バイきんぐ・小峠英二とVTuberたちによるバラエティ番組『超人女子戦士 ガリベンガーV』VRoid Studioで制作された番組オリジナルVTuber「ブイ子」の3Dモデルを軸に、VRoidのポテンシャルを最大限活用したコンテンツ制作の裏側を紹介する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 261(2020年5月号)からの転載となります。

TEXT_伊藤彰宏/itopoid(テレビ朝日)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada(CGWORLD)

『超人女子戦士 ガリベンガーV』テレビ朝日にて木曜深夜1時26分より放送中。また、番組公式YouTubeにて平日毎日22時にオリジナル動画をプレミア公開中
教官:小峠英二(バイきんぐ)/ナレーション:水木一郎/ガリベンガーV:電脳少女シロ、ほかゲストVTuber/番組AD:ブイ子
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VRoidの本質は「どう使うか」VTuberブイ子・開発秘話

2019年4月からテレビ朝日にて放送中のバラエティ番組『超人女子戦士 ガリベンガーV』。小峠教官(バイきんぐ・小峠英二)と超個性的な講師と共に、地球にはびこる難解な現象を日夜解き続けるVTuberたち。そんな秘密組織ガリベンガーVが戦力増強のため同年6月に決戦兵器として新開発したのが、番組オリジナルVTuberの「ブイ子」だ。

  • 左から、ディレクター・タカマツD氏、アシスタントディレクター・ブイ子氏、ディレクター・カネケン氏、ディレクター・イトウD氏(以上、テレビ朝日)
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ブイ子には業界を揺るがす「誰でも中に入れる」モードチェンジ機能が搭載されており、多数のデザインバリエーションが存在する。デビュー時は番組の「AD(アシスタントディレクター)モード」として登場し、10月には小峠教官自身がVTuberになった待望の「小峠モード」が爆誕した。翌年3月の有料配信イベント『超人女子戦士 ガリベンガーV ヒロイン危機一髪!筋肉&妖怪大進撃!!』では、悪漢から市民を守るべく激しいアクションと雷撃によって敵をなぎ倒す「バトルモード」が登場し人気を博した。

そんなブイ子の3Dモデルは、ピクシブ株式会社が提供する3Dキャラクターメイカー「VRoid Studio」で制作されており、テクスチャペイントを除くモデリング作業は同ソフト内で全て完結している。他の3Dモデリングソフトを制作工程に挟まない純粋なVRoidモデルのため、VRoidの最大の特徴である「衣装テクスチャ差し替えによる着替え」「髪型モデリング機能によるバリエーション制作」「直感的な髪揺れボーン機能による活用シーンごとの微調整」「VRoidプラットフォームとの連携サービスへの拡大展開」といった要素を全て活用することができる。

本稿では、3Dキャラクターのバリエーション制作やコンテンツ制作をスピーディかつ高クオリティで実現するVRoid Studioの機能解説を実現すべく、これまで厳重に秘匿されてきたわれらがガリベンガーVが誇る決戦兵器・ブイ子の極秘レポートを同番組の制作スタッフがお届けする。

<1>共通テンプレート&テクスチャ制作で実現する着替え

VRoidの真骨頂は低コストで実現する無限の衣装

ブイ子には現在20種以上の衣装/モードが存在する。これらを実現するのがVRoidの「衣装編集機能」だ。上半身、下半身、アクセサリ、靴といった衣装カテゴリに数種類のデザインテンプレートが用意されており、キャラクターデザインの印象を大きく左右する上半身には、ワンピース、制服ベスト、Tシャツ、パーカー、ロングコートなどといった全14種類のテンプレートが存在し、そのシルエットはパラメータで直感的に調整可能だ。ブイ子で最も活用されている「ワンピース(長袖)」テンプレートには、スカートを広げる、袖口の広がり、ウエストをゆるめる、スカートの長さ、スカートを膨らませる、スカートをすぼめる、袖の広がり、袖の絞り、肩を平らにする、といったシルエット調整パラメータが実装されており、パラメータに合わせて揺れものボーンなども自動で反映される。さらにテンプレートの上に乗せるテクスチャはアルファチャンネルに対応しており、ワンピースの下部分をカットすることでカットソーをつくり、下半身には別のテンプレート(例:ズボン)を設定することも可能だ。モデル素体の体型もパラメータで変更可能で、体型に合わせて衣装の形状も自動的に最適化される。VRoidの衣装は「テンプレートを選ぶ→パラメータを設定→テクスチャを乗せる」ことで完成するため、専門的なモデリング知識は不要で、直感的かつスピーディにデザイン考案とモデル制作が可能だ。

