最近の大規模ゲームにおける3Dキャラクターモデル作成では、市販の様々なソフトウェアを横断しながらの作業が多くなっており、データの取り扱いや互換性、どのソフトでどの作業をするかなど、現場の作業が非常に複雑化している。そういった多様な制作物をつくらなければならない環境の中で、できるだけスムーズに少ない作業量でクオリティをいかに担保するかといった観点で作業環境が整えられつつある。本講演ではスクウェア・エニックス第5ビジネス・ディビジョン(以下、第5BD)でのMaya、ZBrush、Marvelous Designer、Substance Painterを併用した制作環境でのハイエンドキャラクターモデル作成について研究開発中の内容が紹介された。
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TEXT&PHOTO_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
<1>世界レベルのリアルタイムグラフィックスを目指すR&D
南條和哉氏(株式会社スクウェア・エニックス 第5ビジネス・ディビジョン 3Dキャラクターアーティスト)
以前はフリーランスとして『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(2017)のキャラクター制作に携わり、2017年にスクウェア・エニックスに入社してからは第5BDにてR&Dを担当している南條氏。世界レベルのリアルタイムグラフィックスを目指すにあたって、第5BDが掲げたのは以下の4つの目標だった。
1:グラフィックスは高いレベルを目指す(大前提)
2:R&Dとはいえ最終的にゲームとして動くことを前提に仕様を決める
3:最近のトレンドの技術やノウハウを採り入れる
4:作業の効率化とクオリティの担保
「最近流行りのSubstanceをワークフローに組み込むことや、GDCで発表されるような最新技術を採り入れつつ、作業の効率化とクオリティを担保し、仕事のスピードを落とさないようにしつつ模索していきました」(南條氏)。
クオリティはもちろん上げたいが、作業時間は限られている。そこで最近様々なゲームタイトルで導入が進んでいるフォトグラメトリーを使うのはどうか? というアイデアがまず挙がった。ただし、顔のモデルはともかく、ファンタジー系の衣装やモンスターのようなそもそも撮影できる実物が存在しないキャラクターの場合は厳しい。そうは言っても、アーティスト間の技量差をどう埋めるか? 技量差に関係なく、アーティストの技量全体の底上げが必要だと考えたという。
「対応策として次のようなことを検討しました。まずは、モデリング作業時間そのものをなくすのは難しいとしてもできる限り効率化して全体の効率を上げる。テクスチャリングはSubstanceを使うことで時間短縮したり、様々な工程をどうにかして短縮できないかと考えました」(南條氏)。
モデリングは効率化と品質。その後の工程はできるだけ短縮
初期段階ではUnreal Engine 4やリアルタイムビジュアライズソフトMarmoset Toolbagで検証を進めたが、なかなか細かいところに手が届きにくかったため、FFXIVエンジンを拡張しPBR環境でのレンダリングができるようにし、環境構築やシェーダ周りは専任のプログラマーが担当することになったという。
利用したDCCツールは下記の通り。
●Maya 2016 SP2
●ZBrush 2018
●Marvelous Designer 7.5
●Substance Painter 2018、Substance Designer 2018
●Photoshop CC
●xNormal、Ornatrix for Maya
<2>衣装モデリングのワークフロー
衣装モデリングの全体的なながれ
続いて、現在検証中の衣装モデリングのワークフローについて解説された。検証用のモデルは、アート班が起こした金属や布など様々な素材が使われたデザインを基に準備したとのこと。
キャラクターの素体(アバター)はMayaとZBrushで制作。筋肉の盛り上がりも衣服の形状に影響するため、しっかりつくり込んだという。続いて、布や革の部分はMarvelous Designerで作成。Marvelous Designerは布の形状が思い通りに作成できるため作業が楽しくなり、ついつい時間をかけてしまいがちだが、細かいシワの表現などはスカルプトでやった方が早い場合もあるという。目標としては、概ね1体につき1週間以内で終わることが理想とのこと。
Marvelous Designer での作業例
ZBrushでのスカルプトは、基本全てのSubToolでローレベルを保持し、のちのちのリトポロジーと形状変更の作業を軽減。目立つ部分のみスカルプト段階で対応するが、細かい傷や汚れなどの表現はSubstance Painterに任せるといった住み分けが行われた。リトポロジーにはMayaのModeling Toolkitを利用し、最終的には10万ポリゴン前後を目安とした。テクスチャのUVに関しては、Marvelous Designerで作成した部分はすでにUVデータがあるため、それ以外の部分を頭、胴、腕、足の4つのUVグループに分けてマテリアルを分類している。
ZBrushローレベルモデルと、リトポロジー後のモデル
