこで、レイヤーの分け方には気を遣ったそうだ。CGの兼平葵氏は「普段ならレイヤーを分けて渡すところを、色を変えてひとつの素材として出すなど、最終的には綺麗に見えるけど、容量は軽くする工夫をしています」と話す。作画やCGはもちろん、演出にも素材を減らす(まとめる)依頼をすることもあったようだ。監督から撮影まで、ほとんどの工程を社内スタッフが担当しているため、思い立ったときに気軽に相談や確認を行える、ドメリカの強みである。少しでもレイヤーや素材を減らして「全体感で良いものにする」ということが目指された。「今後も『ペルソナ』シリーズに関わらせていただく機会があると思いますので、さらに良いものをつくっていきたいですね」と市川氏。常に現状に満足せず高みを目指す姿勢が垣間見えた。
『P3D』OPムービーの特徴
絵コンテ。映像の設計図となる。ここでは細かい振り付け等は考慮せず、全体のながれが重視された。『P3D』のイメージカラーは原作ゲームと同じく「青」。コンセプトは「ライングラフィック」、「テクノ」、「鏡」、「水中」だ。本作では、他の作品に比べて比較的自由につくることができたという
場面カットの一部。イメージカラーの「青」で統一され、鏡面のような地面や水面のような壁、ライングラフィックなどのコンセプトも、しっかり盛り込まれた映像に仕上がっている
作画とCGが融合したエフェクト表現
『P3D』のOPムービーには、作画によるエフェクトとCGを用いたエフェクトの2つが組み合わされている。ふわふわとしたエフェクトは作画で描かれ、キャラクターの指先から出る虹色の光のエフェクトなどはCGで作成された。CGのエフェクトは、3ds MaxのプラグインGhostTrailsを使用し、指先の動きに合わせてエフェクトが生成されるように設定している
終盤のダンスのラッシュカットの桐条美鶴。画像は3ds Maxの作業画面だ。虹色の素材はCGで生成されている
撮影処理を加えた完成画。作画によるエフェクトも体にまとわりつくように表現され、CGのエフェクトが加わることで神秘的な画となった
スタッフオススメ! 原作の世界観を押し出した主人公のカット
松浦氏オススメのカットがこちら。主人公が自分の頭を撃つようなダンスをする一連のカットだ。「『ペルソナ』シリーズとしての統一感をもたせることを心がけました」という言葉通り、『ペルソナ3』の鍵となる仕草を採り入れている。「空間的な意味でも、撮影効果としても、すごく世界観が出ました」(松浦氏)
絵コンテ
完成画
コンポジットで世界観に深みを与える
作品に演出した世界観を落とし込むには、コンポジットによる仕上げが欠かせない。ここでは例として、主人公が階段を歩く冒頭のシーンを紹介する
絵コンテ
背景
After Effectsの作業画面。「このカットは自分にとって、とても思い出深いカットです。最初はこれまで通り普通の処理を行なったのですが、チェックの際に市川さんから"ちがう。水中だから"と言われてしまいました。それに応えるべく試行錯誤するうちに"撮影で素材を盛る"ということを学んだカットです」と撮影の鎌田麻友美氏。『P3D』の「水中」というコンセプトを表現するために"濃いめ"の撮影処理を加えている。鎌田氏にとってクリエイターとしてさらに成長するきっかけとなったカットとなった
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POINT 04
赤をイメージカラーとした『P5D』らしい画づくり
アウトローを感じさせるカッコ良さが光る
POINT 04
赤をイメージカラーとした『P5D』らしい画づくり
アウトローを感じさせるカッコ良さが光る
