今後さらなる活躍が期待される20人のクリエイターたちに雑談を交えながら「ものづくりにおける信条」をフランクに語っていただくシリーズ企画。6人目は『ウサビッチ』など、ユニークなキャラクター表現に定評ある富岡 聡さん。20年以上にわたるキャリアをふり返っていただきました。
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 244(2018年12月号)に掲載した記事を再構成したものになります。
INTERVIEW_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
EDIT_UNIKO(@UNIKO_LITTLE)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
【これまでに聞いたお話】
"いつも自然体で、客観的な視点も忘れない。"(AC部)「20人に聞く」<1>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画
表現とは、見せることではなく"感じさせる"こと。(柏倉晴樹)「20人に聞く」<2>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画
"『スター・ウォーズ』という夢に向かって、走り続ける。"(今川真史)「20人に聞く」<3>CGWORLD創刊20周年記念シリーズ企画
フランス人らしくない 自分だからこそできる、日本のクリエイティブシーンと世界をつなぐ。(ロマン・トマ)シリーズ企画「20人に聞く」<4>
<1>突然だった、3DCGとの出会い
CGWORLD(以下、CGW):富岡さんご自身に関するインタビューは今回が初めてです。そこでまずは、富岡さんが3DCGに関心をもたれたきっかけを教えてください。
富岡 聡(以下、富岡):大学生の時にゲーム会社でパッケージのグラフィックデザインのアルバイトを始めました。てっきりPhotoshopやIllustratorでデザインするものだと思っていたら、いきなりLightWaveを渡されて「モデリングをしてくれ」と(笑)、これがCGを始めたきっかけですね。子供の頃からガンプラをよく作っていたのですが、CGモデリングはまさにPCの中でガンプラを作る感覚でした。しかも、アニメーションやライティングも付けられるので、これは面白いぞと、どんどん熱中していきましたね。
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富岡 聡(カナバングラフィックス)
CGW:偶然の出会いだったとは!! 富岡さんはどのような子ども時代を過ごされたのでしょうか?
富岡:家に籠ってガンプラばかり作っていました。親が心配してサッカー少年団に入れられたのですが、行きたくなくて練習をサボって家でガンプラを作り続けました。当然ですが、友達が減っていきました。親はとても心配していたようですね。とはいえ、自分でも一生がンプラを作っているわけには行かないことはわかっていたので、中学進学を機にガンプラ作りをやめようと思いました。
CGW:(笑)
富岡:ですが、そんなタイミングでガンダムの続編(『機動戦士Zガンダム』(1985〜1986))が始まってしまい、中学でもガンプラ作りに夢中になりガンプラを作り続けました。そうこうしているうちに、地元の模型店の賞を軒並み受賞したり雑誌にも掲載されたり。
CGW:それはそれですごいと思います! 富岡さん、そしてカナバングラフィックスの作風として、可愛らしいキャラクターたちがカラフルな世界観の中で、コミカルでシュール(ときにブラック)なドタバタ劇を繰り広げる......という作風があると思うのですが、影響を受けた作品やクリエイターは?
富岡:先ほども話しましたが、、『機動戦士ガンダム』や、ほかにも『マシーネンクリーガー』といったSFが好きだったりはするのですが、今の仕事にはあまり影響はしていません。むしろ、3歳ぐらいの頃に両親の仕事の都合でアメリカで暮らしたことがあったのですが、そのときに買ってもらった、リチャード・スカーリーの『Richard Scarry's Great Big Mystery Book』という絵本の存在が大きいと思います。二人組の探偵が主人公で、ちょっとドジな豚のダッドリーと要領のいい猫のサムが活躍する物語です。自分が企画をつくるときには、主人公を二人組みにしてしまいたくなるのも、ドタバタした演出を好むのもこの絵本の影響が大きいと思っています。
KANABAN GRAPHICS REEL 2014 from Kanaban Graphics on Vimeo.
