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No.011:和歌山大学 システム工学部 視覚メディア研究室

No.011:和歌山大学 システム工学部 視覚メディア研究室

就活生に立ちはだかった大学とCG制作現場の高い壁

前述のシステム工学部が目指したのは「複数領域の分野を横断する知識を身に付け、システム的思考をもった人材の育成」であり、デザイン情報学科は「デザインと情報技術の両方のスキルをもつ」ことを目標にしていました。しかし、当時はほとんどの場合デザイナーとエンジニアの採用は独立していて、両方のスキルをもった人材の必要性は、仮に現場で認識されていたとしても、少なくとも採用の現場では考慮されませんでした。

それともうひとつ、大学の、特に理工系の学部や大学院からCG制作関連の会社に就職しようとしても、そもそもパスが見つからないという問題がありました。これはコンテンツ産業の中心から離れた地方の大学が抱える課題なのかもしれません。しかし私には、私が就職した後、デザイン情報学科の最初の卒業生が就職する2001年までの間に、大学とCG制作現場に高い壁ができてしまったように思えました。

実際、卒業生はシステムエンジニアやメーカーのデザイナーなどでの引き合いはあったものの、コンテンツ制作の領域へはほとんど送り出すことができませんでした。それでも何人かの就活生は自分でパスを探して果敢に挑戦したのですが、「デザインと技術開発の両方ができます」と言ったら「うちは開発はやってないからねぇ」とお祈りされ、次のところでは戦略を変えてデザイナー志望で行ったら「技術の人じゃないの?」とまたお祈りされた、ということも起こりました。

それでも、その後はゲーム関係を中心に、コンテンツ産業への就職は増えていきました。「テクニカルアーティスト」というキーワードを聞いたときは、「それは私たちが目指してきたものそのものじゃん」とも思いました。一方で、まだCG制作、映像制作の現場への壁は高く、わずかの人がほかの就活生とはまったく異なるスタイルで活動し、ものすごい苦労を経て、ようやくたどり着くような状況でした。私自身、2014年に大阪で開催されたボーンデジタル主催のセミナーに参加したとき、名刺交換の折に「どうして大学の先生が来てるんですか」と真顔で言われて面くらいました。だから今回この連載のお話を伺ったとき、ようやく、本当にようやく、そういうところに目が向けられるようになったと、まるで片思いが実ったかのような気持ちになりました。

基礎と演習を組み合わせ「デザインエンジニア」の育成を目指す

システム工学部は創立20周年を迎えた2015年に学科をシステム工学科1学科に統合し、それまでの5学科は「メジャー」と呼ばれる10の教育研究グループに再編されました。学生は1年次にメジャー紹介講義やメジャー体験演習を履修し、2年次に進級する際に、この中から2つのメジャー(第1メジャー、第2メジャー)を選択します。卒業研究は第1メジャーに所属する教員の指導を受けることになります。この組み合わせは任意なので、学生は自分が何をどのような構成で学ぶかを自分で設計することになります。ただし、現時点では標準的な9種類の組み合わせを「コース」として提案しています。

私がいたデザイン情報学科は「メディアデザインメジャー」と「社会情報学メジャー」に分かれ、私は現在メディアデザインメジャーに所属しています。

▲メディアデザインメジャーの教員構成。メディアデザインメジャーのスタッフはデザイン・視覚・聴覚からなる3分野の教員で構成されており、メッセージを伝達する媒体としてプロダクトをデザインする立場、それを空間に配置して評価する立場、そのユーザーインターフェイスやユーザービリティなどプロダクトと人との関わりを追求する立場、その幾何学的な構造や視覚的な表現を構成する立場、音声によるメッセージの伝達や聴覚による認識を研究する立場から、互いに連携して教育研究に取り組んでいます


メディアデザインメジャーではデザイン情報学科が目指していたものを一段深めて、デザインをメッセージの伝達を行うメディアとして捉え、デザイン・視覚・聴覚を取り扱う情報技術のスキルをもつ「デザインエンジニア」を育成することを目標に置いています。そのために、カリキュラム上でも理数系やプログラミング、デザインなどの基礎的な科目に加え、学生自身が企画から始めて何らかの制作物を完成させるまでの一連のプロセスをたどる制作系の演習を複数用意しています。また、これらの演習科目では学生同士が役割を分担して工程計画を策定するグループワークや、地元の企業との協業により地域に根差した課題に取り組むプロジェクトベースト・ラーニングの実践も行なっています。

  • ◀▲デザイン情報総合演習の学生作品。【上左】GPSを用いた位置ベース鬼ごっこの『追儺』/【上右】砂漠緑化がテーマの農場系シリアスゲーム『MISSION OF GREEN』/【下】プレイフルパレットで色のつくり方を学ぶ『くりおねいろ』。いずれも最終プレゼン資料の表紙


▲デザイン情報総合演習の前身である、メディアデザイン演習の最終プレゼンの様子。本演習の評価では、作品の内容や技術レベルに加え、最終プレゼンでどのくらい教員やほかの学生にアピールできたかという点も重視されます

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