男性アイドル作品として根強い人気を誇り、ゲーム、TVアニメ、ライブ、舞台など多方面に展開を続ける『うたの☆プリンスさまっ♪(以下、うた☆プリ)』。シリーズ8周年を記念して制作された楽曲『雪月花』のMVメイキングを、本誌247号に掲載されたものに大幅に追加要素を加え、全4回に渡って紹介する。第3回は、バラード調の曲に合わせた繊細な表情の制作工程を追う。

TEXT_大河原浩一 / Kouichi Okawara(ビットプランクス)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

※本記事は、CGWORLD vol. 247(2019年3月号)に掲載された記事にトピックを追加し、再編集したものです

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Vol.1 衣装編
Vol.2 アニメーション編
Vol.4 カット制作編


「雪月花」MVショートVer.


Information

うたの☆プリンスさまっ♪ Eternal Song CD「雪月花」
Ver.SNOW(左)、Ver.MOON(中央)、Ver.FLOWER(右)
価格:各1,500円+税
リリース:発売中
※本記事で紹介のMVは付属DVDに収録
www.utapri.com/sp/setsugetsuka_cd
© 早乙女学園 Illust.Panda Graphics

多彩なモーフターゲットと瞬間の表情で演出する生命感

本作のようなキャラクター性が前面に押し出されたアニメーションの場合、表情のアニメーションは非常に重要なポイントとなってくる。特に今回は『うた☆プリ』としても新たな挑戦と言えるオリエンタルなバラード調の楽曲であるため、基本的には複数のモーフターゲットと補助的な使用を目的としたフェイシャルリグが組まれている。本作では、倉花氏のキャラクターデザインを再現するため、アヒル口のような特殊モーフも作成された。フェイシャルアニメーションの約8割をモーフターゲットを使って制作しており、作業者ごとに差が出ないようにしているという。

写真左から コンポジットスーパーバイザー:三山一男氏、CGディレクター:高久保豊成氏、リードキャラクターモデラー:石井のぞみ氏、フェイシャルアニメーションリード:三浦崇寛氏、アニメーター:樋口美咲氏、Clothシミュレーション:松本 将氏
写真なし プロデューサー:赤城晴康氏(以上、アニマ)、エグゼクティブプロデューサー:紺野さやか氏(ブロッコリー)

フェイシャルアニメーションで注力したポイントは、楽曲のコンセプトやアイドルの設定をしっかりと考えて表情の演技に反映させることだった。1ショットの中で必ず表情に変化が出るように、表情を固定せず、切ない表情演技の中にも一瞬微かな笑みや凜々しい表情を挟んだり、柔らかさを出すために動き終わりのイーズを少し長めに取るなど、生命感とアイドルとしての魅力を併せもつアニメーションになるように心がけられた。

高久保氏によれば、そのようなアイドルごとの設定を上手く動きに反映させるために、なるべくそれぞれのアイドルに詳しいスタッフ、思い入れのあるスタッフをアサインし、高久保氏自身も演出する際には、頻繁に『うた☆プリ』の知識があるスタッフにヒアリングを行い、その意見を積極的に採り入れていったという。その結果、バラード調の曲のコンセプトや歌詞に合わせた切なげな表情や哀しげな演技が多数入れられている。


  • 高久保豊成/Housei Takakubo
    CGディレクター

そして、表情の表現と共に、倉花氏のキャラクターを再現する際に欠かせないのが、髪のシルエット感だ。髪の動きをはじめ、顔にかかる髪のバランスや重量感、スタイリングといった動きに合わせた髪の表現もフェイシャルアニメーションと共に注力されている。アイドルごとに髪の質感を「ツンツン系」「ふわふわ系」「さらさら系」などに分類し、それぞれに動きの指針を決めた上で、各担当スタッフと設定を共有しながら制作が行われた。

Topic 1. 顔モデル

頭部のモデルについては、前作MVのデータを流用している。顔以外のモデルデータは、新しい衣装のデザインに合わせて一部の体のシルエットなどがブラッシュアップされた。

▲寿 嶺二の顔モデル(上)とワイヤーフレーム(下)

