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『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』におけるRedshiftレンダラの実力

『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』におけるRedshiftレンダラの実力

2017年mental rayの開発が終了されて以降、次なるレンダラを模索しているスタジオは現在も多い。今回はProduction I.Gによる『銀河英雄伝説 Die Neue These』におけるRedshiftの検証事例を紹介する。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 255(2019年11月号)からの転載となります。

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TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

  • 『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』
    田中芳樹の人気SF小説『銀河英雄伝説』を、豪華な声優陣、最新技術での艦隊戦、新たな解釈で再アニメ化した本作。セカンドシーズンとなる「星乱」(12話)が三章立てで、劇場にて各章3週間限定イベント上映中
    【各章3週間限定上映】
    第一章:2019年9月27日(金)から
    第二章:2019年10月25日(金)から
    第三章:2019年11月29日(金)から
    原作:田中芳樹(東京創元社刊)/監督:多田俊介/キャスト:宮野真守、鈴村健一、梅原裕一郎、梶 裕貴/製作:松竹・Production I.G
    ©田中芳樹/松竹・Production I.G
    gineiden-anime.com

3ds Max 2018以降、mental rayに変わるレンダラの模索

9月27日(金)からイベント上映がスタートした『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』。ファーストシーズン『銀河英雄伝説 Die Neue These 邂逅』(2018)の続編が、満を持しての上映と相成った。

左から、3Dディレクター・森本シグマ氏、ジェネラリストTD・高賀茂寛人氏、CGIプロデューサー・田中宏侍氏。以上、Production I.G
www.production-ig.co.jp

本作の見どころのひとつが、迫力あるCGによる艦隊戦だ。戦艦をはじめとする宇宙船や効果的に場面を彩るエフェクトの数々は、これでもかと言わんばかりにつくり込まれている。しかし、そこで立ちはだかるのがレンダリングだ。つくり込めばつくり込むほど、レンダリングコストは増大し、スケジュールを圧迫するようになる。これは多くの制作者を悩ませる頭痛のタネだ。本作の3Dを担当しているI.G3Dでも、そのような状態が続いていたが、「Redshift」の導入により革命が起きたという。そこで今回は『銀河英雄伝説 Die Neue These』のクオリティアップと画づくりに貢献した、Redshiftの導入について話を聞いた。

そもそもどのような経緯でレンダラを切り替えることになったのだろうか? 『邂逅』のCGシーンは主に3ds Max 2016で制作されており、メインのレンダラとしてmental rayとPSOFT Pencil+が使われていた。しかし、3ds Max 2018以降でmental rayが廃止されたことを受け、今後I.G3Dで使用する次期レンダラを選定する必要に迫られることになったという。候補として挙がったのは、V-RayArnoldUnreal Engine、そしてRedshiftの4つ。田中宏侍CGIプロデューサーは「実のところ、レンダラの候補を考え始めた頃は、すでに当社で導入しているレンダーサーバの構成から、CPUレンダラを主に考えていました。スタッフの使用経験や実績、機能、価格等を考慮してV-Rayにほぼ決まりつつありましたが、当時話題になっていて使用例も出始めたRedshiftも検証してみたところ、全てをひっくり返すことになったのです」と話す。前評判をひっくり返してしまうほどの検証結果とは......。Redshiftの実力をみていこう。

セル調のアニメ作品におけるRedshiftの可能性

4つのレンダラ候補から選ばれたRedshiftの驚異的な速度

制作環境の構築にあたり、まず問題となるのがコスト面だ。レンダーファームの台数が多く、その台数分のコストを考慮すると、他の3つと比較して高額になってしまうArnoldの導入は難しいとされた。レンダラの検証は『邂逅』と『星乱』の制作の間に行われていたため、mental rayが用いられた『邂逅』と続編の『星乱』で違和感のない映像をつくれるかどうかという点も、当然考慮される。本作のルックの性質上、レイトレースは不可欠であったが、当時のUnreal Engineは、レイトレースはまだ開発中であった。そこでUnreal Engineの採用が見送られることに。こうしてV-RayとRedshiftの一騎打ちとなったわけだが、ながれは一瞬で決まった。田中氏は「Redshiftは冗談みたいな速度でした」とそのときの衝撃を表現する。mental rayでは30~40台のPCを使って9時間かかっていた画と同様のレンダリングが、Redshiftでは1台のPCのみでわずか9分で終わったという。V-Rayと比較してもその速度差は圧倒的であった。こうして正式にRedshiftが採用される運びとなったそうだ。

