記事の目次

    プロジェクトの規模が大きくなるにつれ、重要なポジションとなるプロダクションマネージャー(PM)。制作進行とも呼ばれる本職は「つくること以外は基本的に全部やる」とも言われ、プロジェクトを強力に下支えし、リードする役割として近年ますます注目されている。

    しかし一方で、デザイナーやエンジニア職と比較すると、はっきりとしたキャリアプランが確立されておらず、また仕事内容も外部からは見えづらい一面もある。先日公開されたアンケートにおいても、特に前職やキャリアプランについての回答がバラけるという興味深い結果となっている。

    そこで今回、映画・テレビ・ゲーム・アニメなどを手がける各社現役のPMにお集まりいただいて、実際にどのように働いているかについて話を聞いた。さらにプロジェクト全体を統括するプロデューサーの立場から、PMの必要性や今後想定されるキャリアプランなどについて語ってもらった。

    • CGWORLDリサーチ vol.14 プロダクションマネージャー編

      現役PM及びPM経験者と、PM募集企業へのアンケート結果をまとめた調査記事だ。PMの仕事内容やキャリアについて紹介している。
      https://cgworld.jp/regular/vol14-pm.html

    TEXT_安田俊亮
    PHOTO_弘田 充
    EDIT_藤井紀明(CGWORLD)
    INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)

    プロダクションマネージャーに聞く、現場のこと。

    役割が分かれ、徐々に明確になってきたPMの重要性

    ▲座談会に参加してくれたプロダクションマネージャー陣。左から、吉田圭吾氏(デジタル・メディア・ラボ)、小野竜弥氏(白組)、佐藤法子氏(フリーランス 現在、NHKアートを中心に活動)、堤 大真氏(グラフィニカ) 

    CGW:みなさんのPMになった経緯を教えてください。

    小野竜弥氏(以下、小野):もともとはCMの制作会社で進行業務をしていました。「映像をつくりたい」と思ってその会社に入ったのですが、実際は外部との連携や人の手配が主で実作業を伴う仕事とは少し違うんだなと感じていました。
    大学時代に自主制作作品の監督や撮影をしながら進行業務も担当していたのですが、制作進行そのものは苦手ではなかったので、適正があったのかもしれません。現在の白組に入社したのは、「その経験があるならCGの制作進行もできるのでは」と運良く声をかけてもらったのがきっかけです。CG業界でのPM歴は4年ほどですが、仕事としては10年ほどになります。

    • 小野竜弥氏(白組/プロデューサー)


      映像制作を実制作により近いポジションからサポートしたいと考え、白組に2018年に中途採用で入社。入社後CGラインプロデューサーとして進行業務等行い、現在はCGプロデューサーも担当。
      短期案件等もCM制作時代の進行業務経験などを生かし柔軟に対応できる事が強み。
      近年担当した作品は2020年秋より公開の東洋水産株式会社『赤いきつねと緑のたぬき赤緑合戦 TV-CM シリーズ4篇』。この商品のメインキャラクター武田鉄矢さん、濱田岳さんをCGキャラクター化、その他の出演キャラクターや背景もフルCGで制作。社内でCM演出も行うなど意欲的に取り組んだ。

    佐藤法子(以下、佐藤):私はCGデザイナーの専門学校で初めてPMの存在を知って、目指すようになりました。当時は一般大学に通いながらのダブルスクールで、最初はデザイナー志望だったんです。
    つくることも楽しかったんですが、チーム制作をする中でクラスメイト同士をつないだり、いろいろな方とコミュニケーションをとるのも楽しかったんですね。そうしたら先生から「PMが向いているんじゃない」と教えていただいて。「それって面白いかも」と思って、PMに絞って就活をしました。現在はフリーで、PM歴は9年目です。

    • 佐藤法子氏(フリーランス/制作進行)


