2017年はHoudiniが大きく注目を集めた。2月にHoudini 16、11月にHoudini 16.5とバージョンアップが続き、様々な機能拡張がなされたからだ。もっとも映像業界に比べてゲーム業界では端末スペックに制限があるモバイルゲーム市場が中心ということもあり、導入が遅れているのも事実。こうした中、昨年12月22日(金)にゲーム開発者を対象とした勉強会「Tokyo Houdini Meetup Vol.1」が開催され、100名近くが参加。業界における注目度の高さが改めて示された。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

Houdini 16.5 Sneak Peek

<1>Houdiniの導入事例から今後の活用まで、語り尽くされた4時間半

セミナーを主催したのはゲーム業界の有志で構成された「Tokyo Houdini Meetup運営委員会」だ。旗振り役を務めたXFLAG スタジオの長舩龍太郎氏は冒頭の挨拶で、「これまでもHoudiniの研究開発を進めてきたが、なかなか業務で導入するのが難しかった。今日は同業他社の方と交流を進めて、様々なヒントを得ていきたい。自分自身も楽しみにしている」と開催理由について明かした。その上で本勉強会を通して、ゲーム業界でHoudini熱を上げていき、導入の促進剤にしていきたいと抱負を語った。


Tokyo Houdini Meetup運営委員会で本セミナーの旗振り役を務めた長舩龍太郎氏(XFLAG スタジオ/ミクシィ)

もっとも、ハイエンドゲームの市場が大きい欧米では、一足早くゲーム開発でHoudiniの導入が進んでいる。長舩氏が挙げたのはGDC 2015で米Insomniac Gamesが講演したXbox One向けアクションゲーム『Sunset Overdrive』の事例だ。ワークフローにHoudiniを導入し、レベルデザインをプロシージャルで進めたところ、ジェットコースターのステージで開発効率が100倍も向上したという。日本のゲーム業界でHoudini熱が高まったのが2017年であることを考えると、何周も差をつけられていることになる。


『Sunset Overdrive』のジェットコースターはHoudiniを使用して、プロシージャルに作成された(GDC 2015 Houdini Reelより)


手作業とHoudiniでの作業効率のちがい(GDC 2015講演「Procedural and Automation Techniques for Design and Production of Sunset Overdrive」より)

実際、これまで日本では、Houdiniはエフェクトや流体表現といったポストエフェクトで活用される専門ツールという認識が一般的だった。これに対して、欧米ではすでにプロシージャルコンテンツ生成での活用にトレンドが移行している。もっともHoudini 16.5のリリースでモデリング機能や地形生成機能(Terrain)の強化などが加わり、ゲーム業界でも導入に向けての動きが進み始めた。Houdini Engineの登場でワークフローに組み込みやすくなったことも追い風になっている。

こうした背景から本セミナーは前半でHoudiniをすでに使いこなしている開発者をゲストに招き、様々なreportや活用事例を共有。後半ではHoudiniの可能性や、実際の導入方法などについて、長舩氏とゲスト講演者がそれぞれディスカッションする形式で進められた。各々の講演も力が入ったものばかりで、予定の時刻より40分近くもオーバーしたほど。にもかかわらず、途中退席した参加者はほとんど見られず、終了後の交流会でも「非常に濃い内容だった」などと、満足度の高さが感じられた点が印象的だった。

<2>プロシージャルモデリングでのVoronoi有効活用法

INSIDE GRAN TURISMO SPORT Vol.1 : CARS

はじめに登壇したのはポリフォニーデジタルでドライビング&カーライフシミュレーター『グランツーリスモ』シリーズの開発に携わる齋藤 彰氏。「仕事ではコースの風景をつくり、趣味でロボットのモデリングをしている」と語る齋藤氏は、HoudiniのVoronoi fracture SOP機能を活用してボロノイ図を作成する手法や、この手法を生かしてハイディテールな幾何学風建造物を手軽に作成する方法を解説。趣味でつくっている装甲やキャラクター向け衣装のディテールアップにも活用していると補足した。


ポリフォニーデジタルの齋藤 彰氏

ボロノイ図は複数個の母点との距離に基づいて領域を分割した図のことで、計算機科学の重要なテーマの1つだ。Houdiniではブーリアンの活用と並び、破壊表現でオブジェクトを分割する際に多用される。ボロノイ図は母点の位置によって算出されるため、形状がランダムではなく、全て凸領域である点が特徴だ。自然界でもキリンの網目模様・亀の甲羅・昆虫の羽の模様などにみられるなど、生物学・幾何学的な意味があるため、安定したデザインや構造に近づきやすい。


