<3>白銀比
次は「白銀比」です。「白銀比」はお寺など日本の建築物によく見られます。筆者は奈良県出身で、小学生のころ鹿からお弁当を守りながら写生会で法隆寺の五重塔の絵を描きました。この法隆寺の金堂や五重塔の屋根の比率が1:√2になるそうです。
日本ではこの「白銀比」が古くから使われてきました。ここで大工さんの7つ道具を紹介します。実はこの中に白銀比が隠されています。どれかわかりますか?
「曲尺(カネジャク)」:直角を図ったりする定規ですね。
「墨壷(スミツボ)」:墨に浸した糸を伸ばしてピンと張り、糸を指ではじいて直線を引く道具です。
「鉋(カンナ)」:木材の表面を削って平らにする道具。
「鋸(ノコギリ)」:木材を切る道具。
「鑿(ノミ)」:木材に穴を空けたり、彫刻をしたりする道具。
「釿(チョウナ)」:筆者も使ったことがないですが、これは丸太の皮をはいだり、木材の荒削りをするための道具です。
「玄翁(ゲンノウ)」:いわゆるトンカチですね。ノミを叩いたり、釘を打ったりする道具。
答えは、左上の曲尺です!
曲尺にはいろいろな目盛がついています。表面には「表目盛」といって長さを図るための目盛、裏面には「角目」と「丸目」という目盛がついており、この「角目」というのが実際のサイズの√2倍の目盛なのです。
では、どういうときに使用するかというと、
①丸太の外周に、曲尺の直角になっている角Cが接するように当てます。曲尺の短い方と長い方が丸太の外周に接しているAとBを結んだ線を引きます。これがこの丸太の直径になります。
②直径を曲尺の「角目」で測ります。「角目」は√2倍の間隔で目盛がついていますので、角目の目盛を読めば、この丸太からとれる正方形の一辺の長さがわかります。角目で測った丸太の直径が水色の直角2等辺三角形ですので、それぞれの辺の対比は1:1:√2になるためです。曲尺には法隆寺が建立された奈良時代には普及していたと言われています。ちなみにもうひとつの目盛の「丸目」には3.14倍の目盛がついています。直径を測れば、簡単に円周がわかるということです。
「丸目」の伝来時期はわかりませんでしたが、「角目」は奈良時代には中国から伝わっていたようです。大工さんは奈良時代から√を操っていたわけですね!
身近な「白銀比」といえば、画用紙やコピー用紙、ノートなどが1:√2の比率でつくられています。用紙はA0やB0を一番大きいサイズとして、数字が増えるにつれ小さくなっていきます。面積が1㎡になる白銀長方形(914mm×1,292mm)がA0でその半分がA1、さらにその半分がA2...となります。半分に折っても元の形状と同じ形状になるのですね。A判はもともとドイツの規格で、現在では国際規格サイズとなっています。
もうひとつのB判は国内規格で面積が1.5㎡になる白銀長方形(1,030mm×1,456mm)をB0とし、その半分がB1、さらにその半分がB2...となります。それではA判とB判はどういった関係にあるのでしょうか? A4とB4の紙を用意して重ねてみると......。
A4の対角線とB4の長辺がピッタリ重なります! 計算されていますね。他にも黄金三角形や正五角形など黄金比が隠されている図形はいろいろあるのですが、今回はこのくらいで「黄金比・白銀比のはなし」は終わりにしたいと思います。
筆者が黄金比を意識するようになったきっかけは、美大受験のために通っていた塾の授業でした。有名な絵画の中に隠されている黄金比や正方形を探し出して、自分の描く絵の構図の参考にしなさいという内容でした。
例えば、自画像を描くにしてもキャンバスいっぱいに描くだけではなく、構図を意識して意図した配置や余白をつくれば、その絵には作者の意思が生まれ、見る人が受ける印象も変わるのだというようなことです。当時は「なるほどな」とは思いましたが、実践はできていなかったと思います。何となく収まりがいいように配置するだけでした。
皆さんもモデリングするときに黄金比や白銀比をこっそりしのばせると、つくりやすく、より良いものができるかもしれません。ぜひ試してみて下さい。
次回は「シワはひし形のはなし」ということで、三浦公亮・東京大学名誉教授が考案した「ミウラ折り」などを例に、シワのでき方や形についておはなししたいと思います。それでは、次回もよろしくお願いいたします。
参考文献
書籍
「デザインの自然学-自然・芸術・建築におけるプロポーション」(ジョージ・ドーチ著、多木浩二・訳、青土社)
「黄金分割―自然と数理と芸術と―」(アルプレヒト・ボイテルスパッヒャー 、ベルンハルト・ペトリ 著、柳井 浩・訳、共立出版)
「法隆寺にひそむ白銀比 五稜郭にひそむ黄金比」(江藤邦彦・著、ベレ出版)
Profile.
大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
colobito.com