2020年5月9日(土)に発売した月刊CGWORLD vol.262(2020年6月号)では、CGSLABとロゴスコープ全面協力の下、RAW撮影対応「RICOH THETA Z1」による、ACES対応HDRI制作フローの解説と、作成したHDRIの詳細レビューの特集を組みました。ここでは、本特集で撮影・作成したHDRIをはじめとするサンプルデータ一式を配布します! 一部、再配布・商用不可になりますが、自由にお使いください。

※本記事は、月刊「CGWORLD + digital video」vol. 262(2020年6月号)からの一部転載となります。

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【サンプルデータを無償配布!】

下記リンクからダウンロード可能です。一連のデータは、同梱されている「Readme.txt」を御一読の上、お使いください。

CGW262T1_HDRI_Datas.zip



<1>HDRIの精度と限界 ~実際にCGレンダリングしてみた~

今回の特集では、十分な精度でのHDRIが作成可能であることが数値上ではわかりましたが、実際にHDRIとして利用してレンダリングしてみた結果を確認していきましょう。

<A>を見ると、いずれも対応したIDT適用済みの5D3とTHETA Z1でそれぞれ作成した太陽補正済みHDRIでのレンダリング結果と、それぞれのカメラで撮影されたカラーチャートの比較ですが、非常に高い領域で近似していることが判ります。



<A>左から順に、5D3レンダリング結果、5D3 撮影画像、THETA Z1レンダリング結果、THETA Z1撮影画像



次に条件が安定している、CGSLAB社内の高演色照明下でHDRIと参考モデルの撮影を行いました。このHDRIでライティングしたシーンにCGSLABにて高精度3Dスキャニングで行なったモデルを配置して、レンダリング結果を比較してみましょう。

<B>は、単純にスキャンしたモデルを、HDRIでライティングした結果ですが、カラコレなしでハイライトや赤色のペインティングなどの結果がほとんど一致していることが確認できます。単純に読み込んだだけでこの結果ですので、このHDRIとモデル、テクスチャの精度が非常に高いことが判ります。



<B>(左)参考モデルの写真/(右)3DCGモデル



同様に野外ロケーションで撮影した場合も見てみましょう。撮影した太陽調整済HDRIでライティングしたレンダリング結果と、バックプレートを合成した結果です<C>



<C>



このように非常に強い太陽下ですが、露出を変更してみてもモデルやバックプレートのどちらかが浮いてしまうこともなく、一致した変化が確認でき、非常に馴染みのよい結果を得ることができました<D>。以上のことから野外の強い光源下でも、室内のような弱い光源下でも安定した精度でのHDRI作成が行えていることが確認できました。



<D>



最後にこうした高精度HDRIでも発生してしまう問題について紹介します。<E>は、HDRI内のカラーチャートと3D上のカラーチャートを比較した画像です。このHDRIはTHETA Z1と光源、カラーチャートとの距離が1対1対1の関係で撮影を行いました。今までの話で非常に精度が高いこと がわかっているはずのHDRIなのに、THETA Z1と一緒に撮影されたチャートと見かけ上の明るさが異なっていることが判ります。これがまさに「撮影時のコツ」の「撮影場所」で紹介した整合性の問題になります。



<E>



光の特性として光の強さは距離に対して逆二乗に減衰していきます。そのため今回の条件では光源とカラーチャートは撮影したTHETAの位置と比べ2倍離れていますので、THETA Z1の位置で作成されたHDRIと写り込んだカラーチャートに当たる光の強さは逆二乗減衰により約1/4になっています<F>。そのため、HDRIの結果は撮影したTHETA Z1の位置では正しい結果ですが、写り込んだカラーチャートをリファレンスとして見ると明るさに差が出てしまっています。