Voronoi fracture SOPを活用し、Houdini上で作成されたボロノイ図の例(4点分割)。母点の数を変えたり、位置をずらしたりすると、リアルタイムでボロノイ図が変化する

齋藤氏はデモの動画を再生しながら「母点の位置をいかに工夫して面白い図をつくるかがポイントだ」と解説した。Vorinoi fracture SOPに、あらかじめクラスタリングした母点を入力すると、多角形をクラスタリングすることもできる。こうした解説を加えながら、齋藤氏は幾何学模様の組み合わせで構成されたUFO風の物体などの作例を紹介した。これらはHoudiniの下記機能を活用して自動生成されている。当然ながら、ラインの形状やパネルの枚数などを、計算によってリアルタイムに変化させられる点が特徴だ。


HoudiniのPolyExtrude(ポリゴン分割の境界面に対して簡単に凸面をもたせられる)、PolyWire(ポリゴンエッジをパイプ状のモデルにできる)、PolyExpand2d(ポリゴンを平面上のみで破綻なく拡大縮小できる)機能を活用して作成された円盤状の構造物。複数層の面を重ねて、立体的な表現が行われている。母点の動きで自在に変わるボロノイ図は、まるで万華鏡を見ているような錯覚にとらわれる

齋藤氏は「Houdiniにおけるボロノイ図作成は非常にシンプルで、出力される形状も使いやすいため、ディテールが不足している部分をハニカム(六角形)で埋めるくらいなら、ボロノイ図で変化をつけてみては」とコメントした。趣味で作成しているロボットやキャラクターの衣装にも、今回紹介されたテクニックが活用されているという。「自分では手を動かさずに、プロシージャルで自動的にロボットを作成するのが夢です」と締めくくると、参加者から大きな拍手が送られた。

齋藤氏が趣味で作成したロボットや装甲兵のCG。装甲板がボロノイ図の原理によって、プロシージャルに分割されている


Houdini上で自動分割された衣装。良い感じのルックになるまでリアルタイムに調整していく


衣装のテクスチャは3D-Coatで作成されている

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<3>『龍が如く 極2』におけるHoudini活用事例

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<3>『龍が如く 極2』におけるHoudini活用事例

PS4専用ソフト『龍が如く 極2』最新ゲームトレイラー

続いて登壇したのはセガゲームスで『龍が如く』チームに所属する伊地知正治氏だ。最新作『龍が如く 極2(以下、極2)』の開発にも携わったという伊地知氏は、VertexAnimationTexture(VAT)を活用して作成されたシャンデリアの破壊シーンをはじめ、血痕&弾痕テクスチャ、爆発シーンなど、『極2』で導入されたHoudiniの活用事例について解説した。


セガゲームスの伊地知正治氏

VATはGDC 2017でSideFXが発表した、各々のピクセルに頂点の位置や回転などの情報を、特定のフレーム分だけ含めたテクスチャのこと。このテクスチャをゲームエンジン内で読み込むことで、Houdiniで作成された流体、リジットボディ、ソフトボディ、スプライトを、ゲームエンジン内で再現できるようになる。

これまで破壊やデフォメーションの結果をリアルタイム環境で再生するには、様々な手間が必要で、使い勝手もあまり良くなかった。これがVATを活用することで、GPUでの演算処理が可能になり、従来よりも高解像度の演算結果を高速で再生することが可能になる。伊地知氏は「これまでゲーム業界でHoudiniといえば、スプライトパターンなどを作成するやり方が中心だったが、VATを応用すれば、Houdiniの表現力をそのままゲーム中で活かせるようになる」と賞賛した。

GDC 2017 | Luiz Kruel | Houdini 16 Game Shelf

はじめに伊地知氏は事前に行われた技術検証について解説した。VATの作成にはSideFXが提供する公式ツール集「 Game Development Toolset」に含まれる、Vertex Animation Texture ROPのインストールが必要だ。一方で近年の『龍が如く』シリーズは、内製のドラゴンエンジン上で開発されている。そのため作成されたVATは、一度Unreal Engine 4を経由したのちに、ドラゴンエンジン上で実装された。