CGW:東京農工大学大学院を修了後、1997年に株式会社ドリーム・ピクチュアズ・スタジオ(1997〜1999)へ3DCGデザイナーとして入社されたとのことですが、入社の経緯を教えてください。
富岡:3DCG制作者を志望して10社以上の採用試験を受けたのですが、就職活動は全然上手くいきませんでした(苦笑)。最後の挑戦としてドリーム・ピクチュアズ・スタジオに応募したのですが、実は一度目は不採用でした。ですが、ポートフォリを全て作り直して数ヶ月後に再度応募し直したところ、「二回も応募してきたのは君が初めてだ」と、採用してもらえたのです(笑)
CGW:執念ですね。その後、1999年にフリーランスへ転向され、オリジナルCG短編『SiNK』を発表されました。この作品が『D's Garage21』(1999〜2001)で紹介されたことが大きな転機になったと思います。
富岡:1999年にドリーム・ピクチュアズ・スタジオが解散してしまうのですが、再就職もせず、後先考えずにフリーランスの道を選択しました。若かったので尖っていたんですよね(笑)
CGW:そうだったのですね。
富岡:フリーランスになったのを機に、ドリーム・ピクチュアズ・スタジオ在職中から制作していた『SiNK』を完成させて営業回りをはじめました。同じ年に新番組『D's Garage21』がはじまり、CGアニメーションなどのデジタルコンテンツ作品を募集していたんです。当時はYouTubeも存在していませんでしたし、テレビで放映されるということは本当に衝撃的でした。現在の活動にもつながる良いきっかけになりました。
オリジナルCG短編『SiNK』(1999)
CGW:フリーランス時代はどのように活動されていたのですか?
富岡:とにかく楽しかったですね。最初の3~4年は1日も休むことなく仕事をしていました。お仕事をいただいたプロダクションに居候させてもらって寝袋で過ごしたりも。自分を認めてもらって作品をつくらせてもらうのは嬉しかったので苦痛ではありませんでした。
CGW:そして、2004年には有限会社カナバングラフィックスを創立されました。
富岡:『D's Garage21』で作品を大きく取り上げてもらえたわけですが、番組が終了すると結局は番組の力が大きかったことに気づかされました。オリジナル作品だけで食べていくのは難しく、様々な会社へ営業に出かけ、ゲームやCM、TV番組のCGアニメーション制作の仕事をいただけるようになったのですが、段々と予算も大きくなってきて、個人の集団としてやっていくことに限界を感じはじめたことから法人化することにしたのです。世間的な体裁を整えようと(笑)
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<2>失敗は良い機会だと思えるようになったのは、最近のこと
<2>失敗は良い機会だと思えるようになったのは、最近のこと
CGW:これまでの取り組みを拝見していると、マネジメントや人材育成など、優れたビジネス感覚をお持ちだなと思っています。そうした感覚は自然と身につけられたのでしょうか?
富岡:いいえ。失敗をくり返して、痛い目に遭いながら改善に取り組んでいます。CGで何かをつくることが楽しかったことが原点になりますが、節目節目で自分ができないと思ったことは切り捨てるようにしています。
CGW:それはどういうことでしょうか?
富岡:キャリアをスタートさせた当初は、アート(作家性)に重きを置いていたのですが、2003年から宮崎あぐりが制作に参加してくれるようになったのを機に、アート面は彼女にまかせて私は演出面に力を注ぐようになりました。ですが、やがて演出面でも自分の限界を感じはじめたので学校に通ってシナリオを学び始めました。でも、現在はそれにも限界を感じており、マーケットから逆算して企画をつくることを意識しています。当たり前すぎることなんですが、当たり前のことに向き合うまで時間がかかりすぎました。
CGW:限界を敏感に感じるうちに、自然とビジネスの感覚を身につけられたと。
富岡:自然にではないですね。失敗を何度も重ねて色んな人たちに迷惑をかけてしまって、その度に問題と向き合ってもっとちゃんとしなければ......という一心でした。宮崎や太田(洋康CGディレクター)たち、創業間もない頃から一緒にがんばってくれているスタッフがいるのだから無責任に放り出すわけにはいかない。意地でもプロダクションを続けようと。ビジネスの感覚なんてなくて読んだ本や助けてくれた人たちに教えてもらった通りにやっているだけです。
CGW:失敗をして落ち込んだときはどうやってモチベーションを回復させてきたんですか?
