今年1月に大円団を迎えたTVアニメ『わんだふるぷりきゅあ!』。今回はその後期ED「しあわせえぼりゅ~しょん♡」について、3DCGによるキャラクター表現から、撮影までメイキングを全2回にわたりお届けるす。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 318(2025年2月号)から、一部内容を追加編集した転載となります。

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    4人のプリキュアがそろったポップでキュートな映像と可愛いダンスに注目!

    本作の演出と絵コンテは前期EDからひき続き、東映アニメーションのCGアニメーター出身である滝 勇樹氏(現在はフリーランス)が担当。制作はモデリングとアニメーション付けは東映アニメーション、背景と撮影をモンスターズエッグが担当するという布陣だ。

    前期EDと比べると、大きなちがいは2つ。登場キャラクターに「猫組」こと、キュアニャミーとキュアリリアンの2人が加わったこと。そして、作品のルックが前期は3DCG感を強く押し出していたのに対し、本作では2D風のポップなルックを採用したことだ。

    TVアニメ『わんだふるぷりきゅあ!』
    www.toei-anim.co.jp/tv/wonderful_precure
    ⒸABC-A・東映アニメーション

    演出の滝氏は作品の意図について「前期とちがうことをしたかったのもありますが、後期はプリキュアが増えて4人になったので、それぞれのキャラクターを目立たせるために背景のルックを2Dグラフィックスのようにして、キャラクターを前面に押し出したものにしました」と語る。

    左より、CGプロデューサー・野島淳志氏、CGプロダクションマネージャー・渡部弘之氏、CGアニメーションスーパーバイザー・鄭 彦康氏、プロップモデリングスーパーバイザー・海老沢大生氏(以上、東映アニメーション)、絵コンテ&演出・滝 勇樹氏(フリーランス)、キャラクターモデリングスーパーバイザー・坪川尚史氏、エフェクトスーパーバイザー・渡邊亮太氏、リギングスーパーバイザー・猪野高史氏、CGディレクター・高橋友彦氏(以上、東映アニメーション)

    カメラワークもそれぞれのキャラクターが見えやすいようにゆっくりとしたものにされた。ちなみに、滝氏イチオシのカットはリリアンがアミティーリボンタンバリンを叩くカット。タンバリンが叩かれると、その猫耳が揺れるように気持ちよく動く。アニメーター出身らしい玄人目線なチョイスだ。

    「前期と後期でちがいを出して、楽しいワチャワチャとした映像にしようと思っていました。何度も見ていただけると嬉しいです」と本作についてまとめてくれた。

    左より、コンポジター・村上立城氏、コンポジットスーパーバイザー・野村達哉氏、CGプロダクションマネージャー・八巻文音氏(以上、モンスターズエッグ)

    CGプロデューサーの野島淳志氏は「ダンスの振付けも2人ずつのペアを意識して付けています。ぜひ楽しんでご覧ください」とふり返ってくれた。趣向が凝らされた後期EDをぜひじっくり観てほしい。

    キュアニャミーとキュアリリアンも登場、2D風のルックで描かれた後期ED

    後期EDは3DCG感を前面に出した前期と比べて、手描き風の2D感が強くなっているのが特徴だ。グラフィカルでフラットなデザインのプロップがたくさん浮いている処理が楽しい作品だが、このような2D的な演出は絵コンテから想定されていて、あらかじめプロップの動きやワイプなどの動きはビデオコンテの時点で演出の滝氏が決めておき、それをアニメーターに踏襲してもらうという制作手順だった。また、エフェクトについても2Dライクな表現が目指された。

    通常はリアル感を出すエフェクト表現も、After Effects(以下、AE)でドロップシャドウを使うなど、2D感を出す工夫がされ、演出意図に沿ったものがつくられている。

    CGディレクターの高橋友彦氏が印象的だと語るのは、「犬組」ことキュアワンダフルとキュアフレンディが揃って手を挙げるカット。「子供が覚えやすいようシンプルなポーズを目指しました。実際に東映アニメーションミュージアムで子供たちが踊っているのを見ると、良いカットにできたと思います」と高橋氏。2D風のわかりやすい表現が幼児にも届いたということだろう。