技術検証用に作成された、巨大な丸い岩が壊れながら転がっていく映像

この検証結果から伊地知氏は「どんなゲームエンジンでもデータとシェーダがあれば(プログラマーの頑張りで)VATを再生できる。UnityやUE4では、アーティストだけでエフェクトをつくることができる」と語った。もっとも、フルイド(流体)表現はメモリを大量に消費する傾向にあるとのこと。一方でリジットボディやソフトボディであれば、GPUの処理負荷も低く、メモリも少量ですむため活用できるのではと補足した。

続いてトピックはゲーム内での活用例に移った。ここで紹介されたのが、ヒートアクション中にシャンデリアが落下し、床の上に破片が飛び散る演出の作成方法だ。はじめに背景班からシャンデリアの3Dデータ提供を受け、Maya上でマテリアル別に金属・ガラス・クリスタルを設定する。これが落下し、破片が飛び散る様子をHoudini側でシミュレーション。VATに出力した後に、UE4経由でドラゴンエンジンにデータを渡す。その後、シャンデリアの落下イベントをドラゴンエンジン側で設定し、実行させるというながれだ。


シャンデリアの破壊シーンでは、事前に背景班からシャンデリアの3DCGデータをもらい、Maya上で金属・ガラス・クリスタルのマテリアルを設定する。グレーの部分がスタティックメッシュ。これを落下によって破壊させ、破片が床に飛び散る様子を演出する

他にHoudiniを使用することで、血痕や弾痕のテクスチャを、様々なバリエーションをもたせつつ大量に作成できたと語った。また、トレーラーが爆発炎上する際の爆炎アニメーションもHoudiniのPyro FXで作成されている。これらをふまえて伊地知氏は「Houdiniの活用で表現力が高まった。今後はHoudini Engineのライセンスを追加して、開発効率を高めていくと共に、開発費抑制にもつなげたい」と締めくくった。

同じく銃撃によってできた血痕テクスチャと、壁についた弾痕テクスチャ。共にHoudiniの機能を使い、多数のバリエーションを手軽に生成できた

HoudiniのPyro FXで爆発シミュレーションを行い、Redshiftでレンダリング。それまで2日間かかっていたレンダリングが90分で完了し、その速さに驚かされたという

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<4>Unity x Houdini映像制作TIPS

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<4>Unity x Houdini映像制作TIPS

Ultimate Bowl 2017

ショートセッションの最後に登壇したのが、オムニバス・ジャパン、マーザ・アニメーションプラネットを経て、現在フリーランスのVFXテクニカルディレクターとして活動中の鳥居佑弥氏だ。マーザ時代、Unityを用いて作成されたリアルタイム映像『Ultimate Bowl 2017』などの制作にかかわった鳥居氏は、映像業界の視点からみたゲームエンジン活用のメリットについてコメント。その後、UnityのTimeline上でVATを活用するテクニックについて、デモを交えながら説明した。

「2008年ごろは知る人ぞ知るといった感じのツールだったが、2012年にHoudini 12.0がリリースされ、ダイナミクスの機能強化が図られたことで、映像業界で注目を集め始めた」と語る鳥居氏。2013年ごろには、社内にHoudiniチームをつくる会社が増加してきたという。その後、2017年のHoudini 16.0にてゲーム向け機能が強化されたことで本格的なHoudiniブームが到来。「カナダ大使館以外でHoudiniのセミナーに、これだけ人が集まったのは初めてだと思う」とコメントし、会場を沸かせた。


オムニバス・ジャパン、マーザ・アニメーションプラネットを経て、現在はフリーランスのVFXテクニカルディレクターとして活躍中の鳥居佑弥氏

続いて鳥居氏は映像業界における、ゲームエンジン活用のトレンドについて踏まえつつ、ゲームエンジンとHoudiniを組み合わせて使用するメリットについて整理した。最大の理由は「仕様変更に強いから」だ。Game Development ToolsやHoudini Engineの登場で、専任のテクニカルディレクター(=テクニカルアーティスト)がいなくてもプロジェクトに導入しやすくなった点も大きいという。実際、鳥居氏も前述の『Ultimate Bowl 2017』をはじめ、複数のゲームエンジンを活用した映像制作に参加してきた。

こうした経験を基に、鳥居氏はVATをUnity上で活用しやすくするためのTIPSについて紹介した。伊地知氏が解説したようにVATは非常に便利な機能だが、映像作品で使用するには再生のタイミングが重要になる。そこで鳥居氏はVATのシェーダ内部にあるTime変数を外に出し、Unity 2017で導入されたTimeline機能で管理する手法について解説した。この手法はかなり斬新かつ使いやすい内容だったようで、多くの参加者によってさかんにツイートが行われた。