富岡:助けてくれる人がいたり、自分で本を読んで学び直したり、その都度なんとかしようと。問題に向き合えなくて、1年くらい前向きな気持ちになれなかったことだってあります。経営者なので自分ではじめたことなので、原因は全部自分なのです。今は全てに首を突っ込んで、全ての責任をもって取り組むようにしています。ピンチになっても良い機会だという気持ちで取り組めるようになったのはここ数年のことです。
CGW:近年は「オリジナルコンテンツ」、「企業用プロモーションキャラクター」、「ゲーム・アプリ」、「プロダクション」という4つの事業に注力されているとのことですが、そのねらいを教えてください。
富岡:各事業で得られる異なった知識や経験をスタジオ内で共有して、化学変化を起こさせようという目的があります。プロダクション事業では、オリジナル作品で培ってきた表現手法をクライアントワークに応用するのが出発点で、カナバンらしい絵本的なルックだけではなく、人形劇のようにフォトリアルな表現の研究開発にも取り組んでいます。また、レンダリングという工程にはキャリアをスタートさせた当初から疑問と限界を感じているので、ゲーム・アプリ事業を通じてリアルタイムCGにも精力的に取り組むことで、その知見を映像制作にも活用することを模索しています。
オリジナルコンテンツ事業
『イナズマリバリー』シーズン1 トレーラー
CGW:今後のビジネス面の目標は?
富岡:世の中はどんどん変わっていきます。今の時代は「サブスクリプション型」のサービスが主流になり、モノが売れなくなってきています。アニメーション作品についても、収益を上げられる仕組みが10年前とまったくちがうものになりました。当社の強みである「クリエイティブ」をビジネスに上手く組み合わせて、これからも軌道修正を重ねながら新しい挑戦を続けていきたいです。
CGW:富岡さんは確かな作家性をおもちであると同時に、その時代や共につくるスタッフたちにも委ねるところは委ねる的なバランス感覚もおもちだなと思っているのですが、意識されていることはありますか?
富岡:いや、もう本当にいろんな失敗を経験しているので(笑)。スムーズにやってきたわけでもないし自分が優れているわけでもないし、笑えないくらいあり得ない失敗をしているんです。そんなときに、宮崎や太田がいてくれたので、だからこそ自分に見切りをつけることができたんですよね。
企業用プロモーションキャラクター事業
『けんさくとえんじんのクリスマス』
CGW:カナバングラフィックスとしてではなく、富岡さん個人としてこれから挑戦してみたいことはありますか?
富岡:来年が『SiNK』誕生20周年の節目ということでリメイクに取り組みたいですね。まずは、潜水夫の3DCGモデルをMayaで作り直して3Dプリントから立体造形に仕上げてみるとか、もう一度「個人制作」に取り組んでみたい。まあ、当分は仕事が忙しくて時間をつくれそうにないのですが......あ、でもサバゲーをやめればできるかも(笑)
ゲーム・アプリ事業
『LINE ぷるぽん』オープニングムービー
info.
『イナズマデリバリー』
YouTubeにてシーズン1&2、全話無料公開中!
監督・脚本:富岡 聡
キャラクターデザイン・アートディレクション:宮崎あぐり
ビジュアルデザイン:関 厚人
モデリングリード:古部満敬
リギング:宮田眞規
アニメーションリード:阿部圭造
コンポジットリード:太田洋康
アニメーション制作:カナバングラフィックス
製作:イナズマデリバリー製作委員会
© INAZUMA Project