    後期EDから登場のキュアニャミーとキュアリリアンのモデル

    後期EDから登場したのが猫組の愛称で呼ばれているキュアニャミーとキュアリリアン。ワンダフルやフレンディとベースは同じで、仕様は変わっていないという。モデルの制作期間は2ヶ月程度。

    ▲ニャミーのワイヤーフレーム表示
    • ▲ニャミーで難しかった作業が髪の毛のモデリングだ
    • ▲特に耳の後ろを通って前に出ているサイドの髪束は、作画では自然に表現できるが、3Dで辻褄を合わせるのは難しかったという
    ▲完成モデル。後ろの髪の毛の短冊部分は、メッシュ構造的に頂点が重なってしまっているので、リグを組む際に苦労した部分だったという

    同じく、キュアリリアンのモデル。

    ▲ワイヤーフレーム画面
    • ▲難しかったというポニーテールのモデリング。こちらはニャミーと異なりボリュームのあるポニーテールになっている
    • ▲「根元のボリューム感から、後ろの毛束が薄い髪の毛に続き、再び途中から徐々に太くなっていく形状をつくるのが難しかったです。どのキャラクターも髪の毛は工数がかかる傾向にありますね」とキャラクターモデリングスーパーバイザーの坪川尚史氏。髪の毛はキャラモデリングのポイントだということだ
    ▲完成モデル。なお、ワンダフルとフレンディについては前期EDのモデルが変更点なく活用されているとのこと

    鎖骨の動きも表現する細やかなリギング

    モデルと同様にリグも前期EDで制作されたものをベースに制作されている。リギングにはフェイシャルも含めて東映アニメーションの内製システムであるmiRAを採用。Pythonが使用できるため、リグ構築の高速化に寄与している。猫組の2人はワンダフルたちとはちがい鎖骨が見える衣装なのだが、前期EDの時点で動くようにリグが組まれていたので、対応はスムーズにできたという。

    ▲miRAによる全身のリグ。ジョイントは10,019個、リグは1,632個
    • ▲鎖骨のリグも綺麗に動いている。「鎖骨はラインを斜めに揃え、斜めに上がるようにセットアップしています」(リギングスーパーバイザー・猪野高史氏)
    • ▲左画像、赤枠の拡大

    Ragdoll Dynamicsのコントローラ

    モーションキャプチャは4人分の動きを別収録したが、3D上で見ると動きにかなりバラつきが出たため、ひとつのモーションをベースに各キャラクターの個性をアニーメーターたちが足して、4人分のバリエーションを出していったという。

    セカンダリの動きには前期からひき続きRagdoll Dynamicsが使用されているが、今回からコントローラにPickerをつくることで、より柔軟なシミュレーションがされている。セカンダリはシミュレーションをベースに、手付けでめり込みを除去したり、手描きっぽい動きにしたりと、細かく修正された。

    • ▲Pickerの一例

    手描きアニメーションらしい表現を目指したディレクション

    アニメーション付けについては、演出より「手描きっぽくしたい」という強い要望があったという。「今回は前期EDとのちがいも意識して、中途半端なことはせずに徹底的にディレクションしました」と、CGアニメーションスーパーバイザーの鄭 彦康氏はアニメーション全体のコンセプトを語る。例えば、回転では顔のアオリを抑制して、手描きで描いたらどうなるかを逆算して、立体感より画の綺麗さを重視したアニメーションが付けられている。

    下記の画像はフレンディが回転するカット。CGっぽい複雑な角度での描写ではなく、真横からのアングルに変えたり、髪の毛のセカンダリの動きも手付けで調整され、作画アニメーションに近い表現がなされている。

    ▲修正前
    ▲修正後

    顔の角度の補正

    手描きっぽさを出すため、3DCGならではのパースの角度も補正している。

    • ▲ニャミーの顎と首の接合部分の修正前
    • ▲修正後。こうした修正は「手描きで描いたらこうなるだろう」という視点で調整されているという
    • ▲同様に、ワンダフルの右サイド髪の修正前。3D的なパースが付いている
    • ▲修正後。作画で描かれたような違和感のない形状に調整されている

