2Dアニメにしか見えない驚異のビジュアルでプレイヤーを魅了する本シリーズは、最新作『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』で、さらにその表現力を増している。今回は前号(CGWORLD vol.214)で紹介したエフェクト以外の要素にスポットを当てて紹介していこう。


※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 215(2016年7月号)からの転載となります

TEXT_ 武田かおり
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

プレイアビリティを阻害せず画の品質を向上させる

『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』は、2Dアニメ的なビジュアルを3DCGで再現して話題を呼んだ『GUILTY GEAR Xrd -SIGN-』の続編となる対戦格闘ゲームである。本作の開発が始まったのは2014年12月の前作の開が終わった頃で、2015年8月に発売されたアーケード版を経て今回のコンソール版のリリースとなる。「アークシステムワークスでは新作としてブラッシュアップさせた続編を出していく、数年先まで見据えた展開設計があるんです」と、シリーズを通してゼネラルディレクターを務めている石渡太輔氏は話す。

  • 左から、リードプラグラマー・家弓拓郎氏(ロジカルビート)、背景デザイナー・五十嵐和也氏、ゼネラルディレクター・石渡太輔氏、テクニカルアーティスト・本村・C・純也氏、背景デザイナー・加藤英治氏、アートディレクター兼チーフアニメーター・坂村英彦氏、背景リード・儘田元気氏(以上、アークシステムワークス

本シリーズのビジュアルコンセプトは何といっても2Dアニメの画を再現することだが、アニメ的な見た目に対して、3DCGの演出がどこまで許容されるのか。テクニカルアーティストの本村・C・純也氏によれば、前作ではその線引きが甘く、あえて抑えていた部分もあったという。具体的には、前作では昔ながらの格闘ゲームにならいキャラクターの陰影は全ステージ共通で固定していたが、「ユーザーの3D的な許容範囲のレスポンスをもらったことで、本作にフィードバックできました」と、アートディレクター兼チーフアニメーターの坂村英彦氏は語る。例えば、本作ではプレイアビリティに影響しない範囲で、キャラクターが環境からの光の影響を受けるようになっている。


社内のコアスタッフはデザイナーが12人、プログラマーは5人。ワークフローは前作で確立できていたそうだが、本作のストーリーステージの背景はほぼフル3DCGで数も多いため、何度も見直したという。「本作のために、ストーリーモード用の拡張ツールを新しく作成しました。Unreal Engineの中のパラメータを外部エディタから操れるようにしてあります」とはリードプログラマーの家弓拓郎氏。この ツールによって、背景に仕込んだイベントをスクリプトで制御できるようになるなど、演出の幅が広がり制作スピードも上がったとのこと。それでは、前作からさらにブラッシュアップされた本作のビジュアルの内訳をみていこう。


次ページ:
キャラクター描画

[[SplitPage]]

01 キャラクター描画

前作からの大きな変化に、リムライト、ポイントライト、ステージごとの環境光をキャラクターに反映させたことがある。また、本作ではキャラクターにダメージ表現も追加されている。

リムライトによる品質向上

前作ではアップでも引きでもキャラクターのハイライトの入り方や影の落ち方が同じであったため、情報量に格差があった。そこで本作では一枚一枚の画に対する情報量をコントロールするために、リムライトを採用している


  • ベーステクスチャ


  • リムライト用マスク。ベーステクスチャのアルファチャンネルに格納している


  • リムライトOFF


  • リムライト成分を抽出したマスク(調整前)


  • リムライトON(調整前)。見た目にわかりやすいように、実際のゲーム画像よりリムライトの色を強調している


  • リムライト成分を抽出したマスク(調整後)。髪の毛などリムライトを入れたくない部分を調整


リムライトON(調整後)。リムライトなしの状態と比較するとキャラターの表現力が格段に上がっていることがわかる

ライトの影響の反映

本作のキャラクターはエフェクトやシーンのポイントライトの影響を受け、色味が変化するようになった。このポイントライトは環境ライトに加算されるのではなく、距離に応じてライトが置き換わるようになっている。ポイントライトが近づくと環境ライトはポイントライトに乗っ取られ、キャラクターに影響を与えるようになる。「通常であればポイントライトを加算するのですが、それだと明るくなりすぎて視認性が下がります。見映えとゲーム性をいかに両立させるか、バランスのとり方が常に課題でした」(本村氏)。このようなライトの影響を受けてキャラクターの色が変化するしくみが入ったことで、リアリティが大きく増している


  • ポイントライトOFF


  • ポイントライトON、エフェクトON。通常の実機画面


ポイントライトON、エフェクトOFF。キャラクターの色変化がわかりやすいようにエフェクトを切った状態

ダメージ表現の導入

対戦格闘ゲームならではの表現として、バトル中のキャラクターに擦り傷などのダメージを乗せられるシステムが追加された。傷や汚れは、デカールテクスチャによって通常状態の上から乗せて表現している。さらに衣服へのダメージを表現するために、ポリゴンによる破れトゲパーツも作成。設置する面と法線の向きを合わせることで陰影の出方を制御している。これらは顔の近くではアップになることを考慮し細かく入れられているが、全体的にはシルエットや見た目に変化が出るよう大きめに入れられている


