日本の特撮・怪獣・アニメ作品からの強い影響を感じさせることでも話題となった映画『パシフィック・リム』(2013)。その続編となる『パシフィック・リム:アップライジング』が4月13日(金)より公開となった。ダブル・ネガティヴ(Double Negative)アトミック・フィクション(Atomic Fiction)が中心となって制作されたという同作のVFX、そして作品の魅力について、来日したスティーブン・S・デナイト監督に話を伺った。

TEXT_大口孝之 / Takayuki Oguchi
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『パシフィック・リム:アップライジング』
2018年4月13日(金)全国ロードショー
pacificrim.jp
©Legendary Pictures/Universal Pictures.

<1>プレ・プロダクションからポスト・プロダクションまで

©Legendary Pictures/Universal Pictures.

――ILMのコンセプトアーティストがクレジットされていましたが、実際にVFXを請け負った会社が、ダブル・ネガティヴ(Double Negative)やアトミック・フィクション(Atomic Fiction)に決まったのは、どういった理由からですか?

スティーブン・S・デナイト監督(以下、デナイト):最初はILMが『パシフィック・リム:アップライジング』におけるVFX制作の主導権を握っていました。それは、今回プロダクション・デザインを務めたステファン・デシャント(Stefan Dechant)に、多くの顔見知りがいたからです。そのためILMの素晴らしいスタッフでチーム(※1)を編成して、イェーガーやKAIJUの基本的なコンセプトアートを固めていきました。その時点まで私は、ダブル・ネガティヴ社(※2)やアトミック・フィクション社(※3)と仕事をしたこともなかったし、正直まったく知りませんでした。しかし、この映画の製作会社であるレジェンダリー・エンターテインメント(Legendary Entertainment)が「ぜひ使いたい」と両社を強く薦めてきたのです。特にダブル・ネガティヴに関しては、クリストファー・ノーラン監督の作品で良い仕事をしていますし、『エクス・マキナ』(2015)なども手がけています。今回、彼らは、スタジオ側のVFXスーパーバイザーであるピーター・チャン(Peter Chiang)と共に、素晴らしい仕事をしてくれました。

※1 そのチームには、ステファン・サバラ(Stephen Zavala)、クリストファー・ブランドストレーム(Christopher Brändström)、タン・リー(Thang Le)などといったデザイナーが参加していた(IMDb調べ)

※2 ダブル・ネガティヴは、ノーラン監督の『インセプション』(2010)や『インターステラー』(2014)の他、『エクス・マキナ』と『ブレードランナー2049』(2017)でもアカデミー賞視覚効果賞を受賞している。また、ピーター・チャンは同社の出身でもあり、気心が知れていたのかもしれない。今回、ダブル・ネガティヴはロンドン本社スタッフの大半を本作に参加させ、3つのシークエンスをバンクーバー・スタジオ、マッチムーブをムンバイ・スタジオで作業している。主要なCGソフトには、Isotropix社製のClarisseが使用された。またエフェクトはHoudiniで、流体シミュレーションは自社開発のソフトを用いている

※3 アトミック・フィクションは、ピーター・チャンがVFXスーパーバイザーを務めた『スター・トレック BEYOND』(2016)にも参加していることから、信頼を得ていたと思われる。同社はVFXスーパーバイザーのライアン・タッドホープ(Ryan Tudhope)が、ケビン・ベイリー(Kevin Baillie)と共に、(The Orphanage)社やイメージムーバーズ・デジタル(ImageMovers Digital)社における経験を基にして、2010年に設立したプロダクションである。現在、オークランドとロサンゼルス、モントリオールにスタジオをもっている。その他のプロダクションでは、各種ディスプレイに表示される未来的なユーザーインターフェイスや3Dホログラムのモーショングラフィックスは、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)の英ブラインド社(Blind)と、『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)の英テリトリー・スタジオ(Territory Studio)が手がけている。またプリビズは、米ハロン・エンターテインメント(Halon Entertainment)社、米デイ・フォー・ナイト(Day for Nite)社、米ザ・サード・フロア(The Third Floor)社の3社が分担した。さらに実景のライダー計測を英クリアー・アングル・スタジオ(Clear Angle Studios)、3Dスキャンを米ジェントル・ジャイアント・スタジオ(Gentle Giant Studios)が請け負っている。立体視用の2D/3D変換は、ダブル・ネガティヴの親会社でもあるプライム・フォーカス・ワールド(Prime Focus World)社が担当した

  • スティーヴン・S・デナイト/Steven S. DeKnight
    アメリカ合衆国ニュージャージ州出身。脚本家、映画監督、TVプロデューサー。『スパルタカス』、『デアデビル』、『バフィー ~恋する十字架~』など全米大ヒットドラマを数多く手がける。『パシフィック・リム』監督ギレルモ・デル・トロからシリーズを引き継ぐ形で本作にて長編監督デビュー。幼いころから日本の怪獣映画が大好きで、ウルトラマンやマグマ大使やゴジラを見て育ち、強く影響を受けていると公言している

――前作は夜のシーン中心だったのに対し、今回は昼間ばかりですね。遥か遠くの風景までつくり込まなければならないので、VFXチームは苦労したと思いますが、実際はいかがでしたか?

デナイト:たしかに前作は、夜間やしとしとと雨が降るような場面が多かったですね。そこでビジュアル的な差別化を図るために、昼間の都市における戦いのシーンを中心にしようと思ったのですが、おっしゃる通り、いっさい誤魔化しがきかないわけなんです。これにより壮絶なまでにディテールをつくり込まなければならないため、デザイン的にも大変でしたし、レンダリングにも1年以上かかりました。

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――今回、実写のスタジオがオーストラリアや中国、VFXはイギリスとアメリカなどに分散していましたが、その間の連携はうまくいきましたか?

