2022年10月25日(火)〜26日(水)の2日間にわたり、Unityユーザーのためのテクニカルな講演が一堂に会する大規模カンファレンス「SYNC 2022」がオンラインおよびサテライト会場で開催された。本稿では、国土交通省によるセッション「3D都市モデル『PLATEAU』が実現する未来」についてレポートする。

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    イベント概要

    SYNC 2022

    開催日時:2022年10月25日(火)~26日(水)10:00~22:00(予定)
    開催形式:オンライン(事前登録制)
    events.unity3d.jp/sync

    Project PLATEAUとは

    本セッションで登壇したのは、国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐の内山裕弥氏。内山氏は、Project PLATEAU(プラトー)全体のディレクションやマネジメントを担当する立場で、プロジェクトの統括や企画に関わっている。冒頭に、国土交通省の新しい取り組みが動画で紹介された。

    ▲1995年の阪神淡路大震災から現在にいたるまでの国土交通省の取り組みを紹介した動画

    国土交通省は、“まちづくり”のDXによるデジタルツインの実現を目指しており、その中核にあるPLATEAUによって3D都市データの利用促進を図ることを目的としている。3D都市モデルとは、建物、道路など目に見えるものを三次元データ化したもの。PLATEAUではそれに加え、都市計画、人流、災害リスクなど目には見えない情報も合わせてデータ化し、オープンに提供している。

    ▲PLATEAUの画面イメージ

    さらにPLATEAUでは、建物用途や構造などの属性情報をコーディングすることで、各オブジェクトに「それが何なのか」といった情報をもたせている。広域におよぶビッグデータにもかかわらず、各オブジェクトもリッチな情報をもっていることがPLATEAUの最大の特徴といえる。

    PLATEAUのもうひとつの特徴として、国土交通省が「3D都市モデル標準製品仕様書」を策定している点が挙げられる。標準データモデルを定めることにより、誰でも安心して利用できる。データカバレッジは2022年の9月時点で60都市、約1,000万建物、1万平方キロメートル。これらは、全てオープンデータ化している。

    PLATEAUの4つのデータ特性

    PLATEAUのデータの特性として4つ挙げられた。

    1.オープンフォーマットによる標準化
    2.都市スケールの3次元「地図」
    3.構造化されたデジタルツイン実装モデル
    4.オープンデータ

    まず1つ目のデータ特性は、オープンフォーマットであること。PLATEAUは、国際的に流通している「CityGML 2.0」で記述されている。その結果、様々なソフトウェアでネイティブに使える。データが重くなってしまうデメリットはあるが、そこはパーサによって様々なデータフォーマットに加工することで解消可能だ。さらに、2021年3月にはHTML版もリリースしている。

    そして、官民の様々な人たちによってコンバータが作られている。PLATEAUが提供している公式のコンバータでは、FMEという地理空間情報系のソフトウェアを使った変換マニュアルとスクリプトを配布しており、OBJやFBXなどのデータフォーマットに変換できる。

    ▲PLATEAU公式以外にもCityJSON、ArcGIS、Open 3D、Blender、Omniverseなどへのコンバータがあり、PLATEAU SDK for Unityという汎用的なゲームエンジンフォーマットに向けたSDK開発も今年度中のリリースを目指して進行中だ

    2つ目のデータ特性は、地方自治体や公共主体が仕事として作っている地図データを元にしていること。つまり精度が管理されていて、正確な座標値をもっている。そのため、都市の一部分を使う場合でも相互の位置関係、相対座標や地形との関係などを正確に位置付けて利用することができる。

    例えば、現実の都市を舞台としたデジタルツールの開発、あるいは既存の都市を参照した仮想都市の構築などが実現可能。相対座標のデータと違って、想定よりも距離が離れてしまうこともない。慣れないとオフセットや位置調整が難しいかもしれないが、Unityが用意しているチュートリアルを参照することで比較的容易にデータを使えるようになる。

    ▲YouTubeのUnity Japanチャンネルに「今さら聞けないPLATEAUを楽しむためのUnityのいろは」というチュートリアルがある

    3つ目のデータ特性は、構造化されているということ。都市データに限らず、これまでの3Dデータはメッシュモデル、TIN(ティン)と呼ばれる三角形を張り合わせてサーフェスを形成する方法で作られていた。これは形状を再現することには向いているが、建物なのか地面なのか樹木なのかなど、「これが何なのか」という情報を保持していない。

    PLATEAUは単なるCGデータではなく、都市空間の意味を表現する構造化データである。ビルディングというクラスにとどまらず、壁、ドア、窓といった部分ごとにオブジェクト定義をしている。例えばゲームエンジンでは窓だけ透過させたり、GIS的な使い方では屋根だけ抽出して太陽光パネルの設置可能面積を計算できる。さらに建物の用途、建築年、階数などのリッチな情報ももっている。

