3Dプロジェクションマッピングの代名詞となった東京駅舎の『TOKYO HIKARI VISION』を2012年に手がけ、その後も数多くの先進的な空間演出を発表してきたNAKED。「空間全体を演出するクリエイティブカンパニー」を標榜する同社のコンセプトを濃縮した『TREE by NAKED yoyogi park』(以下、『TREE』)の舞台裏から、その真骨頂を全2回に分けて探っていく。『TREE』の振り切った世界観のつくり込みと、それを支える3フロア45台のプロジェクタを紹介したNo.1に続き、No.2では『TREE』の映像制作にスポットを当てる。
※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、2020年4月16日より『TREE』の昼・夜体験(コース)を休業しています。
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 260(2020年4月号)掲載の「 NAKEDのコンセプトを濃縮した食×アートの体験型レストラン『TREE by NAKED yoyogi park』」に加筆したものです。
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲左から、CGIマネージャー・中村大輔氏、エグゼクティブアートディレクター・小林恵美氏、CGデザイナー・仲西 亮氏(以上、NAKED)
Unityのレイマーチングにより、フラクタルアニメーションを生成
NAKEDでは、3D素材の制作にCinema 4D、映像編集にAfter Effects(以下、AE)を使用している。また、近年のプロジェクトでは映像の一部をUnityなどで自動生成するケースも増えており、『TREE』の場合はストーリーの進行役としてMain roomに出現する「精霊」や、Final roomのテーブルに投影されるKaleidoscopeの表現に用いている。なお、No.1で紹介したゲストが自分の指と魚とのインタラクションを楽しむ演出はTouchDesignerで制作しており、センサーにはKinectを用いている。
▲精霊のプログラムを実行中のUnityの作業画面
© NAKED, INC.
▲事前収録した日本語と英語の音声に合わせ、形状や色をレイマーチングによってランダムに変化させることで、フラクタルアニメーションを生成している。現場でのリアルタイム描画も可能だが、『TREE』では生成された映像を記録し、素材のひとつとして使っている。なお、海外から訪れるゲストに対応するため、精霊は日本語と英語を同時に話す設定になっている
© NAKED, INC.
映像制作は、村松氏や小林氏などの演出陣が提示した世界観・ストーリー・演出モチーフを基に、同社のデザイナー陣が具体的なビジュアルをつくり、段階的に最終形へと近づけていくというながれで進められた。
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CGデザイナー・仲西 亮氏 - 「2ndシリーズはさらにデザインに力を入れたかったので、社内の2Dデザイナーに協力を依頼し、アフリカンアートのような幾何学的な太陽やクジラなどを新たにデザインしました。それをCinema 4Dで3D化したり、2DのままAEにインポートしたりして、各所に投影する映像を制作しています。今回はUnityで生成した映像もいったん記録し、AE上でさらに手を加えました」と、1st・2ndシリーズを通して映像制作のディレクションを担当した仲西 亮氏は解説した。
料理の大半を提供するMain roomは、四方の壁の前に4台、ドーナツ型の大きなテーブルの下に5台、8つのゲスト席の各皿の上に8台のプロジェクタが設置されており、そこから投影される全ての映像をシームレスに連動させる必要があったため、特に緻密な調整が必要だったという。
四大元素の神々が桐の箱の上を舞い、コース料理の始まりを演出
▲1皿目(Amuse)は、長方形の桐の箱に入った状態で提供される。「万物の起源」のストーリーが語られ、演出モチーフである四大元素(土・火・水・風)の4人の神様が蓋の上に投影され、コース料理の始まりを演出する
© NAKED, INC.
