5月27日(金)と28日(土)の2日間にわたって、CGWORLD主催のオンラインイベント「CGWORLD JAM ONLINE 2022」が開催された。初日に開催された「カワイイで世界へ! ココネが『ポケピア』で実現した「カワイイ3Dデザイン」の作り方」では、1億3千万人以上のユーザーが楽しんでいるカワイイ着せ替えコミュニティアプリ『ポケコロ』を手がけたココネ株式会社が登壇。
今年リリースされた3D着せ替えアプリ『ポケピア』を例に、ポケピア事業部3Dチームモデラー深津行規氏による、カワイイ世界を実現するために実制作時に用いられたモデリングや2Dデザイナーとの連携、Unityでの作業についての講演が行われた。
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イベント概要
「CGWORLD JAM ONLINE 2022」
日時:5月27日(金)17:00〜22:00/5月28日(土)11:00〜19:00
会場:オンライン配信
主催:CGWORLD、株式会社ボーンデジタル
cgworld.jp/special/jam/vol4/
『ポケピア』は本当の自分になれる世界
『ポケピア』は、2011年にリリースされたスマートフォン用のキャラクター着せ替えアプリ『ポケコロ』を、10周年を機に3D化した新作アプリだ。「もうひとつの自分の世界で好きな服で、好きな人と、好きな話ができる、わたしたちのユートピア」をキャッチフレーズに3Dの世界を展開しているが、いわゆるゲームアプリのような、パラメータをもってゲームを優位に進めるといったものではなく、コミュニケーションを楽しむことに重きを置いている。
CCP(Character Coordinating Play)と呼ばれるキャラクターの衣装をコーディネートして楽しむシステムをベースに、メタバースの仮想世界に本当の自分になれるもうひとつの世界が展開する。自分の星に最大5人の友だちを呼んでパーティを楽しみ、アプリ内で写真を撮ったり、アプリ内の掲示板や外部SNSでシェアしたりできるという。
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“カワイイ”を追求するCG制作テクニック
続いて、『ポケピア』における「星」についての解説がなされた。「星」はユーザー固有のいわゆるマイルームに相当する機能であり、家具などのアイテムを自由に配置してコーディネートを楽しむことができる。
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このような多種多様な「カワイイ」を実現するために、CG制作において駆使されている多くのテクニックが解説されたので、以下に挙げていこう。
ポリゴンモデルの密度を上げてなめらかさを表現
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ココネが開発するアプリでは、アイテムにゲームプレイが有利になるようなパラメータが一切存在せず、見た目がそのアイテムの価値の全てとなる。そのため、ある程度の負荷は織り込み済みで、基本的に家具やアイテムはポリゴンの密度を上げてなめらかで柔らかい仕上がりなるようモデリングしている。一部のアイテムではハイモデルのディテールをノーマルマップに落とし込み、ローポリモデルに適用するといった工夫も行われている。
質感表現
質感設定はアルベド(ベースカラー)、ノーマル、RGBAのマスク、かげ色マップ(後述)の4種類を使ったPBRが採用されている。開発環境のMayaでは、アプリと同じ見た目で作業ができるようにShaderFXでオリジナルのシェーダを構築しているとのこと。
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さらに画面が暗くならないように、アンビエントオクルージョンに色を指定するための「かげ色マップ」を用意し、明るい印象のまま立体感を出している。
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毛の表現
毛の表現は、現状はスマホでファーのシェーダを使うと処理が重くなるため、レガシーなビルボード的処理を採用している。ファーシェーダについても社内でR&Dを進めており、今後はシェーダでの表現にも対応していきたいとのことだ。
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UVアニメーションのエクスポート
UVアニメーションは、ロケータの位置情報にUVの値を代入してUnityに送ることで、Mayaからボタンひとつでエクスポートできるシステムを構築。また、Unity上でマテリアル、サムネイル、テクスチャ、アニメの設定を自動に施され、データのチェックも行なってくれる。
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アイテム固有の影モデル
さらに、リアルタイムシャドウを使用すると、星の下にあるアイテムに影が落ち暗くなってしまうため、リアルタイムシャドウをなくしアイテムごとに固有の影モデルを用意。アイテムの影テクスチャをモデルに貼り、その影モデルをUnity上で乗算モードによって床にデカールすることで、リアルタイムシャドウなしでも存在感を担保している。