GameDeveloperToolsを活用し、Houdini上で作成した床の破壊表現。これをVATに出力し、UnityのTimeline上で、他の映像素材とタイミングを合わせて再生した

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<5>スペシャル対談~「AI×Houdiniの可能性」

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<5>スペシャル対談~「AI×Houdiniの可能性」


セミナー後半はゲームAI開発者の三宅陽一郎氏と長舩氏による対談「AI×Houdiniの可能性」でスタートした。はじめに長舩氏は「Houdiniと最新AI技術を絡めることで、プロシージャルを活用した、これまでにないアセットジェネレータが開発できるのではないか」と問題を提起。『SPORE』『No Man's Sky』といった既存タイトルや、『FAR CRY 2』『HORIZON ZERO DOWN』における内製ゲームエンジンでの実装例を挙げつつ、プロシージャル技術とゲームの関係について、これまでの事例をふりかえった。

FAR CRY2 DUNIA ENGUNE 

HORIZON ZERO DOWN GPU Based Procedural Placement 

続いてトピックは論文ベースの最新技術に関する解説に移った。ここで紹介されたのが、3DCGの形状を抽出して自動生成するMITの研究「Learning a Probabilistic Latent Space of Object Shapes via 3D Generative-Adversarial Modeling」だ。ディープラーニングによる画像生成の3D版といえるもので、三宅氏は「没ネタでいいから、たくさんのアイデアをAIが自動生成してくれれば、人間がそれを参考にして新しいアイデアを生み出せる」とコメントし、この分野での可能性に期待を寄せた。


AIとプロシージャルが融合する可能性についてディスカッションする、ゲームAI開発者の三宅陽一郎氏(左)と長舩氏(右)

これらの議論を巻き取り、三宅氏は「AI研究では従来の関数アプローチを、ニューラルネットワークに置き換えることで、イノベーションが起きた」と解説。「囲碁AIの強化とは、これまでより強い評価関数をつくることだった。この評価関数がニューラルネットワークの発展系であるディープラーニングに置き換わったことで、囲碁AIが飛躍的に強化された」(三宅氏)。その上で、ニューラルネットワークを用いて画像の自動生成を行う研究、GAN(Generative Adversarial Network)についても解説を行なった。

Houdiniが可能にするプロシージャルも、現在は評価関数ベースのように見えると分析する三宅氏。これが囲碁AIと同じように、近い将来ニューラルネットワークに置き換わることで、さらなる進化が予測される。中でも画像の自動生成で最先端の研究がGANであり、応用が可能なのでは......というわけだ。もっともGANで自動生成されるコンテンツは2Dベースに留まっており、3DCGモデルの自動生成を可能にするためには、さらなるイノベーションが必要になる。


GAN(Generative Adversarial Network)の概念について解説する三宅氏

考え方のひとつとして三宅氏が紹介したのが、Googleの機械学習向けソフトウェアライブラリ「TensorFlow」だ。ディープラーニングに対応しており、Googleの各種サービスなどで広く活用されているもので、オープンソースで公開されている。そこでHoudiniのノードにTensorFlowを上手く組み込めば、Houdiniが関数ベースからニューラルネットワークベースに移行することもあり得る。「というより、すでにそういったことを考えている人がいるのではないでしょうか?」(三宅氏)。

ここで長舩氏がブログ「Houdiniで機械学習 with TensorFlow」を紹介すると、執筆者であるtakavfx氏が飛び入りで登壇し、会場はさらに盛り上がった。takavfx氏は映像業界のテクニカルディレクターとしてHoudiniを活用しており、「まさに今、HoudiniでTensorFlowを活用しつつ、GANをベースにしたノードをつくろうとしています」とも明かされた。長舩氏の「今後もぜひ、知見を共有してほしい」という依頼に対して、takavfx氏も快諾。このように予想外のサプライズを見せつつ、対談は終了した。

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<6>Houdini座談会~Houdiniマスターにいろいろ聞いてみよう!

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<6>Houdini座談会~Houdiniマスターにいろいろ聞いてみよう!

