Black Beard Design Studio Inc.(以下、BBDS)が開発・配信するスマホ&PC用ゲーム『N.E.O』。本作では、主人公「アイザック」の相棒であるロボット犬の「チョビ」をはじめ、様々な動物メカが活躍する。その開発の舞台裏を紹介しよう。
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ゲームグラフィックスで日本一を目指す "海賊船"
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 266(2020年10月号)掲載の「第2特集 動物CGから紐解く美術解剖学との付き合い方/解剖学的に正確だとしても意図した印象になるとは限らない」を再編集したものです。
TEXT_Black Beard Design Studio Inc.
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
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スマホ&PC用ゲーム『N.E.O』
ジャンル:ハックアンドスラッシュ
プラットフォーム:iOS/Android/Steam
価格:無料
(詳細は各ストアをご覧ください)
neo.kurohige.jp/index.html
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Black Beard Design Studio Inc.
"Stealing your heart " 常にユーザーの心を奪えるような感動をグラフィックスで表現することをテーマに、2010年にゲームグラフィックスに特化したCGプロダクションとして活動を開始。2019年秋には自社パブリッシング1作目である『N.E.O』をリリース。そして2020年は第2作目を誠意開発中!
www.kurohige.jp
何よりも印象が大事なので「そのままつくらない」ことを意識する
BBDSはゲームグラフィックスに特化したCGプロダクションとして、設立時から一貫して、様々なゲームで使用されるCGを制作してきました。また、モデリングだけに留まらず、コンセプトアート、キャラクターのデザイン・モデリング・アニメーション、背景のデザイン・モデリング、エフェクトにいたるまで、全工程に対応できるデザイナーを社内に抱えており、各々が専門分野に特化しつつ、連携できる開発体制をとっています。そのため、大きなプロジェクトであっても、全工程において、ハイクオリティなゲームグラフィックスを制作することが可能です。
具体的なタイトルは伏せますが、その作品のターゲットユーザーやねらいなどをふまえ、デザイン画を3D化する際の方向性を提案し、その後のモデリングやアニメーションもクライアントと一緒に担っていく仕事も得意としています。『N.E.O』の開発では、その経験がおおいに役立ちました。
▲『N.E.O』トレーラー
チョビのような3Dキャラクターを制作する際には、最初に、美術や造形に精通しているスキルデザイナー、もしくはエキスパートデザイナーが、指針となるモデルをアートディレクターと共に仕上げます。このとき「そのままつくらない」ことを意識しています。デザイン画に似ている・似ていないを判断の指針にするのではなく、「デザイン画の与える印象を再現できているか?」「エンターテインメントとして、魅せられるか?」を大事にしています。
美術解剖学の知識も必要ではありますが、「そのままつくらない」という点は変わりません。解剖学的に正確につくったからといって、意図した印象のグラフィックスになるとは限りません。特にゲームは、キャラクターが動くのはもちろん、視点(カメラ)も動きます。その結果、思わぬアングルから映すことになり、開発者が意図しない印象のグラフィックスになることもあります。そういう場合は、正確ではない造形や動きにしてでも、意図した印象になることを優先します。加えてゲームにはスペックの制限があり、全てを正確に表現することには限界があるので、何よりも印象が大事になるのです。
▲作中ムービー
小型犬のボストン・テリアを大型犬のサイズへとリデザイン
『N.E.O』の世界には、生身の動物が登場しません。メカは人間がつくり出すものであり、生身の動物にはない、特別な冷たさ、切なさ、人間の欲望などが詰まっているような気がします。最終的に、本作の世界やストーリーでは「人間同士の争い」を表現したかったので、実在する動物をメカに落とし込むことにしました。
