2020年9月の「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.1」の好評を受け、12月18日(金)から20日(日)の3日間にわたり「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.2」が開催された。「コンセプトアート」と「アニメーション」に焦点をあてた前回に続いて、今回は「キャラクターモデリング」と「背景モデリング」といったモデリング系にフォーカス。ひとくちにモデリングと言っても様々で、各ジャンルの第一線で活躍するクリエイターが登壇するバラエティ豊かなイベントとなった。早速その様子をお伝えしよう。
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TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎぞうデザイン)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)
クリエイターとしての「情報の引き出し」を増やす
結論から言うと、「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE Vol.1」でも感じたイベントとしての密度とコストパフォーマンスの良さは今回も健在であった。全てのセッションを視聴すると、24時間程度を要する長丁場のイベントだ。興味のある講座や仕事の役に立つ講座をピンポイントで視聴するのももちろん良いが、チケットを購入すると全セッションの視聴が可能という特典を活かし、アーカイブを利用して時間が許す限り多くのセッションを視聴してみてほしい。というのも、こういった機会にクリエイターとしての「情報の引き出し」を増やしておくことが、モチベーションとスキルの向上に役立つと感じたからだ。たとえ専門外のセッションであったとしても、情報として知っていたりソフトの操作画面を見ておいたりすることは、新たな技術を導入する際の障壁を低くしてくれることだろう。
また、「情報の引き出し」が多いことは、クライアントの要求への対応力が高まるという点で有利だ。CG業界の分業化は日々進んでいる上に技術の進歩が早く、新しい知識とテクニックが常に求められる。衣装や布の制作ツールとして有名なMarvelous Designerを例に挙げると、以前はモデリングやアニメーションの一部としてClothシミュレーションが使われてきたが、独立したツールでフローとして扱われるようになり、ここ数年では業界スタンダードと呼ばれるほどになった。最近ではエンターテインメント業界だけではなく、アパレルなどの流通業界でも使われ始めており、新たなビジネスチャンスを逃さないようMarvelous Designerでの制作を手がけるプロダクションも増えてきた。
そんな昨今の潮流に歩調を合わせるかのようなセッションが、デジタルアーティストの藤堂++氏による「衣装制作テクニック ~Marvelous Designerによる衣装制作ケーススタディ~」であった。藤堂氏が実際にMarvelous Designerの実演をしながら実践的なテクニックが紹介されたのだが、Marvelous Designerをまだ使ったことがないという方にとっては導入の参考になっただろうし、すでに使っているという方には目からウロコのテクニックが紹介された。実際、背景モデリングやハードサーフェスのモデラーでも「布モノ」を制作することが多いので、スキルアップには絶好の機会となったことだろう。
▲Marvelous Designerの実践的かつ裏技的なTIPSが紹介された
▲フリルなど細かいディテールをきれいにつくるためのTIPSも
シミュレーションを利用したりプロシージャルな計算を使ったりと、モデリングの手法は日進月歩でアップデートされている。第一線で活躍するクリエイターが紹介するTIPSや新たな知識を得ることは、実践前のモチベーションUPにつながり良い刺激となる。
海外の制作体制をリアルに垣間見る
情報を得るといえば、実際に海外で活躍しているクリエイターのテクニックを見ることができるという点も同イベントの魅力だ。「モデラーのためのテクスチャ講座」では、DreamWorks Animatioで活躍する山本原太郎氏よるセッションで、ハリウッドの第一線で走り続ける同氏が語る業界最先端の情報はとても興味深く、現在の仕事への取り組み方に対する1つの指標にもなり得る話を聞くことができた。
また、どのセッションでも「基本」をとても大切にしていることが見て取れる。海外であっても日本であっても、テクスチャワークの基本的な手法自体は同じであったり、ツールに関しても日本の現場で使われているものと同じであったり。そんなところで妙に安心している自分がいた。
▲テクスチャのワークフロー。ローポリモデルだがテクスチャによりかなりディテールアップされている
