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コンセプトアートでワクワクする未来を創りたい〜INEI代表・富安 健一郎が語る人生の光と陰(後篇)

コンセプトアートでワクワクする未来を創りたい〜INEI代表・富安 健一郎が語る人生の光と陰(後篇)

7月31日(水)に開催されるCGWORLD +ONE Knowledge「世界で戦うトップクリエイターの失敗から学ぶ本気のコンセプトアート論!」を前に、株式会社INEI代表・富安健一郎氏のこれまでの道のりやコンセプトアートの魅力について聞く本インタビュー。後篇は、INEI設立の背景やセミナーへの意気込みについて熱く語ってもらった。

TEXT_UNIKO(@UNIKO_LITTLE
EDIT_UNIKO、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

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世界で戦うトップクリエイターの失敗から学ぶ
本気のコンセプトアート論!
(CGWORLD +ONE Knowledge)
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コンセプトアート完成の基準は、自分の限界を知らないとわからない

CGWORLD(以下、CGW):コンセプトアートに生きる道を見出されたとき、最も魅力に感じたのはどのようなところでしたか?

富安健一郎氏(以下、富安):まず「壮大で世界を感じられる絵」であることに魅力を感じました。さらに、ただ絵を描いているだけではなく、思考を巡らせたりコミュニケーションをとったり、自分の全てを総動員させて本気でやらないといけない点も魅力で、コンセプトアートの道を選んだときは「やっと本気になれるものを見つけた」という手応えを感じました。

僕は器用貧乏な一面があって、デザインにしても何にしても割と器用にこなせてしまうのですが、「どれも80点」という感じでのめり込めなかったんですよね。でも、コンセプトアートは本気を出してもまだまだ上がいて、とてもやりがいを感じるんです。


  • 富安健一郎/Kenichiro Tomiyasu
    株式会社INEI
    コンセプトアーティスト

    ゲーム会社のデザイナー、フリーランスのアーティストなどを経て、2011年にコンセプトアートのスペシャリスト集団である株式会社INEIを発足。現在は同社代表を務めつつ、映画、ゲーム、CMなどのエンターテインメントコンテンツ、都市計画、大型施設などのコンセプトアートを手がけている
    ineistudio.com

CGW:ずっとご自身が納得する道を探してきた富安さんにとって、全力で闘志を燃やせる対象がコンセプトアートだったんですね。

富安:日本でずっとデザイナーとして仕事していると、みなさん結構スタイリッシュにやっているように見えて。どこか「死ぬまでやるぞ!」という気迫が伝わってこなくて物足りなさを感じていたんです。自分が本気ではなかったので、周りの人のすごさがわからなかったのでしょうね。とにかく僕はもっと本気になりたかった。海外のとあるサイトで自分の作品を講評してもらっていたとき、本当に才能があってなおかつ努力している「本気の人」が沢山いるコンセプトアートの世界はすごく楽しいなと痛感したんですよね。

あと、コンセプトアートって悪い方にハマるときは本当にハマるんですが、だからといって必ずしも良いアートになるというわけでもなく、むしろ手早く仕上がった方が出来が良かったりするんですよ。そういうのも面白いですね。


CGW:しかし、クオリティを上げるにはそれなりに時間が必要ですよね?

富安:そう。迷っているときに時間をかけるとどんどんわけがわからなくなってしまうんだけど、完成度を上げるには時間があった方が良い。まだ僕が修行中の頃、今までずっと自分が「完成」だと思っていたものが、本当は全然完成じゃなかったということに気付いたんです。これで完成ではなくて、やっとスタート地点に立ったところだったんですよ。自分の思っていた「完成」は実際はラフの2段階目くらいで、コンセプトアートはそこからが勝負なんです。「途中で止めた奴が負け」みたいなね(笑)。

CGW:なるほど。しかし、コンセプトアートには明確なゴールがないですし、現時点のクオリティがどれくらいのものなのか、自分が今いる位置を知るのは難しいですよね。どこまでクオリティを上げれば完成と言えるのか......。富安さんにとって、どの時点で「完成」になるのでしょうか?