    キャラクターの造形修正

    腕やふくらはぎは、手描きで描かれたときのような有機的なラインを出すために、カーブなどで大きく曲げるように造形の修正がされている。

    • ▲ふくらはぎや腕の修正前
    • ▲修正後。ふくらはぎや腕がより曲線が強くなり、S字が強調されている
    • ▲同じく、腕や上腕の修正前
    • ▲修正後。特に右腕が顕著だが、弧を描く柔らかなラインに修正されたのがわかる

    めり込み修正

    セカンダリの工程で発生するめり込みの修正は、カメラの奥行を利用して回避されている。

    • ▲ニャミーの髪の毛を修正しているMaya作業画面。後ろ髪が身体にめり込まないように、大きく変形されている
    • ▲実際の完成カット。カメラからの画はきれいに収まっている
    • ▲リリアンのリボンを修正するMayaの作業画面。リボンはダンスの動きで埋め込みが目立つパーツだが、浮かせることでめり込みを回避している
    • ▲実際の完成カット。リボンがめり込むことなく、きれいに描かれている

    キャラクターの個性の演出

    ダンスのモーションキャプチャは4人分を別々に収録したが、別撮りを合わせてみると違和感があったため1人分のモーションをベースに各キャラクターの個性を足してアニメーションを仕上げた。足の上げ方や肘の高さなどにキャラクター性を加味した変化が付けられている。

    • ▲このカットでは活発な性格のワンダフルが一番足を高く上げ、フレンディ、ニャミー、リリアンの順番で足の上げ方も控えめになっている
    • ▲同じく、肘の上げ方にもプリキュアごとの個性が表現されている

    瞳のハイライトの調整

    生き生きとした表情を演出するため、カットごとに瞳のハイライトの大きさも調整されている。

    • ▲リリアンのハイライト修正前
    • ▲修正後。2つある白いハイライトがそれぞれより大きく調整された
    • ▲同じく、フレンディのハイライト修正前
    • ▲修正後。同様にハイライトがより大きく調整された

    おもちゃのイメージを大切にしたフレンドリータクトとアミティーリボンタンバリン

    プリキュアたちが持つプロップは玩具メーカーから支給されたCADデータを下敷きにモデリングされている。実際のおもちゃのデータにプラスアルファして、より3DCGならではの見た目の良さが追求された。

    • ▲ワンダフルとフレンディのフレンドリータクト。実際のおもちゃのリボンは柔らかいサテンなので、その質感を再現。「モデリングはメーカーとやり取りしながら進め、玩具のスピーカーの穴もあえて残すなどしています」(プロップモデリングスーパーバイザー・海老沢大生氏)
    • ▲実際のカット
    • ▲ニャミーとリリアンのアミティーリボンタンバリン。CADデータにはラメはないため3DCG側で質感が追加された
    • ▲同じく実際のカット

    ポップで可愛いエフェクト

    作風に合わせた、たくさんの可愛いモチーフが用いられたエフェクトも見どころのひとつ。以下は、タマゴが割れて中からプリキュアたちが登場する際のエフェクト。

    • ▲タマゴはHoudiniのgeometryノードで作成。Photoshopで別途用意したテクスチャを貼り付け、横回転の動きを追加してレンダリング
    • ▲左画像、赤枠の拡大
    • ▲AEで音符・はじけ・キラキラなどの形状を作成。消え方、移動の仕方などのアニメーションはAEでひとつずつ丁寧に付けている
    • ▲音符・はじけ・キラキラをあわせたコンプ。表示されている要素は全てAEで形状から動きまで制作
    ▲完成カット。ポップで可愛らしい仕上がりだ

    同じく、プリキュアたち4人がポーズを決めるラストカット。

    ▲指示アニメーションに入っていた簡易イメージ
    • ▲AEで本編に登場するモチーフを用意し、それをインスタンスとしてTrapcode Particularで飛ばしている
    • ▲左画像、赤枠の拡大
    ▲完成カット。背景にモチーフやハート型のクリスタルなどが追加され、華やかなイメージに仕上げられた。「演出の求める内容に対し、では具体的にどう実装したらいいか、提案しながら対応していきました」(エフェクトスーパーバイザー・渡邊亮太氏)

    (2)に続く。

    CGWORLD 2025年2月号 vol.318

    特集:株式会社萌と『株式会社マジルミエ』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年1月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada