CGWORLD主催のオンラインイベント「CGWORLD JAM ONLINE Vol.3」が7月9日(金)と10日(土)の2日間行われた。9日のスキルアップチャンネル「この人がきになる! CGWORLD編集長リレーインタビュー」では、CGWORLDの沼倉有人編集長が4人のクリエイターにインタビューを敢行。仕事内容も活動拠点もそれぞれ異なるクリエイターたちの働き方に迫った。


TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE

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Creator 01:フジワラヨシト氏(イラストレーター)

まずはイラストレーターのフジワラヨシト氏が登壇。フジワラ氏はiPadのイラストアプリ「Procreate」でほぼ全作業を行なっており、CGWORLD本誌でインタビューした際も大きな反響があった。その点について「フィニッシュにPhotoshopを使うこともありますが、ラフや線画、着彩までProcreateで完結しています」とコメント。「場所を問わずどこでも仕事ができること」が大きなメリットだという。 そのような作業スタイルを保ちながらも新たなスキル習得に力を注いでおり、6月からはBlenderを導入したという。CGWORLD Online Tutorialsの「ゼロから学ぶ3DCG教室」を購入し、現在勉強中であることを打ち明けると沼倉編集長から驚きの声が上がった。

▲フジワラヨシト氏の習作。学習期間は数週間ほど

さらにBlenderで手がけた習作を公開。その習得の早さに、沼倉編集長は「構図が初心者ではないですね」とまたも舌を巻いた。フジワラ氏は30歳を過ぎてからイラストレーターとしての活動を始めており、同業者に比べてスタートが遅かったという気持ちがあるそうだ。時代に取り残されないためにも技術はどんどん習得していきたいと語り、Blenderもイラストのラフ構図を決めるときなどに使えるようになりたいと展望を述べた。

クリエイター志望の視聴者に向けては「基礎の力が大切」だと説く。基礎は時間がないと身に付けられず、自分がやりたい表現が見つからなくても、デッサンやクロッキーなどに励んで手を動かしておく必要があるためだ。そして「自分が面白がれることを発見できれば、いずれ役立つときが来ると思います」とエールを送った。



Creator 02:多田朱利氏(有限会社ATA企画 専務取締役/株式会社レイスリー代表取締役)

建築CG界の第一人者である多田朱利氏は、山梨県清里高原のデジタルアートスタジオLEI THREE(レイスリー)を拠点に活動中だ。沼倉編集長が「デザインビジュアライゼーション関係の取材では、静止画よりアニメーションやバーチャル環境で見られるような作品が増えている」という実感を述べると、多田氏はそれに同意する。近年では映像やインタラクティブコンテンツの問い合わせが増えており、今後の主流になるのではないかとコメント。会社としてはバーチャル系の仕事をしなければ生き残れないだろうと断言した。

インタビューでは活動拠点の清里高原も話題に。清里高原に拠点を移した理由に関しては、東京から電車でも車でも2時間程度の距離で顔を合わせての打ち合わせも可能であること、標高1,300メートルという高地ゆえに空気が良く涼しいこと。加えて、自然に囲まれたクリエイティブを刺激する場所であることなどが挙がった。実際、清里高原に移ってから作品の志向に変化が生じたと多田氏は語っており、環境問題に関心をもつようになったそうだ。環境をテーマにした映像を手がければ、人々がそれらに興味を抱くきっかけにも繋がる。CGアーティストとしてそういった貢献の仕方もあるのではないかと話す。

地元の人たちとの交流も大切にしており、今では観光グループの一員として山梨県の地方活性のための活動に参加し、中高生に向けたCGスクールなども行なっている。今後の夢として、「パソコンを1台もって来たら自由に仕事ができるような環境づくりをしたい」と胸の内を披露。「志が合うクリエイターが集まって、清里高原がシリコンバレーのように発展していけば面白いのではないかと妄想しています」と笑顔を見せた。



Creator 03: 岩崎航輔氏(VFXアーティスト)