      一般大学と日本電子専門学校のダブルスクールを卒業後、デジタル・フロンティアに入社。
      4年半の在籍中は『おおかみこどもの雨と雪』など、長編映画や、フルCG・実写VFX作品に多数携わる。
      その後カナダ・トロントに渡り、Side Effects Software, Inc. でインターンとして日本のHoudiniユーザー向けのローカライズやマーケティングを経験し、帰国。
      現在はフリーランスPMとして、NHKアートで数々の番組に携わる。

    堤 大真氏(以下、堤):私はアニメ『SHIROBAKO』(※)との出会いが大きかったです。もともと「ゲームやアニメをつくりたい」との思いはあったのですが、強烈に絵を描きたい、何が何でもストーリーを書きたいかというとそうでもなくて。
    『SHIROBAKO』で制作進行という職種を初めて知ったのですが、こんなに現場としっかり密着して、最前線でものができていく様子が見られるのはすごいなと思えて。周りの状況を見ながら物事を進めるのも私自身に向いていましたし、アニメ制作の専門学校に通いながら、最初からPM志望でグラフィニカに就職しました。2020年入社で、現在2年目です。

    ※2014年より放送されたアニメ業界を描いた作品。主人公の宮森あおいが社会人1年目の制作進行、との設定になっている。P.A.WORKS制作。監督は水島 努氏。

    • 堤 大真氏(グラフィニカ/プロダクションマネージャー)


      2020年に3月に日本工学院専門学校専門学校を卒業し同年4月株式会社グラフィニカへ就職。
      学科はマンガ・アニメーション科四年制でアニメーションコースへ、撮影を専攻。アニメーションにおける撮影技術を実習で学びながら、コンクールや学内の成果物として提出するアニメーション作品の制作で制作進行を務める。7月に公開された 『白猫プロジェクト Original Horizon ~受け継がれし絆~ アニメーションPV【6周年記念イベント】』にて制作進行として参加。2021年 6月 Netflixで公開予定の【終末のワルキューレ】5話、10話にて制作進行として参加。

    吉田圭吾氏(以下、吉田):僕は立命館大学の映像学部で映像をつくっていたのですが、その頃から制作進行をしていました。もともとコミュニケーションが得意で、話したら相手が聞いてくれるし、こちらに聞きに来てくれることも多かったんです。「手は動かしたくないけど何かつくりたい」と思っていた僕にとって、話しているだけで物事が上手く進むのが快感で。
    それとよく周りを見ると、クリエイティブ以外は苦手な人ばかりだったんです(笑)。なるほど適材適所ってあるな、きっとこれが僕の天職なんだろうなと思い、はっきりとPMを目指すようになりました。デジタル・メディア・ラボに新卒で入って、今年で3年目になります。

    • 吉田圭吾氏(デジタル・メディア・ラボ)


      立命館大学映像学部を卒業。新卒でデジタル・メディア・ラボに入社し、ゲームのカットシーンや遊技機案件など担当。担当作品は『けものフレンズ3』など。DMLサウナ部 部長も務める。

    CGW:中堅2人、若手2人といいバランスの座談会ですね。特に若手の2人は明確にPMを目指して新卒入社されていますが、世代によってPMのイメージが変わってきているのでしょうか?

    小野:きっちり役割が決まってきたのは、ここ20年くらいのことかなと思います。実制作とは別のマネジメント部隊がいた方が進めやすいなとわかってきたというか。

    佐藤:私たちよりももっと上の世代になると、最初はつくり手側だったという人が多くいる印象です。

    小野:CG業界の黎明期はみんながつくり手で、プロジェクトの規模が今ほどは大きくなかったこともあって、そこまで管理する必要がなかったのかなと。だんだんとプロジェクトの規模が大きくなる中で、管理に長けている人が管理したり、実制作が得意な人はより特化したり。そう考えると、CG業界が成熟してきた感じがありますね。昔はCGについて一部の専門性の高い方だけが携わる狭いイメージだったのですが、今のPMには一般大学出身の人も多くいます。それだけ、広く認知されてきたのかなと思います。

    「マネジメントは母親」。人に合わせた進行を心がける

    CGW:みなさん普段はどのような仕事をされているのでしょうか?