『P3D』とは打って変わって、『P5D』のOPムービーからは力強い印象を受ける。BL影を用いてはっきりとしたコントラストにしていることも、ひと役買っている様子だ。そして、全体を通してアウトローなイメージを抱かせるつくりは、ピカレスク・ロマンをテーマとする原作ゲームとのつながりも意識させる。「OP序盤の奥村 春と佐倉双葉が一緒に踊るシーンで、春のおしりがぶつかって驚く動作があるんですが、ここはアトラスさんでも好評でした!」と松浦氏。短い時間の中で、キャラクターの人間性まで上手く落とし込んでいる。それを受けて鎌田氏は「全体を通した雰囲気が本作の一番のポイントですね。市川さんは、いつでも"良い感じに"という要望だけなので苦労します」と苦笑しながらも「ドメリカでは、スタッフはオペレーターではなくクリエイターだと考えています。それぞれが良いと感じるものや、その人の持ち味を活かしてくれる社風ですね」と結ぶ。映像作品としてはどちらも2分足らずと短くはあるが、そこにはクリエイターひとりひとりが責任をもって向き合い、試行錯誤を重ね、最良のものを追求した「影の時間」が隠されているのだと感じさせられた。
『P5D』OPムービーの特徴
『P5D』のコンセプトは「ストリート」、「地下鉄」、「レトロ感」、「レコード」、「グラフィックアート」。都会で悪さをしているアウトローをイメージしている。イメージカラーについては、こちらも原作と同じ「赤」が採用された。また『P3D』と『P5D』に共通して、ゲーム原作のポップな印象や原作内に登場するアイコン、花吹雪のエフェクトを採り入れることによって、原作とは大きく異なるゲーム内容でありながら、シリーズとして統一感のある仕上がりにしている
絵コンテ
場面カットの一部。全体的に赤で統一されている。ちなみに、ビルのイコライザーのようなエフェクトは、AEで作成されたもの。曲に合わせてレベルが動くように、エクスプレッションで制御している。「事前にエフェクトが発生する場所までフィックスできるのは、全てのカットでCGレイアウトを作成している強みですね」とCGの飯田祐輝氏。このエフェクト表現は『P3D』へ流用することで効率化も図っている
スタッフオススメ! あらゆる歩きモーションをつなげて制作した主人公のカット
こちらは、制作陣が口を揃えて「見せ場」だと話すダンスシーン。主人公が踊りながらひたすら左へ歩いていく10秒ほどのカットだが、その裏には大変な苦労があったという。ダンスのモーションキャプチャはあくまで本編のために収録されているため、当然横に歩き続けるような動きのモーションはなかった。そこで、ありとあらゆるダンスの動きから歩くモーションを切り取り、繋ぎ合わせることで、この一連の動きを作成している。「AEで足の位置を調整するなどして、少しの隙もないように動きを繋いでいったので、とても大変でした」と兼平氏は話す。上手く繋げない箇所は手付けにしたり、どうしても難しい場合には作画で中割りしたりして対応しているという
絵コンテ
AEの作業画面。CGでおおよそのアタリをつけている
CGアニマティクスの連番画像
第一原画。ここではCG素材と同じポーズで描かれているが、最終的には、より見映えのするポーズへと作画で修正されることとなった
TVPaint Animationの作業画面。プレビューで確認しつつ、コマ数や動きを調整して描いていく。約10秒と長めのカットではあるが、TVPaint Animationは重くならず、ストレスなく作業が行えたそうだ
セル素材。実はこのシーンでは、脚を長くする修正も施されている。カット枚数があるだけに、その苦労は相当のものだった様子
完成画。スタッフそれぞれの努力や想いが積み重なり、この見応えのあるシーンが仕上がった
コンポジットによる世界観の統一
『P5D』ではイメージボードを用意しておらず、撮影処理の段階で画づくりの調整を行なったという。まずは各カットを1本に繋げ、全体のバランスを考慮しながら、カットごとに適した赤色となるよう処理していく。それでは撮影処理前(左)と後(右)で比較して見てみよう
撮影処理前(左)と後(右)。単なる赤色ではなく、ストリート感のある「オシャレな赤」でまとめられた
撮影処理前(左)と後(右)。こちらのカットでは、ノイズを乗せることでレトロ感を表現している
撮影処理前(左)と後(右)。ミラーボールの表現にも工夫が施されている。CGレイアウトが作成されたことにより、背景の3Dモデルの形状に合わせて光が当たるような処理を施すことで、リアリティのある表現となった。なお、素材は作画と同時に渡されているとのこと
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