3人目はILM Vancouverに所属するVFXアーティスト・岩崎航輔氏が登壇。岩崎氏は大学在学中にアメリカへ留学し、その自由な文化に触れたことが「将来は北米で働きたい」という動機に繋がったという。大学卒業後は神戸の映像制作会社に就職したものの、その気持ちは冷めることはなく「海外に行くためにどうすれば良いか」を考えて、VFXを本格的に学ぼうと決意。そこでカナダに渡り、専門学校のLost Boys School of Visual EffectsでNukeを習得。就職活動を経て、当初から目標に掲げていたILMに入社した。

万事順調な経歴に聞こえるが、それが実現できたのは「運と人に恵まれたからだ」と岩崎氏はふり返る。ILMに入社できたのは専門学校に推薦してもらえたことが大きかったと言うが、そのためには積極的にアピールし、良い作品を手がけて教師に顔を覚えてもらう必要があった。岩崎氏は「迷っているよりも動き回った方が、自分の周りの世界も動いていく」と話し、少しだけ勇気を出して自分のことを他人に知ってもらうことが良い結果を生むとアドバイスを送る。沼倉編集長もそういった行動力が運や人を呼び込むのだろうと納得していた。

インタビューの中盤では、CGWORLDが企画・運営する3DCGコンテスト「ステイホームVFX」のエピソードが飛び出した。岩崎氏はプロ部門で最優秀賞に輝いたが、応募の理由はBlenderの勉強のためだったと明かす。ILMではコンポジットと2Dワークをメインに扱っているが、「3Dも覚えるように」と上司から言われたこともあり、オフの時間を利用して新しいスキルを学んでみようと思ったそうだ。岩崎氏は「学生時代に全部できるようにならなくても、働くようになってから学んでも良い」とコメント。「恐れずに行動してみる」というチャレンジ精神の大切さが伝わってきた。



Creator 04:今川真史氏(コンポジットアーティスト)

最後に登壇したのは、過去にCGWORLD本誌・CGWORLD.jpでも連載を持っていたFramestore MontrealのVFXコンポジッター・今川真史氏だ。今川氏は、AnimationCafe VFXを経て活動の場をカナダに移し、MPCに入社。その後、現在のFramestoreへ移籍した。今川氏は仕事の傍ら、自主制作作品も数多く手がけている。近年の作品はフルCGが多く、ベースのモデルを作ってキットバッシュを組み合わせるといった手法をよく用いている。また知人のアーティストと共同制作する場合もあり、完成した作品をFramestoreのスーパーバイザーに見せて意見をもらうこともあるなど、仕事と変わらない熱量を注いでいる。

▲今川氏の自主制作作品

今川氏は、海外で働きたいと考えているクリエイターに向けて「自主制作作品をLinkedInに発表すること」と具体的に指南する。発表の場がLinkedInであるのは、北米のアーティストのほぼ全員がアカウントをもっており、スーパーバイザーやリクルーターも高頻度で閲覧しているためだ。そのため優れた作品を発表することができたら、たとえ活動の拠点が日本であろうと海外からオファーが来るはずだという。特にVFX業界は、どの会社も人が足りていない状況にある。その背景には、動画配信サービスで大量の作品が制作されていることや、新型コロナウイルスの感染拡大によりストップしていた映画撮影が再開したことが要因として挙げられる。そのため海外で働きたいクリエイターにとっては「今がチャンスの時期」と言える。

実際、今川氏にもILM Vancouverからゼネラリストとしてのオファーが来ているとのことで、年末からは同社に移籍する予定だという。ゼネラリストとしての経験はほぼなかったものの、自主制作作品を見てもらったことが新しい仕事に繋がったのだ。今川氏は「ゼネラリストもワークフローとしては自主制作と変わらないため、同じ感覚で手がけることができれば」と意気込みを見せる。クリエイターによって働き方も三者三様であることが再確認できるインタビューとなった。