過去シリーズから表現様式が一新された『進撃の巨人』The Final Season。第60話(本作として第1話)放送後は、まさに賛否両論がわき起こった。林 祐一郎監督とMAPPAの淡輪雄介CGIプロデューサーに、目指した表現について語ってもらった。

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※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 272(2021年4月号)からの転載となります。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会

リアルな肉体美を取り入れた巨人たちのアニメーション

2021年4月、ついに11年半にわたる連載が最終回を迎えるとアナウンスされた『進撃の巨人』。その発表に先立ち、TVアニメシリーズの第4期が「The Final Season」と銘打たれて放送されている。

  • 監督 林 祐一郎氏

第3期までとは制作体制を一新してつくられている本作。監督を務める林 祐一郎氏も「最初は第3期までを制作したWIT STUDIOの絵柄を忠実に再現した方が良いのではないかと意識していました」と、人気シリーズを引き継ぐ難しさを語る。だが、そこから「諸々の制作資料やデータは引き継ぎましたが、スタッフ自体が変わっているので、MAPPAとしてつくりやすい画づくりを目指すという方向に自然とシフトしていきました」と意識を変えていったという。

  • CGIプロデューサー 淡輪雄介氏(MAPPA)

林監督は本作と同じくMAPPAで制作された『ドロヘドロ』でも作画と3DCGをハイブリッドに使った制作スタイルを行なってきた。「最終的な画面において作画とCGが分離しないような画づくりを目指しているので、CGのコマ打ちも作画に合わせるようにしています。CGは僕にとって鉛筆などと変わらない、作画ツールのうちのひとつだと考えています」(林監督)。「The Final Season」では、これまでのシリーズでは作画で描かれていた巨人をCGで描くという手法を採っている。その意図について聞くと、「原作を読むと、このシリーズでは何体もの巨人が現れ、お互いが格闘する展開があります。それらをCGでモデリングすれば形を保ったまま様々な角度で描くことができるだろうと考えました。また、作画の負担を減らすこともできます。原作の諫山(創)先生は、人体標本を参考に筋肉感を意識して巨人を描かれているので、アニメでもそれを踏襲し、ウソなく綺麗な肉体を描こうと思いました」と答えてくれた。

林監督は作画スタジオのスタジオ・ライブ出身で創立者の故・芦田豊雄氏からも薫陶を受けた手描きのアニメーター・演出家だ。そんな彼から見たCGのメリットはスケジュールの正確さにあるという。「チェックもしやすいですし、撮影の仕上がりも読めるので、最後まで手直しの時間が確保されているのがありがたいですね」(林監督)。そんな監督の片腕となってCGIプロデューサーを務めるMAPPAの淡輪雄介氏は「CGは最初からチームでつくることを前提に制作体制が構築されているので、たとえ誰かひとりが粘ったとしても、別のスタッフがフォローに回れるのが大きいと思います」とチーム編成の強みを語る。そんな淡輪氏は自らの仕事について「簡単に言えば何でも屋ですね」と言う。「監督がつくりたいものを実現するために、僕が相談役になって手法を提案したり、デジタル工程の実務部隊を社内外から集めていきます。たとえ難しそうな場合でも、要望に対して基本的にノーとは言わず、達成できそうなかたちを探って整理していきます。そこで大事なのは、相談を受けた側が最終画面を想像した上で会話ができるかどうかだと思います。それは協力会社さんに対してお願いするときも同じで、その会社さんが得意とされている技術をふまえてお願いしたり、難しい場合はMAPPA側で部分的に受け持つなどして、アサインしています。個々人でつくるというよりもチーム単位でどうやってつくっていくのか、作品ごとに制作フローを構築していく必要があります」と語る。

最初から無理とは言わないどうすれば実現できるのか考えていく

MAPPAというスタジオの特長を林監督は「たとえ、これまでつくったことがないような作品や表現でも、『無理です』と言われたことはありません。どうやれば実現できるかを一緒になって考えてくれるのが嬉しいですね」と、評する。同社は日本のアニメの黎明期から数々の名作をつくり上げてきた丸山正雄プロデューサーが創設し、氏の理念を現代表の大塚 学プロデューサーが引き継いでいるという。淡輪氏はその社風を言葉にしてくれた。「たとえ大変そうであっても、これまでにつくったことがない作品の方が楽しそうだなって。その過程には相応の苦労があるわけですが、実現のあかつきには自分たちにとっても新しい扉が開きますし、それが世界に広がると創り手としてのやり甲斐を覚えます。だから、機会があればチャレンジしていこうと常に思っています」。

超人気作品のファイナルシーズンということで、注目度も高い本作。林監督は「反響の大きさがまさに桁ちがい。加えて海外のファンからの感想の書き込みの多さに驚いています。そのことは『大勢の視聴者がいるのだから、細かいところまでしっかりとつくり込まねば』と、制作陣にとって良い意味での緊張感に作用しています」と、語る。本作の演出で特に力を入れている部分を聞くと、林監督からは「"戦場の空気感"ですね。戦争映画をはじめ、塹壕のリアルな様子を研究して画づくりを探っていきました。現場でちょっと遠くを歩いているキャラクターが煙で霞んで見えない、といったリアリティのある表現も躊躇なく行なっています」という答えが返ってきた。淡輪氏は「立体機動もこれまでの対巨人用ではなく、対人間用の使われ方をするので、装備も戦術もこれまでとちがった演出を楽しんでいただけると思います」と話す。また、キャラクターごとの会話や描写も増え、より群像劇らしさが増しており、そうした描写は原作者・諫山氏からの要望でもあったという。「先生からは『連載時にガビ(CV:佐倉綾音)たちが街の人と交流をする普通の子どもである様子を描いたり、彼らの心の絆をもう少し深く描ければ良かった』というお話をいただきました。そうした部分はアニメ側でひろっています。マーレ側に感情移入させることで、日常が突然破壊されることの悲惨さを演出として強調できます。こうしてアニメ側でも補強することで、原作をすでに読まれている方も楽しめますし、未読の方はアニメでは尺の都合で入らない部分を、後に原作を読むことで補完ができると思います。音楽の演出も素晴らしいので、アニメーション作品にしかない表現を楽しんでいただければと思います」(林監督)。



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.272(2021年4月号)
    特集:大解剖『進撃の巨人』The Final Season

    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2021年3月10日