    :私の場合は、アニメの制作進行として担当者の割り振りや進捗の管理、素材回しなどが仕事になっています。手戻りがないように、特に設定などはよく話し合いますね。手元に素材が届いたときは自分でしっかり確認して、抜けがないかどうかを確認するなど、細かいミスを減らすようにしています。

    吉田:CGでも基本的なことは変わらないですね。僕の場合は、モーションキャプチャの収録がある場合は積極的に参加するようにしています。現場に行ってはじめて、つくっているCGがどの部分に使われるのかがわかったりしますし、それが頭の中でつながることで作品チェックの精度も上げられます。結果的に良い仕事ができるんです。

    佐藤:私は主にテレビ番組で、ドラマやドキュメンタリー番組のCG・VFX制作の進行管理をしています。プロジェクト単位でのスケジュール管理もしますし、クライアントや外注先の窓口もします。ほかにも、データのやり取りやロケ・収録の立ち会いといったこともやります。
    最近ではCGチーム全体のヒューマンリソース管理もしていて、誰がいつ何をしているかを見ています。「このデザイナーさんはこの時期に手が空きそうですが、何か仕事ありますか?」などと社内で共有してスケジュールを埋めるような感じですね。

    CGW:そういったこともやられているんですね。

    佐藤:管理することは性格に合っているんだと思います。それと、デザイナーさんの手が空いている期間があると「もったいない」と思って、モヤモヤしてしまうんですよ(笑)

    小野:ぜひ聞いてみたいのですが、佐藤さんはどれくらいの人数を管理しているんでしょうか。

    佐藤:時期によって変わりますがだいたい20名くらいですね。

    小野:やはりそうですか。私も個人的にひとりで見られるのは20名くらいだと思っています。それ以上はひとりひとりへの細かいケアが難しくなってくるので、もっと大きい枠での管理になってしまうんですよね。

    CGW:それだけ人数が多いと、連絡のやり取りが大変だったりしませんか?

    吉田:スタッフは朝型だったり夜型だったり、得意な活動時間がバラバラなので、いつでも連絡が付くようにはしていますね。その人によって電話がよかったり、メールがよかったり、対面がよかったりと話を聞いてもらいやすい媒体が変わるので、それに合わせたりもします。

    CGW:催促の仕方なども大事ですよね。

    :そうですね。もし催促をするときは、理由を添えるようにしています。「この工程まで進んでいないと全体が止まってしまうので、頼むからいつまでに完成させてください」みたいな感じですね。相手にきちんと理由を伝えると、なんとかねじ込めます。

    小野:それと、「2週間後にこれをやって」と言ってあってもやはり忘れるものなので、5日前くらいに「今から始めれば間に合うんじゃないでしょうか?」などと追加で声をかけると、やってくれたりしますね。

    CGW:なるほど。みなさんが使っているツールはどんなものでしょうか?

    吉田:僕はExcelメインで、一覧をつくってひとつずつ潰していくような力技でやっています。ただ、最近Shotgunを知って、これいいなと。Shotgunを覚えながら、どうやって現場に浸透させていくかを考えているところです。

    佐藤:私は自己管理としてGoogleカレンダーやExcelにまとめています。ドキュメンタリー番組はプロジェクト期間があまり長くないものもありますし、そのときの世界情勢によって、より伝わりやすく変えることが多くあります。最初はTrelloやToDoリストをつくって細かく管理していたのですが、複数の案件を担当していることもあり、対応しきれないんですよね。

    小野:佐藤さん、すごくきっちりしているので、ガントチャートなどを使っていると思っていました(笑)

    佐藤:チェックのタイミングとか、ポイントになる日付をしっかり押さえて、チャットワークを活用し、デザイナー側にもスケジュールを把握してもらうことで管理はできますね。

    小野:結局は、全体の面倒をきちんと見られるかどうかということですね。「マネジメントは母親」とよく言いますが、PMが持つべき大切な要素ですよね。

    プロデューサー以外の可能性も? PMがたどる次のキャリア

    CGW:PMをやっていて、やりがいを感じる瞬間はいつですか?

