アニマダイナモピクチャーズがCG制作を手がけた『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』(2020年11月6日 完全版公開)は、フルCG『モンストアニメ』の集大成と言える内容で、YouTubeシリーズからさらに磨きをかけた「モンストルック」と、長尺のバトルシーン、それを彩る豪華なエフェクトが目を惹く総尺120分の大作に仕上がっている。本記事では、ダイナモピクチャーズ(以下、ダイナモ)のエフェクト制作にフォーカスする。

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※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 268(2020年12月号)掲載の「第2特集 『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』/全社の力を最大化するダイナモピクチャーズ」を再編集したものです。

TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎぞうデザイン)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』
監督:静野孔文/脚本:本田雅也/CGディレクター:中村友紀(アニマ)、東郷宏樹(ダイナモピクチャーズ)/助監督:山口雄大/アートディレクター:ハヤシヒロミ/美術監督:徳田俊之/音響監督:明田川 仁/音楽:横山 克/CGスーパーバイザー:釜 幸介(アニマ)、住田永司(ダイナモピクチャーズ)/制作:アニマ、ダイナモピクチャーズ/配給:イオンエンターテイメント/協力:ローソンエンタテインメント/製作:XFLAG
※ 各社の会社名、サービスおよび製品の名称は、それぞれの所有する商標または登録商標です。
©XFLAG


  • ◀FXスーパーバイザー・山口昌伸氏(ダイナモピクチャーズ)
    ※本記事の取材は、ビデオ会議システムを使って実施しました。

細かく分担を指定し不安要素を明瞭化する

ダイナモは『モンストアニメ』に第2期から参加しており、第3期の「ソロモン編」(全13話)、「ルシファー ウェディングゲーム」(全7話)ではヘッドスタジオとしてCG制作を取りまとめた。「ソロモン編」では限られたスケジュールの中でギリギリまでブラッシュアップを続け、演出サイドやXFLAGの期待に応えようとした結果、社内外のスタッフの負担が大きくなってしまったと山口昌伸氏(FXスーパーバイザー)はふり返った。「本シリーズの特徴は、毎週配信の10~15分の尺の中に、精一杯の面白さや驚きを盛り込もうと果敢にチャレンジする点にあります。特にバトルシーンのエフェクトは多彩で、物量も多く、スタッフは苦しい状況になりやすいのですが、絵コンテを読み込むほどに『つくってみたい!』と思わせる魅力があります」(山口氏)。

前述の反省をふまえ、以降のYouTubeシリーズや本作では、問題を洗い出して早期に解決すること、コストパフォーマンスの良いアプローチを選択することが重視されるようになり、その方針に則してワークフローやパイプラインも見直されていった。ダイナモは2020年1月から本作の制作に本格的に参加し、17の協力会社と共に全体の1/3のCG制作を担当した。当初、本作の納期は4月末に設定されていたが、COVID-19の影響などにより1.5ヶ月ほど延ばされた。短い期間の中で、先行していたアニマからアセットや情報の提供を受ける一方で、17の協力会社に制作を依頼してまとめ上げる作業は苦労の連続だったようだが、ねばり強い努力を続けた結果、Vコンテに盛り込まれたアイデアの多くを完成映像に反映させることができた。

本作の膨大なエフェクトをダイナモのエフェクトチームだけで納期までに制作することは不可能と判断した山口氏は、多くの協力会社に参加を要請し、社内のエフェクトを専門としないスタッフも動員することで作業の分担を図った。「スーパーバイザー(以下、SV)の最初の役割は、絵コンテの読み込みと演出把握です。エフェクトの内容と物量をふまえ、どのツールで、どの程度のコスト感でアプローチすべきか、どこに依頼するかといったことを明確にし、各スタッフを導く責任があります。本作の制作では、それらを整理したリスト群を作成しました。また、使用頻度の高いエフェクトをライブラリ化し、社内外に共有しました」(山口氏)。

エフェクト制作は、時間を注いでリッチに制作する選択肢がある一方で、速度優先で量産することに価値を置く場合もある。山口氏はエフェクトごとの制作方針を決め、各スタッフが同質のセグメント化された作業に集中できるよう、細かく分担を指定し、不安要素の明瞭化に努めた。「1カットを1人で仕上げることにこだわりすぎず、必要が認められれば追加サポートや担当者の変更を行うなど、柔軟な対応を心がけました」(山口氏)。納期が差し迫っているからこそ、常に相手の状況に配慮し、自社の不都合な事情も正直に伝える。迷惑をかけたらお詫びし、優れた品質には賞賛と感謝を惜しまず、先の見通しをできる限り伝える。そういった誠意あるふるまいを積み重ねることが、大きなトラブルを予防し、参加する全社の力を最大化するための鍵になると、これまでの経験で学んできたという。

