相手がどう思ってリテイクを出しているかまで考える
C:鈴木さんは、どうやってモデルをチェックしているのですか?
鈴木:チェックの際には、ルールに則った画像をモデラーに用意してもらいます。もとになったデザイン画の横に、3DCGモデルのレンダリング画像を並べ、両者を見比べられるようにするのです。このとき、3DCGモデルにはデザイン画と同じポーズをとらせ、カメラの位置や角度も合わせます。デザイン画が前面の場合は、前面に加え、斜め、側面、後面のレンダリング画像も用意してもらいます。デザイン画が斜めであれば、斜めに加え、前面、側面、後面のレンダリング画像も用意してもらうといった具合です。それらの画像を見て、気になる部分は修正指示を出します。僕の席に来てもらい、一緒に画面を見ながら説明することもありますし、レンダリング画像の上からPhotoshopでレタッチをして修正内容を伝えることもあります。
C:3DCGデータを見ることはありますか?
鈴木:怪しい部分は3DCGデータも確認します。加えて、ターンテーブル動画も用意してもらう場合が多いです。
▲「アカミ」のデザイン画。第10話「新世代アイドル 赤ずきん48」に登場。「人気アイドルグループ『赤ずきん48』の落ちこぼれ」という設定だ
©LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
▲「アカミ」のブロックモデル。デザイン画と同じポーズをとらせており、デザイン画の印象が再現できているかを確認しやすくなっている
©LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
▲「アカミ」のディテールモデル。ブロックモデルはスムーズがかかっておらず、ディテールモデルはかかっている。「ブロックモデルの段階でほぼ大丈夫というレベルまでつくり込むので、ディテールモデルとの間に大きな差はないと思います」(鈴木氏)
©LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
▲「アカミ」のワイヤフレーム。動かすことを考慮し、肘や膝はポリゴンの分割数が多くなっている。目や口は閉じ開きするため、ループ状のポリゴンが連なっている。「口角のラインは上向きにした方が自然な表情をつくれます。また、シワをつくるであろう部分はあらかじめポリゴンを割ってエッジをつくってあります。一方で、不必要にエッジを増やさないようにすることも大切です」(鈴木氏)
©LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
C:鈴木さんのチェックは、1体あたりどのくらいの時間をかけるのでしょうか?
鈴木:5∼10分くらいですね。SVになり、あらゆるキャラクターを見て、皆に指示を出すようになってから、修正が必要な部分を見つけるのが早くなったと思います。モデラーだった頃は試行錯誤をやりながら問題点を探っていましたが、指示を出す立場になってからは、早期に問題点を明確にして、なるべく皆に無駄な作業をさせないことを心がけるようになりました。おかげで僕自身も成長しているように思います。
C:今後は谷本さんも、4人の新人に対して指示を出すことになるのでしょうか?
谷本:まだ具体的に決まっているわけではありませんが、その可能性はあると思います。鈴木のようにPhotoshopでレタッチして修正指示を出してくれるとすごくわかりやすいので、そういう明確な指示出しを心がけたいです。自分が新人だった頃は「自分の思い描くゴールと、SVの思い描くゴールが全然ちがった」ということが日常茶飯事だったので、そういう食い違いをなくすことが重要だと思います。
C:学生や新人の中には、自分のつくったものに対してリテイクを出されることを嫌がる人もいると聞きます。谷本さんの学生時代にも、そういう葛藤はありましたか?
谷本:ありましたね(苦笑)。学生がリテイクを嫌がる気持ちはわかります。学生の場合、自分でデザインしたものを自分でつくったら終わりというケースが多いので、例えば第三者が「こうした方がいいんじゃない?」と提案しても、「自分のデザインはこうなんです」と言ってしまえば直す必要はありません。われわれの場合はクライアントからいただいたデザインを立体化することが仕事なので、リテイクは必ず発生しますし、クライアントが求めるものを探ることも必要になります。
鈴木:僕からリテイクを出したとき、谷本は素直にリテイクに応じてくれるのでやりやすいです。谷本に限らず、どのモデラーも自分なりに考えた「正解」をがんばってつくってくれていますが、僕がチェックして「これはちがうな」と思ったらリテイクを出します。それはモデラーたちのプライドを傷つけることに近いと思うのですが、素直に僕の意見を信じてリテイクに応じてくれるので有り難いと感じます。このチーム内での「正解」を決めるのは僕の役割だと思っていますが、クライアントや視聴者の皆様が「ちがう」と思えばそれは「正解」ではありません。どんなにいい仕事をしたと思ってもリテイクを受けることはあるので、そのリテイクをどう吸収していくか、相手がどう思ってそのリテイクを出しているかまで考えることが重要だと思います。
谷本:過去にはどうでもいいような自分のプライドが邪魔をして冷静な判断ができず、鈴木さんやクライアントの考えを理解しないまま作業をしてしまったこともあったので、冷静になって考えることを常々心がけています。リテイク通りに機械的に対応すると別の問題が発生してしまい、似たようなリテイクが繰り返されるというパターンはよくあります。そうならないためには、自分でレタッチしながらリテイクの意図を探ってみるなどして、冷静に考えてから作業を始めることが重要だと思います。
鈴木:相手が男性なら「その方の奥様よりも、その方のことを考えよう」と思ってやっています(笑)。
谷本:他のセクションのSVで「リテイクを出した人に恋をしちゃうレベルまで考える」と言った人もいました(笑)。
C:名言が連発していますね(笑)。そのくらい相手のことを考えて本質を理解しないと、皆が幸せになるリテイク対応はできないということなのでしょうね。
どの角度から見ても同じ印象のキャラクターをつくる
C:チェックをするとき「デザイン画に似ているかどうか」以外に、どんなポイントを重視しているか教えていただけますか?