この機能を活かして制作されたのがブイ子の各モードだ。「ADモード」は生身の出演者と共演することを想定し、リアルクローズな衣装で、画面内で無闇に演者とぶつからないスッキリとしたシルエットにデザインされている。「部屋着モード」は公式YouTube生配信のバストアップ構図で画面映えするカラーリングとフォルムが意識されている。「ノーマルモード」は全モードの基となる基本モードとして、デザインはキャラクター性を強化すべく記号性と情報量を意識し、衣装シルエットは今後いかなる企画要件が発生しても対応可能なよう、モデルの可動域を邪魔しないよう設計されている。「私服モード」は実写写真との合成グラビアに特化したモードで、現実世界に馴染む質感を高めたテクスチャと、ポージングの際に破綻しにくいシルエットをもち、あらゆる構図で「やりすぎず地味すぎない」画づくりが成立するよう設計されている。このように、「モードチェンジ」という設定と衣装機能(パラメータによる形状デザインとテクスチャワーク)の両輪を組み合わせることによって、コンテンツの種類に合わせてモデル自体のデザインをスピーディに最適化する制作体制を実現している。

応用力の高い「ワンピース(長袖)」メッシュ

VRoid Studio衣装編集画面。ワンピース(長袖)のデフォルトテクスチャを表示

衣装バリエーションで実現する多様なコンテンツへの最適化 



  • ADモード:ワンピース(長袖)+ズボン



  • 番組本編での登場シーン



  • 部屋着モード:ワンピース(長袖)+ズボン



  • YouTube Liveでの配信画面



  • ノーマルモード:ワンピース(長袖)+制服スカート



  • 物語性を表現するスチル



  • 私服モード:ワンピース(ペンシル)



  • 観光コンテンツ用の実写合成グラビア

そのほかにも、ワンピース(長袖)の「アナウンサーモード」、制服ベスト+制服スカートの「制服モード」、リリースされたばかりの新テンプレート・ロングコートの「白衣モード」、ワンピース+制服スカートの「小峠モード」、ワンピース+制服スカートの「バトルモード」などが存在する

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<2>「絵を描くような」髪モデリングとボーン入れ

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<2>「絵を描くような」髪モデリングとボーン入れ

「小峠モード」「バトルモード」を生んだ髪型編集機能

数あるブイ子のモードの中でも注目を集めているのが、小峠教官がブイ子に「サンダーボルト・イン」してVTuberになった姿の「小峠モード」と、激しいバトルアクションをくり広げる「バトルモード」だ。この2つのモードでは、ブイ子のシルバーヘアや頭上のアンテナ、宙に浮かぶ雷、髪のボーンなどが大きくアレンジされている。これらの作業を3Dモデリングの専門的な知識なくスピーディに実現できたのは、ひとえにVRoid Studioの髪型編集機能があったからである。

「小峠モード」のキャラクターデザインには小峠教官の趣味のパンクス要素が詰め込まれており、その出来映えは本人をして「理想の女の子ですね」と言わしめたほど。VRoid Studioでの髪型モデリングは、①ガイドの上で「絵を描くように」髪の房をモデリングし、②パラメータで形状や配置を調整、③そこにテクスチャ画像を重ねていくというながれだ。この機能でモデリングできる「髪」は、端的に言えば「頭周辺にくっついたオブジェクト」であるため、頭周辺にあるリボン、帽子、カチューシャ、アクセサリー、アイウェアなども制作できる。小峠モードではこの機能を活用し、髪色を黒に変更、耳にパンクな雰囲気を演出するピアスを追加、頭上に浮かぶ雷マークを小峠印の卵マークに変更している。またキービジュアルとなるツーショット写真の制作時には、ポージング後に前述のパラメータを使って髪の位置を微調整した上で撮影している。

「バトルモード」は、ガリベンガーVの敵「デビルブレイン」の操る落雷がブイ子に直撃し発動した、敵対勢力をなぎ倒す兵器としての真の姿だ。戦隊シリーズを数多く手がけるアクションチームの全面協力の下、モーションキャプチャによって激しくアクションするキャラクターと、現実のステージセットの上のリアルなスタントマンたちが拳を交差する、リアルとバーチャルをMIXした新しい殺陣シーンを実現した。このモデル制作の鍵を握るのがVRoid Studioの「ボーン入れ」機能である。髪の房を選択し、「ボーン数」「固定点」「かたさ」「重力」「衝突半径」をパラメータ入力で調整できるこの機能を活用し、バク転、飛び蹴りなどのアクションに映える揺れ具合にボーンを調整している。こういった作業をVRoid Studioのみで完結させられるからこそ、ボーンの揺れの確認とデザインの調整を直感的に行うことができ、超合金テクスチャの「重さ」と、アクション映えする揺れの「軽さ」を成立させることができたのだ。VRoid Studioがキャラクターメイカーであることを改めて実感するエピソードである。

髪モデリング機能の応用力から生まれた「小峠モード」デザイン制作  

ブイ子・小峠モード。髪を中心に衣装等全てアレンジ



  • 髪型編集画面。パラメータで形状を調整しテクスチャを貼る



  • 髪モデリング機能で新たに制作されたピアス

モーションスーツで小峠教官本人がVTuberに

テクスチャ&位置調整により本人と並べて馴染むデザインに。小峠モードは、「私服の小峠教官本人とモデルを並べたツーショット写真」を最終的なアウトプットのゴールに設定した上で、VRoid Studio上でヘアカラーテクスチャ、細部の髪の束の位置などを微調整して仕上げられた