ダイナモがハブとなり、入り乱れる協力会社を交通整理

ダイナモではエフェクトSVがエフェクトの制作進行も兼任しており、以降で紹介するリスト群は山口氏が作成した。

▲絵コンテの読み込みと作打ちによって、エフェクトの要素を洗い出し、整理したリスト。本作ではカットの欠番や結合が頻発したため、エフェクトがどこで登場してどこで終わるのか、常に最新情報を把握しておく必要があった


▲先のリストの中から、同質のエフェクトを集約し、セグメント化したリスト。同じ担当者や会社に、同質のエフェクトを依頼した方が仕上がりは安定するため、このリストを基にエフェクトの物量、難度を判断し、コストのかけ方や人選が検討された


▲協力会社のリスト。レイアウトからコンポジットまでグロスで発注できる会社もある一方で、作業内容がコンパクトであるほど発注できる会社は増える。各工程で協力会社が入り乱れる中、ダイナモがハブとなって最新のデータ状況を把握し、「待ち」や伝達不備による消耗を発生させない交通整理が行われた


▲協力会社へのエフェクト発注リスト。各会社向けにコンパクト化されたリストを作成している。ここに不備があると土壇場で相手の会社に迷惑をかける原因になり得るため、過不足なく正確にまとめることが肝要となった

エフェクトライブラリの共有による品質の安定化

Confluence(Webベースの企業向けWiki作成サービス)を使って作成されたエフェクトライブラリ。本作ならではの方舟のバリアやスラスターから、一般的な火や爆発まで、様々なエフェクトをライブラリ化し、FTPSでデータの共有も行なった。これにより、エフェクトの見た目のバラツキが低減し、品質が安定するのと同時に、腕のあるエフェクト担当者はライブラリ以上の品質を目指してくれるようになった


  • ◀▼レイアウト力のあるアニメーターやコンポジターに【左】のような素材を渡すことで、【左下】のようなタイミングを含めた最終状態に近いレイアウトをしてくれるようになり、エフェクトを専門とする担当者はより難度の高いカットに注力できるようになった。【右下】は【左下】のカットの完成映像


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Time Warp機能で破壊時のタメツメを表現

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Time Warp機能で破壊時のタメツメを表現

▲アーサーの拠点であるキャメロット城が死の炎によって破壊されるシーンでは、HoudiniのRBD Material Fractureノードを使うことで、崩れていく塔のギザギザの断面を作成した


▲単純な物理シミュレーションによる破壊では、本作のようなアニメ作品で重視されるタイミングやレイアウトを実現できない。そこで意図した破壊表現にするため、RBD Bullet Solverのガイド機能を活用した


▲死の炎によって破壊されるキャメロット城


▲キャメロット場内のオーブ保管庫が破壊されるシーンでは、Time Warp機能を使い、タメツメの調整を行なった。破片が勢いよく飛び散った直後、その動きをややスローにすることでスケール感を表現している。RBD SOPを活用することで、より短期間で望む結果にたどり着けたという。「演出に合わせた微調整を容易に行える点が、Houdiniを使うメリットのひとつだと思います」(山口氏)


▲死の炎によって破壊されるキャメロット城内のオーブ保管庫。完成映像は本予告の1:04あたりから視聴できる

板ポリとテクスチャで方舟のバリアを量産

シーンを横断して登場するノアの方舟のバリアは、協力会社と共に安定的に量産できることを重視し、シンプルで扱いやすいデータとなっている。そのしくみは単純で、ポリゴンにテクスチャを貼り付けただけなので、レンダリングに要する時間も短い。テクスチャ作成時に元素材をKrakatoaで用意しているため、シミュレーションを実行したようなルックに仕上がっている。以降ではその制作手順を解説する。

▲最初にベースとなるオーラ素材をつくる。ポリゴン平面をMayaのTexture Deformerでウネウネさせ、nParticleを放出する。nParticleのInherit Factorの値を1とし、ポリゴンの速度を継承させてバラつきを生み出す。TurbulenceとDragを設定し、ゆっくり浮遊させる。Turbulenceだけだとノイズパターンがあからさまになるので、Volume Axis Field(Cylinder Type)によってゆっくりかき混ぜることで、分布に粗密が生まれる


▲【左】Krakatoaで周回キャッシュを取り、パーティクルの量を増やしてレンダリングしたもの。300フレームくらいの尺でつくっておくと、ループ素材にしたり、別の表現に転用したりできる/【右】After Effects上で縦に2つ並べ、オフセットで縦スクロールさせる


▲【左】極座標(長方形から極線)を適用し、【中上】ディスプレイスメントで放射状の歪みを与え、【中下】追加のフラクタル素材を加算してバランスを整える。【右】極座標(極線から長方形)を適用する


