建築家としての知識と経験に裏打ちされた緻密な構図設計〜画づくりの達人 by iiyama SENSE ∞ vol.4 Motionist
著名アーティストの作品制作を通して、画づくり全体の設計から完成にいたる考え方やテクニックを紹介する短期集中連載企画「画づくりの達人」。第4回は建築家であり映像作家でもあるMotionist氏に、建築の知識に裏打ちされた緻密な画づくりの過程を紹介してもらった。
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今回の達人
Motionist
東京の映像作家/建築家/デザイナー。一級建築士。国内設計事務所にて建築及びインテリアの設計デザインに従事。国内、海外での実績・受賞歴・メディア掲載多数。独立後は建築やインテリアのみならず、映像やグラフィックなどデザインの領域を拡大。現在は3DCGにおけるフォトリアルでアンリアルな表現を追求する映像作家としても活動中。
Twitter:@motionist_ae
Instagram:@motionist_ae
「Permanature」
設計:「生き続ける自然」をテーマに、自然物と人工物のバランスを探る
1.コンセプト思案
今回は「無限を意味する∞(インフィニティマーク)を取り入れたCG作品」というお題が用意されていました。「∞」に通じるようなテーマを模索した末、「現実世界から切り離され、CGの世界で生き続ける自然」を表現したいと考えました。
自然のCGといえば、山脈や荒野、大海原など壮大な風景が思い浮かびます。実際、そのような自然をモチーフにした作品はよく目にしますし、自分も過去にいくつか創作したことがあります。
ですが今回は、そのような壮大なスケールの自然ではなく、道端に咲いている小さな花や雑草、転がっている小石のような「身近な自然」にフォーカスして作品を構成してみます。
2.作品の構成と目指した画
作品の構成としては、ボックス型のガラスや金属などの人工物をたくさん積層させて、そこに花や草、石などの自然物を散りばめたような形にしました。
花や草などの自然物はディテールが細かいので、ボックス型の人工物は配色も形状も素材もプレーンにすることで、自然物と人工物の対比を強めています。
自然物と人工物は対比させつつも、それらを馴染ませるように配置していくことで、シーン全体に一体感が生まれます。
インテリアの一角にあるオブジェのような、小さな建築物のような、華道や盆栽の侘び寂びに通じるもののような、あるいは西洋の墓石のような。余白のある画づくりを目指しました。
3.配置のルール/アイデアの検証
ボックスの配置は完全に感覚で行なっていますが、ひとつだけルールを設けています。
「列は守りつつ、行を崩す」というルールです。均一的になりすぎないように列も若干崩しています。
ルールなし、完全フリーで配置していくのも面白いですが、今回はある程度のまとまり感を出したかったので配列に規則性を与えてみました。
このルールを基にして、配置のスタディをくり返します。
この過程で、配置とはまた別のアイデアがたくさん浮かび上がってきます。
例えば「ボックスは今の範囲よりもっと拡張した方が迫力出るかも……」「ガラスのボックスは透明よりもグレーガラスの方が締まるかも……」「背景の壁面にも反射素材があった方が奥行きがもっと出るかも……」のような改善案です。
これらの案をひとつひとつ検証していきます。検証して良い結果が得られた場合のみ採用していきます。
このようなながれで「配置の調整」と「アイデアの検証」を同時に行なって、少しずつブラッシュアップしていきます。
4.構図で意識していること
今回の作品に限らない話ですが、構図に関しては「交点のバランス」を意識しながら(実際には無意識)、配置の良し悪しを判断しています。
交点とはオブジェクト同士の物理的な交点ではなく、定点カメラのアングルから見た時の視覚的な意味での交点です。
前後のオブジェクトの端部と端部が不自然にピッタリと交わっていたり、妙に目立つ交わり方をしていたり、気付くか気付かないかレベルで中途半端に交わっていたり、といった“意図していない交点”を減らしていきます。
例えば上のように、意図せずピッタリと重なってしまった交点を少しズラしてバランスを整えていきます。
この操作によって、見る人の視線をある程度コントロールできたり、画の中に存在する点や線が綺麗に生きてきたり、画全体の密度や立体感が増してきたり、といった効果があるように思います。
5.最終アングルを意識する
作業用のビューポートで360°色んな方向から細かくチェックしながら諸々の作業を行いますが、同時に最終的なカメラアングルからの見え方も強く意識しています。
カメラアングルは早い段階からとりあえず仮で固定しておいて、そのカメラから見える画を常にチェックしながら調整を行うようにしています。
制作:完成形まで緻密な調整をくり返す
1.モデリングとアセット
ここまで構成や構図についてお話ししてきましたが、ここからは少し具体的なCGのつくり方についてお話しします。
CGソフトはCinema 4D、レンダラはRedshiftを使って制作していますが、他のCGソフトにも共通する内容になっています。
床や壁、ボックスなどシンプルな形状のオブジェクトはCinema 4Dでモデリングをしています。植物や石などはQuixelのアセットを使っています。
Quixelのアセットはそのままでも綺麗ですが、色相や彩度、明度、凹凸や反射の加減などをノードで細かく調整します。
まったく同じアセットでも配置する場所によって見え方が異なるので、違和感がある場合はマテリアルをオブジェクトごとに複製して微調整していきます。
2.ライティング
ライティングは基本的な三点照明(Keyライト、Fillライト、Backライト)をベースにしています。今回はそこに大きなエリアライトを1つ追加して、大きな樹木越しに配置しました。
このエリアライトが木漏れ日のような陰影を生み出してくれるので、画の質感がとても柔らかくなり、立体感も生まれます。
3.マテリアル
今回採用しているマテリアルは、グレーガラスやゴールド、大理石、水、白壁など、シンプルなものが多いですが、僅かな凹凸やテクスチャ、ニュアンス程度のimperfections(傷や汚れなど)を加えています。
例えば、ガラスのinperfections は下の画像の黒い部分のように設定していて、拡大しても見えるか見えないかの程度の微細な汚れをマテリアルに付加しています。
基本パラメータである反射率や屈折率などの数値はとても大事なので、最後まで調整を重ねます。
4.レンダリング
ある程度、画の完成形が見えてきた段階からは、モデリング/ライティング/マテリアル等を少し変更するたびにレンダリングしてチェックを行い、ひとつひとつFIXさせていきます。
レンダリング結果は、Redshiftのスナップショット機能を使ってBeforeとAfterをじっくり比較します。
5.コンポジット
最後はAfter Effectsでコンポジットを行いますが、今回はカラコレや光の反射加減など最低限の合成しか行いませんでした。
ポストエフェクトもコンポジットもなしの状態で綺麗なCGが完成していることが基本的には理想だと思うので、レンダリング時点で大体の調整を完了させています(作品によってはコンポジットに時間をかけます)。
機材検証:iiyama SENSE ∞(インフィニティ) の実力は?
