Netflixシリーズ『ONI ~ 神々山のおなり』(以下、『ONI』)は、トンコハウスと堤 大介監督が描いた闇と光の物語だ。本作のスタッフに対して、堤監督は「この作品を、自分の夢に近づくための踏み台にしてほしい」とよく語っていたという。実際、多くのスタッフが本作を通して新たな「扉」を開き、これから開くべき「扉」へと歩き始めている。そんな『ONI』の制作過程を深掘りした『CGWORLD』vol.300の特集の中から、若き作り手たちの物語をピックアップし、全3回にわたってご紹介する。
『ONI』に参加したMegalis VFXのアーティストの中には、学校を卒業して間もない若手も含まれており、1年数ヶ月にわたるルックデヴ、ライティング、コンポジットなどの仕事を通して大きく成長した。現在はCINESITE、MPC、DNEGなどのカナダのスタジオに移籍して、新たな経験を積んでいる人もいる。以降では4人の若手の『ONI』における物語をお届けする。
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Netflixシリーズ『ONI ~ 神々山のおなり』
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Netflixにて、世界190の国と地域、31の言語で配信中
原案・監督: 堤 大介
脚本: 岡田麿里
制作:トンコハウス
制作パートナー:Megalis VFX、マーザ・アニメーションプラネット、アニマ
エグゼクティブ・プロデューサー: Robert Kondo、Kane Lee、堤 大介
プロデュース:Sara K. Sampson
©2022 Netflix
oni.tonkohouse.jp
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「トンコハウスの世界 ~ダム・キーパーからONIまで~」開催中!
日程:7月11日(火)〜2024年1月8日(月・祝)
会場:SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム
www.skipcity.jp/event/vm/tonkohouse
2020年〜2021年にMegalis VFXへ続々と入社
縄田壮祐氏はCGWORLD.jpの求人情報を見てMegalis VFXに応募し、2021年から現在まで同社に勤務している。
「『ONI』に携わった期間は1年8ヶ月で、ルックデヴ、ライティング、コンポジットを担当し、充実した時間を過ごすことができました。今は実写作品でライティングとコンポジットを担当しています」(縄田氏)。
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縄田壮祐氏
ライティング&コンポジットアーティスト/Megalis VFX
三好優太氏も2021年にMegalis VFXに入社し、1年半ほど『ONI』に参加した。
「2015年に『情熱大陸』(TV番組)で堤監督が取り上げられた回を見て、憧れを抱くようになりました。その後大手ゲーム会社に入ったのですが、やっぱり堤監督のプロジェクトに参加したくなり、Megalis VFXへの転職を決めたんです。『ONI』ではルックデヴとライティングを担当しました。現在はCINESITEのバンクーバー支社でライティング&コンポジットアーティストとして働いています」(三好氏)。
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三好優太氏
ライティング&コンポジットアーティスト/CINESITE
第1話の校庭シークエンスのライティング(キーショット)
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第1話の校庭シークエンスのライティング(チャイルドショット)
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加藤晃介氏は2020年に日本電子専門学校を卒業した後、約2年間Megalis VFXに所属して、映画、ドラマ、CMなどのエフェクトとコンポジットを担当した。
「学生時代から、ハリウッド映画を手がけているIndustrial Light & Magic(以下、ILM)などのスタジオに憧れていたんです。学校卒業の半年前にDaniel(P. Ferreira)さんにコンタクトをとり、インターンを経てMegalis VFXに入社しました。2022年9月以降は、MPCのトロント支社でコンポジターとして働いています」(加藤氏)。
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加藤晃介氏
コンポジター/MPC
作田謙伸氏は日本工学院専門学校でVFXを学び、CM制作会社で1年間エディターを務めた後、2021年にMegalis VFXへ入社した。
「そろそろ本格的に海外スタジオのコンポジターを目指したいという思いがあって、僕もDanielさんにコンタクトをとりました。1年ほどコンポジターとして『ONI』に参加した後、カナダへ拠点を移し、MPCのモントリオール支社で半年間働きました。今はDNEGのバンクーバー支社でコンポジターを務めています」(作田氏)。
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作田謙伸氏
コンポジター/DNEG
ペイントオーバーによるディレクションができるようになりたい
『ONI』では日中の白色光でライティングした素材をRaw renderと呼んでいる。コンポジターがRaw renderを受け取ったら、カラースクリプトに合わせて光の色を変え、コントラストやアトモスフィアを調整し、コンポジットSVのAshley Mohabir氏によるレビューを受けた後に堤監督に提出する、というのが基本的なコンポジットのワークフローだった。
「堤監督に画を見せると、ペイントオーバーでさらに良い感じの画にしてくださるんです。"そのペイントに合わせて調整すれば、何の心配もいらないよ" とAshleyさんは常々言っていました。本当にその通りで、堤監督のペイントは素晴らしかったです。ライティングや映画の知識も豊富で、ビジョンがはっきりしていたので、すごく仕事を進めやすいとも思いました」(加藤氏)。
コンポジットのテスト
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▲夕方 -
▲夜。「モリノコ」の黄色の発光もNukeで表現した。なお、屋外のRaw renderは日中の白色光でレンダリングしているが、キーライトとなるランプなどに色が付いている屋内ショットの場合は、色付きの光でレンダリングしていることもある
第1話の夕暮れシークエンスのコンポジット
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▲第1話の夕暮れシークエンスのコンポジットは加藤氏が担当した。前述のライティングと同様、コンポジットもシークエンス単位で各アーティストに割り振られており、キーショット → チャイルドショットの順番で画づくりをしている。上はキーショットのカラースクリプト -