富安:そこなんですよ。独りでやっていたときは「基準」がなかったものだから、ひとつの絵を仕上げるのに結局半年もかかっちゃったわけです(笑)。でね、半年もひとつの絵を描いていると、超拡大して1ドットずつ確認していくような作業になっちゃうんですよ。それでやっと、どこにもうっかりミスがなくて「俺にはこれ以上は無理」という自分にとっての限界が「完成」なんだなとわかりました。もっとも、油絵みたいな純粋な「絵画」として見たら、手を加えられる部分もまだあるんでしょうけどね。でも、とりあえずは自分の限界まで行けたのが自信に繋がったのかな。


CGW:一度限界までやってみなければ、何をもって完成度が高いとするか、自分の基準がもてないですもんね。

富安:そうなんですよ。完成度って自分の限界を知らないとわからないんです。僕自身、ずっと「これが100点。完成!」だと思っていた絵がまだまだスタート地点だったので。300点を目指さないと完成と言えない、とそのときに思いました。そして「こりゃ、体調悪くなるな」と(笑)。

CGW:「完成ではなくスタート地点だった」と気が付いたきっかけは何だったんですか?

富安:前述したミノリー(佐々木 稔氏)の「Tommyはもっと描けると思ってた」という一言だったり、Blizzard Entertainmentの友人の言葉だったり、然るべき人に言われた率直な言葉によってつくづく思い知りました。今となってはどれも笑い話なんだけど、当時はかなり悔しい思いをしましたからね(笑)。

でも、そういうことを言ってくれる人は本当に重要なんですよ。というのも、他のすごい人たちの絵と自分の絵を横に並べてみると、良いか悪いかがよくわかるじゃないですか。で、どこか良くない絵って、単に時間をかけていなかったり本気になっていないだけだったりしたんですよ。だから、目指している「完成」に到達するためには本当に努力しないといけなくて、もうめちゃめちゃ勉強しました。


CGW:根気との勝負だった修行時代を経て、コンセプトアート集団・INEIを設立されました。設立の背景について教えてください。

富安:猛勉強の後「STUDIO TOMIYASU」を経て、2011年にINEIを設立しました。今年で設立8年目になります。法人化しようと思った理由のひとつに、海外で活躍しているすごいスキルをもったアーティストたちと一緒に働ける場所が日本に欲しいな、とミノリーと話していたことがあって。将来、彼らのような凄腕のアーティストと一緒に仕事をするために、「会社を作るという手段もありだな」と思いついたのが大きなきっかけですね。

あとは、「STUDIO TOMIYASU」という看板で仕事をしていて、自分の名前をいちいち言わないといけないのがちょっと嫌だったんですよね(笑)。そうそう、「INEI(陰翳)」という名前もミノリーが考えてくれたんですよ。陰翳はコンセプトアートを描く上でとても重要なものだし、「INEI」という言葉の響きは日本語特有のものらしく、海外で仕事をするようになった場合にも個性的で良いなと。

CGW:漢字で「陰翳」というのもかっこいいですよね。気取ることもなくコンセプトアートの本質を突いていて、言葉選びのセンスが良いと思います。INEIを設立して、フリーランスでの活動とのちがいは感じましたか?

富安:INEIを設立して良かった点のひとつは、僕の中に「INEIちゃん」という別の存在ができたことです。「STUDIO TOMIYASU」としての活動は僕自身が輝かなければいけなかったんですが、会社にすることで、僕が輝くのではなく「INEIちゃん」をブランドとして全面に押し出して輝かせる、と考えられるようになりすごく楽になりました。自分を別の存在に置き換えられるというか。きっと法人ってそういうものなんでしょうね。僕が会社の名前を呼ぶときには「INEIちゃん」と呼んでいて、今ではすごく愛着をもっています。


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「こんな未来が本当に来たらすごい」をコンセプトアートで実現

Profileプロフィール

富安 健一郎/Kenichiro Tomiyasu(INEI)

富安 健一郎/Kenichiro Tomiyasu(INEI)

ゲーム会社のデザイナー、フリーランスのアーティストなどを経て、2011年にコンセプトアートのスペシャリスト集団である株式会社INEIを発足。現在は同社代表を務めつつ、映画、ゲーム、CMなどのエンターテインメントコンテンツ、都市計画、大型施設などのコンセプトアートを手がけている

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