作品制作に用いたPC
SENSE-F069-LC129K-VBX-CMG [CG MOVIE GARAGE]
- 価格
372,700 円~(税込)
- OS
Windows 10 Home 64bit[DSP版]
- CPU
Intel Core i9-12900K プロセッサー
- チップセット
Intel Z690
- メインメモリ
DDR4-3200 DIMM (PC4-25600)32GB(16GB×2)
- ストレージ
1TB NVMe対応 M.2 SSD
- 光学ドライブ
非搭載
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 3080 12GB GDDR6X
- ケース
ミドルタワーATXケース MasterCase MC500
- 電源
800W 80PLUS GOLD認証 ATX電源
- URL
https://www.pc-koubou.jp/products/detail.php?product_id=907512
※紹介機材の構成は最新モデルの構成です。検証当時の構成とは異なります。
Motionist氏が普段制作に使用しているPC
- OS
Windows 10 Home
- CPU
AMD Ryzen 9 5950X
- メモリ
128GB
- GPU
GeForce RTX 3090
- ストレージ
3TB
GPUのちがいによる操作感とレンダリング時間の比較
自分が普段使っているPCのグラフィックボードはRTX 3090ですが、RTX 3080の操作感は以前から気になっていたので、今回はその検証ができるとても良い機会でした。
まず、Cinema 4D単体での操作感については差をまったく感じられませんでした。ジェネレータやエフェクタなど基本操作をひと通り試してみましたが、かなり快適に操作できました。
続いて、レンダリング時間を比較してみました。今回制作したCGの静止画4カットそれぞれの結果です。
レンダリングするシーンに依りますが、RTX 3080とRTX 3090のレンダリング時間には大体1.2~1.3倍の差があると思います。自分のPCと検証PCも大体それくらいの差が出た結果となりました(もちろんグラフィックボード以外の影響も色々あると思います)。
カットDのみレンダリング時間に大きな差が出ました。明確な要因はわかりませんがGPUメモリの差かもしれません。
また自分の場合、常にRedshiftのレンダリングプレビューをON、かつプログレッシブモードを常時ONにして作業することが多いのですが、自分のPCはプレビューの反映までに4秒かかる一方で、今回の検証PCは1~2秒でサクサク反映される、というちがいがありました。
さらに、Redshiftのプログレッシブモードを常にONした状態でCinema 4Dを操作しているとき、検証PCはサクサクとスムーズに動きますが、自分のPCではカクカクとかなりスローになるのでプログレッシブモードを時々解除する必要が出てくるという操作感のちがいもありました。こちらはおそらくOS周りの問題と思われますが、個人的にプレビュー画面のレスポンス速度はかなり重要視しているので一応書かせていただきました。
検証内容は以上です。レンダリング時間以外に特に大きな差を感じなかったので、レンダリング時間の短縮をそこまで求めていないという人にとってはコスパの良いPCだと思いました。
最後に
今回は「画づくりの達人」というとても恐れ多い企画でしたが、「∞」をテーマに自由に楽しく作品をつくらせていただきました。
作品のメイキングというよりも自分が普段CGを作る上で考えていることを紹介するような記事になってしまいましたが、読んでいただいた方に何かひとつでもヒントがあれば嬉しいです。
Motionist
東京の映像作家/建築家/デザイナー。一級建築士。国内設計事務所にて建築及びインテリアの設計デザインに従事。国内、海外での実績・受賞歴・メディア掲載多数。独立後は建築やインテリアのみならず、映像やグラフィックなどデザインの領域を拡大。現在は3DCGにおけるフォトリアルでアンリアルな表現を追求する映像作家としても活動中。
Twitter:@motionist_ae
Instagram:@motionist_ae
TEXT_Motionist
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)