プロデューサーが語る、優秀なPMとは?
情報が集まり、問題を解決できるPMは優秀
▲プロデューサー陣。左から、荒井 淳氏(アニマ)、畑中 亮氏(白組)、吉田 学氏(デジタル・メディア・ラボ)
ここからは、プロデューサーによるPM座談会をお送りする。プロデューサーから見て、PMに果たしてほしい役割や求めるものなどを話していただいた。
CGW:プロデューサーから見て、PMに必要な能力とはなんでしょうか。
畑中 亮氏(以下、畑中):ひとつには、やはり人と会話するコミュニケーション能力ですね。それと、自分自身で物事に向き合っていく力も大切です。
吉田 学氏(以下、吉田):話しかけられやすいっていうのは大事ですよね。トラブルや内緒の話も含めて、情報がどれだけその人に集まるかで仕事の質が変わりますから。
荒井 淳氏(以下、荒井):話しかけづらいPMはたしかによくないですね。基本的には優しい方がいいと思います。
吉田:それと、質問されたときにまずパッと返せるかどうか。「あのPMに聞いたらとりあえずなんとかなる」と思ってくれるかどうかで、集まってくる情報量がぜんぜん違ってくると思います。なので、管理するだけではなく、普段から様々なことに興味を持って、知識を入れておくことが重要ですよね。
畑中:そうですね。そんな優秀なPMだと、ある程度のトラブルならPMのところで解決できるので、プロデューサーまで話がこないんですよね。で、たまに話があるということで聞いてみたら、割と大変なことになってて(笑)。でも、それがPMのいるチームの健全な状態ではないかと思います。
-
畑中 亮氏(白組)
TV局のオフラインエディター、ポスプロ系CGプロダクションのPMを経て2014年ラインプロデューサーとして白組入社。
『モンスターハンター:ワールド』、『モンスターハンターワールド:アイスボーン』、『Pokemon LEGENDS アルセウス』初公開映像 などゲームに関連する映像制作を多く担当。
現在はCGアニメーション映画を担当しながら3名の制作進行チームで複数案件を回している。制作進行の繋がりを作るためにPM会を主催。今、楽しい事は企画。
CGW:荒井さんはゲームディビジョンのマネージャーという立場ですが、チームにPMはいらっしゃるのでしょうか。
荒井:私が所属するアニマはCG部門とゲーム部門があるのですが、私が見ているゲーム部門では、私がPMの役目も兼任しています。今のチームではあくまでゲームアセット制作が中心なので、そこまで規模は大きくありません。なので、PMを付けるほどでもないんですよね。
ゲーム開発ならではの制作工程や役割分担の順番など、細かいニュアンスの把握が管理には必要だったりして、どう教えていいかわからないというのもあります。
吉田:スタッフの人数が少ないのにPMを付けても単純なスケジュール管理で終わってしまいますから、マネジメントのスキルという意味では育たないんですよね。予算を意識して、外注先やクライアントなどともやり取りしながら、ある程度の規模の仕事を少しずつ積み上げるような経験がPMを育ててくれるのかなと思います。
-
吉田 学氏(デジタル・メディア・ラボ)
CGデザイナーとしてフロム・ソフトウェア、SMDE、アニマロイドなどを経てデジタル・メディア・ラボには制作進行として入社。
現在はプロデューサー兼CG制作部長
担当作品 鉄拳シリーズ、機動戦士ガンダムエクストリームバーサスシリーズ、スーパーマリオオデッセイなど。
畑中:どう教えていいかわからないというお話で言うと、PMの仕事ってこれというやり方が確立されているわけではありません。なので、プロジェクト初期はどうしても手探りですし、それが正解かどうかって本当にわからないんですよね。
以前、「やっていることが正しいかどうかわからないし、先輩がいないから聞ける人もいない」と深く悩んでいるPMから連絡をもらったことがありまして。そのときは私が直接悩みを聞いたのですが、だったらいろいろなPMが集まって話す場所があったらいいんじゃないか、と思ったんです。
そこで「PM会」という集まりをたくさんの人に手伝ってもらいながら運営しています。さっそく今目の前にいる吉田さんを呼んだりして(笑)、情報交換会みたいなものを定期的にやっています。やはりみんな他の会社のやり方は気になるみたいで、これがなかなか盛り上がるんですよ。
荒井:それいいですね! 私も参加していいでしょうか?