▲聖川真斗の顔モデル(上)とワイヤーフレーム(下)


Topic 2. トゥーンの設定

顔の質感も、前作MVとほぼ同様のトゥーン調に設定されている。Pencil+マテリアルは使わず、合成レイヤーでディフューズとシャドウマスクでマスクしたシャドウ、ハイライトを合成して表現。CG影ではなく、シャドウをテクスチャで表現することで、キャラクターデザインに忠実なルックが再現された。なお、輪郭線についてはPencil+ラインを使用している。

▲マテリアル設定画面

▲一十木音也の顔周りのテクスチャ。左からディフューズ、シャドウ、シャドウマスク、ハイライト


Topic 3. フェイシャルリグ



  • ▲左:本作のフェイシャルリグの例/右:リグ数が100を超える数になったため、内製ツールの FaceRigSelectorを使って制御しやすくしている


▲今回モーフの数が多いため、MorphToolという内製ツール上で眉や目、口、その他のパーツに分けて表情を制御している。モーフの数は、左右のバリエーションを含めてアイドル1人あたり57にものぼる

次ページ:
Topic 4. フェイシャルアニメーションの手順

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Topic 4. フェイシャルアニメーションの手順


  • ▲【1】まずはキャラクターモデルにアニメーションデータと音声ファイル、ワークライトを設定してフェイシャルの作業シーンを構築

  • ▲【2】次に目線を付ける。目線を最初に付けることでキャラクターが何を思ってそちらを向いているのか等、表情演技が決めやすくなる


  • ▲【3】音声ファイルに合わせて口パクを付けていく。単純に母音に合わせた口の形にするだけではなく、あひる口モーフを組み合わせて倉花氏のテイストに近づけたり、口角の上下や他の母音のモーフを複数混ぜて形状や開き具合などを調整したりすることで感情や語気に合わせた形状をつくっていく

  • ▲【4】まぶたの演技を付ける。最初に目線を付けているので、表情演技や感情に合わせた目の開き具合など理想の目の表情を付けやすくなる


  • ▲【5】眉の動きは微妙な角度の変化で感情がちがって見えるので注力したポイントだ

  • ▲【6】おおまかな表情付けが終わったところで、Pencil+のラインの調整や、目に被る髪の調整などを行ってモーフを使ったフェイシャルアニメーション作業は完了となる



  • ▲【7】さらに、ショットに応じてフェイスリグを使用し、顔の角度によって崩れがちな顎のラインや各パーツの配置バランスを整えてイラストに近づけるように調整していく。左:調整前、右:調整後


▲【8】ターボスムースをONにし、プレビューで形状の乱れや埋まりなどがないか確認したらキャッシュファイルを出力し、Cloth班またはコンポジット班に渡す

▲上記の制作工程を動画にまとめたもの


Topic 5. 髪の位置調整



▲動きの途中でカメラアングルによってヘアスタイルの見映えが変わってしまう場合は、アイドルの印象を保つために位置調整を行なっている。左:調整前、右:調整後


Topic 6. 下の歯

本作のキャラクターデザインのオリジナルイラストでは、キャラクターの下の歯がキチンと描かれている。しかし、作画風のアイドル作品の3DCGでは下の歯は描かれることが少なく違和感があるため、口を開けたときに下の歯が見える状態の表情は、違和感の出ない数カットに留められている。




Topic 7. 画面外の演技を追う視線

本MVの演出には、キャラクターの視線などの演技を利用して、画面に映っていない部分の演技を見る人に想像させる工夫が随所にみられる。『うた☆プリ』のアイドルの多くは手足が非常に長いキャラクターデザインになっているため、肘を伸ばすと画面内に収まらず表情と手足の動きを同時に見せるような演出が難しいカットもあったという。そのために指に動きをつけるのではなく、指のある方向へ目線を向けることで、画面には映っていない「画面外の動き」を見る人が感じられるように工夫されている。



Vol.4:カット制作編に続く>>



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.247(2019年3月号)
    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2019年2月9日