CGWORLD vol.311(2024年7月号)掲載の特集「とことん深掘り! アニメの3Dレイアウト」では、アニメのレイアウト(以下、LO)工程における多彩な3DCGの活用事例を、現役のLOアーティストでもある若杉編集長が全54ページにわたって深掘りした。以降では、『進撃の巨人』 The Final Season 完結編(以下、『進撃の巨人』)における、MAPPAの3DLOの仕事を取材したPART 01(12ページ)の一部を抜粋・再編集してお届けする。

記事の目次

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    『進撃の巨人』 The Final Season 完結編

    放送日: 完結編(前編)2023年3月3日、完結編(後編)2023年11月4日
    原作:諫山 創(別冊少年マガジン/講談社)
    監督:林 祐一郎
    シリーズ構成:瀬古浩司
    制作:MAPPA
    shingeki.tv/final
    ©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会

    3D背動カットでは、アニメーターが背景のルックも調整

    奥納 基さん(以下、奥納):3D先行LOの3つめのパターンは3D背動カットの制作で、特に作業負荷が高いです。例えば金子に担当してもらった第88話の終尾の巨人カットは、カメラが大きく回り込んでいたので背景を美術のカメラマップで表現しています。このようなカットでは、絵コンテを基にアニメーターが3DLOを制作し、カメラワークが確定した後に原図をつくって美術素材を発注しています。


    金子拓磨さん(以下、金子):このカットはカメラワークを付けるのが難しかったですね。

    [3D先行LO]第88話、終尾の巨人カットの3D背動制作

    ▲【左】空のグリッドと、土煙や空に立ち上る蒸気の仮モデルのみ表示した、美術用の参考映像/【右】完成映像。終尾の巨人の左脚外側面から始まり、周辺の壁の巨人を映しつつ、左脚背面へとカメラが回り込む15秒のカットで、背景は美術のカメラマップで表現された
    ▲空に立ち上る蒸気のカメラマップ原図。3枚のBOOKに分かれており、美術を貼り付けるグリッド柄の板ポリゴンと、蒸気のおおまかな形を表す仮モデルが描画されている
    ▲原図を基にした美術素材

    若杉 遼(以下、若杉):土煙や蒸気の具合でかなり見え方が変わるカットだと思いますが、どうやって美術とイメージを共有したのでしょうか?


    金子:カメラワークが決まった後で、シーン内に土煙や蒸気の仮モデルを配置した参考映像をつくり、原図とセットでお送りすることでイメージの共有を図りました。美術の発注後に素材が足りないことに気づくといった事故を防ぐ目的もあって、参考映像も事前につくるようにしています。


    奥納:特定のカットが先行した結果、前後のカットとの間で土煙などの密度感や配置に差が出てしまうこともありました。そういう場合は美術素材が上がってきた後に、アニメーターの方で見え方を調整し、シーン全体の雰囲気を合わせています。


    金子:第91話以降は終尾の巨人の骨格の上で戦うカットが連続していたので、ほかのカット用の骨の美術素材を流用したり、汎用素材を加工したりして、画を仕上げる場合もありました。


    奥納:空、地面、終尾の巨人の骨などの美術は頻繁に使うことがわかっていたので、最初に汎用素材を発注しておきました。おかげで専用素材を一切発注することなく、3D背動をつくれたカットも多くありました。臨機応変な画づくりができるという利点があったものの、汎用素材を貼り付けただけでは浮いてしまうので、調整に苦労するケースもあったと思います。


    淡輪雄介さん(以下、淡輪):当社では3Dでのカット制作を工程ごとに分業しておらず、LOから、プライマリ、セカンダリ、最終的な3D素材とAfter Effects(以下、AE)データの納品までをひとりのアニメーターが担当します。ですので3D背動カットでは、アニメーターの方で背景のルック調整まで行います。

    何を良しとするかは人によってちがうので、最初にそれを探る

    奥納:大半のカットは草薙さんが制作した背景モデルに美術素材を貼り付けることで対応できたので、イチから背景をつくったカットはほぼありませんでした。第93話のエレン超大型Ver.と超大型アルミン巨人の戦闘カットでも3D背動を使っており、草薙さんの方で用意されていたLO用背景モデルを使用させていただきました。


    金子:林監督の絵コンテがフルパワーだったこともあって、このカットは5人がかりくらいの総力戦でつくりました。私はエレン超大型Ver.の髪を担当していて、ほつれた髪を一部描き足しましたが、それ以外の要素は全部3Dで表現しています。

    [3D先行LO]第93話、エレン超大型Ver.&超大型アルミン巨人戦闘カットの3D背動制作

    ▲林監督による絵コンテ。殴り合うエレン超大型Ver.と超大型アルミン巨人の周囲をカメラが1周する12秒のカットで、背景は美術のカメラマップで表現した
    ▲美術用の参考映像。美術を貼り付ける岩にはグリッド柄を適用し、中心からの距離に応じてピンク→オレンジ→青の順番に色分けした
    ▲完成映像。煙エフェクトは3DLOを基に作画で表現している
    ▲2体の3Dの巨人の間に、アニメーターが煙の作画素材を挟み込んでいる
    ▲エレン超大型Ver.の長い髪、損傷した超大型アルミン巨人の頭部、火の粉なども含め、煙エフェクト以外の要素は3Dで表現した
    ▲生き残ったマーレ兵やエルディア人が立てこもるスラトア要塞と、その周辺の岩のカメラマップ原図。【上】は2枚、【下】は5枚のBOOKに分かれている
    ▲原図を基にした美術素材

    若杉:周辺の岩の位置などを、カットごとの見映え優先で調整することはありましたか?


    奥納:設定の都合で動かせない場合や、前後のカットとのつながりに支障が出る場合以外は、見映え優先で調整しています。実際のところ、何を優先するかは各作品の監督や、各話の演出によってバラバラで、見映えを優先する人もいれば、整合性を優先する人もいます。


    淡輪:「設定とはちがうけど、このタイミングで画面に入ってきた方が気持ち良い」と思う人もいれば、「辻褄が合っている方が、綺麗に見えて気持ち良い」と思う人もいて、何を良しとするかは人によってちがうので、最初にそれを探っておく必要があります。


    奥納:特に終尾の巨人の骨格の上で戦うシーンでは、骨同士の距離やスケール感をカットごとにかなり変更しています。


    金子:そうじゃないと骨と骨の狭い隙間で戦わなければいけないので、画にならないんです(笑)。だから最初から調整することを想定して、キャラクターとしての終尾の巨人の3Dモデルとは別に、背景用の3Dモデルも協力会社さんと一緒に制作しました。後者のモデルでは、キャラクターたちが駆け上がる突起状の骨の大きさなどを変えられるリグを設定していただいたのですが、それだけで画をつくるのは難しかったので、アニメーターがモデルの形自体を変える場合もありました。


    奥納:用意された3Dモデルや美術素材をそのまま使うだけでは作画や美術の絵に迫れず、「うーん、3Dだな......」という感じが色濃く出てしまったので、本作ではそうならないための挑戦に力を入れていました。

    本記事の続きは、月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.311(2024年7月号)にてご覧いただけます。

    ©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会

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    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.311(2024年7月号)

    特集:とことん深掘り! アニメの3Dレイアウト
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年6月10日

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    INTERVIEWER_若杉 遼/Ryo Wakasugi(CGWORLD)
    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_遠藤大礎/Hiroki Endo