    :良い素材が手元に届いたときはうれしいですね。綺麗だったり迫力があったり、そういう素材を見るとモチベーションがガンと上がります。

    小野:素材が少しずつ積み重なっていく、その過程を見られるのは本当にいいですよね。

    佐藤:私は小さい頃からテレビっ子だったので、今テレビ制作の裏側にいられることに日々ワクワクしています。

    CGW:逆に、大変だったことはありますか?

    吉田:一度、スケジュールもリソースも足りないプロジェクトを振られたことがあって、それは大変でした。さばいてさばいてをくり返してなんとか終えられたのですが、その後の打ち上げでメインディレクターに「無茶だと思ったが、いてくれて助かった」と言われたときはうれしかったですね。

    小野:以前CMの撮影で、「物が現場に届かないことがわかったから、CGでつくってほしい」という依頼があって(笑)。この対応は大変でした。急遽撮影で関西まで行って、その後3日くらいで納品して......。基本は大変な仕事ですが、終われば全てが楽しかったりします。負の感情を溜め込まないで、さっぱりと忘れていくタイプは向いているかもしれないですね。

    CGW:みなさん、今後はどのようなキャリアを目指されるのでしょうか?

    吉田:今後は、予算も含めた管理を学び、最終的にはプロデューサーになりたいと考えています。

    :私は一緒に仕事ができる人を増やして、大きな座組をつくってみたいなと思います。それと、専門学校時代の仲間ともう一度組んでつくりたいという夢もあります。そうした場所をプロデューサーとして生み出して、良い意味で人の人生を変えられるようなものをつくりたいですね。

    小野:私も基本的にはプロデューサーです。TVCMの制作会社出身なので、CGプロダクションの中では現場のことがいろいろわかっているかなと。CM寄りのCGプロデューサーとして、無駄を省きながら質の高いものをつくっていきたいなと思います。

    佐藤:私は、今の仕事の幅をもっと広げていきたいですね。今のCGチームのヒューマンリソース管理だけではなく、他のチームのヒューマンリソース管理など、自分のできることから少しずつ広げたいと考えています。

    小野:佐藤さんは圧倒的に管理が得意なんだと思います。私なんかは仕事を取ってきたいタイプですが、佐藤さんのように俯瞰ができて、管理を極めている人も会社にとっては重要ですからね。

    CGW:今のお話を聞いていると、PMの次のキャリアはプロデューサーだけではないのかもしれませんね。今後はよりPM的役割に特化した、管理のエキスパートのようなキャリアプランがもっと出てくるように思います。

    小野:そうですね。私自身、プロデューサーとPMを兼任することがあるのですが、プロデューサーとして取りたい仕事が、制作進行的には無理がある、みたいにぶつかる瞬間があるんですよ。
    その場合は、いい顔をしたいプロデューサーの自分が勝ってしまって、スタッフに多少無理をさせてしまいます。なので、プロデューサーとPMは分かれていたほうが良い仕事になるなとは感じていました。ここにきて、PMの役割や可能性がどんどん広がっているのかもしれませんね。

    ここまでは現役PMたちの仕事内容・キャリアについての座談会の模様を見てきた。次ページでは、PM経験のあるプロデューサー達に、PMに求められるスキルや経験について語っていただいている。こちらも参考にしてほしい。

    次ページ:
    プロデューサーが語る、優秀なPMとは?

    [[SplitPage]]

    プロデューサーが語る、優秀なPMとは?