<F>



本来行うべきではないのですが、もしレンダリング結果で明るさを一致させたい場合は、HDRI内の光源のみを今回の場合は1/4の明るさにするか、または写り込んだカラーチャートの明るさを4倍にすることで、カラーチャートの位置でHDRI撮影したように擬似的に位置関係を正すことが可能 です<G>



<G>HDRI の光源強度を1/4 にすることで、おおよその明るさが一致したのが確認できます。また、この場合の色ズレはLED の演色性の問題です。また、位置関係の正しいモデルに対してHDRI をプロジェクションして光源の位置関係を補正する方法もあるでしょう。この距離減衰の問題はスタジオや室内光のような光源距離の近いロケーションの場合で顕著に発生するので気をつけましょう

<2>スペクトルのズレ

次の一連の画像は、RGB各色でカラーチャートをライティングしたHDRIを作成し、CG上でも同様のカラーチャートをレンダリングした場合の比較です。





HDRIとレンダリング上のカラーチャートにズレが発生していることが明確にわかります。極端な波長特性や演色性の光源下でこのような問題と再現性の限界があることも認識しておきましょう。このように適切な精度のHDRIを使用することでシェーダやテクスチャ、ライティングにおけるトラブルを事前に防げ、また問題が起きたときも何が問題なのかを素早く見つけ出すことができるようになります。

最後に今回の制作フローで作成したHDRIについて(特に精度に関して)、亀村氏へのQ&A形式で補足します。

<3>Q&A〜CGSLABがロゴスコープに聞く〜

Q1.今回、作成したRICOH THETA Z1のIDTは平均色差が1.8ということですが、一般的な一眼レフと比べても遜色ないということですか?

A1.
過去にロゴスコープで計測した一眼レフカメラの測定データとの色差は、Canon 5D MarkⅢが色差1.5、NIKON D800が1.8(※THETA Z1と同じ)、Olympus P5/PL5が2.2という結果でした。RICOH THETA Z1の色差1.8は、他の一眼レフカメラと遜色ない精度と言えます。また、表1の色差表は、X-Riteのカラーチェッカー24色を基にしています。カメラのRGB値からIDTを経由して、測色を行なっていた環境光(約5,000K、Diffuse White 800cd/m2)のLab値と、同環境を測色したLab値との差分を色差としています。

エックスライト社のWebサイト「色差について」(※1)を参照すると、本IDTを経由した色差1.5~2.2は、2級(実用色差a)「ならべて判定した場合に、ほとんどの人が容易に色差を認めることができる」と3級(実用色差b)「離間して判定した場合に、ほぼ同一と認めることができる」の間にあたるでしょう。このことから、本IDTを経由した色は、隣同士に並べなければ、ほぼ同一色として認められると考えられます。

※1 エックスライト社「色差について」



Q2.背景のバックプレートとHDRIのマッチングは、どのように考えれば良いですか?

A2.
VFX映像制作に用いられるデジタルシネマカメラ(ARRI, RED, SONYなど)のほとんどは、各カメラメーカーからIDTが提供されていますが、これらのIDT作成プロセスは非公開です。IDT作成プロセスが異なれば、生成結果のIDTやその精度も異なるものとなるため、本IDT作成プロセス(AMPAS DRAFT P-2013-001)とメーカー配布IDTのどちらが高精度であるかを単純には比較できません。

本特集では、IDTが配布されているカメラに関してはメーカー配布のものを積極的に使用することを推奨します。それは世界中にいるユーザーが、メーカーのホワイトペーパー基準のIDTに簡易にアクセスして用いることが可能だからです。

一方で、メーカーによりIDTが配布されていないカメラに関しては、AMPASが推奨するIDT作成方法に則って、個別にIDTを作成することを推奨します。IDT作成プロセスを共通化することで、生成結果のIDTの精度も安定化するからです(※2)。

※2 エックスライト社「色差について」



info.

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.262(2020年6月号)
    第1特集:コスパ最高のHDRI制作術
    第2特集:オートモーティブ×ゲームエンジン
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年5月9日(土)