2025年3月21日にアメリカで封切りとなった映画『LOCKED』。高級SUVを盗もうとした若者が、その軽率な行動の”結末”を教えようとする謎の持ち主によって大幅な改造が施されたSUV車内に閉じ込められ、恐ろしい体験をする様を描いたスリラー作品である。先日、本作のVFXワークを手がけたPFXによる冒頭シーンのブレイクダウンが公開された。そのユニークな手法を紹介しよう。

映画『LOCKED』VFXブレイクダウン

プラハを本拠地とするPFXが、750ものVFXショットをわずか4ヶ月で完成させた

デヴィッド・ヤロヴェスキー/David Yarovesky監督作『LOCKED』は、2019年にアルゼンチンで製作されたアクション映画『4x4』のリメイクである。ビル・スカルスガルド演じる若者が、駐車場に停められていた高級SUVを盗もうと乗り込む。しかし、そのSUVは高度な改造が施されており、アンソニー・ホプキンス演じる謎めいた持ち主による罠がしかけられていた……というあらすじのスリラー作品だ。

映画『LOCKED』トレイラー

本作のVFXを手がけたPFXは、2012年にプラハで誕生したポストプロダクションである。当初はブティックスタジオだったそうだが、現在ではチェコ共和国、スロバキア、ポーランド、ドイツ、オーストリア、イタリアという中央ヨーロッパ6ヶ国に拠点をかまえており、300名体制まで成長しているという。

 VFX REEL2025 

海外の複数メディアの情報によると、『LOCKED』のVFX制作はVFXスーパーバイザーのジンドッチ・チェルベンカ/ Jindřich Červenka氏を中心とする75名のチームによってプラハ、ブラチスラヴァ(スロバキア)、ワルシャワ(ポーランド)の3拠点にまたがって行われたという。

本作のVFXショット数は750。その物量を4ヶ月で完成させたというが、PFXが自社開発したプロダクション管理ツールを活用することで短期間で完成できた原動力とのこと。

PFXが公開したブレイクダウンは、冒頭シーンのもの。3分45秒(5,417フレーム)の長回しショットのVFXワークを約1,800時間費やして完成させたという。

ヤロヴェスキー監督は、長回しを用いることで従来までのソリッドシチュエーションのスリラー作品との差別化を目指したという。

そこで撮影に用いるSUVには、様々なアングル撮るためにSUVの側面など、6ヶ所を取り外し可能なパーツで構成する改造が施された。それと並行して、プリビズやテックビズを基づく綿密な撮影プランを組むことで、監督が求めた自由なカメラワークと一体感のあるVFXが創り出された。

ブレイクダウンより。事前に設計したカメラワークと演技に合わせて、6人のグリーンマンがSUVのパーツを巧みに操演していたことがわかる

最終的には長回しに仕上げるが、実際の撮影は複数のカットに分けて行う必要があった。そこで実写撮影はグリーンスクリーンで行い、ロケ地とSUVのバーチャルアセットを合成するという手法が採られた。

先述した1,800時間という作業時間からは複雑なマッチムーブやコンポジットワークが求められたことが窺える。なおマッチムーブには3D Equalizerを使い、SUVのデジタルダブルはHoudiniで作成。コンポジット作業はNukeで行なったという。

3D Equalizerによるマッチムーブの結果
  • 冒頭シーンのバーチャルアセット
  • ロケ地のLiDARスキャンとREDカメラで撮影した360度映像を基に作成しているとのこと

PFXの本拠地があるチェコ共和国をはじめ、中央ヨーロッパの各国にはVFX制作に利用できる税制優遇措置を設けているという。そうした地の利を活かすことで、本作でも良質なVFXを実現させているわけだ。

実写プレート
一連のポストプロダクションが施された完成形

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