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No.009:中京大学 工学部 宮崎研究室

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RESEARCH 1:自動車設計、スポーツ分野での応用研究

・自動車設計への応用

以降では、私が共同研究者や学生らと共に行なってきた自動車設計、およびスポーツ分野での応用研究をご紹介します。

近年、特にエンターテインメント分野におけるVRブームは凄まじいものがありますが、私が大学院生だった2000年頃にも第一次VRブームがありました。当時のVRデバイスは、現在のものと比較して、価格は10倍以上、性能は難ありの代物で、利用できる研究機関は限られていたと思います。

そんな状況下で、われわれは地元の自動車メーカーとの産学協同研究として、VRの自動車設計への応用[1]を試みました。両眼視差を用いたステレオ視では、表示物体の計算上の奥行き距離と、観測者が実際に知覚する奥行き距離との間にズレが生じることが知られています。このズレが大きいと、自動車設計などの際に立体視映像と実際の製品との間に印象の不一致が生じ、設計者の意図が製品に反映されないという問題が生じます。また、入力デバイスで表示物体を操作する場合の操作性にも影響します。

本研究では、観測者が知覚する奥行き距離の計測結果に基づき、ステレオ画像生成時の視野に関する3つの補正パラメータの最適値を求め、ズレを高精度で補正する機能の実現を目指しました。本研究を通して、当時のVRデバイスをひと通り扱えるノウハウが得られたことに加え、後述するVRアプリケーションプログラミングの研究の土台ができたことは、大きな収穫だったと感じています。

▲大型スクリーンに立体視投影された自動車の設計データ


▲奥行き知覚実験の概略図。立体表示される仮想物体の頂点を、実物体の指示棒で指し、その位置を計測します


・スポーツ動作分析への応用

本学は国内有数のスポーツ大学として周知されています。その上、本学科所属の長谷川純一教授、瀧 剛志教授の研究室は、スポーツ科学部と強いつながりがあるため、様々なスポーツ応用の共同研究の機会を与えていただきました。スポーツ動作分析の支援を目的とした人体センシング情報の可視化提示法[2]を研究した際には、その成果を活用し、スポーツ科学部の北川 薫教授(現、梅村学園学事顧問、全日本ボウリング協会会長)のグループと共に、科学番組の制作にも参加しました。

本研究では、ボウリング投球動作やゴルフスイング動作をする被験者の腕の各部に筋電圧計を取り付け、その動作と計測値を人体の3Dモデルへリアルタイムに適用することで、動作フォームの変化にともなう各筋の負荷状態の変化を視覚的かつ直感的に理解できるアニメーションの制作を試みました。その結果、例えばボウリング投球動作では、ボールをリリースする瞬間、プロボーラーは上腕の筋に力が入るのに対し、アマチュアは前腕の筋に力が入ることを、わかりやすいアニメーションで示すことができました。このデータを計測するため、同僚の山田先生、および学生2名と共に東京へ行き、昼間に取ったデータを、夜にホテルで分析したことは懐かしい思い出です。

▲ボウリング投球動作における、ボールをリリースする瞬間の腕の筋電圧の状態。力が入っている部分を赤色で示しており、プロボーラー(図内上)は上腕の筋、アマチュア(図内下)は前腕の筋に力が入っていることがわかります


▲【左】人体とボールの動きを時系列に可視化したもの/【右】6個の筋電圧計の計測値を時系列に表示したもの


研究が実を結ぶまでには、ある程度の期間持続して研究を続ける必要があります。研究と並行して教育も行わなければならない大学教員がそれを実践するためには、大学院生の存在が必要不可欠と言っても過言ではありません。当時長谷川・瀧研究室に所属していた稲葉 洋さん(現、松江工業高等専門学校 情報工学科 准教授)は、本研究のキーパーソンでした。

稲葉さんは、前述の人体センシング情報の可視化の研究に携わったのに加え、人体の柔軟組織の変形をともなう動作生成シミュレーション[3]の研究でも尽力してくれました。本研究では、骨、骨格筋、脂肪の3組織で構成された人体モデルを生成した後、骨格筋の収縮に基づく動作を生成する手法を提案し、そのプロトタイプシステムとして、下肢の筋の能動的な伸縮に基づく足の変形シミュレーションを実現しました。なお、本研究はスポーツだけでなく、医療やリハビリテーション分野での動作解析や評価への応用も視野に入れています。

▲骨、骨格筋、脂肪で構成された人体下肢モデル。筋の能動的な伸縮に基づき、膝が屈伸する動作を生成しています


・シミュレータ開発への応用

本学は各スポーツ界とも密接に関係しているため、ボブスレーの専門家との共同研究も行いました。スキーやボブスレーなどのウインタースポーツは、競技場の数、気候や天候などの影響により、実践的なトレーニングを十分に積むことができないという問題があります。そこでわれわれのグループは、イメージトレーニングのための新しい手段として、VR機器を利用したボブスレー滑走体感シミュレータ[4]を開発しました。本研究では、4面に設置した大型スクリーンと電動6自由度の動揺装置の併用によって、滑走時に選手にかかる大きな加速度を再現することを目指しました。

▲ボブスレーの機体にかかる力と滑走経路を物理シミュレーションで計算し、計算結果に基づいた動揺装置の動きを、その動作可能範囲内で誇張して生成しています


・参考文献

[1]吉田俊介, 宮崎慎也, 星野俊仁, 大関徹, 長谷川純一, 安田孝美, 横井茂樹:ステレオ視表示における高精度な奥行き距離補正の一手法, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 5, 3, pp.1019-1026, 2000
[2]稲葉洋, 瀧剛志, 宮崎慎也, 長谷川純一, 肥田満裕, 山本英弘, 北川薫:スポーツ動作分析の支援を目的とした人体センシング情報の可視化提示法, 芸術科学会論文誌, Vol.2, No.3, pp.94-100, 2003, 芸術科学会論文賞受賞
[3]稲葉洋, 瀧剛志, 宮崎慎也, 長谷川純一, 鳥脇純一郎:弾性骨格筋モデルに基づく組織変形と人体動作生成シミュレーション:日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 10, 4, pp.619-626, 2005
[4]荻野雅敏, 瀧剛志, 大塚勝也, 北島章雄, 宮崎慎也, 長谷川純一:ボブスレー競技のための体感型トレーニングシミュレータの構築, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, Vol.11, No.4, pp.469-478, 2006

 

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学生の奇抜なアイデアから生まれた「流鏑馬VR」

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