今後さらなる活躍が期待される20人のクリエイターたちに雑談を交えながら「ものづくりにおける信条」をフランクに語っていただくシリーズ企画。今回はインディーズゲームサークル「えーでるわいす」の代表・なるさんに現在の心境を語っていただきました!
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 246(2019年2月号)に掲載した記事を再構成したものになります。
INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
EDIT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
ART DIRECTION_金岡直樹 / Naoki Kanaoka(SLOW)
【これまでに聞いたお話】
"いつも自然体で、客観的な視点も忘れない。"(AC部)「20人に聞く」<1>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画
表現とは、見せることではなく"感じさせる"こと。(柏倉晴樹)「20人に聞く」<2>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画
"『スター・ウォーズ』という夢に向かって、走り続ける。"(今川真史)「20人に聞く」<3>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画
フランス人らしくない 自分だからこそできる、日本のクリエイティブシーンと世界をつなぐ。(ロマン・トマ)シリーズ企画「20人に聞く」<4>
節目節目で自分の才能に見切りをつけてきました。だから、今でもコンテンツ制作を続けています。(富岡 聡)シリーズ企画「20人に聞く」<5>
デジタルアーティスト出身、3人の監督たち。今、改めて目指すのは、"オリジナル企画でヒット!"(宮本浩史/櫻木優平/森江康太)シリーズ企画「20人に聞く」<6>
<1>題材は、身近にある"すごいもの"
CGWORLD(以下、CGW):まずは、これまでの 経歴を聞かせてください。
なる:2003年に専門学校を卒業後、プログラマーとしてゲーム開発会社に入社しました。8年ほど働いてから独立したのですが、「えーでるわいす」としての活動自体は、2004年からはじめていました。現在は、グラフィック担当のこいちさんと共に「えーでるわいす」としての活動に専念しています。
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なる(えーでるわいす)
大阪府出身。専門学校を卒業後、ゲーム開発会社へ入社。プログラマーとして複数タイトルの開発に携わる。2004年から「えーでるわいす」としてインディーズゲーム製作を開始。2011年に独立、現在はパートナーのこいち氏と共に「えーでるわいす」としての活動に専念している。
@nal_ew
CGW:インディーズゲーム開発をはじめられたきっかけを教えてください。
なる:正直、ここまで続くとは思っていませんでした(笑) 社会人2年目のときに簡単なシューティングゲームでもつくってみようと、プロジェクトファイルを起ち上げたのが全てのはじまりです。最初は技術的にも人脈的にもできることが少なかったのですが、活動を続けていくなかで開発を手伝ってくれる仲間が増えたり、自宅の開発環境も良くなってきたため、現在のような活動形態になっています。
CGW:仲間という意味では、現在共同開発されている、こいちさんともそうした中で出会われたのですか?
なる:以前、私の作品をQ-Gamesさんが紹介してくれたことがあったのですが、その記事を目にして興味をもってくれたようでした。当時のこいちさんは某ゲーム会社で背景チームのリーダーをされていたのですが、共通の知人を通じて会ったのが最初です。
CGW:そこから意気投合して一緒に開発をすることになったのですか?
なる:そうですね。こいちさんには背景アーティストとして2作目『花咲か妖精フリージア』(2011)から入っていただきましたが、積極的な提案をたくさんしてくれて。私も負けじと「この素材があるならこういう実装もできる」などとレスポンスすると、さらにそこから質の良い素材をつくってくれるといった具合にブラッシュアップすることができました。このときに、「ああ、これがゲーム開発だよな」と思いましたね。
CGW:開発は自宅で行われているのですか?
なる:はい。メンバーとのやり取りはLINEなどで行なっていて、作業場所は自宅など個々人が自由に決めています。
CGW:ところで、「えーでるわいす」というサークル名の由来を教えてください。
なる:実は特に深い意味はありません。専門学校時代の卒業制作を行なったときのチーム名をそのまま使っています。過激なゲームをつくっていたので、名前だけでもキレイな感じにしようと思いまして(笑)
CGW:独立された理由を教えていただけますか?