デナイト:非常に複雑で、戦略的にもいろいろ考えなければなりませんでした。まず準備と最初の撮影をシドニーで行なって、次に中国のワンダ・スタジオで1ヵ月強作業し、その後、ロサンゼルスでいくつかのシーンを撮って、最後にアイスランドでロケを行いました。この間、ピーター・チャンとB班がVFX用のプレート(合成用の背景)を撮影するために、(韓国や日本など)世界各地を飛び回っています。そしてポスト・プロダクションの段階では、アメリカ、イギリス、オーストラリア、中国などで同時進行させる必要があったので、各班のキーパーソンが連日ビデオ会議で連絡を取り合うという形で進めましたね。特にピーターは自分の右腕のような存在で、彼がいなければこの映画は完成しませんでした。

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<2>プラクティカル・エフェクトについて

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<2>プラクティカル・エフェクトについて

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――今回、『エイリアン: コヴェナント』(2017)のアニマトロニクスを手がけたオーストラリアのオッド・スタジオ(Odd Studio)と、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで知られるニュージーランドのウェタ・ワークショップ(Weta Workshop)が造形物関係(※4)でクレジットされていましたね。最近の傾向として、CG一辺倒だった時代からCGを使わないプラクティカル・エフェクトへの回帰(例として『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)や『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018)など)が感じられますが、実際どう思われますか?

※4 この他に、コン・ポッドと呼ばれるイェーガー操縦室の装置やパイロットスーツ、ヘルメットなどの造形を、前作に続いてレガシー・エフェクト(Legacy Effects)社が担当した。同社は『ターミネーター』シリーズ、『ジュラシック・パーク』シリーズなどの、造形物やアニマトロニクスなどを手がけた、スタン・ウィンストン・スタジオ(Stan Winston Studio)の後継となる工房である

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デナイト:自分としては、「昔ながらのプラクティカル・エフェクトに帰ろう」という傾向は大歓迎です。私は元々、ミニチュアを使って撮っていた時代の映画が大好きで、それを観ながら育った世代です。また、例えばピーター・ジャクソン監督も、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでは非常に大きなスケールモデルをつくり、撮影していました。それからジョン・カーペンター監督の『遊星からの物体X』(1982)のために、ロブ・ボッティンがつくり上げたクリーチャーは素晴らしいものでした。自分でもそういったプラクティカル・エフェクトを使った作品をもっと撮ってみたいし、世の中もそちらに向かって欲しいです。

――円筒状のガラスケースの中に浮いていたKAIJUブレインは、アニマトロニクスでしたか?

デナイト:いえ、あれは100%CGIです。なかなか良くできていたでしょう?

――そうですね! どちらかわかりませんでした。

『パシフィック・リム:アップライジング』特別映像/進化の証&魂の継承

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<3>日本の映像コンテンツについて

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<3>日本の映像コンテンツについて

――すでにいくつかのメディアに対し、日本の特撮映画やテレビ番組への愛を語られていますが、アメリカのテレビで日本の番組が放送されていたのでしょうか?

デナイト:はい、自分が子供のころの70年代には『ウルトラマン』と『マグマ大使』を続けて放送していて、それに間に合うように走って学校から帰っていたのを思い出します。『マグマ大使』は『Space Giant』(※5)という題名で放送していました。

※5 IMDbによると、米国では「Space Avenger」というタイトルだったと表記されている

――最近の日本のコンテンツについてはどうでしょうか?

デナイト:私が日本の作品を夢中になって観た時期は子供のころですので、やはりその時代のコンテンツの影響を受けています。なので最近の作品というより、60~70年代の特撮番組、怪獣映画などがインスピレーションの源ですね。ただしイェーガーのデザインなどを見てもわかるように、この作品が『ガンダム』、『AKIRA』、『攻殻機動隊』といった日本のアニメの影響を受けているのは明らかです。この映画は、「こういったジャンルの作品を生み出してきた、日本への敬愛の念を込めている」という点を感じ取ってもらえれば幸いです。

<4>クライマックスと第3作について

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――第3作に続くような印象をもって終わりましたが、次回作はお考えですか?

デナイト:このシリーズは、元々3部作になる前提で企画が進められてきたので、ティーザー風の表現をして終わらせています。実際、この『パシフィック・リム:アップライジング』の制作中も、次回へ続くことを考えながら撮影していました。

――クライマックスの展開については、別の案もあったのでしょうか?

デナイト:もちろん、異なる展開の案もいくつかありましたが、最終決戦の地が日本で、富士山をバックにして東京で戦うという基本のアイデアは変わりませんでした。

――個人的には、富士山を大噴火させて終わらせて欲しかったんですが......。

デナイト:それじゃあ、世界が滅びちゃうじゃないか(笑)!


  • 『パシフィック・リム:アップライジング』
    2018年4月13日(金)全国ロードショー
    監督:スティーヴン・S・デナイト
    脚本:スティーヴン・S・デナイト、T・S・ノーリン
    製作:ギレルモ・デル・トロ、トーマス・タル、ジョン・ジャシュニ、メアリー・ペアレント、ジョン・ボイエガ、フェミ・オグンス
    キャスト: ジョン・ボイエガ、スコット・イーストウッド、ジン・ティエン、ケイリー・スピーニー、菊地凛子、新田真剣佑、バーン・ゴーマン、アドリア・アルホナ、チャーリー・デイほか
    配給:東宝東和
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    ©Legendary Pictures/Universal Pictures.