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No.006:北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 宮田研究室

No.006:北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 宮田研究室

RESEARCH 1:Magic Sheets

・研究目的

本研究では、人間の視覚特性を情報ハイディング(ある情報の中に、それとは異なる情報を埋め込む技術)に応用し、視覚復号型暗号(秘密分散法)のためのパターン生成手法を提案しました[1]。情報ハイディングというセキュリティ技術にSense of Wonderのようなエンターテインメント性を付加することで、一般の人々にも親しみやすい技術を提供することを目的としています。


・関連研究

CG分野においては、人間の視覚特性を利用した画像生成手法(Hybrid images)[2]などが提案されていますが、エンターテインメント性や芸術性を指向しているものが多く、情報ハイディングへの応用を示唆したものはThe magic lens[3]などごくわずかです。一方、視覚復号型秘密分散法としてはVisual cryptography[4]が有名ですが、これはノイズのように見える絵(シェア)を重ね合わせることで意味のある絵が表示される方法で、符号化したシェアは意味があるものには見えません。

2値画像に対する視覚復号型秘密分散法では、符号化のパターンは2×2の画素のうち、2点を黒にする6パターンの組み合わせがあります(簡略化のため下の概略図ではその一部を示しています)。既存手法では、6パターンをランダムに選択するため、ノイズのように見えるシェアになります。

▲説明のためハートマークを描いていますが、実際のシェア1とシェア2は、いずれもノイズ(砂嵐)のような絵にしか見えません。しかし白く復号される部分と黒く復号される部分で画素の割り当てがちがうため、シェア1とシェア2を重ね合わせると秘密画像(意味のある絵)が復号されます


・本手法の概要

本研究の提案手法の特長は、以下の5点です。

【1】ノイズのようなパターンだけでなく、意味のあるパターンのシェアに分割できる
【2】重ね合わせるシェアが変わると、復号される秘密画像も変わる「共通のシェア」を制作できる
【3】2つのシェアを実際に透明シートに印刷し、物理的に重ね合わせて復号できる
【4】2値画像だけでなく、グレースケール画像やカラー画像にも適用できる
【5】シェアの画質(美的品質)の最適化を行なっている

いくつかの特徴をもつ手法は既存研究の中にもありますが、全ての特徴を有するのは本研究のみです。本研究では、シェアの数に応じて可能な符号化パターンの組み合わせを全て事前計算しておきます。この計算にかかる時間は、ノートPCを使った場合であってもミリ秒程度です。次に、入力されたシェアとなる画像の各画素に対して、事前計算した組み合わせの中から制約を満たすパターンをランダムに選び、出力されるシェアに割り当てます。

さらにシェアの画質を向上させるため、ランダムに選んだパターンの代わりに、画質を向上させつつも復号結果を変えない符号化パターンを割り当てることで最適化を行います。生成パターンは、構造項とコヒーレンス項をそれぞれ計算し、その重み付け和を最小化することで最適化します。構造項は、トーンおよび構造の類似度で求めます。コヒーレンス項は、テクスチャのない領域でのノイズ平滑化を行います。

Ostromoukhovの誤差拡散法などを用いて画像をハーフトーン化することで、本研究の提案手法をグレースケール画像やカラー画像にも適用できます。下図では3つのカラー画像のシェアから2つの秘密画像を復号した結果を示していますが、本研究の提案手法は3つ以上のシェアにも対応しています。そのため、4つのシェアと1つの共通のシェアから、4つの秘密画像を復号するといった拡張も可能です。また、生成されたシェアを一般的なプリンタで透明シートに印刷し、単に重ね合わせるだけで秘密画像を復号できます。

▲本手法をカラー画像に適用し、生成されたシェアと秘密画像。上段の【A】〜【C】がシェアにあたり、中央の【B】が共通のシェアとなっています。【A】と【B】を重ね合わせることで【D】の秘密画像、【B】と【C】を重ね合わせることで【E】の秘密画像が復号されます。すなわち、共通のシェアが複数の秘密画像を復号するための「鍵」の役割を果たしています


▲【A】と【B】は、本手法を用いて生成されたシェアをプリンタで透明シートに印刷し、それを写真撮影したものです。【C】は、【A】と【B】を重ね合わせて復号された秘密画像を写真撮影したものです。この事例では、アンリ・マティスの作品2枚を重ね合わせると、秘密画像であるマティスの署名が復号されます。このように、本手法はクイズに応用することも可能です


・今後の展望

現状では、生成した画像のコントラストが低いため、これを高くする必要があると考えています。また、パターンの最適化には単純なアルゴリズムを用いているため、計算コストがかかっています。さらに、本手法は情報ハイディングへのエンターテインメント性の付加が主たる目的だったため、セキュリティ面に重点を置いていません。将来はセキュリティ面についても定量的に分析することが重要であると考えています。


・参考文献

[1]N. Kita, K. Miyata, "Magic sheets: Visual cryptography with common shares", Computational Visual Media, 4, 2, pp.185-195, 2018.
[2]A.Oliva, A. B. Torralba, and P. G. Schyns, "Hybrid images", ACM Transactions on Graphics., 25, 3, pp.527-532, 2006.
[3]Papas, M., Houit, T., Nowrouzezahrai, D., Gross, M., and Jarosz, W., "The magic lens: Refractive steganography", ACM Trans. Graph. (Proc. SIGGRAPH Asia)31, 6, 186:1-186:10., 2012.
[4]M. Noar, and A. Shamir, "Visual cryptography", Advance in Cryptology-Eurocrypt' 94, LNCS950, pp.1-12, Springer-Verlag, 1994.


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