ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン主催の技術カンファレンスUnite Tokyo 2018の3日目において、「トゥーンシェーダートークセッション #2 僕らがトゥーンシェーダーが好きなワケ」と題したトークセッションが行われた。2日目に行われた「トゥーンシェーダトークセッション#1『リアルタイムトゥーンシェーダ徹底トーク』」に対してビギナー向けと銘打って開催された当セッションは、蓋を開けてみれば前日に負けず劣らず、トゥーンシェーダ好きがディープにその愛を語る非常に濃い時間となった。その模様をレポートしよう。

TEXT&PHOTO_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)



●Unite Tokyo 2018レポート記事一覧
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「キズナアイ」「電脳少女シロ」「東雲めぐ」ーUnite 2018に登場した話題のVTuber講演まとめ~Unite Tokyo 2018レポート(1)~
Unityを通じたゲームデザインやプログラミング教育の可能性と教育現場での活用例~Unite Tokyo 2018レポート(2)~
Unityを駆使する脳神経外科医が語る、医療現場での3DCG活用例とその可能性~Unite Tokyo 2018レポート(3)~
歴戦のシェーダ強者が集った「リアルタイムトゥーンシェーダー徹底トーク」~Unite Tokyo 2018レポート(4)~>

<1>リアルタイムトゥーンシェーダの気になるところ

本セッションでは、2日目のトークセッションに登壇したユニティ・テクノロジーズ・ジャパンコミュニティエバンジェリスト小林信行氏、同社アーティスト京野光平(ntny)氏、アークシステムワークスディレクター/テクニカルアーティスト 本村・C・純也氏に加え、シーエスレポーターズGugenka事業統括/専務取締役 三上昌史氏、面白法人カヤックアートディレクター松村昌宏氏、miHoYoテクニカルディレクターJack He氏、エクシヴィ代表取締役社長 近藤"GOROman"義仁氏、同社ビジュアルディレクター室橋雅人氏の8名が参加。技術的なトピックが多かった2日目のトークセッションと異なり、実際にコンテンツを提供する側の参加者が多いため用途や展望的な話題が中心となった。

前列左から松村昌宏氏(面白法人カヤックアートディレクター)、Jack He氏(株式会社miHoYoテクニカルディレクター)、三上昌史氏(株式会社シーエスレポーターズGugenka事業統括/専務取締役)、本村・C・純也氏(アークシステムワークス株式会社 ディレクター/テクニカルアーティスト)、後列左から近藤"GOROman"義仁氏(株式会社エクシヴィ代表取締役社長)、室橋雅人氏(同社ビジュアルディレクター)、小林信行氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン コミュニティエバンジェリスト)、京野光平氏(同 アーティスト)

質問:その1は、リアルタイムトゥーンシェーダの注目点について。従来はプリレンダー作品が多かったものの、現在はマシンスペックの向上などに起因してリアルタイムでの活用事例が非常に多くなって来ているリアルタイムトゥーンシェーダ。三上氏は「アニメ系のVR/ARコンテンツをつくる中で、3DCGの用途が多岐に渡っていると感じています。今まではアニメ用、ゲーム用など個別につくられていた3DCGが、(リアルタイムトゥーンシェーダを用いて)1つのモデルで多目的に使えるようにしたいという話は良く聞きます」と回答した。

また、活用事例として、室橋氏よりOculus RiftとOculus Touchを使ってリアルタイム配信が行える「AniCast」の説明も行われた。また、同様にマンガ文化と深く関わる松村氏からは、カヤックが独自に開発した「カマクラシェーダーズ」と呼ばれるマンガ風の描画が可能なシェーダ群についても紹介があった。

<2>よく使う機能、使ってみたい機能

質問:その2に対しては、普段使うシェーダの種類やそれぞれのクリエイターがトゥーンシェーダを扱う上で気にするポイントなどが語られた。「モデリングはMayaで行いますが、最終的にはユニティちゃんトゥーンシェーダー2.0を使っています。アニメ表現においては、ペンのアウトラインが最も大事だと思っているので、そこが綺麗に出せるのがポイントです」とコメントした三上氏に同調するかたちで、室橋氏も「線の太さ、あとは陰影部分をすごく気にしています」と回答。また、Jack氏は「Multi-Channel Rampを用いており、3つのレイヤーでシェーダをつくっています。ブラシでシェーディングの部分を拡散することで、セルシェーディングとスムースシェーディングのどちらにも対応しています」と語った。

Jack氏による「Multi-Channel Ramp」を用いたシェーダ構築の解説スライド

また、質問にもあった機能面に関する話題として、近藤氏は「新しい機能やアイデアをつくるためには、インプット量を上げるのが大切。インプットありきのアウトプットなので、新しい機能を思いつくときは風呂の中だったりします」と回答し、その後は鉛筆や筆で描いたような漫☆画太郎シェーダが欲しいという話題で会場を笑いに誘った。

<3>それぞれの表現のポイント

質問:その3に対しては、技術的な面と演出的な面での回答に二分された。技術面では、カヤックによるVRゲーム『Tataite Kabutte VR』について、松村氏からは同作の鎧の深みのある表現はRim Noiseで表現し、また怪しげな雰囲気を出すためにCubeColorで6面方向からのリムライトで世界観を表現したと説明。

Tataite Kabutte VR

また、Jack氏は「まずは目や髪などメッシュ位置を完璧に決めます。メッシュが完璧で可愛くできてから、シェーダレンダリングに移ります」と自身のメッシュに対するこだわりを語り、京野氏も「トゥーンシェーディングはメッシュの時点でかなりちがいが出ます。本物の人間風につくろうとするとダメだったり、あえてCGっぽくつくった方が良かったりなど、試行錯誤がかなりあります」と同調した。