最後に、これからHoudiniを学習したいという参加者向けに、第1部のショートセッションで講演した3名が再び登壇。長舩氏の司会で座談会が行われた。

はじめに長舩氏は「Houdiniを開発プロジェクトに導入した際の経験談」について聞いた。これに対してポリフォニーデジタルの齋藤氏は「Houdiniを使用するのであれば、プロシージャルモデリングの活用によって生産効率が高まることが前提になる。その上で、手でつくるものよりもクオリティが高いことが求められる」とコメント。スタジオの社風によるかもしれないが、品質と生産性の高さを両立させることが、成功・失敗の分水嶺になるという考えを示した。

ちなみに齋藤氏がHoudiniの検証を始めたのは2015年の中ごろで、ちょうどHoudini Digital Assetが登場し始めたころだったという。「当時、ちょっとした機能をMayaのアーティスト向けに作成するだけで、かなり喜ばれました」(齋藤氏)。このようにアセット制作の現場で役立つ機能をHoudiniでつくりつつ、研究開発も進められたので、タイミングが良かったとふりかえった。


座談会ではHoudiniの学習方法をはじめ、現場ならではの知見に基づく議論が行われた(左から鳥居氏・伊地知氏・齋藤氏)

また、Houdiniのモバイルゲームへの活用について、伊地知氏は「VATはメモリを大量に消費するが、使いどころがハッキリしていれば導入できる」と語った。「3Dのエフェクトが重要になるなど、キーとなるビジュアルでVATを使用しても良いのであれば、十分に活用できます」(伊地知氏)。これに対して長舩氏も、モントリオールで開催されたゲーム開発者会議MIGS 2017でもモバイルゲームでのVATの活用事例について議論されたことを挙げ、海外で先行している分野だと補足した。

続いてトピックはプロシージャルモデリングに移った。ここで長舩氏が紹介したのが、GDC 2017でSideFXが公開した、Unreal Engine 4上でHoudiniプラグインを活用し、パイプの配管やレベルデザインをプロシージャルで行うデモだ。パイプを配置してマウスでドラッグするだけで、自動的に天井にヒットして配置されていく。齋藤氏も「ステージのカーブポイントを増やすだけで、部屋そのものを拡張していくなど、プロシージャルモデリングとレベルデザインが高度に融合している」と評価した。

「GDC 2017 Procedural Assets for UE4」。マウスをドラッグするだけでフロアを拡張したり、大量のパイプをはわせたりすることができる

こうしたプロシージャルモデリングのクオリティを高めていくには、数多くのリファレンスを観察し、その構成要素を分割して、ルール化していく作業が求められる。一度ルール化ができれば、それを基に量産化が可能になる。長舩氏は「そのために、どのようなやり方が有効か」と質問を投げかけた。ちなみに現状では、このルール化を人間が行なっているが、前述の通り、これをAIで代用させる研究も進められている。

もっとも齋藤氏は、「単にアセットをプロシージャルでつくるだけでなく、アーティストの癖そのものをプロシージャルに再現することを目標に掲げている」と明かした。趣味で行っているロボット生成では、「有名なメカデザイナーの癖を解釈しながら、それをプロシージャルに落とし込んでいくようなアプローチ」を採っているというわけだ。

業務においても、エース級と初心者のモデラーでつくり方の差分を抽出し、ルール化することを目標にしているという。「エース級のモデラーがリファレンスとなる素材をどのように解釈し、抽象化していくか、その方法論をサンプリングして抽象化することが、社内で求められています」(齋藤氏)。そのため、エース級のモデラーの仕事ぶりが一番のリファレンスであり、その後ろに立って観察することが日課になっていると語った。


ツールは一人で学習するよりも、チームで一緒に学習した方が効率的に学べる。特にHoudiniはある時点をすぎると飛躍的に制作効率が高まるため、集団による学びがより効果的に作用する

最後にHoudiniの学習方法について議論された。長舩氏は「パイプラインにHoudiniを組み込むのであれば、社内に1人はHoudiniのスペシャリストが必要になる。身近に上級者がいれば質問もしやすい。では、その1人をどうやって育てるか」と質問。これに対してVFXテクニカルディレクターの鳥居氏は「一人で学ぶのではなくチームで学んだ方が、学習効率が高い」と語った。「特にHoudiniはデータの共有がしやすいので、複数人で教え合いながら学ぶのがお勧めです」(鳥居氏)。

これらの議論を受け、長舩氏は「Tokyo Houdini Meetupも参加者間の交流を通して、そうした学びの場にしていきたい」とコメント。2回、3回と会を重ねることも視野に入れつつ、活動を進めていきたいと締めくくった。



  • 「Tokyo Houdini Meetup Vol.1」

    開催日:2017年12月22日(金)
    時間:18:30~22:30
    会場:株式会社ミクシィ
    主催:Tokyo Houdini Meetup運営委員会
    connpass.com/event/72305