    ▲ビルディングというクラスのなかで、壁、ドア、窓などのオブジェクト定義をしている

    4つ目のデータ特性は、オープンデータであること。CC BY4.0など、いくつかのライセンスで提供しており、東京23区などに限られるが、FBXやOBJなどにコンバートしたデータも提供している。また、ゲームエンジン用のフォーマットだけではなく、3DTilesというWebGIS用のレンダリングフォーマットでのストリーミングサービスも行なっている。

    オープンデータなので、商用利用を含めた複製、加工、編集などができ、既存のプラットフォームと組み合わせてさまざまな開発ができる。例えばWebGISプラットフォームのRe:EarthでPLATEAUのデータを呼び出してハザードマップを作ったり、UnityのAR Coreと組み合わせてWebGISのデータでARアプリを開発したりすることも可能だ。

    ▲Re:Earthの活用事例として「PLATEAU × オープンデータで3次元洪水シミュレーションマップの開発」という動画がYouTubeのRe:Earthチャンネルで公開されている

    Unityを利用したソリューション開発事例

    PLATEAUに関して、国土交通省で取り組んでいるUnityを活用したソリューションの開発事例から、代表的なユースケースが6点紹介された。

    Case 1:歩行者移動・回遊行動シミュレーション

    まちづくりで、「どこの道路を広げるか」などの計画を立てる際に、デジタルツイン上でシミュレーションして効果を分析する取り組み。人流の動きなどの計算結果をCSVなどで書き出し、Unityにインポートしたデータを行動ログとして可視化することで、合意形成や政策検討を行う。

    ▲「歩行者移動・回遊行動シミュレーション」のイメージ

    Case 2:都市AR空間とメタバースの連携プラットフォーム

    いわゆるXRコンテンツ。これまでは、現場に行ってマップを取得して手作業で位置を調整するか、マーカーを置いて相対位置で設定しなければならなかったが、PLATEAUのデータならばPC上の操作のみで狙った位置にコンテンツを配置できる。なお、空間の設計やARの実装はUnityで行なっている。

    ▲「都市AR空間とメタバースの連携プラットフォーム」のイメージ

    Case 3:3D都市モデルとBIMを活用したモビリティ自律運行システム

    自動運転車両やドローンなどを動かすときのルート計算、モニタリング、監視を行う。車両自体はSLAMで動いているが、モニタリングシステムをUnityで実装している。現在地を現場のカメラ映像・俯瞰図・主観図によってオペレータが確認し、いざとなったら止めることができる。

    3D都市モデルとBIMを活用したモビリティ自律運行システム」のイメージ

    Case 4:3次元データを用いた土砂災害対策の推進

    PLATEAUのデータをべースに住民情報を入れておけば、土砂災害発生時に流出量をドローン測量して被害状況を瞬時に把握し、救助オペレーションや復旧オペレーションに役立てられる。WebGISで構築しているが、ARで現場でも見られるように計画中。

    3次元データを用いた土砂災害対策の推進」のイメージ

    Case 5:XR技術を活用した市民参加型まちづくり

    新しい住民説明会のかたち。現実には建物がある場所を、いったん何もない状態で見られるXRをHololens 2のアプリとして実装している。アプリはUnityで開発。参加住民には映像やコメントをその場で残してもらい、地図上でインタラクティブに見ながら議論できるようなしくみだ。

    XR技術を活用した市民参加型まちづくり」のイメージ。Hololens 2のアプリによって、何も建っていない状態を確認できる

    Case 6:自動運転車両の自己位置推定におけるVPS活用

    VPSとは、マップデータと光学カメラから取得した映像をマッチングさせ、位置を測定する技術。マップにしたPLATEAUのデータを車両に付けている。PLATEAUのデータは見た目がフォトリアルではないので、取得した映像と近接させるために、Unityをベースにしたレンダリングのしくみを開発中だ。また、Unityによってカメラ画像を比較し、位置を割り出すという使い方もある。

    ▲「自動運転車両の自己位置推定におけるVPS活用」のイメージ。レンダリングによって、PLATEAUの見た目を現実の映像に近づけている

    ほかにもPLATEAUのユースケースは多数あり、PLATEAUのWebサイトから見ることができる。

    最後に「3D都市モデルの整備・活用促進に関する検討分科会」という官民コンソーシアムや「PLATEAU NEXT」というイベントに加え、「Project PLATEAU事業推進に向けての情報提供依頼」というRFIの紹介があった。「国土交通省とこれまでお付き合いのなかった企業さんも、入っていただくことで繋がりも生まれますので、ぜひ見てみてください」という内山氏の挨拶でセッションは締めくくられた。

    TEXT&EDIT_園田省吾(AIRE Design)