2017年11月5日(日)、文京学院大学 本郷キャンパスにて催された「CGWORLD 2017 クリエイティブカンファレンス」にて、Tyffon(ティフォン)のCEO深澤 研氏による「VRのその先へ - MRによる次世代没入体験の創造」と題したセッションが行なわれた。MR(複合現実)とは、現実の環境とVRを融合した概念で、ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)で現実世界を覗きながらCGをインタラクティブに操作できることが特徴。最近ではVR/AR/MR技術の登場により様々な没入型コンテンツが開発されているが、同社でも東京・お台場にあるダイバーシティ東京プラザにMRシアター「TYFFONIUM」をオープンし、次世代ホラーアトラクション『マジックリアリティ:コリドール』を展開している。セッションでは深澤氏のクリエイターとしての原体験から、『マジックリアリティ:コリドール』を実現するまでの過程、そして同社が描く未来像が語られた。

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TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO(※スライドをのぞく)_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『マジックリアリティ:コリドール』
体験人数:1~2人、所要時間:25分(Short ver.:15分)※体験時間は15分(Short ver.:5分)、料金:2,000円(Short ver.:1,300円)、年齢制限:13歳以上
「TYFFONIUM」
東京都江東区青海1-1-10 ダイバーシティ東京 プラザ 5F
www.tyffonium.com

「ホーンテッドマンション」から着想を得て、現代の技術でお化け屋敷をつくる

「他の誰でもなく、自分がそれをつくる理由は何なのか――」深澤氏は作品づくりや新しい事業を立ち上げる際に大切にしているポイントとして、最初にそう語った。彼の場合、幼少期にできたばかりの東京ディズニーランドで体験したアトラクション「ホーンテッドマンション」が創作の原点になっているという。

「ホーンテッドマンション」に魅了された深澤氏は、小学生の頃、頭蓋骨やゾンビを描くことに熱中し、頭蓋骨の石膏像を親にねだるほどだったとか。その後、大学ではCGで解剖学モデルをシミュレートして顔の表情をアニメーションさせる研究に従事。卒業後はサン・マイクロシステムズに入社しシステムエンジニアとして勤務した。同社を退職後、フリーランスとしてひとりでCGアニメーションをつくり、海外の映画祭に出品したり個展を開くなど、精力的に活動。その後、ソニー系のベンチャー企業であるモーションポートレート社に勤務し、そのメンバーとともにTyffonを設立した。

Tyffonは、2011年に立ち上げられたスタートアップ企業だ。2013年には『ゾンビブース 2』という撮影した顔写真がゾンビになり動き出すセルフィーアプリを開発、シリーズで世界4000万DLという大きなヒットを記録した。

『ZombieBooth 2』
App Store:https://itunes.apple.com/app/id596670131
Google play:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.tyffon.ZombieBooth2

さらに、2014年にはディズニーの第1回アクセラレータープログラム(ディズニーから包括的な指導と投資が受けられるプログラム)に採択された世界10社のうちの1社に選ばれ、ディズニーキャラに変身できるアプリ『SHOW YOUR DISNEY SIDE』を開発した(日本市場未提供)。その後、自身の原点となった「ホーンテッドマンション」から、現在のVR技術を利用して「現代の技術でお化け屋敷」をつくったらどうなるか......という着想を得て『マジックリアリティ:コリドール』の企画をスタートさせた。



企画の立ち上げ当初はまずイメージスケッチを繰り返し描き、洋館の中をMRゴーグルをかけて進んでいくというコンセプトを固めた。技術的には、クロマキーを利用し参加者とその同伴者の姿をCGで合成させる方法にたどり着き、Tyffonのオフィスにクロマキーのセットを設置し、開発が進められた。HMDは4×8mのトラッキングが可能である(公称では最大領域3m×4m)「HTC Vive」を採用した。

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お客さんの原体験になるような作品をつくっていきたい

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お客さんの原体験になるようなものをつくっていきたい


『マジックリアリティ:コリドール』の簡易的な演出設計図。4×8mの空間の中、紫のルートに沿って体験者が歩いて行くのだが、CGの演出により空間の狭さを感じさせない。青い線はクリーチャーの動きを示している

制作においてまず意識されたのは「狭い空間でも壁にぶつからず進み続けることができる」ということ。これは安全面においても、没入感という意味でも重要なポイントだった。そのため、CG上では世界観に合わせて魔法陣の演出を施し、道標とした。また、同時に利用できる人数を2人以上と決めていたのだが、テストプレイではクリーチャーが登場するタイミングでも体験者によっては別々の方向を向いていたりと予想外のことが起こったため、サウンドやライティングの演出を調整し視線誘導をする必要があったという。また、8月には赤坂サカスのイベントでショートバージョンを無料公開し、そこでの利用者のリアクションも開発にフィードバックさせている。


またTyffonでは『マジックリアリティ:コリドール』につづき、幽霊船に乗って航海するファンタジーアドベンチャー『GhostShip』(仮題)も企画が進んでいるという。さらに将来的にはMRシアター「TYFFONIUM」の世界展開も目指しており、従来のテーマパークのように来場者が1ヶ所に集まるのではなく、各国の施設を遠隔で繋げ同時にひとつの体験ができるテーマパークを構想しているのだとか。深澤氏は最後に「私たちがつくり出したものが、私にとっての"ホーンテッドマンション"のように、一生の記憶として残りその人の原体験になるようなものをつくっていきたい」と語り、セッションを締めくくった。



  • 「CGWORLD 2017 クリエイティブカンファレンス」
    参加費:無料 ※事前登録制
    開催日:2017年11月5日(日)
    場所:文京学院大学 本郷キャンパス(東京都文京区向丘1-19-1)
    主催:ボーンデジタル、文京学院大学 コンテンツ多言語知財化センター
    機材協力:マウスコンピューター、TSUKUMO(ツクモ)
    cgworld.jp/special/cgwcc2017