Substance Painter導入の経緯は、PBR向けのテクスチャ作業において、カラーとマテリアルと同時に調整できることが非常に大きなメリットであったからだという。ツールにはすぐに慣れることができるため、早ければ1日か2日でそれなりのものが作成できるようになり、作業の短縮に繋がった。また、UVや解像度を後から変更できるため、ワークフロー的にも後からの変更の手間を減らすことができたとのこと。「それに業界的には、今検証しないと、他社に乗り遅れてしまうという危機感もありました」(南條氏)。
Substance Painterの利用例(一部ぼかしあり)
とは言え、ペイント作業ではどうしても作業者ごとにクオリティにバラつきが生じるため、ペイントは極力使わず、IDマスクやスマートマスクを活用するという運用ルールが敷かれた。また、質感をコントロールするため、今後はキャラクターの設定上の地域や種族などのカテゴリごとにマテリアルライブラリを充実させていく予定とのこと。「Substance Painterの機能では、『Match By Mesh Name』と『Layer Instance』が気に入っています」(南條氏)。
Mayaのローモデル、ZBrushのハイモデル、Substance Painterでの扱い
今回開発した衣装ワークフローについて、「修正しやすい、クオリティアップしやすいデータづくりを心がけたこと」、「最新のツールやライブラリを活用して効率化したこと」、「アーティストの技量差に左右されずクオリティを維持しつつ進められたこと」の3点がポイントとして総括された。
完成したモデル
[[SplitPage]]<3>顔・髪モデルの量産フロー
続いて、顔および髪モデルの量産フローについて解説が行われた。「このフロー制定の目的としては、リアルだけれどもファンタジー的な顔モデルを量産すること、つまりキャラクターの顔を簡単かつリアルにカッコ良く作りたいということです」(南條氏)。基本方針として、フォトグラメトリーを活用すること、モデルのトポロジーとUVは共通であること、ブレンドシェイプを活用すること、の3点が掲げられた。
そうして、まずはじめに取りかかったのは、社内スタッフの顔をフォトグラメトリーで撮影することだった。今回は簡易的な方法でのスキャンだったため、つぶっている目を見開いたりさせる調整作業が必要だったという。
社内のスタッフに依頼して撮影したフォトグラメトリーの結果
また、工夫した点として、歯並びを自由にコントロールできる歯のモデルを用意しておいたことが挙げられた。
歯並びを自由に調整することができる歯の3Dモデル
まつ毛、涙、影のモデルは目の形状に自動追従するよう調整。
毛穴など、細かい部分の調整
また、髪の生えぎわ制作のコスト削減のため、下準備として「坊主メッシュ」と呼ばれるカツラのようなパーツを作成している。
坊主メッシュ
「坊主メッシュ」の上に生やすようなイメージで毛のモデルを配置していき、髪型を作成。さらに、髪を描画する上で非常に重要となる半透明と影を加え、リアルな毛の表現を実現したとのこと。
髪の半透明と影の表現
さらに毛色の表現として、ベイクしたマスクテクスチャを用い、2種類のパラメータによって白髪や色ムラといった実際の髪に近づけるための表現を行なった。
ベイクテクスチャによる白髪や色ムラの表現
完成したキャラクターデータ
そうしてスキャンデータからリアル系のキャラクターモデルの完成までたどりついたわけだが、そこで課題としてもち上がったのは、「何でもリアルなら良いわけではない」ということだった。「現実の普通の人の顔だけではちょっと物足りない、いくらゲーム内の一般キャラクターとはいえ、もう少しファンタジー世界のキャラクター風にならないだろうか? と考えました」(南條氏)。そこで特徴ある3Dモデルをベースにブレンドするという手法を試してみることとなった。
フォトグラメトリーで作成したリアル系モデルに、ファンタジー風の顔モデルをブレンドした結果
この手法でリアルさにキャラクター性をプラスするという点では一定の成果を得たが、顔の形は千差万別で、スキャンだけでは限界があり、自然で多様な顔をもっと簡単につくれないか、という結論に達したという。そこで、ブレンドシェイプをもう少し複雑にして、個性的な顔を簡単に制作できるようなキャラクター作成ツールを開発することとなった。
そうして開発されたランダム顔作成ツールは、ブレンドに使う顔を任意に選択し、顔全体または部分的にランダムブレンドを行い、その後調整を加えて、生成された顔をライブラリに登録する、までを行えるというもの。ブレンドで混ぜる数が多すぎると平均的な顔になってしまうため、3モデルから5モデルが適切だったという。
4つの顔の目、鼻、口、耳、額、頬、顎をブレンドする場合の例
ランダム顔作成ツールの操作画面
ランダム顔ツールを活用した感想として、南條氏はランダムで生成される顔だとしてもスキャンに近いリアリティが出ること、ある程度縛りを入れるとワークフローにも組み込みやすいこと、頭の形などの制限事項などもコントロールしやすいことがわかったと述べた。今後はヒゲのバリエーションを増やしたり、歯並びもランダムで生成できるしくみにしていきたいとのこと。
ランダム顔作成ツールで生成された顔の例
顔はランダム感がリアリティに直結するため、クオリティが上げやすい分野でもある。ここまでやってみて、効率化が進めば一般キャラクターの制作は自動化も可能であると南條氏は総括した。「今後はアジア系に調整するパラメータや、戦士系の顔つきにするパラメータなど、簡単に調整できるようになると良いと考えています」(南條氏)。