しかし、安心感を得たのも束の間で、そこはやはりハリウッド作品。ひとつひとつのクオリティは非常に高く、特にUDIMの数については少々引いてしまうほどであった。莫大なコストをかけられる制作体制に思わずため息が出てしまう。また、日本の制作現場と大きく異なると感じたのは、セッションの序盤で語られた「作品に対するサーフェイサーとしての役割」や「色の体系的な捉え方」に関してだ。ビジュアル、ひいては作品の品質を左右する重要な仕事であるにも関わらず、日本ではアーティスト個人の技量に任せきっており、体系的に考えられてない部分ではないかと考えさせられる話であった。
▲作品の世界観を統一するために、常にカラーの設定には目を光らせているという
「己の道」を極めようとする姿に刺激を受ける
テクニック的な話だけではなく、CGや仕事に対する根本的な姿勢について大変参考になったのが、美術解剖学者/メディカルイラストレーターである加藤公太氏のセッション「美術解剖学入門」だ。解剖学まで深く踏み込んだ3時間弱の濃密な講座は見応え抜群。筋肉の正式名称を使って人体に関する詳細な事実を話すライブ放送は、エンターテインメントとしても十分楽しいもので、長丁場のはずがあっという間に感じられたセッションだった。リアルであろうとデフォルメであろうと、キャラクターモデリングをしているクリエイターにとって役に立つ知識であることはもちろん、動物やクリーチャーのモデリングをしている方にとっても大いに参考となる内容であった。
加えて、1つのことを突き詰めていく加藤氏の姿勢はジャンルを越えて見習いたいところだ。「好きだから知りたいし上達したい」という純粋な学習意欲は、CGを始めた頃は誰もが持ち合わせるものだが、仕事をこなしていくうちに忘れてしまいがちでもある。「己の道」を極めようと邁進している姿から初心を思い出すというのも良いものである。全身の筋肉を難しい正式名称で紹介しながら、「各筋肉のキャラクターを捉えるのが大事」と、まるで筋肉に人格があるように説明する同氏の姿に、「かくありたい」と尊敬の念を感じたほどだ。
▲体にも筋肉が描き込まれ、まるで筋肉の標本のような画像ができ上がっていく
前夜祭でモチベーション&ウォーミングアップ
最後になったが、イベントの前夜祭として開催された「モデラーの悩みをスッキリ解決! モデラー座談会」についても触れておこう。国内外で活躍する背景モデラー3名(Motonak代表・中村基典氏、SAFEHOUSE取締役 / モデリングSV・鈴木卓矢氏、Barehand Modeling Studio代表取締役・一瀬 隼氏)による座談会はライブでのみ視聴可能となっており、視聴者からチャットで送られてくる質問に3名が意見を交えつつ回答。「CGを始めたきっかけは?」、「オススメの練習方法は?」、「得意分野をもっておくべき?」、「建築に関する知識は必要?」、「海外経験は積んでおくべき?」など非常に多くの質問が寄せられた。三者三様、率直なことばで丁寧に答えていく姿が印象的で、人柄の良さが伝わってくる座談会であった。ちなみに前夜祭は参加無料。セッションを受ける前のモチベーションも上がり、よいウォーミングアップとなってくれた。
▲左上から時計回りに、CGWORLD編集長・沼倉有人、Motonak代表・中村基典氏、SAFEHOUSE取締役 / モデリングSV・鈴木卓矢氏、Barehand Modeling Studio 代表取締役・一瀬 隼氏)
全てのセッションをレビューすることができず残念だが、どれも興味深く視聴することができた。全15セッション、時間にして24時間程度におよぶイベントではあったが、どのセッションも力強い言葉にあふれており、テクニックだけではなくモチベーションまでもUPさせてくれる充実した時間となった。
ここで、前回に続き全てのセッションを視聴した筆者による、ちょっとした「CGWORLD MASTER CLASS ONLINE 視聴TIPS」なのだが、どうしても視聴する時間が確保できないという方は、アーカイブを早回しで見ることをオススメする。Vimeoなどをオンライン視聴時に早回しにするChromeのアドオン等もあるので、活用してみてはいかがだろうか。隅から隅までもれなく視聴し、一言一句を生真面目に覚える必要はない。今は興味がなかったり、業務にあまり関係がなさそうな部分であっても、頭の片隅に残しておけば何かの拍子にアイデアソースとなることはよくあることで、後はその記憶を頼りに検索するなりして自分で情報を追っていけば良い。
ネットで検索すれば無料でたくさんの情報が出てくる時代だが、その情報は玉石混交で検索能力が問われるのも否めない。そのような状況において、プロフェッショナルがキュレーターとなってクオリティの高い情報を提供してくれる同イベントは、大変有益なものであった。駆け足のレビューであったが、前回に引けをとらない大満足のセッションに大いに刺激を受けた。次回の開催も期待したい。