グラフィックスプログラミングの研究・開発を個人で行う「もんしょの巣穴 ver2.0」や、Substance DesingerやUE4のTIPSを紹介するブログ「もんしょの巣穴ブログ Ver2.0」でも知られるもんしょ氏。氏は現在、「CGWORLD Online Tutorials」にて「コンクリートタイルの作成から習得するSubstance Designerの基礎」講座を配信中だ。グラフィックスエンジニアとして最新情報や動向にもアンテナを張りつつ「なければ作れ!」の精神で開発を進める彼が推すツール、Substance Designer の使い方と今後について聞いてみた。

※本記事は2019年6月の取材に基づいて制作しています

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、株式会社Bridge
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

コンクリートタイルの作成から習得するSubstance Designerの基礎
(CGWORLD Online Tutorials)
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Substance PainterとSubstance Designer、その使い分けと特徴

CGWORLD(以下、CGW):最初にCGに関心や魅力を感じたのはいつのことでしたか?

もんしょ氏:もともとドット絵が好きでした。スーパーファミコン後期の『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズに魅力を感じていたときに任天堂の『スターフォックス』(1993)が発売されました。2Dがメインだった世界に突然3Dが登場し、これはとても不思議な体験でした。


  • もんしょ/Monsho
    グラフィックスエンジニア

    1977年生まれ。専門学校卒業後、グラフィックスプログラミングの研究・開発を個人で行い、DirectXによるグラフィックスプログラミング手法を掲載するサイト「もんしょの巣穴」を起ち上げる。現在は都内のゲーム開発会社にてグラフィックス周りのR&Dを行うエンジニア。 ハードウェアに近い低レベル層での研究・開発を主に行う。Substance Designerは3年ほど前から個人の研究・検証用に使用開始。都内某所でSubstance勉強会、ゆるゆる会を開催することもある
    Twitter:@monsho1977
    もんしょの巣穴:sites.google.com/site/monshonosuana/
    もんしょの巣穴ブログ:monsho.hatenablog.com

もんしょ: その後、CGに関して勉強する日々の中、94年にPlayStationが発売されるやどんどん発展して97年には『ファイナルファンタジーVII』が登場しました。ただし当時の3DCGはまだ粗く、まだまだドット絵の方が良いという人が多かったのも事実です。

自分としてはその数年間の進化から想像すれば、あと5年か10年後には間違いなくとてつもないことになるだろうと思っていました。そこに自分も携われると面白いなという思いがきっかけです。

CGW:もんしょさんは、DirectXによるグラフィックスプログラミング手法を掲載するサイト「もんしょの巣穴 ver2.0」の管理人としても有名ですが、このサイトを始められたきっかけを教えていただけますか?


  • もんしょの巣穴 ver2.0

もんしょ:それ以前に、グラフィックスAPIを使って色々やるためのコードを出したりするホームページを2000年11月に起ち上げたのが原型になります。

自分で色々と開発ができると就職に有利になると思いました。ところが、当時の状況といえば情報がほとんどなく、国内で3Dグラフィックスを手がけていた少数の人たちが発信する情報も、そもそも基本的なことを理解している前提で書かれていました。

だからこれからその世界に入りたい者にとっては何から始めたら良いのかまったくわからない状態でした。そのとき思ったのです。誰かがちゃんとした情報を出せば良いじゃないか、と。そこで、サイトを起ち上げたというわけです。

CGW:そこに同様の人が集まるようになった?

もんしょ:人を呼びたいというよりも、自分が作った拙いプログラムを誰かに添削してもらいたかったのが本音です(笑)。

当時はGitHubもなかったので、ソースコードを誰かに見せようとすると、ジオシティーズとか無料のHP作成サービスでアカウントを取ってそのサーバにファイルを置かないといけなかった。しかもあまり大きなファイルを置くと不正なソフトだと思われて削除されたりするので、ソースコードだけをアップするという感じで。掲示板も設置してみたのですが、あまり情報が集まらないし反応も少なくて、それほど手応えを覚えていたわけではありませんでした。

ところが最近Substance Designerの「ゆるゆる会」というのを不定期に開催していると、「当時見てました」という方が結構いらっしゃって。ありがたいんですけど、その頃言ってくれたら嬉しかったなぁと思います(笑)。今はSubstanceとUnreal Engine関係はブログで、グラフィックス API はサイトでというように分けています。


もんしょの巣穴ブログ Ver2.0

CGW:Substanceには最初どういうかたちで触れたのですか?