▲完成映像
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▲キーショットのカラースクリプト -
▲完成映像。「Megalis VFXに新規のカラースクリプトが届くと、プロダクション・コーディネーターが紙にプリントして、壁一面に貼ってくれるのが恒例行事でした。それを見た僕が "この夕暮れシークエンス良いね! やりたい" と言っていたら、Ashleyさんが任せてくれたんです。マジックアワーは大好きな時間帯だから本当に嬉しかったのですが、このショットは遠くの山並みが空に溶けていく感じを表現するのが難しかったです。堤監督は物理的に正確な表現を押さえた上で、そのショットで伝えたい感情に基づいた画づくりを大事にしており、特にアトモスフィア(空気感)を意識してほしいと日頃から言っていました。このショットでも、ブルームによる光のにじみや、弱い間接光による影の中の表現に気を遣っています。その間、Ashleyさんは表現と技術の両面で丁寧にサポートしてくれて、僕を成長へと導いてくれたことが今も印象に残っています」(加藤氏)
夕暮れシークエンスのリファレンス写真
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『ONI』のプロジェクトは、参加した若手アーティストたちに自信を与え、次の「扉」を開くきっかけになった。
「『ONI』の制作期間中、堤監督とChristophe(Rodo/VFX SV)さんがミーティングをしている場面を何度も目にしました。2人ともこだわりが強かったので、良い作品をつくるために話し合うことが大量にあったんだと思います。2人の姿を見て、僕も同じくらいこだわり続けられる作品に携わりたいと思うようになりました。加えて堤監督からは、カラースクリプトを使ったディレクションの大切さも学びました。CINESITEに来てみたら、こちらでもカラースクリプトを指針にしながらライティングをしており、皆が同じゴールを目指して良い画をつくる上で不可欠なものだと実感しています。今後は自分でもカラースクリプトを描いたり、ペイントオーバーによるディレクションができるようになりたいです。それが僕の新しい「扉」です」(三好氏)。
「Megalis VFXにいると、海外が身近なものに感じられます。日常的に英語を使う機会があるし、海外からリモートで参加するスタッフもいます。『ONI』は特に国際色豊かなプロジェクトだったので、海外への興味がさらに広がりました。加えて『ONI』のコマ撮り風のスタイルはとても新鮮で、僕の表現の幅を広げてくれました。今後もいろいろなスタイルの映像に挑戦し、新しい「扉」を開いていきたいです」(縄田氏)。
第1話&第3話の「モリノコ」ショットのコンポジット
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▲第3話の「なりどん」が口から「モリノコ」を吐き出すショットは、「なりどん」に対する「モリノコ」の光の影響を計算する必要があったため、Houdini上で「モリノコ」の個々のジオメトリに個別のポイントライトを設定した上でレンダリングしている -
▲初期段階のライティング。「小さなポイントライトを複数設定した結果、口の中に固い影ができたのに加え、歯が光って怖い印象になりました。柔らかい印象の画になるよう、歯の反射の値を弱めるなどして調整しています。夜の青色の空間の中で、「モリノコ」のやわらかな光のにじみを表現するのは意外と難しかったです」(縄田氏)
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「僕は実写のVFXにしか興味がなかったのですが、『ONI』に参加したことでCGアニメーションにも興味がもてるようになったし、仕事の選択肢が広がり、心に余裕が生まれました。今はバンクーバーで三好さんとルームシェアをしており、周囲にはほかにもMegalis VFXで働いていた人たちがいます。充実した時間を共有してきた仲間のがんばりを身近に感じながら、新しい「扉」を開くための挑戦ができる今の環境は本当に楽しく刺激的です」(作田氏)。
第1話の戻り橋へと走る「おなり」のショットのコンポジット
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第2話の「風太郎」がヘッドライトに照らされるショットのコンポジット
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「学校で学んでいたときには、僕が "海外で働きたい" と言っても、"まだ早い" と止める人が大半だったんです。でもMegalis VFXの人たちは誰ひとりそんなことは言わず、"デモリール送りなよ!" という感じで、僕の背中を押してくれました。堤監督は "準備してからじゃもう遅い" とすら言っていました。僕には "ILMに行きたい" という夢があるので、それに向けて、ジワリジワリと「扉」を開いていきたいです」(加藤氏)。
第4話のどんつこダンスシークエンスのコンポジット
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▲第4話のどんつこダンスシークエンスも、ライティングからコンポジットまで一貫して縄田氏が担当した。上はRaw render。「光源が炎だけのショットがほとんどだったので、ほしい位置にライトがなくて、キャラクターの顔が暗くなってしまう点が悩ましかったです。特にこのショットは通常の調整だけでは限界があったので、「アマテン」や「だるまちゃん」の表情が見えるように、Rotoのマスクで囲んで明るくしています。堤監督は影の中の表現にすごくこだわっていて、"影の中をグレーにすると画が死んでしまいます。影こそ色を落とさず、繊細な色の移り変わりを大事にしてください"と言っていました」(縄田氏) -
▲完成映像
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Information
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月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.300(2023年8月号)
特集:『ONI ~ 神々山のおなり』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年7月10日
INTERVIEWER_若杉 遼/Ryo Wakasugi(CGWORLD)
TEXT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
EDIT_李 承眞/Seungjin Lee(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue