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    こんにちは。ビジュアルデベロップメントアーティスト(Visual Development Artist)の伊藤頼子です。これまでの連載では、画面構成やレイアウトデザインについて学んできました。今回からは、これらと並んで重要なライティングデザインについて学んでいきましょう。

    TEXT&ARTWORK_伊藤頼子 / Yoriko Ito
    EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    明暗を使い、画面をデザインする

    ライティングデザインとは、明暗(コントラスト)を使い、映画全体と個々の画面をデザインすることです。ストーリーテリングに合わせてライティングの様々な手法を使い分けることで、ムードの表現、感情の強調、画面の整理、全体のながれの構築などを行います。

    明暗の基礎的なことは連載 第2回で解説しました。以降の連載では、明暗を使った画面デザインを通して、ショットに感情を加える方法(ビジュアルストーリーテリング)を学びます。

    3DCGのアニメーション映画では特にライティングデザインが大切です。もちろん2Dアニメーションでもライティングデザインは大切ですが、平面を色によって塗り分けたり、キャラクターに輪郭線を付けたりすることで、焦点(Focal Point)をコントロールすることも可能です。3DCGによる写実的な表現が求められる場合には、実写映像に近い繊細なライティングデザインが必要とされます。それが、シネマトグラファーの仕事です。

    ライティングの役割

    ライティングの主な役割はつぎの2つです。

    1. リーダビリティー(Readability)
    画面に何が表現されているのか、見る人にすぐに伝わるよう、わかりやすくシンプルに画面をデザインすることが大切です。そのためには明暗の割合、コントラストの強さなどをコントロールし、Focal Pointを明確にすることが重要です。ショットによっては「影をデザインする」ことは重要なデザインの手法となります。

    2. ストーリーテリング
    ショットや登場人物の感情を、明暗によって表現することも重要です。

    Lesson35:リーダビリティーを高める

    ▲このショットにはたくさんの家や倉庫が写っており、Focal Pointであるはずの船が目立ちません。この画面内のごちゃごちゃした明暗を整理し、リーダビリティをコントロールしてみましょう


    ▲連載 第10回で解説したレイヤリング(Layering)を応用し、画面を見やすくしてみました


    この作例では、奥に位置するレイヤーほどコントラストを低くしています。加えて、Focal Pointである船とその周辺を明るくすることで、スポットライトが当たっているかのようなライティングデザインを施しました。これにより画面がすっきりと見やすくなり、見る人の視線が自然と船へ誘導されるようになりました。

    Lesson36:影をデザインする

    ▲このショットにはたくさんの人が映っており、どこがFocal Pointなのか不明瞭です


    ▲Focal Pointとなる女の子に一条の光を当て、その前後の空間を長い影の中に隠すことで、画面を整理しています。さらに女の子と右後の男性の距離が近すぎたので、少し離すことにしました


    Lesson37:アトモスフィア(Atmosphere)をデザインする

    ▲男女がビーチに向かって歩くショットですが、男女と背景のコントラストに差がないため、画面のリーダビリティが低くなっています


    ▲遠くのオブジェクトが空気で霞んでいるような効果(Atmosphere)を加え、遠くは明るく、近くは暗くなるように画面の明暗を調整しました。このようなグラデーションを画面に加えることで、遠近感が誇張され、さらに良い画となります。加えて男女の周囲を明るくすることで、男女のいる位置(Focal Point)が画面内で最もコントラストが高くなるようにしました


    今回紹介したレッスンのように、写真内のイメージをPhotoshopを使って整理し、明暗をデザインする練習を重ねることをお勧めします。それによってライティングの良し悪しを判断する力が培われ、より良いライティングデザインができるようになります。

    最適なライティングを考える

    ショットをデザインをするときには、つぎのことに注意しながら、最適なライティングを考えましょう。

    • ・シークエンス(ストーリーの区切り)を考慮する
    • ・キャラクターの視点や、感情(恐怖、幸福、感激、悲観、暖かい、寂しいなど)を考慮する
    • ・その場面の季節、時間帯(早朝、午前、午後、夕方、夕日、夜、深夜など)、気候、天候(晴天、雨、嵐、雷、霧、曇り、雪など)を考慮する
    • ・表現したい出来事や感情に最適な季節、時間帯、気候、天候を選択する

    例えば「ロマンティック」な出来事を表現したいのであれば「夕日」が適しています。「ドラマティック」な出来事を表現したい場合には「雨」「嵐」「雷」などが適しています。また、画面のコントラストが高くなるライティングにすると「ドラマティック」なムードを強調できます。一方で「憂鬱」な出来事や「ミステリアス」なムードの表現には「霧」「曇り」など、画面のコントラストが低くなる天候やライティングが適しています。

    次回からは、さらに多様なライティングを通して、ショットや登場人物の感情を表現する方法を学びます。




    今回のレッスンは以上です。第18回も、ぜひお付き合いください。
    (第18回の公開は、2018年7月を予定しております)

    プロフィール

    • 伊藤頼子
      ビジュアルデベロップメントアーティスト

      三重県出身。短大の英文科を卒業後、サンフランシスコのAcademy of Art Universityに留学し、イラストレーションを専攻。卒業後は子供向け絵本のイラストレーション制作に携わる。ゲーム会社でのBackground Designer/Painterを経て、1997年からDreamWorks AnimationにてEnvironmental Design(環境デザイン)やBackground Paint(背景画)を担当。2002年以降はVisual Development Artistに転向し、『Madagascar』(2005)でAnnie Award(アニー賞)にノミネートされる。2013年以降はフリーランスとなり、映画やゲームをはじめ、様々な分野の映像制作に携わる。2013年からはAcademy of Art UniversityのVisual Development Departmentにて後進の育成にも従事。2017年以降は拠点をロサンゼルスに移し、現在はアートディレクターとしてアニメーション長編映画を制作中。
      www.yorikoito.com

    本連載のバックナンバー

    第1回∼第13回まではこちらで総覧いただけます。
    No.14:画の中のスケールとディテール
    No.15:ダイナミックな動きのある画を描く
    No.16:イメージづくりに使うレイアウトコンポジション