もんしょ:数年前のCEDECで「PBR(物理ベースレンダリング)」というものが出てきたとき、フォトリアルの世界は間違いなくこちらの方面に向かうだろうと感じました。その後、新しいレンダリングエンジンを開発することになり、最終的には使わなかったのですがPBRを試してみようということになりました。そのためにまずはシェーダを書いてみました。

計算式に基づいてライティングをして色付きのボールを出してみたところ、それらしいものができました。ところが実装してモデルを出したところ、全然それっぽくなかったのです。

そこで、キャラクターに貼り付けてあったマテリアルを全部剥がし、全てグレーに置き換えてみたところ、やっとそれらしく見えました。

実は使われていたテクスチャが前世代のもので、影や色も全て手で描き込んである状態でそのまま出していたことがわかったのです。じゃあこれをきちんとしたものにすれば改善できるじゃないかと考えました。


もんしょ: ところが、今度はアーティストさんに「きちんとしたもの」が何を表すかを伝えられなくて困りました。みんなまだPBRが何かを全然わかっていない状態で「PBRが良いよ」と言ったところで、じゃあそのPBRに則したアセットはどうやって作れば良いか? ということになる。そこで、その方法をまず調べました。

CGW:それは、どのように行なったのでしょうか?

もんしょ: まず、写真からマテリアル用のテクスチャを生成するBitmap2Material(B2M)というソフトを試してみました。これが結構良かったのです。

でも、基にする写真の質によって結果が変わってくるし、まして本当に欲しかったのはキャラクター用のテクスチャなので、常に写真からもってくるというわけにもいきません。そこで、それっぽいものを作ることができるソフトはないかと調べました。

その結果、B2Mの開発元Allegorithmic(当時)が3Dモデルにペイントすることでテクスチャを生成できるSubstance Painterというソフトを出していることがわかったので、とりあえず試してみることにしました。

CGW:使ってみて、いかがでしたか?

もんしょ: 深く考えなくてもPBRの要件を満たしたものが出せるし、PBR計算式のマテリアルライティング計算をきちんとやれば、それなりのきちんとした結果が出せました。ちょっと面白くなって色々作り始め、1年ぐらいSubstance Painterを触っていました。

そうすると、キャラクターやプロップは良いけれども、やっぱりタイリングのテクスチャなどはSubstance Painterでは作りづらい。そこでやっとSubstance Designerが必要だと気づき、使い始めることにしました。

CGW:Substance PainterとSubstance Designerの使い分けと特徴について教えていたけますか?

もんしょ:Substance Painterは最初にモデルを読み込まなければいけないので、まずはそのモデルを作ることから始まります。キャラクターとかちょっとした小物、あるいはワンオフのものならば良いのですが、地面や崖となるとタイリングテクスチャで大量に貼ることになります。

そこでSubstance Painterを使うと、個別に貼ってあるもの全て2Kや1K四方のテクスチャを出すことになり、どうしても解像度が足りない部分が出てきます。

一方、Substance Designerはプロシージャルなテクスチャを作成するソフトウェアであり、PBR向けのテクスチャの生成に適しています。 Substance Painterで使うマテリアルを作ることもできれば、これ単体でモデルにテクスチャを当てることも可能です。

そういう意味で、PBRにおいてはSubstance Designerの方が使えるソフトですね。下手なことさえしなければタイリングは保たれるので、確実にそういった地形用のテクスチャを作ることができます。作ったデータ自体をUnreal EngineやUnityにもっていき、そこで調整も可能ですから、地形のようにタイリングテクスチャを大量に使う必要のあるものに対して有効に働きます。そういう意味では、背景制作がメインとなるツールだといえるでしょう。

CGW:これを広めていったときの皆さんの反応はいかがでしたか?

もんしょ:初めて触る人のほとんどは「よくわからない」という反応でした。結局のところ、実際のモノをどれだけ深く観察しているかが重要になるツールだと思います。

もんしょ:テクスチャは最終的にノイズを色々混ぜ、歪ませて作り上げます。このとき、「こういうところに傷がついている」とか「この凹凸はこういう形状が集まってできる」というような、観察で得た結果をそのままに近いかたちでノードにすれば結構何とかなるのです。

そういうことに気づくと、モノを見るのがとても楽しくなりますね。それさえ伝われば、多くの人が使ってくれると考えています。

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センスがなくとも、理屈で作っていけるのがSubstance

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センスがなくとも、理屈で作っていけるのがSubstance

CGW:地面や崖の他にSubstance Designerでは何が作れるのでしょうか?