ダメージ表現の段階別画像。順に、ダメージなし(左上)、ダメージ1段階目(右上)、ダメージ2段階目(下)


ダメージ表現用テクスチャ


  • 破れ表現用トゲパーツの法線編集前。影の入り方が設置している面と異なり、違和感がある


  • 法線編集後。影の入り方が揃っていることがわかる

次ページ:
アニメ的な表現

[[SplitPage]]

02 アニメ的な表現

画づくりにおいては、作画表現を3Dパーツの追加によって実現する「3D作画」に加え、本作ではアニメ的な表現を強化するためにメカの金属表現などの工夫も新しく加えられた。

メカの金属表現へのこだわり

新しく取り入れられたメカの質感表現は、アニメ的な金属質感を再現するために複数の手法が用いられている。まずはアンビエントオクルージョンによる質感テクスチャ。アンビエントオクルージョンでおおまかに影を入れ、それをベースに手描きで調整することで制作している


  • 質感なしの通常テクスチャ


  • 質感なしのテクスチャによるモデル


  • 質感ありのテクスチャ


  • 質感ありのテクスチャによるモデル。フラットなテクスチャのモデルに比べてリッチな画づくりとなっているのがわかる。さらに、金属の光沢をアニメらしく擬似的に表現した「ワカメハイライト」も実装された


  • ワカメハイライトテクスチャ


  • ワカメハイライトテクスチャを適用したモデル。ワカメのような形状にデザインしたテクスチャによって、ねらった形状のハイライトが出るように調整されている。また、エッジ部分についても専用のハイライトを追加し、金属の質感が高められている


  • カラーのみ


  • ハイライトあり


  • ハイライト、エッジハイライトあり


  • ハイライト、エッジハイライト、質感あり

「3D作画」による画づくり

本シリーズではアニメーション作業の中に画づくりも含まれるため、特定の表情や陰影を表現したい場合など、1枚の画の中で情報量をコントロールすることが重要だった。そこで固有の表情パーツなどを多数用意し、アニメーターは作画するように3D上でパーツを置いている。「アナログな手法ではありますが、小物のパーツを数多く用意することで、ほしい画を実現できています」(坂村氏)


  • 通常の状態


  • 陰影がほしい部分にパーツを追加


陰影ON


表情パーツの一部


バトルステージ①

次ページ:
バトルステージ①

[[SplitPage]]

03 バトルステージ①

格闘ゲームの新作のセオリーを踏襲し、背景は大幅なリニューアルとつくり込みがなされた。またカメラが回り込む演出時には、画面の見映えを意識した細やかな工夫も施されている。

格ゲーならではのステージ制作

格闘ゲームの背景には歴史的に積み上げられた一定の法則やフォーマットが存在する。例えば、魚眼レンズや嘘パースによる極端な誇張、見られる時間に応じた情報密度、遠景・中景・近景の意図的なスクロールによるレイヤー感、画面中央・右端・左端に個別のデザインを施す、などがそれにあたる。本作でもそれらの法則に則ってバトルステージが制作された


「ウォールーム」ステージモデルのサイドビュー


  • ステージを別アングルから見たところ。水平線は図のようになる


  • 実機画面。プレイヤーキャラクターから奥に向かって水平線を斜めに下げることで、パースのついた奥行きあるステージが実現している

別アングルから見た「バビロン」ステージモデル


実機画面。ベンドをかけることで超広角レンズ的な誇張表現を行なっている

演出カメラへの対応

技をかける際など演出に応じてカメラを動かすと、どうしても画面手前に邪魔なパーツが出てきてしまう。本作ではそれを回避するため、パーツを非表示にするしくみが導入された。なお干渉パーツの表示/非表示の状態遷移は、UE3のKismetで制御されている


ステージのハイド範囲。円柱状の範囲にカメラが入ると指定したオブジェクトをハイドする


  • ハイド範囲とハイドオブジェクト


  • 演出カメラを別アングルから見た状態。先ほどのオブジェクトが非表示になっていることがわかる。また背景オブジェクトに限らず、モブキャラもハイド可能だ


  • 通常カメラ時。中央にモブキャラが表示されている


  • 演出カメラ時。背後に映るはずのモブキャラが消えている


演出カメラを別アングルから見た状態。モブキャラが表示されていないことがわかる

次ページ:
バトルステージ②

[[SplitPage]]

04 バトルステージ②

本作のバトルステージは、時間経過やラウンドの進行によってモブキャラや背景ギミックが変化していく。遊び心にあふれたしかけによって、くり返しプレイする楽しみも提供している。