そして、演出的な面においては、三上氏は具体的なワークフローを提示しながら「VRモバイルアプリをつくる際は、メインの3Dアーティストとプログラマーの2名編成でやっています。現段階ではキャラクターを大きくアニメーションさせてしまうと開発コストが上がるため、眠っているとか本を読んでいるといった"その世界にキャラクターが普通に住んでいる感じ"になるよう意識しています」とコメントした。

三上氏が提示した実装ワークフロー

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<4>キャラクターのルックと輪郭線

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<4>キャラクターのルックと輪郭線

質問:その4は、キャラクターのルックをいかにして決めているのかという話題。松村氏は、「最初期の段階では世界観に合わせていろいろなカラーを試していきます。色がちがうな、と思ったときにPhotoshopまで戻るのは時間ロスがあるので、Unity上で色相などをFilterで変えています」と回答。また、カマクラシェーダではマテリアルごとにローカルライトで光の方向や強さなどをコントロール可能との説明もあった。

カマクラシェーダでのローカルライトによる光のコントロール例

Jack氏は「私たちはまずアーティストのデザインコンセプトを全員でチェックし、全員の同意を得るというプロセスを採っています。その後、どういった手法で表現するのか技術的な検証を行いますが、ここではアーティストとしての感覚とテクニカルとしての技術的知識が必要になります。ベースとなるプロトタイプでシェーディングのファンクションを確認し、マテリアルのパフォーマンスやパラメータの数による使いやすさなどを考えながら、最終的にどの手段を使うのかを決めていきます」と回答。

その後のトゥーンラインの話題では、本村氏は「イラストレーターの方が明確に『ここに線を引く』と決めて描いたものを再現しようと思うと、どうしても現在の技術では完璧にはできない。そういうAIをつくるとか、もしかするとそういったレベルが必要かも知れないが、それでも既存のシェーダの工夫で近づいて来てはいる」と語った。

Jack氏によるトゥーンラインの解説スライド

<5>トゥーン表現を用いたコンテンツの海外での人気は?

質問:その6では、リアルタイムトゥーンシェーダを使ったソリューションやコンテンツの海外人気について語られた。現在はフィリピンにもオフィスをもつGugenkaだが、三上氏は「NetflixやAmazon Primeなどの世界的な普及によって、日本と同じくほぼリアルタイムでアニメを観ることが可能となっています。海外でも日本アニメは人気です。ただ、海外の方がつくる作品は、文化的背景に差があるため仕上がりには差がある感覚があります」と回答、同社キャラクター東雲めぐを題材にデザインの比較も行われた。また、カヤックもベトナムに支社があり、VTuber向けアセットの画づくりをカマクラシェーダーズで行なっているという。

Jack氏は中国でのトゥーンシェーダコンテンツについて、「トゥーンシェーダを使ったゲームの数が非常に増えており、アニメ好きの間だけで人気があるだけでなく一般人気も非常に高まっています。こういったゲームは中国国内にとどまらず日本や北米などに海外展開もされています」と回答。グローバル展開の話題では、近藤氏から「シェーダにロケール情報を乗せてカルチャライズができないかと思っています。これも今思いついたものですが、言語だけでなくシェーダレベルでローカライズができたら面白いなと。日本とアメリカで"萌え"はちがうと思うし、1つモデルをつくっておいて、シェーダで国ごとの好みに合わせていけるのでは」というコメントも飛び出した。

<6>PBRとNPRの特性と使い分け

質問:その7はNPRとPBRについて。多様な画づくりが可能なUnityにおいて、企画の初期段階でどちらを使うかを選択するのは重要だが、PBRでなければリアリスティックな画づくりができないというわけではないと小林氏が説明する。また、エクシヴィがDCEXPO2017にて展示した『VR✕HEARTalk』の事例をもとにトゥーンシェーダでも「工夫することで存在感を出せる」と語る小林氏だが、近藤氏も「VRにおいては自分をどう表現するかが難しく、鏡を置いて自分がそのキャラクターだと脳に認知させるか、存在自体を消すか、もしくはこの事例のように自分の影だけを出すという解決策がありますが、ここではユニティちゃんに影が落ちることで実在感が増しています」とコメントした。

『VR✕HEARTalk』のプレイ画面

松村氏は「PBRは西洋美術的で、NPRは日本古来の美意識が影響していると考えています。浮世絵なども線がメインですし、キャラクターを際立たせるというのは昔からやっていました」と語り、マンガ文化に近い表現の場合はNPRを選択すると説明した。

KeyShotによるPBRとカマクラシェーダーズによるNPRの比較

Jack氏は「我々はNPR、PBR両方に興味があります。今の市場にはセルシェーディング、AAAタイトルに使われるPBR、ディズニーやPixarが好んで使う西洋的なNPRがありますが、私は新しい東洋型のアニメスタイルをPBRでつくっていきたいと思っています。サーフェスマテリアルの表現力が豊かで、使いやすいというPBRの特徴と、NPRのもつアーティスト的な、感情的に面白い表現ができるというポイントを組み合わせていきたい」と展望を語った。

登壇者数が非常に多いため、トークのながれで様々な話題が出るなど終始止まるところのない印象だった本講演。記事内にまとめた情報はあくまで一部ではあるが、本記事を見てトゥーンシェーダに興味をもたれた方は、まずはぜひ無償で使用可能なユニティちゃんトゥーンシェーダ2.0やカマクラシェーダーズを試してみてほしい。