もんしょ:いろいろ作れますよ。ワンオフのモノはもちろんとして、基本的には素材単位で作ることが多いと思います。木とか布とか岩の肌とかを素材単位で作り、後から何らかのかたちでブレンドします。

テクスチャのままブレンドすることもあれば、ゲームエンジン上で2つのマテリアルをそれぞれ別個のものとしてブレンドするやり方もあります。

Substance Painterはどちらかといえばワンオフで作るものなので、汚れから何から全部作ります。それをSubstance Designerでやるとタイリングしたときに汚れの加工が連続して、違和感の原因となるのです。

CGW:まるで世界を創造しているかのような感じですね。

もんしょ:そのとおりですね。ある程度法則があるのでそれを見出しつつ、ゲームであれば使いやすいようなかたちで作っていくのです。そのあたりのルールを考えるという点では確かに世界を創リ出す感じはあります(笑)。

CGW:非常に可能性を感じます。

もんしょ:特に海外はプロシージャルが当たり前になっていて、オープンワールドのゲームは大抵プロシージャルです。ビルを建てるにしても1つずつちまちまと作るわけにはいかないし、同じビルが連続しても不自然になります。

ある程度のルールに基づき、似ているけれど違うものを作り上げるというのはエンジニア的な発想なのですが、やっていて楽しいものです。

CGW:この4年間で大きな変化や進歩は何か感じられますか?

もんしょ:仕事ではまだ自分以外にSubstance Designerを使いこなす人はあまりいないのですが、外に目を向けると格段に使える人が増えています。4年前だとSubstance Painterでチュートリアルを出してくれる人がやっとという感じでした。

それが今や、Substance Designerでチュートリアルを出す人が結構います。Twitter でもいろんな人が発信しており、Substanceの公式アカウントがリツイートして紹介してくれます。その中には日本の人も普通にいて、裾野が広がっているのをとても感じています。

CGW:その中で期待することは?

もんしょ:Substance に限った話ではありませんが、今後はやはりプロシージャルな部分が増えていくと思います。海外ですとオープンワールド系も、SubstanceとHoudiniでこんな風に作った、などとという話がたくさん出てきますが、日本ではまだそういう事例が少ないですね。

昨年4月のUNREAL FEST WEST 2019では、スクウェア・エニックス大阪さんの検証プロジェクトである「Houdini×UE4で作るプロシージャル背景制作!1000の和室」が、非常に良くできていました。日本もこの方向で進めば、ゲームもプロシージャルに作られようになり、オープンワールドのしっかりした作品がどんどん出てくることが期待できます。

CGW:もんしょさんご自身の今の研究課題は?

もんしょ:最近やっているのはリアルタイム・レイトレーシングです。やっとDirectX Raytracingが出てきて現実味を帯びてきたとはいえ、まだまだ全然足りませんが、間違いなく主流になっていくでしょう。

シャドウマップなどはどうしても範囲が狭かったり不安定だったり、ボヤけすぎるといった問題が出ますが、DirectX Raytracingでやれば、レイを飛ばすだけで綺麗に出ます。

実際やってみるととても簡単で、普通にポリゴンを描画するようなしくみの中でできるのはすごく大きいことです。これが現実的になってきたので、間違いなく5年後にはデフォルトのような状態になっていると思います。そのときまでにDirectX Raytracingを使ったシステムをいかに構築するかが、現在の自分のテーマです。

CGW:2018年に「Substance Designerによるフルプロシージャルマテリアル作成」の講座で登壇されたり、CGWORLD Online Tutorials「コンクリートタイルの作成から習得するSubstance Designerの基礎」のチュートリアル動画を作られましたが、ご自身ではどのような気付きがありましたか?

もんしょ:他の人に伝えるときに、自分の知っている部分だけを教えても面白くありません。何より、自分が理解していると思っていたことが、実は感覚でやっているにすぎなかったりします。

それを他人に伝えるときに、「そう考えるならこっちの方が効率的じゃないか?」といったことがどんどん出てきたりします。

動画チュートリアルを作る際も、話している最中にもっと良い方法があると気がついて変えてみることもありました。話すにしろ書くにしろ、プロセスの中で理解は深まるものだと思います。誰しも、人前で喋ったり他の人に教えることで、気がつくことがあるでしょう?


CGW:Substance Painterはほぼ業界標準になっていますので、これから使う方も多いでしょうし、導入のメリットがわかりやすい。Substance Designerにも興味を持って始めてくれる人が増えると良いですね。

もんしょ:そうだとありがたいですね。海外では普通にYouTubeなどでチュートリアルを出している人が多く、間違いなく需要はあると思います。

一方で日本のゲーム開発の現場は独学でやってしまうところがあるようですが、仕事で使うとなると新たに学ぶ必要が出てきます。そんなときに効率良く学ぶために、チュートリアルを手にしてもらえるとありがたいですね。

物を作るって楽しいことだと思うのです。自分はセンスがないとか絵的なことがわからないからできないと思っている人も多いと思います。自分もそうでしたから。でも、SubstanceやHoudiniは、最終的には理屈がものを言うのです。

調べれば見つかるし、見ていれば気づく部分もあります。センスがなくたってやっていけるチュートリアルにはなっているかなと思います。

自分が興味をもったことについて頭を働かせるというのはやっぱり楽しいことです。Substance DesignerやHoudiniなどのプロシージャルの方向で自分の頭を使ってみると、思わぬ面白いことが起きるのではないでしょうか。

CGW:ありがとうございました。

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