2016年1月19日(火)にTooの福岡支店がリニューアル、それを記念して同社が継続して実施している「アニメーションワークフローセミナー」の第15弾「日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング - スタジオカラー デジタル部がひもとくCGによるアニメ制作の可能性」が開催された。スタジオカラー デジタル部の中核スタッフが登壇した本セミナーの模様をお届けする。

TEXT & PHOTO_真狩祐志 / Yushi Makari



<1>『DAICON Ⅳ』を21世紀によみがえらせる

Too福岡支店のリニューアルを記念し、2016年1月20日(水)から26日(火)にわたって数々のセミナーやイベントが開催された。21日(木)には スタジオカラー デジタル部から監督の小林浩康氏、アートディレクション・キャラクターデザイナーのコヤマシゲト氏、CGI作画監督の松井祐亮氏、スペシャルエフェクトアニメーターの仲眞良一氏が来福した。

4名が来福したのは「日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』」メイキング講演のため。冒頭、見本市の初期企画段階では『メタルアーマーVSビキニアーマー』というタイトルであったことが監督である小林浩康氏から明かされた。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

左から小林浩康氏、コヤマシゲト氏

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

左から松井祐亮氏、仲眞良一氏

小林氏は「80年代に『夢幻戦士ヴァリス』というゲームがあったのですが、そのCMの監督を見本市の企画立案者である、庵野(秀明)さんがやっていたんですよ。それでビキニアーマーとかDAICON FILMとか、あの時代のアニメの印象を、僕らが3DCGで引き継ごうという企画だったんです」と話す。
しかし「さすがにまんまやるのは版権的にもNGなので、とどんどんオリジナルテイストが増えていった感じですね」とのこと。作品タイトルも頭文字が「C」と「G」になるように「カセットガール」にしたそうで、「最初は3DCGの様々な会社のアニメーターに声をかけ『今3DCGこんなになってます』という見本市の中の企画だったんです。最終的にはだいぶバカアニメになってしまいましたけどね(笑)」と企画当初のエピソードも明かされた。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

DAICON仕様(中)とスーツ仕様(右)。左端は、仮でモデリングを始めたものの検討稿。通常であれば、デザインが上がってからモデリングに入っていくのだが、作業期間短縮のためラフが上がった段階でモデリングに入り、モデリングが上がり次第作画で修正し、最終的に決定稿が出るという方法だったという

続いてコヤマシゲト氏は、「そもそも『DAICON IV』はビキニアーマーじゃないですし、ルックスは企画の根本的な意図に沿うべきだと思ったので、泣く泣くビキニを削って(笑)、バニーガール方向に変えました。と同時に、3D上でモデリングを詰めながら、そこにこちらから修正指示を入れていきつつ、細かなディティールなどを固めていって、その後にデザインの決定稿を作る、という順番で作業しました」と語った。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

ZBrushによるスカルプトで全体的なシルエットやプロポーションが詰められた

また松井氏はどのようにデザインから3DCG作業に入っていったかという過程について「まずZBrushを使って全体のシルエットを掴んで1回確認してもらい、Autodesk 3ds Maxで本作業に入ります。大体この段階では顔とかが似てないんですよ全然」と、80年代っぽくしなければならないのに、前髪のボリュームが全然足りなかったなど、検討段階においてモデルで試行錯誤した様子を話した。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

最終的なFIXモデル

さらに松井氏は、「モデルを一度完成させたらFIXということではなく、あくまでもレイアウト用としてアニメーターが作業に入ります。体はバランスがいいんですけど、まだ顔とか細かいパーツが似ていません」と解説。
メッシュに関してはさほど特殊ではなく、バランス良く隙間が開いてるのが重要だという。セルアニメ系のキャラクターの顔に関しては、モデリングである程度似せることは可能だが、アングルによって破綻していくので、アニメーターがカットごとに顔を変えているとのこと。
「アニメCGで難しいのは、作画アニメのような"嘘"(誇張)をつけないので、無理やり嘘をつかせるところですかね。それは後ほど説明します」(松井氏)。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福 アンノ・ユーリ隊員(カセットガール変身前)

