8月30日(水)から9月1日(金)の3日間にわたり、パシフィコ横浜で日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC 2017」(コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2017)が開催された。本稿ではビジュアル・アーツ系のセッション「アクションゲーム・アニメーションの極意!―制作環境とこだわりについて―」の内容をレポートする。

※本記事内の画像および動画は、講演者様の許可を得て掲載しております

TEXT & PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD) 、山田桃子 / Momoko Yamada

<1>アクションゲームにおけるアニメーションの重要性

『ベヨネッタ』『VANQUISH ヴァンキッシュ』など、最先端のビジュアルと爽快感あふれるアクションで知られるプラチナゲームズカプコン第4開発室に源流をたどれる、老舗ゲームスタジオだ。そこには個々のアーティストに蓄えられてきた、キャラクターアニメーションの制作ノウハウと、そのモチベーションを最大限に引き出す開発環境がある。同社でリードアーティストをつとめる山口孝明氏は8月30日(水)、2014年にWii U向けに発売された『ベヨネッタ2』を例に挙げつつ、概要を解説した。

ジェットコースターからホラー映画、はたまた恋愛小説からポピュラー音楽まで、あらゆるエンターテインメントに共通して見られる要素が「緊張と解放」だ。その中でもアクションゲームでは、このサイクルが「敵キャラクターとの戦闘」を通して、非常に短い単位でくり返される......。2000年にカプコンに入社し、プラチナゲームズにも立ち上げから参加。アーティストとして長年アクションゲームの開発にたずさわってきた山口氏は、このように切り出した。


アクションゲームではアニメーションの完成度がクオリティを左右する

この「緊張と解放」のサイクルをつくり出す上で、特に3Dアクションゲームで重要な役割を果たすのが、敵キャラクターのアニメーションだ。アクションゲームにおいて緊張と緩和は、敵キャラクターの攻撃アニメーションを視認し、回避し、隙をついて攻撃するというくり返しで生み出されるからだ。つまり敵キャラクターのアニメーションは、ゲームデザインと密接に結びついている。そのうえで見た目に派手なだけでなく、総合的な遊びやすさが求められる。

山口氏は「他社との協業でシミュレーションゲームの開発に参加する機会があり、開発環境の重要性について再認識した」と明かした。シミュレーションゲームではユニットのパラメータ調整がゲームバランスや遊びやすさに直結する。そのため、そのプロジェクトでも大量のパラメータが手軽に調整できるしくみが導入されていたという。ひるがえってアクションゲームにも、同様の配慮が必要なのではないか......。こうした経験が本講演につながっていったと山口氏はふり返った。

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<2>プラチナゲームズ流の開発体制

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<2>プラチナゲームズ流の開発体制

それでは『ベヨネッタ2』の開発に貢献した要素は何だったか。山口氏は大きく「ゲームデザイナーが介在せず、アーティストとプログラマーが直接アイデアを出し合いながらモーションをつけていく制作体制」、「制作したキャラクターアニメーションを実機上ですぐに再生し、テストプレイできる開発環境」を挙げた。

一般的なアクションゲームでは、敵キャラクター(ここでは仮に中ボスクラスとする)のコンセプトが決定すると、ゲームデザイナーが中心となって具体的なアクションや攻撃方法などを考案し、仕様書を作成する。アーティストはこの仕様書を基にキャラクターモデルやモーションを作成する。プログラマーはそのデータをゲームプログラムに組み込み、実行可能なかたちにする。最後にゲームデザイナーがテストプレイをして、意図通りの内容になっているか確認する。このくり返しで制作が進んでいく。

ところが山口氏は、プラチナゲームズでは(特に中ボスクラスでは)ゲームデザイナーが介在せず、アニメーターとプログラマーがペアを組み、直接アニメーションをつけていくやり方が一般的だと述べた。自分たちが決めたという当事者意識をもつことができ、データやプログラムを直接触れるので感覚的なレベルでゲームのおもしろさを追求でき、何より実装速度を速くすることができるからだ。つまりアニメーターがゲームデザイナーとしての意識をもつことが重要だというわけだ。


ゲームデザイナーを廃した制作ワークフロー。実際に同社ではゲームデザイナーの数が最小限に抑えられている

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<3>ゲームデザイナーを省いた制作工程

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<3>ゲームデザイナーを省いた制作工程

続いて山口氏は巨大な蟹状のモンスター「ファンタズマラネア」を例に、実際のアニメーション制作過程について解説した。

ファンタズマラネア登場シーン

はじめにディレクターに提示されたコンセプトは下記の4点だったという。

・中ボス
・プレイヤーキャラクターと基本的には1対1で戦う
・重量級である
・遠距離攻撃が得意である

通常はこの後、コンセプトアーティストが2Dのイラストでキャラクターデザインを行う。しかしファンタズマラネアの場合は、前作『ベヨネッタ』の非戦闘シーンで登場しているため、コンセプトアートもそちらを流用。それを基にキャラクターモデラーが3DCGの仮モデルを制作。仮モデルを基にアニメーターがプログラマーと相談しながら、必要なアクションや攻撃方法を考え、仮アニメーションを制作していく。また、その過程で必然的に発生する仮モデルやコンセプトアートの問題点を抽出し、本モデル制作に向けてフィードバックを行なっていく。