▲4人の神様の映像を編集中のAEの作業画面。桐の蓋に投影した状態を見据え、色味や位置を調整している。なお、これらの神様も社内の2Dデザイナーが新たにデザインしている
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不思議な模様の鹿や太陽が、「土」と「火」のストーリーを演出
不思議な模様の鹿や太陽が、「土」と「火」のストーリーを演出
▲VRゴーグルを用いた演出によって「土」のストーリーが語られた後、2皿目(Appetizer)が提供される。上の写真では、「土」の演出モチーフである動物(不思議な模様の鹿)がお皿に近寄り、草を模した料理を食べようとしている
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▲鹿の動きを付けているCinema 4Dの作業画面
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▲先のアニメーションをAE上で編集し、お皿の上に投影する映像を制作している
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▲3皿目(Appetizer)では「火」のストーリーが語られ、演出モチーフである太陽が四方の壁に出現し、テーブルの上に置かれた料理と融合する。この料理のお皿は白色だが、映像の投影により絵皿のように見えている。料理を盛り付ける位置や、皿を置く位置が少しでもずれると、料理と映像の一体感が損なわれてしまう緻密な演出となっている
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▲「火」のストーリーを表現した、四方の壁用の映像
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▲社内の2Dデザイナーによる太陽
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▲先の太陽を下絵にして、手描きのランダムさを残しながら、構成パーツをバラバラに動かせる厚みのある3Dモデルを制作している
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VR空間内に現場を再現し、事前にイメージを共有
一方で、最近は現場の空間全体をUnreal Engine 4(以下、UE4)上で再現し、その中で演出のシミュレーションを行い、VRゴーグルを用いて確認する試みも積極的に実施している。「プロジェクトによっては開催直前にならないと現場でのテストができないケースもあるので、VR空間でのシミュレーションは非常に重宝しています。例えば、現場のある地点に立ったときに視界のどれくらいの範囲まで映像が広がるのか、モノを置いたときに空間の粗密がどの程度になるのか、床や壁の色がゲストの心理にどう影響するのかといったことを、高い精度で検証できるようになりました」(中村氏)。
▲Main roomを再現した3Dデータを開き、演出のシミュレーションを行なっているUE4の作業画面
© NAKED, INC.
花びらが舞うといった動的な演出や、ゲストと花びらのインタラクションなどの演出まで再現できるのに加え、クライアントや経験の浅いスタッフにも同じイメージを共有できるため、より具体的なプレゼンテーションや活発な意見交換が可能となった。ビジネスの面でも、制作の面でもメリットを実感しているので、どんどん活用していきたいと小林氏は語った。
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カラフルなクジラや鳳凰が、「水」と「風」のストーリーを演出
カラフルなクジラや鳳凰が、「水」と「風」のストーリーを演出
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© NAKED, INC. - ◀4皿目(Entree)では「水」のストーリーが語られ、演出モチーフであるカラフルなクジラやサーディンラン(イワシの大群)が四方の壁を泳ぐ。壁はもちろんテーブルやお皿まで群青色に染まり、海の世界を演出する。ちなみに、お皿の演出に使われているスペースプレーヤーは、映像の投影機能と照明機能を兼ね備えたプロジェクタで、料理を照らすスポットライトの役割も果たしている
▲UV展開したクジラのテクスチャをPhotoshopで開き、社内の2Dデザイナーが幾何学的なクジラの模様を描き込んでいる
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▲先のテクスチャを適用したクジラの3Dモデル
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▲「水」のストーリーを表現した、四方の壁用の映像
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▲先のシーンデータ内でカメラを設定しているCinema 4Dの作業画面。1,000mの深海から表層へとカメラが上昇するにつれて、泳ぐ魚が増え、彩りが増していく演出が施されている
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▲5皿目(Entree)では「風」のストーリーが語られ、演出モチーフであるカラフルな鳳凰が、料理の煙の中から飛び立ち、四方の壁を舞う
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▲「風」のストーリーを表現した、四方の壁用の映像。「風の神様は、風神であり、雷神でもあるという設定だったので、良かれと思い風・雨・雷をふんだんに使った映像をつくりました。ところが現場でテストしてみたら『ザーザーという雨音や、ゴロゴロという雷の音が常にしていると、落ち着いて食事ができない』と言われてしまい、最初だけ派手にして、以降は控えめにしたメリハリのある演出に変更しました。映像の面白さだけに注目していると、食事をする人が心地良いと感じる空間にならないんだなと、このプロジェクトの奥深さを再認識しました」(仲西氏)
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▲鳳凰のカラーやテクスチャを設定しているCinema 4Dの作業画面
© NAKED, INC.
「風」のストーリーが終わると、いよいよMainとなる6皿目が提供される。その詳細は、ぜひ『TREE』を訪れ、自身の五感で体験してほしい。
© NAKED, INC.
info.
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食×アートの体験型レストラン
『TREE by NAKED yoyogi park』
住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-10-2
TEL:03-6804-9038(受付時間 10:00〜18:00)
定休日:月曜日
【Café】10:00〜17:00(Last order 16:00)
【Course】8名様限定、完全予約制
〈Day style〉start 12:30(90min)
7⽫+1Drink:1名様 18,000円
〈Dinner style〉start 19:00(110min)
8⽫+Pairing Drink:1名様 30,000円
tree.naked.works/yoyogi
※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、2020年4月16日より『TREE』の昼・夜体験(コース)を休業しています。
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月刊CGWORLD + digital video vol.260(2020年4月号)
第1特集:ハイエンド・ゲームグラフィックス 2020春
第2特集:CG×ファッション
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2020年3月10日
cgworld.jp/magazine/cgw260.html