今回の決め手となった「驚異的な速さ」だが、その処理速度を支える理由のひとつが、「GPU」レンダラである。これまで一般的に使われてきたCPUレンダラと、RedshiftのようなGPUレンダラのちがいは、その名の通り、計算処理にCPUとGPUのどちらを使用するかという点だ。CPUは複雑な処理ができるが、直列的に処理を行うため時間がかかってしまう。一方でGPUは単純な処理しか行えないが、並列的に処理できるため処理速度が速い。モニタの画像を表示するために使われてきたGPUだが、その処理速度の速さが注目され、近年ではレンダリングの計算に使用されることも増えてきた。その中で開発されたレンダラのひとつがRedshiftだ。「V-RayにもGPUレンダラは乗っていますが、GPUに対応しているマテリアルやテクスチャしか利用できないとか、メモリを越えるとレンダリングしてくれないとか、不便な点があります。RedshiftはGPUのメモリを超えてもCPUを使ってまわしてくれるのが良いですね」と高賀茂寛人ジェネラリストTDは話す。コスト面についてはもちろん、クオリティ面への貢献について「これまでアニメ業界のCGは、いかに作画に似せるかばかりに注力してきました。本作はアニメ業界であまりやってこなかった、CGの技術的な振り幅を入れ込めたと思います。それにはRedshiftの力が不可欠でした。実写などに比べて遅れていたアニメCGが、この作品で一歩進めた手応えがあります」と森本シグマ3Dディレクターは語ってくれた。レンダラひとつの進歩が、作品全体、さらには業界全体を進歩させる可能性がある。Redshiftはそんな業界の未来まで描き出してくれるのかもしれない。

レンダリング時間とレンダリング結果と検証

左から「Redshift 約0:33」、「mental ray 約5:00」、「V-Ray 約1:30」。

Backburnerで出力したレンダーパスのうち、最も時間を要する間接照明のレンダリングで比較した。画像を見ると、細部にわずかなちがいはあれども、全体のクオリティは遜色ない。平均レンダリング時間は図の通り。クオリティに大きな差はなかったが、時間はちがいが表れている。大判ポスターなどの高解像度版権では、これまでアップコンバートで対応していたが、Redshiftなら高解像度で出力できるという

レンダリングPCの構成

多いときには60台のレンダーファームを構築することもあったそうだが、Redshift導入後はレンダリング速度が向上し、計算上は1台でまかなえるそうだ。実際は余裕をもって2台のレンダリングPCを用意しているが、森本氏・高賀茂氏のPCや、代替機として使用した共有PCでも、まったく問題なかったという。「Redshift導入後、レンダリングが終わらず困ることはなかったですね。それどころか、余裕をもってリテイク対応もできました」(田中氏)

AOVの試行錯誤

Redshiftの導入に際して、mental rayによる各艦共通のマテリアル設定をベースに、Redshiftへ各種アセットを移行している。

▲mental rayで出力したAO。レンダリング時間等との兼ね合いで、多少ノイズが残っている

▲Redshiftでテスト出力したAO。銀河帝国の戦艦の前部上面には、透明な流体金属のパーツがある。mental rayでは、オブジェクト IDを識別してAOシェーダの判定から除外する機能で透明パーツの内部が見えるようにしていたが、Redshiftにはその機能がないため、白く描画された。また、Redshift非対応のマテリアルがあるとレンダリングが止まってしまうため、マテリアルの切り替え管理も重要だ

▲Redshiftで出力したAO(調整後)。流体金属の部分を調整してAOが除外されるようにした。レンダリング時間が短くなったことにより、AOのサンプリングも向上している

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mental rayとRedshiftの設定

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