ファンタズマラネアのコンセプトアートと仮モデル

アニメーションは大きく「移動」、「近距離攻撃」、「遠距離攻撃」、「ダメージ」の4種類に分けられる。山口氏は待機モーションから始まって、歩き・ジャンプ・ステップ・突き刺し・火球吐き・ジャンプ攻撃・ガードなど、新しい仮アニメーションが次々に制作されていった様子を示した。その上で仮アニメーションは「ゲームを素早く組むことに特化したもの」であり、「早さ」、「ノイズにならない」、「ゲームとして機能する」という3点が重要だと語った。


各々のアニメーションはゲームデザインと密接に関係している

「早さ」は読んで字のとおりで、1つの動きをつくる上で、早ければ数十分。遅くとも毎日1つは新しいアニメーションを考案し、つくり上げていくという。「ノイズにならない」とはキャラクターのイメージに合わない動きはつくらないということ。そして「ゲームとして機能する」とは、それぞれの動きが「待機(=土台)」「攻撃(=緊張)」「ダメージ(=解放)」のどこに相当するか、考慮しながらつくることが重要という意味になる。


仮アニメーションと完成アニメーションでは求められる要素が異なる

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<4>アクションゲームのアニメーションに求められる機能

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<4>アクションゲームのアニメーションに求められる機能

「待機」とは各々キャラクターが何もせずに立っているときの動きで、ゲームアニメーションの場合は、常に待機で始まって様々なアニメーションにつながり、最後に待機で終わる(=ループ構造を取る)点が特徴になる。そのため、次につながる動きの邪魔にならないこと。すなわち「ニュートラルであること」が求められる。

山口氏は「ファンタズマラネア」の例でいえば、「ハサミを振り上げているのは待機アニメーションとして不適格」だとした。攻撃的なイメージを醸し出しているからだ。それよりも、攻撃時にあらためてハサミを振り上げて、振り下ろすというアニメーションをつくることが望ましいという。

待機シルエットでわかる「ニュートラルさの必要性」

「攻撃」で重要なことは、ユーザーが納得できない攻撃アニメーションはしないということだ。そのためリアリティをもちつつも、視認性や避けやすさといった要素が重要になる。コントラストやリズム感をつけることも重要だ。これを一言でまとめると「わかりやすさ」となる。

実際に「ファンタズマラネア」のジャンプ攻撃で、一度空中で動きをためて落下する動きをつくったところ、テストプレイで非常に回避しにくいことがわかった。そのため、同じようなタイミングで上昇・下降するように動きが修正されたという。

ジャンプアニメーションの是非は「遊びやすさ」で決まった

「ダメージ」はプレイヤーが攻撃に成功したときに再生される動きのことだ。そのためプレイヤーに対する報酬を動きの面で提示するという機能が含まれる。ダメージ量に応じて複数の動きを用意することも必要だ。そのため大ダメージ時の動きは、プレイヤーに対して「勝てそう」、「勝てるかも」といった、見通しを与えるものにもなる。つまり動きの「爽快感」が重要というわけだ。

ダメージ時のアニメーションではヒット感や手触り感の追求が重要

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<5>イテレーションを高める制作スタイル

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<5>イテレーションを高める制作スタイル

このように、ゲームデザイナー的な視点をふまえて新しい動きを考案し、仮アニメーションをつけていきながら、タイミングを見てディレクターにチェックを打診。必要な動きがすべて実装され、ディレクターから承認が得られたところで、ブラッシュアップに移行する。仮モデルを本モデルに差し替え、その上で本アニメーションをつけていく。DCCツール上での実装と実機上でのテストプレイをくり返し、時間の許す限り調整をくり返しながら、延々とクオリティを上げていくことになる。

もっとも、山口氏は「どこまでいってもクオリティの追求には終わりがなく、いつも時間切れで終わる」と明かした。山口氏は、商品として販売する以上、自分の中でクオリティの規準をもっているという。「1つの中ボスを相手に、無敵状態で何時間も遊び続けられること」だ。そうした状況に達するまで、クオリティを積み上げていくのが仕事だと説明した。


最終的に制作されたファンタズマラネアのアニメーションリスト

最後に山口氏は「アクションゲームではアニメーションの細かいこだわりがゲームのおもしろさを大きく左右するので、アニメーターがゲームのクオリティを左右する当事者として作業にあたれる環境を用意することが重要」だと指摘した。また「アニメーターがアニメーションをつくるだけでなく、ゲームデザイナーでもあるという認識が必要だ」と述べた。

一般的に開発環境といえばツールやミドルウェアといった設備投資の話に終始しがちだ。しかし山口氏が本講演で述べた内容は、ワークフローや働き方といった、制作文化の要素を含んでいる。この観点を広げると社風になる。つまりエンターテインメントにおける創造性とは、社風に関係するといえる。

もっとも制作文化や社風は言語化しづらい。しかし、それを言語化することで、改めて見えてくるものがある。山口氏も各々のゲームに適した(広い意味での)開発環境があり、その環境を追求することが、アーティストが発揮するゲーム制作のこだわりにもつながると語った。多くの示唆を含む講演だったと言えるだろう。