モブと背景ギミックの演出

背景には、時間経過やラウンド遷移に合わせて背景要素が変化していく演出が盛り込まれている。作成のながれとしては、まず背景班が演出プランを2D上で設計し、モーション班がそれに合わせて動きを付け、背景班が実際にゲームに組み込んでいくというもの。この演出もKismetによって制御され、時間経過、天候の変化、勝利・敗北、オブジェクトの表示/非表示など、「ラウンドシークエンス」呼ばれる各シークエンスをトリガーに発動するようになっている


ラウンド1のKismet


  • ラウンド1開始直後の演出プランと実機画面。ヘリの到着を待っている


  • ラウンド1、ヘリ到着後後の演出プランと実機画面。大きな鍋を担いだ女の子が歩いてくる


  • ラウンド2の演出プランと実機画面。食材を鍋に放り込んで料理開始


  • ラウンド3の演出プランと実機画面。料理を食べながらバトルを観戦している

ポイントライトとシーンカラーの配置

前述のように、ステージの中に光源があればキャラクターはそれらのポイントライトの影響を受けるしくみが実装されている。色味が変わるだけではなくコントラストも制御されており、影に入ると暗くなるような表現もポイントライトによるものだ。また、ステージごとに全キャラクターに対してカラーが個別に設計されている。これは格闘ゲームの競技性との兼ね合いで、視認性を確保するために専任の担当者を置いて非常にシビアに管理されている


手前の球体がシーンカラー。奥の光源がポイントライト。これらはUE3シーン内にアクタとして配置されている


  • 通常画面


  • ポイントライトの影響あり。花火が上がったときにキャラクターの陰影が強くなり、落ち影は長くなっている


  • 通常画面


  • ポイントライトの影響あり。照明器具の影響を受けているのがわかる

次ページ:
ストーリーモードステージ

[[SplitPage]]

05 ストーリーモードステージ

2Dメインだった背景を本作ではほぼ3Dで制作しているため、工数削減のためのワークフローを構築。UE3の機能を駆使することで、手早くリッチなものを作成することが可能となった。

アセットの流用

本作のストーリーモードの背景は3D中心になったこともあり、バトルステージ用に作成した背景アセットを加工して利用している。見映えが良いように画角やパースを変え、UE3のumapによってアセット配置を多用したマップとして作成している


  • バトルステージの背景。ストーリーステージでもロケーションとすることを念頭に、360度きちんと作っている


  • ストーリーモードの背景。小屋や遠景の山は、バトルステージに登場する背景モデルの画角などを正確な比率に戻して配置している

効率的な部屋制作

ストーリーモードに登場する全ロケーションを真面目に作成すると工数がオーバーしてしまうため、本作では部屋型簡易ロケーション制作フローを確立した。プリミティブな直方体の部屋であれば、モデルを6枚にUV展開してデザインを施し、背景原図を作成する。外部のアニメ背景美術会社に原図を渡し、真正面から見た壁や床、天井の着色を依頼する。戻ってきたテクスチャに空気感などを足し、モデルに貼り付ける。立体として不自然な部分があれば修正して完了


直方体モデル

テクスチャ例


完成モデル

擬似的な画角調整スケール

キャラクターに合わせたカメラのfov値では背景の情報量が足りなかったり、意図した画にならない場合がある。そこで、ほしい画をつくるために直方体モデルの中にボーンを仕込み、カットごとに背景を縮めたり伸ばしたりして画角を調整。これにより、キャラクターと背景で異なる画角が併用された画面づくりが可能になる


  • 標準


  • 手前側をスケールした例


  • 奥側をスケールした例


  • 実機画面。カメラはキャラクターに合わせて画角を狭くしているが、背景は広角に見せている

ストーリーエディタ

ストーリーモードのカット制作について、前作ではスクリプトベースで編集していたためかなりの手間がかかっていた。本作では専用のエディタを開発し、大幅な工数削減につながっている


  • ストーリーエディタUI。多彩な機能をもち、ほとんどの作業がこのエディタ上でまかなえる。ゲームコントローラで制御可能


  • ボーン調整機能。登録したポーズからほしいポーズに近いものを読み込めば、エディタ上からボーンにアクセスして加工できる


  • ルック補正機能。影色とライトの当たっている部分に別々の色情報をもたせられるので、シーンに合わせた色を付けることが可能


  • アタッチ機能。キャラクターに対してセル画のようにオブジェクトを乗せることができる。3D空間をいったん無視して配置することになるので、より2D的な演出が可能だ



  • 『GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-』

    発売・開発:アークシステムワークス
    発売日:発売中
    価格:9,800円+税(限定版)/6,800円+税(パッケージ版)/5,800円+税(ダウンロード版)
    Platform:PS4/PS3 ジャンル:対戦格闘
    www.ggxrd.com/rev/cs

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.215(2016年7月号)
    第1特集「撮影に学ぶライティングテクニック」
    第2特集「フォトリアル&ノンフォトゲーム最前線」ほか

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:152
    発売日:2016年6月10日
    ASIN:B01EG997R2

>