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インテリアの自由配置
『ポケピア』では、インテリアの配置はグリッドに沿う方法ではなく、自由配置にしている。初期にはグリッド配置を採用していたが、窮屈で世界観に合わないと判断。自由配置はめり込みが出てしまうが、それも含めてユーザーは楽しんでいるという。
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星の制作に活用された便利な機能・ツール
物理演算を利用したモデリング
続いて、星の制作時に活用された便利な機能やツールが紹介された。物理演算の活用例としては、大量の宝石のモデリングやクッションの形状調整が挙げられた。宝石はMASHのDynamicsを利用して1つのモデルを複数コピーしランダムに大きさを変更することで表現しており、クッションはnClothで気圧を制御して膨らませた状態を確認してからリトポロジすることでふっくらとした形状を表現している。
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さらにユニークな取り組みとして、Photoshopの3D機能を使い、3D画像からモデルを作成している。2Dデザイナーが描いたデザイン画を基にアルファ画像を用意してPhotoshopで立体化し、OBJ形式でMayaに持ち込みリトポロジーするというながれだ。他の3Dソフトウェアにもこういった機能は搭載されているが、Photoshopが圧倒的に処理が速く、綺麗なモデルができると深津氏は語る。
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UDIMによる一括テクスチャリング
星は1つのテーマあたり16個のインテリアアイテムで構成されている。これらのアイテムを1個1個つくるのは非常にコストがかかるため、テーマごとにまとめてテクスチャリングを行なっている。
Mayaで作成した16個のモデルのUVを4×4マスに収まるよう配置し、Substance PainterでUDIMとして読み込む。ここから前述の1アイテムあたり4種類のテクスチャのうち、アルベド(ベースカラー)とノーマル、マスクマップの3種類を16アイテム分一度に作成することができる。
さらに、事前にMaya上でモデルに対して完成形に近いマテリアルカラーを適用しておくことで、Substance Painter上でのIDマップをそのままベースカラーのテクスチャとして使用でき、大幅に制作コストを抑えることに成功している。
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デザインそのものに価値がある「ココネユニバース」の構築を目指す
講演の最後には、「これからカタチにしていく未来のお話」として将来の展望が語られた。
ココネはNFTマーケットの運営実績もあり、今後は独自のメタバース世界「ココネユニバース」を構築していくという。例えば、ガチャでダブったアイテムは、今はそのまま保有するか交換するのいずれかになるが、NFTの導入により、過去に手に入れたアイテムの価値が上がり、将来高いレートで売れることも予想される。
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サービス内でユーザーがつくったアイテムを他のユーザーに提供することでロイヤリティが発生し、メタバース内での創作活動が盛んになっていく未来を考えているという。受けるだけのサービスではなく、ユーザーがクリエイティブできる環境を目指しているとのことだ。
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アプリを有利に進めるためのパラメータのない世界観だからこそ、デザインされた商品そのものに価値があり、それぞれのブランドを多くの人たちに届けることのできるメタバースにしたいという。「ココネユニバースは、デザイナー天国ともいえる世界。ハードルは高いですが、目指していきたいですね」(深津氏)。
単なるゲームアプリではなく、ユーザーがクリエイターとして自由に楽しめる世界。つくることと遊ぶことが一体化しシームレスにつながるココネの描く未来は、CGクリエイターとしても胸が躍るものだった。大いに期待したい。
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最後になるが、ココネは「カワイイ」をカタチにする新しい仲間を募集中とのことだ。男女比は3:7と女性が多いが、男性もぜひ応募してほしいとのこと。元々2D主体の会社だったので、今後はさらに3Dデザイナーの育成に力を入れていきたいという。
スタッフはねんどろいどの原型師や、VRChatでのアセット販売経験をもつ人など、経歴も様々。興味がある方は、同社HPから応募してほしいとのことだ。
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TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada