プロシージャルの可能性は無限
2018年8月現在、本研究室には学部の3年生が16名、4年生が18名、大学院修士課程の1年生が4名在籍しています。修士課程には中国とタイからの留学生がそれぞれ1名います。そのほかにも中国の学生から大学院進学希望の問い合わせが複数きているので、今後はさらに国際色豊かになりそうです。本研究室への配属を希望する学生の多くは「プロシージャルアニメーション、あるいはプロシージャルモデリングの研究に取り組みたい」と語ります。「Houdiniをさらに学びたい。研究で使用してみたい」と語る学生も多くいます。
私はプロシージャルという手法の可能性は無限だと感じており、それを設計コンセプトとするHoudiniを授業に取り入れています。そのメッセージに共感した学生が、本研究室の門を叩いてくれているのだと思います。現在の本研究室では、氷の状態遷移シミュレーション、岩の風化現象シミュレーション、スケッチベースのHairスタイリング、稲妻のシミュレーションなどの研究を行なっています。
▲本研究室による研究成果画像の例。雲・氷・岩など、自然現象のシミュレーション技術の開発を行なっています
▲スケッチベースのHairスタイリングの研究
なお本研究室ではプロシージャルとは別に、コンテンツデザインサイエンスという研究の大テーマも掲げており、コンテンツデザイン手法における暗黙知を誰もが認識できる形式知として定式化することを目指し、様々なコンテンツに対してディープラーニングやラフ集合を活用した分析を実施しています。現在は、360度動画の制作手法、映画の予告編の編集手法、LINEスタンプのデザイン手法などに関する研究を行なっています。
学会活動に関しては、年間2~3件程度の学術論文が採択されており、年間20件程度の学会発表をしています。積極的に投稿、参加している学会は、芸術科学会、情報処理学会などです。2018年度はICGG(International Conference on Geometry and Graphics)2018という国際会議でも論文が採択されました。また、NICOGRAPH Internationalなどの国際会議でも発表しています。今後はSIGGRAPHなど、より著名な国際会議での採択を目指したいと考えています。
また、AnimeJapanへの出展、各種コンペティションへの応募をはじめ、作品を世の中にアウトプットする活動にも力を入れています。第20回文化庁メディア芸術祭では、『Crossing Tokyo』という360度動画の作品がエンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出されました。
▲第20回文化庁メディア芸術祭でエンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出された『Crossing Tokyo』という360度動画の作品
研究成果の特徴を抽出し、映像化する
産学連携にも意欲的に取り組んでおり、CGプロダクションと共に、ビジュアルシミュレーションの共同研究・共同論文執筆を実施しています。さらに研究所や企業の技術開発・研究部門からの依頼を受け、研究の内容・成果をわかりやすくビジュアル化(映像化)する活動にも取り組んでいます。文部科学省が研究成果のアウトリーチを推奨していることもあって、様々な研究機関がその成果を一般の人にも伝わるように広報することに力を入れています。その際「物理・化学現象の正確な再現を目指すのではなく、その研究成果の特徴を抽出し、わかりやすく映像化する」ことに関しては、本研究室が培ってきたプロシージャル技術が有効だという評価の下、技術展などのPR映像の制作を依頼される機会が増えています。
▲本学が位置する八王子市は東京都区内のベッドタウンで、多くの小学校があります。そのため八王子市では、市内にキャンパスがある大学の教員による「夏休み子ども いちょう塾」という小学生向けの講座が開催されています。本研究室では「VFX映像合成」というワークショップを企画。小学生がブルーシートの前で演技する様子を撮影し、事前に本研究室のメンバーが制作しておいたステージやエフェクトなどのCG素材と合成することで、簡易的なブルーバック合成を体験してもらいました。1日1回180分、2日間の開催で、両日とも定員いっぱいの申し込みがあり、大盛況でした。このような取り組みもまた、重要なアウトリーチ活動の一環だと考えています
なお、前述のような映像制作を請け負う場合は、こちらが単なる「下請け」にならないよう注意しています。残念ながら、依頼主が学生のことを「安価な労働力」と勘違いして、当初の打ち合わせにはなかった要求をくり返し出してくるといったケースも発生しているため、私がしっかりとマネジメントするよう心がけています。一方で、打ち合わせでは依頼された以上のことを提案するようにしています。
本研究室の学生の就職先はCG・映像プロダクションが最も多く、モデラー、エフェクトアーティスト、テクニカルディレクター、テクニカルアーティストなどの職種で活躍しています。これは本研究室に限った話ではありませんが、大学での研究活動の経験は、後の仕事におおいに役立つと思います。
研究活動のながれ
【1】課題の発見
【2】課題の解決方法の仮説立案
【3】関連研究・技術の調査
【4】【2】の仮説の検証
【5】課題解決のための実装と実験
【6】実験結果の評価と考察
上記の進め方は決して研究活動に限定されたものではなく、日々の業務やプロジェクトにおける問題解決でも通用するものだと思います。大学の研究活動を通して、これが身に付いているか否かが、産業界から評価される人材になり得るか否かのポイントだと考えています。さらに、前述の通り本研究室はHoudiniを技術開発のベースとして数年前から使っているため、Houdiniのスキルが高い学生をコンスタントに輩出しています。産業界からは、その点も評価されていると感じています。