畑中:もちろんです! 最近はコロナ禍でできていないんですが、オンラインでやろうかなと考えています。そうやってPM同士がつながって、お互いが高め合えることに越したことはないですからね。
-
荒井 淳氏(アニマ)
ゲームや遊技機等、いくつかの開発会社でCGデザイナーとして従事したのち、2007年に株式会社アニマへ入社。ゲームアセット専門の部署立ち上げに参加し、コンシューマやスマホアプリ等数多くのゲームタイトルの制作に携わる。
ディレクターや制作進行の管理業務を経て、現在は部門の統括マネージャーとプロデューサーを兼任している。
なお、アニマは本年より、リアルタイムのカットシーン制作に専門特化した「Cutscene Division」を新たに立ち上げている。https://www.studioanima.co.jp/news/news-2094/
現場経験のあるデザイナーこそPMに有利!
CGW:PMのキャリアプランについてですが、どのような道筋が考えられるでしょうか?
畑中:ひとつはプロデューサーですね。ただ、営業的なセンスが優れている人、きっちりまとめ上げるのが得意な人など、スタイルは分かれると思うんです。当社であったら、そういった適性を見ながらポジションは用意できるようにしたいですね。
吉田:PMの良いところって、制作現場を上流で見られるところなんですよね。以前から思っているのですが、現場上がりのデザイナーこそPMを経験した方がいいと思っています。
なぜかというと、もしその人が将来独立するなら、結局マネジメントをしないといけないから(笑)。だったら一度PMを挟んでもいいんじゃないの? と思います。独立しても、見積もりの感覚や、契約書の読み方、チームビルドなど、役に立つ経験がたくさんあると感じます。
畑中:実際、つくれる人が管理するのがベストなんですよね。いつも部下のPMには「台本から必要なアセットとカット割・ワークフローを想像して、見積もりできるようになってね」と言っていて、これができると営業でもマネジメントでもすごく役立ちます。つくり方を知らないと最初は苦労するのですが、それが素でわかっているわけですから、羨ましいなと思います。
吉田:それにチームビルドの裁量がありますからね。PM的な力をつければつけるほど、自分で何をするか、どう働くかが選べるようになるんじゃないでしょうか。
CGW:では、フリーランスのPMというキャリアはあり得るのでしょうか。
畑中:現状として、フリーランスのPMはほとんど見かけません。今回、PMの座談会に参加された佐藤さんはフリーランスですが、本当に珍しいくらいで。
ただ、私としてはフリーランスのPMとも仕事をしたいと思っています。というのも、プロジェクトの数が大小含めて非常に多くなっているからです。制作進行はプロジェクトの要になるので外注することが難しかったのですが、規模が膨らむに連れてマネジメントの一部分だけをお任せするようなこともあり得るかなと。そうした事例が今後もっと増えると、フリーランスのPMが活躍する場が広がっていくように思います。
CGW:未経験からPMになる方も多いと聞くのですが、その際に「これだけは外せない」という要素はありますか?
畑中:映像の基礎知識だったり、CGに興味を持って覚えてくれるか、といったこともあるにはありますが、何よりも「好き」という気持ちが結局は強いのかなと思います。
CGW:映画なら映画、アニメならアニメで、「これだけ好きなんだ」という気持ちが自分の中にどれだけあるか、ということですね。
荒井:その話、よくわかります。うちにも映画が好きすぎて、とてつもない知識量のスタッフがいて。そのスタッフに「こんな状況が出てくる映画ってあるかな」と聞いたら、すぐポンポンと映画名がいくつか挙がって、さらにはそのシーンのセリフまで覚えている、みたいな感じなんです。そうなるともう、いてくれてありがとうと思えるくらいで(笑)
畑中:その知識って武器ですし、知識をベースに周りと会話できるから強いですよね。好きだからこそ違和感を覚えたりして、そうしてまた仕事が広がっていって。
吉田:違和感があったときの分析能力も必要かもしれませんね。「なんか変」をきちんと言葉で説明できるなら、きっと優秀なPMやプロデューサーになれます。なので、未経験でも十分に可能性はあるのではないでしょうか。