本作には、様々な動物メカが、倒すべき敵として登場します。そんな中で、チョビは唯一の味方としてユーザーと行動を共にします。そのためユーザーには、チョビに愛着をもってもらう必要がありました。チョビをデザインする際には、様々な犬種の中から「チョビらしさ」を探しました。そして愛着というキーワードに一番当てはまったのがボストン・テリアという小型犬でした。ただし、実寸の小型犬をそのままつくってしまうと、ゲーム上では米粒くらいの大きさになってしまうので、ボストン・テリアの良さを残しつつ、大型犬に近いサイズにリデザインしました。また、ボストン・テリアの豊かな表情にも注目し、人間のような感情表現を、メカならではの方法で再現しました。
ボストン・テリアをベースに様々な近しい犬種をミックス
▲小型犬のボストン・テリア。ブルドッグとイングリッシュ・テリアを起源とする犬種です
▲【左】中型犬のフレンチ・ブルドッグ/【右】大型犬のボクサー。ボストン・テリアをベースに、様々な近しい犬種をミックスし、ベースとなるシルエットを確定。この時点ではあまり「メカ」を意識せず、チョビに期待する「かわいらしさ」「愛嬌」「相棒としての信頼感」を重視しました。ひとくちに犬と言っても細部の造形はまったく異なるので、コンセプトに合う耳、目、口、首、胴体、四肢の形状・長さ・太さを模索し、各パーツを組み合わせながら整えていきました
ブルドッグらしい円形に近い胸郭を再現
▲チョビのコンセプトモデル。本作のキャラクター制作は、岡田恵太氏(Villard・代表)にご協力いただきました。チョビの制作時には、岡田氏にラフなコンセプトモデルをZBrushでつくってもらい、相談しながら完成度を高めていきました。廃材をかき集めたようなデザインにしたかったので、必要以上にデザインが洗練されてしまったり、おとなしくなってしまわないように、あえてデザイン画は描きませんでした。その結果、リアルさや、愛着感が出せたと思います。なお、犬には鎖骨がなく、肩甲骨が筋肉によって胸郭の側面に付き、上腕骨へとつながっています。そこで前肢の付け根には、肩甲骨を彷彿とさせるようなパーツを取り付けました。また、ブルドッグの胸郭は楕円形ではなく円形に近い形状なので、チョビにもこの特徴を反映させています
▲作中では一部のパーツを青く発光させることで、動力感を足しました
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フェイシャルに制限がある中で、メカ特有の切なさを表現
フェイシャルに制限がある中で、メカ特有の切なさを表現
▲メカ系のペットは、目の部分をモニタにして感情表現を行うことがよくあります。チョビの場合も、この方法を使いました。チョビは目以外のフェイシャルアニメーションができない仕様で、口は開きません。このような制限の中で、目のモニタによる感情表現に、犬らしい仕草や喜怒哀楽のSEを組み合わせた結果、メカ特有の切なさを表現できたのではないかと思います
板ポリゴンの前後移動によるシンプルな感情表現
▲前述したように、チョビの感情は目のモニタを使って表現しました。Normal、Smile、Close、Surprisedからなる4種類の板ポリゴンを用意し、それらの位置を前後移動させることで表情を切り替えるしくみにしています。本作はスマホでもプレイできるようにする必要があったので、なるべくシンプルな仕様に収める必要がありました。チョビに限らず、本作の動物はどれも生身ではなくメカなので、必要最低限のシンプルな表現へと割り切ることができました。このシンプルな表現と、メカらしいデザインが組み合わさることで、「生身の動物ではない」印象を強めることができたと思います
廃材のような鉄板を何層にも重ね、筋肉や羽根のボリュームを再現
本作では「メカであること」よりも、「生身ではないこと」の表現に重きを置いたので、機械特有の関節構造や動力源などはあえて曖昧にして、外装の表現の方にこだわりました。例えば、廃材のような鉄板を何層にも重ねることで筋肉や羽根のボリュームを再現しつつ、生身ではない冷たさも表現しています。関節や可動部分は「未来素材」と名づけた半透明で柔軟な素材を使用している設定なので、リギングやアニメーションは生身の動物と同じ挙動を意識しており、メカ特有の重さなどはあえて表現していません。
複数のジョイントとIKで後肢にある4つの関節を制御
▲本作には、チョビ以外にも、多くの四足歩行の動物メカが登場します。四足歩行の動物は、その多くが指骨で立っており、歩行時には手根骨(手首)や足根骨(足首)が地面より高い位置にあります。後肢の場合、制御が必要な関節は股関節・膝関節・足首関節・指関節の4つで、これらをひとつのIKで制御するのは難しいため、複数のジョイントとIKを設定し、大腿骨の動きを半自動化することでアニメーターの負担を軽減しています。なお、このリグを組むにあたり、コロッサスさんの記事を参考にさせていただきました