鈴木:僕たちはフィギュアをつくっているわけではなく、アニメーションのためのキャラクターをつくっているので、ポリゴンの割り方は気にしています。同じ形であっても、アニメーションに適した割り方と、そうでない割り方があるので、新人のうちはレンダリング画像だけでなく3DCGデータもチェックして、適切な割り方ができているかを必ず確認します。それから「アカミ」のような人型のキャラクターの場合は、側面から見たときに「立っているように見えるかどうか」も気にしますね。新人の場合「前面から見ると違和感がないけど、側面から見ると倒れそう」というケースがたまにあります。
C:重心の位置がおかしいということでしょうか?
鈴木:そうです。特にデザイン画が前面しかない場合は、前面にのみ意識を向けがちです。前面はもちろん、斜めから見ても、側面から見ても印象が変わらないことが重要です。
C:デザイン画に描かれていない部分まで想像して、どの角度から見ても同じ印象のキャラクターをつくる必要があるわけですね。
鈴木:例えば前面のデザイン画が丸顔のキャラクターだったら、側面から見た場合も丸顔にした方がいいとか、僕なりのルールがあるので、それを皆に伝えるようにしています。
▲第48話以降に登場する「魔王デミグラス」のデザイン画。「世界を滅ぼそうとする最強の魔王」という設定だ。「このデザイン画の場合は、特に髪の毛の形をどう解釈するかが課題で、何度も鈴木と相談しました。肩部分のつなぎ目の整合性をとるのも難しかったです」(谷本氏)。「こういう髪の毛の場合は正解があるわけではないので、まず谷本に提案してもらい、気になる点を僕が指摘し、2人で相談しながら進めました。クライアントからの大きなリテイクはなかったので、僕たちの解釈に大きな問題はなかったのかなと思っています」(鈴木氏)
©LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
▲「魔王デミグラス」のブロックモデル
©LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
▲「魔王デミグラス」のディテールモデル。「シリーズ終盤に登場するキャラクターなので、一番最後につくりました。本作の中では特に難しいキャラクターでしたが、約1年の制作を通して自分の腕も上達しており、なんとかまとめることができました」(谷本氏)
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▲「魔王デミグラス」のワイヤフレーム
©LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
▲作中の「魔王デミグラス」
©LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
鈴木:今回は『スナックワールド』の事例を紹介しましたが、オー・エル・エム・デジタルではセル画調のアニメも制作しています。色々なテイストのキャクラターに対応する点は当社の特徴だと思います。
C:テイストが変わると、モデリングのやり方は変わりますか?
鈴木:基本的に大きく変わらないですが、きれいなラインやカゲを出すための割り方をする必要があります。
C:リグを組み、アニメーションを付けたものの、不具合があって再びモデラーに修正依頼が出されることはありますか?
鈴木:想定しきれていなかった動かし方や見せ方が必要になり、専用のモデルをつくることはよくあります。例えば、敵にやられてドロドロになったバージョンを追加でつくるといったケースですね。
C:では最期に、今後のお2人の抱負を教えていただけますか?
谷本:私が入社して以来、6年ぶりにキャラクターモデリングのチームに新人が入ってきたので、その人たちに上手く教えていけるようになりたいです。その上で、自分も成長し、次のステップに進んでいきたいと思います。
鈴木:CG業界は徹夜で仕事をしているようなイメージをもたれがちですが、僕のチームでは皆が定時で帰れるスケジュール管理を心がけています。新人が入った後もこの姿勢を維持して、高いクオリティを出しつつ、多くのプロジェクトを気持ちよくこなせるチームをつくっていきたいです。そのためにも、早く上達するためのアイデアなどを新人に伝えていきたいと思っています。
C:お話いただき有難うございました。
本連載のバックナンバー
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