なる:子どもの頃からゲーム開発に興味をもっていました。高校卒業後はゲーム系の専門学校へ進学し、その後は順当にゲーム会社に入りました。ですが、キャリアを重ねていくうちに段々と業務が管理側にシフトして、自分がやりたかったはずのゲームづくりとのギャップが生じはじめたのです。当時はちょうど大きなタイトルを担当し終えたタイミングでもあったのですが、インディーズ開発の方がやりがいを感じられるようになっていたので、2011年に独立しました。
CGW:子どもの頃のことを聞かせてください。
なる:兄と姉がいることもあって、生まれたときから家にはファミコンがありました。初めてプレイしたのは『スーパーマリオブラザーズ』(1985)でしたが、その後は『天地創造』(1995)や『ロマンシング サ・ガ』(1992)といった世界観が風土や気候、民族的な衣装などを通じて丁寧に描かれている作品に強く惹かれていきました。シューティングゲームでは『RAY STORM』(1996)にハマりましたね。子どもの頃からゲームが当たり前にある生活を送っていたので、必然的にゲームをつくることに対する憧れも強かったんです。
CGW:自分(沼倉)の場合は「ゲームばかりしてないで勉強しろ!」と叱られたのでうらやましいです(笑)
なる:高校生のときは『RPGツクール』シリーズで遊んだりもしましたね。それと同時に生徒会運営を裏方として手伝ったりも。
CGW:生徒会とはすごいですね。
なる:経営が苦しくなっていた学食の利用を促したり、文化祭の出し物を紹介する映像をつくったりしていたのですが、こうした経験がコミケ参加サークルのPVまとめ動画を制作するときにも役立っているのかもしれません。
CGW:たしかに(笑)。ゲームを遊ぶほかに、インスピレーションが湧く瞬間などはあるのでしょうか。
なる:今日の取材もそうなのですが、私は今まで行ったことがない地域に行くのが好きで、そこでの体験から着想を得ることも多いです。以前「PAX」(Penny Arcade Expo,)というイベントのために渡米したのですが、そこでの体験は全てが新鮮でした。他の国にも行ってみたいのですが、なかなか機会がなくて。機会がない、というのも言い訳になってしまうのですが......。
CGW:海外となると、準備も何かと手間ですしね。
なる:インスピレーションで言えば「身近なものをなるべく取り上げる」ということは意識しています。
CGW:具体例を教えてください。
なる:『天穂(てんすい)のサクナヒメ』(後述)における稲作もそうですが、身の回りに当たり前にあるものが、実は掘り下げるとすごい、ということはよくあります。ほかにも「水道」。あれはすごい仕組みだと思っていて、水を掘り下げてみたいと思っていたんです。ただ、最近は民営化の話などでみんなが取り上げはじめたので、もういいかな、とは思っていますが(笑)
CGW:「えーでるわいす」の開発タイトルは、今のところアクションとシューティングが中心ですが、ポリシー的なものはありますか?
なる:"自分たちの強みを活かす"ことが第一ですね。よそが得意なものを自分たちがつくる必要はありませんし、1タイトルあたりの開発期間が長すぎるという問題もあって(苦笑)、流行を意識することもありません。
CGW:「えーでるわいす」が得意とするものとは?
なる:まずは、"ミドルエンド程度の演出ができる"ことと、"ハイレスポンスなアクションが得意"という2点だと考えています。会社に勤めていたときに格闘ゲーム開発に携わることが多かったので、そうした経験を活かすという意味でもアクション部分の手触り感は大切にしています。
CGW:アクション部分の手触り感を追求するにあたって、開発スタイルにおけるこだわりはありますか?
なる:現在は市販のゲームエンジンを用いず、内製で開発を行っています。『天穂のサクナヒメ』の場合は、souvenir circ.というサークルと共通のコアライブラリを用いていて、そこに私たちのフレームワークを乗せるかたちで開発しています。内製の場合は、つくり込んでいく上で「これが出来ない」ということは原則ないので、細かいところまで調整をすることが可能です。とは言っても、UE4やUnityなどにも興味はあります。このあたりの研究にも取り組んでいきたいですね。
CGW:長期開発とのことですが、スケジュールなどはある程度決めて取り組まれているのですか?
