<4>曲がりやすい形、曲がりにくい形
イラストのように部材の厚みが厚くなると強く(たわみにくく)なります。では、どのくらい強くなるのでしょうか?
イメージでは、そりゃ分厚い方が固いよね。と思いますがそこは「構造力学」です。どのくらい固いかを数字で求めたい! そのためには、下記のような手順を踏んで計算していきます。
断面積を求める
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断面1次モーメントを求める(さっそく聞いたこともない用語が......)
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断面積と断面1次モーメントを使って図心を求める(図心:断面に一定の厚みをつけた場合の重心位置のこと)
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断面2次モーメントを求める(1次もわからないのに2次がきた!)
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断面係数を求める
断面係数が高ければ高いほどたわみにくくなります。この断面係数は頑張れば理解できます。今回は省略しますが機会があれば解説したいと思います。断面係数が計算できるようになると、H鋼とL字鋼の強度の差なども計算して知ることができます。今はネットで簡単に計算してくれるサイトもあります。「断面係数 計算」などのワードで検索してみてください!
●長方形の断面係数長方形の断面係数はこの公式で求められます。数字が大きいほうが強いということです。
例えば厚みだけが異なる部材A、Bがあり、Aは厚みが10mm、Bは厚みが20mmだった場合はBはAの何倍強いでしょうか? 上の公式からhが10と20ということだから、10の2乗は100、20の2乗は400です。ということは厚みが2倍になると強さは4倍になるということですね!
●いろいろな形状の断面係数いろいろな形状の断面係数をいくつかご紹介します。下のモデルは、幅100mm、厚み1mmの部材を曲げてつくることができるものです(実際に曲げると角が丸くなったりしますが、その数値は省いています)。
ほぼ同じ断面積ですが、断面係数はまちまちですね。上から3番目のL字型の逆向きの断面係数が1,963と最も強いという結果になりました。これ以外にこの部材を曲げてもっと強い形状はつくれないかな? と考えてみましたところ、ありました! 板を曲げずに①を90度回転させた形状が一番強いです。断面係数はなんと16,666.66....です!
同じ形状の②、③や④、⑤は向きによって強さが大分ちがいますね。曲がる部材を見てみると、下の図の場合上側が縮んで下側が伸びていますね。中間に伸びも縮みもしていない軸があります。これを「中立軸」といい、これは図心と一致します。
L字型やU字型の場合、図心が断面の中心と一致しないため、上下によって強さが変わります。同じ断面積でも強度が変わるということは、同じ鉄の量で強度のある建材をつくることができるということです。そうしてH鋼やL字鋼が生まれました。同じ強度の場合、できるだけ断面積を小さくした方が使用する鉄の量は減ります。鉄が減ると建材の重量は軽くなりますし、値段も安くなります。今の鉄の買取価格は1kg 26円程度です。スクラップの鉄の買取価格ですね。初めに書きましたが10mmの厚みの1m×1mの鉄板が80kgですので、買い取ってもらうと2,080円になります。
<5>おわりに
「構造力学のはなし」はいかがでしたか? モデリングの役に立ちそうでしょうか? 何となくでも力のことをイメージしながらつくると、出来上がるものは大分変わってくるのではないでしょうか。例えば、「90度に固定すると柱や梁が曲がってしまう」ということから橋の橋脚の下に設置されているような「ピン支承」を設置してみても良いでしょう。そうすると、揺れがあっても上面は平行を保つことができます。上部に45度ダンパーを追加しても良いかと思います。このように、デザイン画やイメージボードに描かれていないとしても、いろいろ自分で考え、理由付けすると、説得力があり情報量のあるモデルをつくれるのではないでしょうか。
断面係数に関しては必要以上に大きい建材や分厚い鉄板などは違和感が出てしまいます。強度ギリギリということはないでしょうが、最適な強度に近いモデリングができると良いと思います。そのためには、自分が今つくっているものは何のためのものなのかを理解する必要があります。ディレクターに聞いても明確な答えが返ってこない場合は、自分で決めてしまえば良いのです。この橋は電車が走るのか、人が歩くだけなのか、長さに対して橋脚の数はどのくらいあるのか、など想像しながらモデリングすると進めやすいと思います。現実ではありえない細い建材でモデリングすることで未来感や異世界感を演出したり、現代よりも太くすれば、レトロ感を演出することもできそうです。
構造力学や強度設計は数学の要素が強いので苦手な方もいるかと思いますが、入門書籍も多数発売されていますので、1冊買ってパラパラと読んでみても面白いと思います。私は今回の記事を書くにあたり5冊ぐらい買い、全ページではないですが読みました。結果、とても面白く、興味深く読むことができました。残りの章も時間があるときに読むつもりです。
次回は「空を飛ぶ原理のはなし」に関して書きたいと思っております。空を飛ぶものというと飛行機、ヘリコプター、ロケット、最近ではドローンもあります。それぞれどうして飛ぶことができるのでしょうか? それでは、次回もよろしくお願いいたします。
参考文献
書籍
「改訂版 図説 やさしい構造力学」(浅野清昭・著、学芸出版社)
「建築の構造」(マリオ・サルバドリー、ロバート・ヘラー・共著、望月 重・訳、鹿島出版会)
「直感で理解する! 構造力学の基本」(山浦晋弘・著、学芸出版社)
「建築構造設計・解析入門」(藤井大地、松本慎也・著、丸善出版)
「図解 設計技術者のための有限要素法はじめの一歩」(栗崎 彰・著、講談社)
「加工材料の知識がやさしくわかる本」(西村 仁・著、日本能率協会マネジメントセンター)
Profile.
大島夏雄/Natsuo Oshima(コロビト)株式会社コロビト 代表取締役、リードモデラー
奈良県出身。多摩美術大学(絵画学科 油画専攻)を卒業後、数社のCG制作会社に所属しモデリングチーフを務める。その後、フリーとなり2009年7月2日に株式会社コロビトを設立。ゲーム、映画、アニメ、CMなど様々なジャンルの仕事を手がける
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