▲先の素材をMaya上でシンプルな板ポリゴンに貼り付ける。多層構造にすると立体感が出る。各カットで想定されるレイアウト(カメラ設定)でチェックをくり返し、連番テクスチャの密度感を見直す。なお、連番素材は一貫してOpenEXR形式で作成しているため、32bpc floatingでコンポジットする際に、加算部分が潰れすぎないように色調整できる


▲【上】方舟のバリアを引きで映した場合/【中】寄りで映した場合/【下】もっと寄り(方舟の甲板やコックピットからの視点)で映した場合


▲「もっと寄り」で使用する場合は、Mayaの定点カメラから8K画素の360度マップを連番画像でレンダリングしておく


▲先の連番画像をAfter Effectsにインポートし、標準エフェクトのCC Environmentを適用すると、各カットのカメラ設定に即したバリアをコンポジットで表現できる。視野角の微調整も容易なので、量産コストを抑えることが可能となる

方舟のスラスターも板ポリで表現

方舟のスラスターも板ポリゴンで制作している。

▲【左上】板ポリゴンを格子状に組む/【右上】【下】標準のrampとfractalをLayered Textureで重ねた後、GammaやMultiply Divideなどの色調整用ノードで着色する


▲Non Linear DeformerやLatticeで形状を整える。板ポリゴンに見えないよう、想定されるカメラ設定でくり返しチェックする。透過するマテリアルを積層させているため、Arnoldでレンダリングする際には、Ray Depth内のTransparency Depthの設定を高くしておく必要がある


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HoudiniのVDBキャッシュを流用し、カエサルの火球をMayaで量産

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HoudiniのVDBキャッシュを流用し、カエサルの火球をMayaで量産

作中でカエサルがくり返し投げる火球は、大きさや飛行速度が各カットでバラバラだった。カットごとにシミュレーションを行うのではなく、定点でシミュレーションした方が望ましい形になると考え、直進する火球はHoudiniでシミュレーションしたVDBキャッシュを流用することにした。また、ダイナモはHoudiniのライセンスが少ない一方で、Mayaのレンダーライセンスは豊富に所有しているため、Houdiniでしか出せないないものがボトルネックにならないようにする必要があり、VDBをMayaにインポートしてレンダリングするフローが選択された。

▲Houdini側で火球のシミュレーションを行なった後、Make Loop SOP(SideFX Labs)で100フレームループのVDB連番を作成。MayaのaiVolumeにVDBをインポートし、aiStandard Volumeシェーダを適用してレンダリングしている。なお、aiVolumeはバウンディングボックスしか表示されないため、火球のサイズを把握できるように、ガイド用のダミージオメトリもHoudiniから出力している。VDBの含有チャンネルが多いとMayaでのレンダリングに時間がかかるため、HoudiniからはDensityとHeatチャンネルだけを出力。aiVolume Sample Floatノードを使ってHeat値を読みとり、Color Rampで着色している(Mayaではオレンジ色でレンダリングし、コンポジット時に紫色に変更)。また、aiVolumeをMaya内で拡大・縮小するとVDBの値もスケールされるため、シェーダ側での補正が必要となった


▲このような火球が直進するカットは、同一のVDBキャッシュを流用し、Mayaで量産することができた。完成映像は本予告の0:09あたりから視聴できる。ただし、カエサルが火球を発生させたり投げたりする瞬間は、カットごとに異なる手の動きに合わせる必要があり、エフェクト担当者がカット単位で調整している

遠景用の死の炎は書き割りにして量産

アニマがVDBにノイズを組み合わせて表現した死の炎は、ダイナモの担当カットにも数多く登場したため、そのアセットはダイナモにも提供された。しかしダイナモでは、Houdiniのライセンスも作業者も不足していたため、エフェクトを専門としないスタッフでも手分けして量産できるように、書き割りが活用された。

▲遠景用の死の炎は、MayaのNull座標とカメラデータをAfter Effectsにインポートし、レンダリング済みの連番画像を3Dレイヤーとして配置することで表現している。近景に配置するもの、極端なパースがついたもの、前後を瓦礫の破片に挟み込まれるものなどは、3D的な整合性が必要とされるため、VDBキャッシュやASSデータを使ってMayaでレンダリングされた


▲遠景用の死の炎を配置した完成映像


▲近景用の死の炎を配置した完成映像



No.2は以上です。 No.1は以下よりご覧いただけます。

関連記事:『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』No.1 物語を彩るアニマのHoudiniエフェクト

©XFLAG

info.

  • 『アニメCGの現場 2021』
    編者:CGWORLD編集部
    定価:本体3,600円 + 税
    発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
    ISBN:978-4-86246-491-0
    総ページ数:328 ページ
    サイズ:A4変形判、フルカラー
    発売日:2020年12月22日
    borndigital.co.jp/book/20331.html


  • 月刊CGWORLD + digital video vol.268(2020年12月号)
    第1特集:百花繚乱! 最新ゲームグラフィックス
    第2特集:『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年11月10日
    cgworld.jp/magazine/cgw268.html