    情報が集まり、問題を解決できるPMは優秀

    ▲プロデューサー陣。左から、荒井 淳氏(アニマ)、畑中 亮氏(白組)、吉田 学氏(デジタル・メディア・ラボ) 

    ここからは、プロデューサーによるPM座談会をお送りする。プロデューサーから見て、PMに果たしてほしい役割や求めるものなどを話していただいた。

    CGW:プロデューサーから見て、PMに必要な能力とはなんでしょうか。

    畑中 亮氏(以下、畑中):ひとつには、やはり人と会話するコミュニケーション能力ですね。それと、自分自身で物事に向き合っていく力も大切です。

    吉田 学氏(以下、吉田):話しかけられやすいっていうのは大事ですよね。トラブルや内緒の話も含めて、情報がどれだけその人に集まるかで仕事の質が変わりますから。

    荒井 淳氏(以下、荒井):話しかけづらいPMはたしかによくないですね。基本的には優しい方がいいと思います。

    吉田:それと、質問されたときにまずパッと返せるかどうか。「あのPMに聞いたらとりあえずなんとかなる」と思ってくれるかどうかで、集まってくる情報量がぜんぜん違ってくると思います。なので、管理するだけではなく、普段から様々なことに興味を持って、知識を入れておくことが重要ですよね。

    畑中:そうですね。そんな優秀なPMだと、ある程度のトラブルならPMのところで解決できるので、プロデューサーまで話がこないんですよね。で、たまに話があるということで聞いてみたら、割と大変なことになってて(笑)。でも、それがPMのいるチームの健全な状態ではないかと思います。

    • 畑中 亮氏(白組)


      TV局のオフラインエディター、ポスプロ系CGプロダクションのPMを経て2014年ラインプロデューサーとして白組入社。
      『モンスターハンター:ワールド』、『モンスターハンターワールド:アイスボーン』、『Pokemon LEGENDS アルセウス』初公開映像 などゲームに関連する映像制作を多く担当。
      現在はCGアニメーション映画を担当しながら3名の制作進行チームで複数案件を回している。制作進行の繋がりを作るためにPM会を主催。今、楽しい事は企画。

    CGW:荒井さんはゲームディビジョンのマネージャーという立場ですが、チームにPMはいらっしゃるのでしょうか。

    荒井:私が所属するアニマはCG部門とゲーム部門があるのですが、私が見ているゲーム部門では、私がPMの役目も兼任しています。今のチームではあくまでゲームアセット制作が中心なので、そこまで規模は大きくありません。なので、PMを付けるほどでもないんですよね。
    ゲーム開発ならではの制作工程や役割分担の順番など、細かいニュアンスの把握が管理には必要だったりして、どう教えていいかわからないというのもあります。

    吉田:スタッフの人数が少ないのにPMを付けても単純なスケジュール管理で終わってしまいますから、マネジメントのスキルという意味では育たないんですよね。予算を意識して、外注先やクライアントなどともやり取りしながら、ある程度の規模の仕事を少しずつ積み上げるような経験がPMを育ててくれるのかなと思います。

    • 吉田 学氏(デジタル・メディア・ラボ)


      CGデザイナーとしてフロム・ソフトウェア、SMDE、アニマロイドなどを経てデジタル・メディア・ラボには制作進行として入社。
      現在はプロデューサー兼CG制作部長
      担当作品 鉄拳シリーズ、機動戦士ガンダムエクストリームバーサスシリーズ、スーパーマリオオデッセイなど。

    畑中:どう教えていいかわからないというお話で言うと、PMの仕事ってこれというやり方が確立されているわけではありません。なので、プロジェクト初期はどうしても手探りですし、それが正解かどうかって本当にわからないんですよね。
    以前、「やっていることが正しいかどうかわからないし、先輩がいないから聞ける人もいない」と深く悩んでいるPMから連絡をもらったことがありまして。そのときは私が直接悩みを聞いたのですが、だったらいろいろなPMが集まって話す場所があったらいいんじゃないか、と思ったんです。
    そこで「PM会」という集まりをたくさんの人に手伝ってもらいながら運営しています。さっそく今目の前にいる吉田さんを呼んだりして(笑)、情報交換会みたいなものを定期的にやっています。やはりみんな他の会社のやり方は気になるみたいで、これがなかなか盛り上がるんですよ。

    荒井:それいいですね! 私も参加していいでしょうか?