髪揺れボーン機能の手軽さから実現した「バトルモード」殺陣演出  

ブイ子・バトルモード。全身アレンジに加え髪揺れを調整



  • アンテナは髪モデリング機能で制作。ボーンは入っていない



  • 揺れものボーン設定画面。パラメータで直感的に設定可能



  • 「固定点」を調整し激しい動きを強調



  • 止めの必殺技シーンできちんと揺れが止まる「かたさ」に。キャラクターの攻撃モーションに合わせて雷のVFX効果をかけ、ステージ上のスタントマンのリアクションと合わせてアニメのワンシーンのような演出を実現した

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<3>素材&インフラとしてのVRoid。広がる展開可能性

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<3>素材&インフラとしてのVRoid。広がる展開可能性

VRoidモデルの素材力と、プラットフォームの展開力

VRoidは「3Dモデルを作って完成」ではなく、その先のコンテンツ開発を意識して設計されていることも重要なポイントだ。VRoid Studioは衣装なしの「素体」のみのVRMエクスポートが可能なため、2019年12月に渋谷で開催された『ガリベンガーV未来展』で展示されたMRグラス・NrealLight用コンテンツの『バーチャルランウェイ』では、①ブイ子の「素体」をエクスポート、②CLOで衣装をモデリング、③Blenderでアニメーションを追加、④Unityで演出やインタラクションを制作して開発された。VRoidの素体は造形クオリティが非常に高く、パラメータで身長や体型をボーンごと簡単に調整できるため、他の3Dモデリングツールで使う「人型モデルの素材」としても活用しやすい。またVRoid Studioには簡単なポージング&撮影機能もあり、モデルの出来映えを確認する用途だけでなく、背景画像の上にキャラを配置したポートレート作品を手軽に制作することも可能だ。この機能を活用した合成グラビアを通して、番組スタッフとして「現実世界に存在する」ブイ子の世界観は表現されている。まるで漫画のひとコマのような合成作品を大量に生み出す撮影機能のポテンシャルと、それを支えるVRoid Studioの扱いやすさは、ブイ子公式Instagram(@vko_garibenv)に100件以上の投稿があることからも明らかである。

VRoidには、アバターカメラアプリ「VRoidモバイル」、キャラクターを投稿・共有できる「VRoidHub」など、3Dキャラクターモデルにまつわるあらゆるサービスが存在する。ブイ子の3Dモデル(VRMデータ)もVRoid Hub上で一般公開されており、ファンが連携カメラアプリでAR写真を撮影できる。合わせて番組公式サイトでVRoid Hubにアップされた3Dモデルについての内容を盛り込んだ「ブイ子のファン作品ガイドライン」を公開することで、ファンが安心してファン創作を楽しめる世界を提供。IPの人気拡大にファン創作の存在が欠かせない現在、こういった施策は一般的なものになるだろう。プラットフォームとしてのVRoidの成長と連携サービスの増加に伴い、ブイ子の活躍場所と新たなコンテンツが生まれる可能性は広がっていく。『ガリベンガーV』は、ひき続きVRoidの活用を通してリアルとバーチャルをつなぐ新しい可能性を追求し、みなさんにわくわくを届けられるよう尽力してゆきたい。本稿の最後は、われらが水木一郎アニキのナレーションで締めくくろう。

負けるなブイ子! がんばれブイ子! ひらめけ! ときめけ!  超人女子戦士 ガリベンガーV!

VRoid素体に衣装やインタラクションを実装した「バーチャルランウェイ」   

CLOで衣装モデリング

Blender&Unityでインタラクション制作

NrealLightで鑑賞可能なランウェイが完成。このランウェイのためにデザインされた10着の衣装は、音に合わせて色や形状が変わったり、衣装そのものが透明になるなど、新しいファッション表現としてインタラクションが実装されている。映像はYouTube【下】でも鑑賞可能

VRoid Studioの撮影機能による「写真合成グラビア」   

撮影機能では髪を揺らす「風」を吹かすことができる

ブルーム・カラグレなど基本ポストエフェクトを追加

キャラクター表現を研究する東京工業大学長谷川晶一研究室の助手になったブイ子と研究員たちのアットホームな日常写真だ。企画のキービジュアルとしての活用はもちろん、SNSへの投稿ネタが気軽に作成できることもVRoidのメリット

フラットなプラットフォームとしてのVRoidの展開力  

VRoid Studioで制作した3Dモデルデータ(VRM)は、ユーザーに配布したり(VRoid Hub)、AR撮影をしたり(VRoidモバイル)、企業・個人問わず連携しているアプリ・サービス上で利用することが可能(VRoid SDK)。1体の3Dキャラクターを軸に無限の可能性が広がる。これらの機能を活用した上で、ファン創作を安全に促進するためのガイドラインについては、番組公式サイト「ブイ子ファン作品ガイドライン」で確認できる(www.tv-asahi.co.jp/garibenv/contents/vko_guide



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.261(2020年5月号)
    第1特集:CGキャラクターLAB
    第2特集:デジタルの強みを活かすイラスト制作
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年4月10日