なる:実はほとんどスケジュールを立てるということはしていません(苦笑) 納得できるまで、つくりたいようにつくっています。私自身は絵が描けるわけでもないし、何かに特化しているわけでもないのですが、「完成させる」という能力には長けていると自分では思っているんです。
CGW:なるほど。
なる:「終わるまではやめないだけ」とも言えるかもしれません(笑) 開発を続けながらゴールを定めていくわけですが、自分が納得できるところまでつくったら、あとはユーザーさんにゆだねるしかありません。これでダメなら仕方がない的な。ただ、現在開発中の『天穂のサクナヒメ』は、パブリッシャーが関わっているので、そのあたりの事情はちがうのですが......。
次ページ:
<2>『天穂のサクナヒメ』がターニングポイント?
<2>『天穂のサクナヒメ』がターニングポイント?
CGW:『天穂(てんすい)のサクナヒメ』は、マーベラスがパブリッシャーということですが、タッグを組まれた経緯を教えてください。
PS4『天穂のサクナヒメ』ティザートレーラー(BitSummit2018)
なる:前作『アスタブリード』(2013)を発売後に参加した「BitSummit」でMarvelous USAのXSEED Gamesの方と知り合う機会があったのです。交流を重ねるうちに「次作は一緒にやりましょう」と声をかけてもらえました。ですが、自分たちの信条から出資は受けていません。開発の主導権はえーでるわいすであることを了承してもらい、主に販売面の協力をしてもらっています。
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えーでるわいす新作、鋭意製作中!
『天穂(てんすい)のサクナヒメ』
ジャンル:稲作シミュレーションダンジョン探索コンボアクションRPG
対応ハード:PlayStation(R)4
プレイ人数:1人
発売日:未定
価格:未定
CERO:審査予定
© 2019 Edelweiss. Licensed to XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.
CGW:開発については過去作と同様、なるさん主導で進められているわけですね。
なる:はい。タイトル案などの相談に乗ってもらったりもしていますが、基本的には今まで通りの開発スタイルを貫いています。ただ、今までで最も大きな規模の開発になっているので、このスタイルの集大成になるかもしれません。これ以上の規模になると単純に私が全てをみきれなくなるので、『天穂のサクナヒメ』の次につくるときは別のスタイルを模索したいと思っています。その意味では、今回がターニングポイントになるかもしれません。
CGW:先ほど「1本を完成させるのに時間をかけすぎてしまう」と言われましたが、ゲーム開発が好きなだけでは長く活動を続けるのは難しいと思います。なにか秘訣があるのでしょうか?
なる:特に考えたことはありません。1本目をつくったときは同人ゲーム自体がブームになったタイミングだったので順当に販売数が伸びました。2本目のときはSteamが登場したタイミングで「個人でも海外で売ることができる」ようになりました。タイミングに恵まれたということはありますね。
CGW:サークル「えーでるわいす」の展望は?
なる:私個人としては、サークルそのものを大きくするつもりはないんです。5年後、10年後にはなくなっていてもいいだろうと(笑) ただ、まだまだつくりたいゲームがあります。サークルが続いていくかというよりは、つくりたいものがなくなるまでこの活動は続いていく。そんな感覚です。
CGW:最後に、プロのゲーム開発者を目指している方々へアドバイスをいただけますか?
なる:個人的には、"プロになることを目標にするべきではない"と思っています。つくりたいモノがあるならそれをつくることを目標にする、興味をもてることがあればそれを目標にするべきだと。そうした目標のために手を動かし続けていれば、いつの間にかプロと呼ばれるようになっていると思います。
CGW:個人制作の成果をSNSで公開したことが商業デビューにつながる時代ですしね。今日は、ありがとうございました!
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