    畑中:もちろんです! 最近はコロナ禍でできていないんですが、オンラインでやろうかなと考えています。そうやってPM同士がつながって、お互いが高め合えることに越したことはないですからね。

    • 荒井 淳氏(アニマ)


      ゲームや遊技機等、いくつかの開発会社でCGデザイナーとして従事したのち、2007年に株式会社アニマへ入社。ゲームアセット専門の部署立ち上げに参加し、コンシューマやスマホアプリ等数多くのゲームタイトルの制作に携わる。
      ディレクターや制作進行の管理業務を経て、現在は部門の統括マネージャーとプロデューサーを兼任している。
      なお、アニマは本年より、リアルタイムのカットシーン制作に専門特化した「Cutscene Division」を新たに立ち上げている。https://www.studioanima.co.jp/news/news-2094/

    現場経験のあるデザイナーこそPMに有利!

    CGW:PMのキャリアプランについてですが、どのような道筋が考えられるでしょうか?

    畑中:ひとつはプロデューサーですね。ただ、営業的なセンスが優れている人、きっちりまとめ上げるのが得意な人など、スタイルは分かれると思うんです。当社であったら、そういった適性を見ながらポジションは用意できるようにしたいですね。

    吉田:PMの良いところって、制作現場を上流で見られるところなんですよね。以前から思っているのですが、現場上がりのデザイナーこそPMを経験した方がいいと思っています。
    なぜかというと、もしその人が将来独立するなら、結局マネジメントをしないといけないから(笑)。だったら一度PMを挟んでもいいんじゃないの?  と思います。独立しても、見積もりの感覚や、契約書の読み方、チームビルドなど、役に立つ経験がたくさんあると感じます。

    畑中:実際、つくれる人が管理するのがベストなんですよね。いつも部下のPMには「台本から必要なアセットとカット割・ワークフローを想像して、見積もりできるようになってね」と言っていて、これができると営業でもマネジメントでもすごく役立ちます。つくり方を知らないと最初は苦労するのですが、それが素でわかっているわけですから、羨ましいなと思います。

    吉田:それにチームビルドの裁量がありますからね。PM的な力をつければつけるほど、自分で何をするか、どう働くかが選べるようになるんじゃないでしょうか。

    CGW:では、フリーランスのPMというキャリアはあり得るのでしょうか。

    畑中:現状として、フリーランスのPMはほとんど見かけません。今回、PMの座談会に参加された佐藤さんはフリーランスですが、本当に珍しいくらいで。
    ただ、私としてはフリーランスのPMとも仕事をしたいと思っています。というのも、プロジェクトの数が大小含めて非常に多くなっているからです。制作進行はプロジェクトの要になるので外注することが難しかったのですが、規模が膨らむに連れてマネジメントの一部分だけをお任せするようなこともあり得るかなと。そうした事例が今後もっと増えると、フリーランスのPMが活躍する場が広がっていくように思います。

    CGW:未経験からPMになる方も多いと聞くのですが、その際に「これだけは外せない」という要素はありますか?

    畑中:映像の基礎知識だったり、CGに興味を持って覚えてくれるか、といったこともあるにはありますが、何よりも「好き」という気持ちが結局は強いのかなと思います。

    CGW:映画なら映画、アニメならアニメで、「これだけ好きなんだ」という気持ちが自分の中にどれだけあるか、ということですね。

    荒井:その話、よくわかります。うちにも映画が好きすぎて、とてつもない知識量のスタッフがいて。そのスタッフに「こんな状況が出てくる映画ってあるかな」と聞いたら、すぐポンポンと映画名がいくつか挙がって、さらにはそのシーンのセリフまで覚えている、みたいな感じなんです。そうなるともう、いてくれてありがとうと思えるくらいで(笑)

    畑中:その知識って武器ですし、知識をベースに周りと会話できるから強いですよね。好きだからこそ違和感を覚えたりして、そうしてまた仕事が広がっていって。

    吉田:違和感があったときの分析能力も必要かもしれませんね。「なんか変」をきちんと言葉で説明できるなら、きっと優秀なPMやプロデューサーになれます。なので、未経験でも十分に可能性はあるのではないでしょうか。