主人公のアンノ・ユーリに関しては、『ウルトラセブン』に登場するウルトラ警備隊の制服をモチーフにしようとなったそうだが「舞台設定的に、ユーリがカセットガールに変身すると画面の雰囲気も80〜90年代にかけてのOVA的なものに変わる予定でした。そこで、変身する前はデザイン的にも現代的であるべきなので、今っぽいボディーにフィットした、縫い目も極力排除したスーツにしました。裸の人物みたいなデザインって作画だとデッサンのごまかしが効かないため厳しいデザインなんですよね。今回は、CGでどこまで再現できるかっていうのを見たかったという裏テーマが自分の中にあったのですが、デジタル部の皆さん優秀だったのでわりと安心してアイデアを盛り込めました」(コヤマ氏)。
実写と比べると素材感の表現ができず、いかに平面的なデザインにするかがキモになってくる。「故にハイテクなものはアニメとの親和性が高いんです」(コヤマ氏)と語り、画面映えするデザインを目指したとのこと。

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メカモデル制作の工程にも触れた。「サンドロですがボックスと円柱で1回バランスを取りました。ラフなんですけどサイズはこんなもんかなと。これに対してモデラーさんに頑張ってもらうと」(松井氏)

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<2>カラー流のアニメCG技法とは

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<2>カラー流のアニメCG技法とは

セミナーの後半は先の「CGに嘘をつかせる」話や爆発による煙などのエフェクトについて語られた。エフェクトは80年代の作画を再現するためハイディテールにし過ぎない、CGで汎用的な素材が仕上がれば別のプロジェクトに利用できる可能性がある、といった理由から極力2Dで描かないことが念頭に置かれた。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

ヘルパーやコントローラーなどは全身で計5,000にも達したという

「今回はやっぱりリグにこだわりたくてですね。何故かと言うと、本作で画コンテを担当した摩砂雪さんはとにかく誇張表現が激しいんです。それを解決するためには、制限なく自由に動かしたいってのがアニメーターの要望としてあるんですが、かといって仕込みすぎて重くなるのは嫌だったのでリガーには『回転補正をかけたりとか、セットアップで混み入った制御とかは要らない、FKだけでもいいよ』と、伝えました」(松井氏)。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

「見なければよかったって感じですね(笑)」(コヤマ氏)

さらに「形を変えたいとなったときにどうしてるかというと、こちら(上図の左側UI)がカメラアングルなんですけど、別アングルで見ると体を伸ばしてたりするんです。こうしないとキャラクターが潰れて見えなくなっちゃうんですよ」と松井氏は続ける。ほしい画を成立させるため、どうしても嘘をつかなければならず、そのためのリグが必要になってくるわけだ。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

9の「口に出す!」は説明の際に効果音などで勢いのニュアンスを伝えるねらい

また松井氏は、注意した点としていきなりモデルにパースつけて嘘をつくのはなるべく控えたと語る。「何でもかんでも嘘をついてしまうと、全部パースが崩れてワケのわからない画になっちゃうんです。カメラでいかにそのレイアウトをとれるかやった後に、どうしてもそうしなければならない時にしたらいいかなと」(松井氏)。
さらに、黄金比を意識し科学的に構図を分析したり、ポーズにおける「肩、腕と腰」を意識する重要性、真似てみることから得られる新しい発見の大事さなど、松井氏がアニメーション制作において日頃から留意しているポイントが語られた。

仲眞良一氏は煙の形状について次のように話した。「この形状の煙はディスプレイスでモコモコさせた球体を組み合わせて作っていますが、球体の溝の影を表現するためにポリゴンを配置しています。ライティングしてみると右のようにCGっぽくなるので、ここに影のない球体や溝が集まったところの影を作りました。ライティングを調節せずに左のように絵が出るといいなと思います」。

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(左)ビデオ屋の爆発の煙/(右)メディアポリスの爆発の煙など

仲眞氏によると、動きもパーティクルで作ると楽に思えるが、手で動かした方が自分の思い通りの動きになるとのこと。爆発も同じものを使用して、炎・煙・影の部分を幾つも並べて合成し、だんだん大きくしながら炎の部分を包み込んでいったそうだ。

セミナーの最後には、変身後にアスペクト比が4:3になった際に下部に出るアナログビデオテープ特有のスイッチングノイズや画質の劣化などが紹介された。

日本アニメ(ーター)見本市 第35話『カセットガール』メイキング、カラー デジタル部の中核スタッフが来福

「スイッチングノイズは様々なパターンを作って、監督に選んでもらいました」(松井氏)

そして、松井氏がAfter Effectsを使用した「劣化感」を出すためのエフェクトに関して「元の画像を縮小したものを、拡大することで劣化させます。それから同じものを複製してから下に置いて、縦に縮めてノイズを加えるとさらに劣化感が出ます。そしてR、G、Bの色味を1枚づつ作って微妙にズラすと、左が黄色っぽく、右が青っぽくなるという感じです」と簡単に紹介し、本セミナーは幕を閉じた。