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モジュラーリグの簡易版で多彩な関節構造に対応
▲本作に登場する動物メカの多くは、ユニークな形状や大きさをしています。その中には、虫系のようなイレギュラーなものもありますが、メインは人型系、鳥系、獣足系の3つです。いずれにせよ、既存リグの使い回しは難しく、かといって手作業で組んでいると時間がかかるため、脊柱・上肢(前肢)・下肢(後肢)などの部位ごとにスクリプトでリグを生成した後、各々の関節構造に合わせて調整することで、再現性や再利用性を高めています。モジュラーリグシステムの簡易版といったイメージです。系統が同じ動物は類似の関節構造をしている場合が多いので、このシステムが効果を発揮しました
スマホのプレイ画面で見たときの印象やわかりやすさを大切に
本作のプレイ中の視点(カメラ)は常に俯瞰で、スマホの小さな画面でも認知できるようにする必要があったので、ポーズやアニメーションを付けるときにはスマホのプレイ画面で見たときの印象やわかりやすさを一番大切にしました。Maya上でアニメーションのクオリティをチェックする際には、プレイ画面と同じ視点にしたビューを見て判断しました。そのため、別の視点から見ると、ものすごく違和感のあるアニメーションがいくつもあります。ある意味、2Dゲームにおけるアニメーション制作と同じ考え方と言えます。
俯瞰で見たときに「一番それらしく見える」ことを重視
▲プレイ中の視点から見た、獣足系の動物メカとチョビ
▲先のデータを別視点からを見たもの。いずれも俯瞰で見たときに「一番それらしく見える」シルエットやアニメーションを意識しています。例えばチョビは、爪先のシルエットが俯瞰で認知できることを重視した結果、真横から見ると少しだけカカトが地面から浮いています。このように、自然なポーズをとらせると俯瞰で見た場合に「そう見えない」ため、あえて不自然なポーズにするというケースが多々ありました
「何をどうつくるか」ではなく、「何を伝えたいか」が大事
本記事を通して一番伝えたかったことは、「何をどうつくるか」ではなく、「何を伝えたいか」が大事だということです。もちろん、何かを伝えるためには、その方法を吟味する必要があるので、実在する動物の外形や内部構造を調べたり、取り入れられる技術を取り入れたりするよう努めました。しかし、本作は特に制限の多いプロジェクトだったので、その中で「伝えたいことを、どう伝えるか」を考え、どこまで再現するかを取捨選択してきました。また、制限を悪ととらえず、活かす方向で試行錯誤することを心がけました。本記事でご紹介した内容は、地味ではありますが、ものづくりの考え方やとらえ方の参考にしてもらえると幸いです。
BBDSはゲームグラフィックス制作の受託をメインの業務にしていますが、本作のようなオリジナルタイトルの開発も行なっています。また、いずれの場合も、コンセプトアートやデザインから考えながら制作できるプロジェクトを数多く手がけています。当社では、同じ思想を共有でき、良いものをつくりたいと強く思えるスタッフを随時募集しています。共感してくださる方は、ぜひ当社Webサイトよりご応募ください! お待ちしています!
<Black Beard Design Studio Inc.の求人情報>
ゲームグラフィックスで日本一を目指す "海賊船"
cgworld.jp/interview/202010-bbds.html
▲左より、角谷圭之氏(エンターテイメントディビジョン・リードプランナー)、石橋 崇氏(クリエイティブディビジョン・ゼネラルマネージャー)、岸 孝侍氏(代表取締役/アートディレクター)、根本まふゆ氏(プロデュースディビジョン・ゼネラルマネージャー)、安藤なつき氏(クリエイティブディビジョン・2Dリードデザイナー)、丸田康平氏(クリエイティブディビジョン・背景リードデザイナー)
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月刊CGWORLD + digital video vol.266(2020年10月号)
第1特集:バーチャルイベント最前線
第2特集:動物CGから紐解く美術解剖学との付き合い方
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2020年9月10日
cgworld.jp/magazine/cgw266.html