こんにちは。ビジュアルデベロップメントアーティスト(Visual Development Artist)の伊藤頼子です。連載 第22回では自然光でのペイントにおける、色とその温度について学びました。今回は時間経過による、自然光の色の変化(温度の変化)について学んでいきましょう。

ただし、自然光の色は気候や場所によってかなり大きく変化します。極寒、亜熱帯、砂漠などの地域は、日本やカリフォルニアとは温度も湿度もちがいます。物語の設定によっては脚色のために色を変えたりすることもあります。以降では、日本やカリフォルニアの晴天の日で、極端に寒かったり暑かったりしない日の自然光を描くという設定で解説していきます。

TEXT&ARTWORK_伊藤頼子 / Yoriko Ito
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

異なる自然光のカラー写真を撮影する

自然光の色を描くときには、連載 第19回で学んだ自然光によるライティングも考慮に入れなくてはいけません。第19回では、天気や時間帯によって変わるライティング(コントラストの具合)を白黒写真を使って解説しました。今回は全体の色の移り変わりに注意しながら、同じ場所のカラー写真を見ていきましょう。光が当たっている部分だけでなく、影になっている部分も含め、全体の温度が変わっていくことを理解してください。

▲午前の風景写真。7〜9時頃の太陽はまだ低い位置にあり、気温は低めです。全体的に青色(寒色)を帯びており、冷たい感じがします


▲正午の風景写真。11〜14時頃は太陽が一番高い位置にあり、徐々に気温が上昇していきます。朝よりも黄色とオレンジ色(暖色)がかかっており、暖かく感じます


▲午後の風景写真。14〜16時頃の太陽は斜め45度くらいの角度から光を照射し、さらに気温が上昇します。正午よりも赤色(暖色)がかかり、引き続き暖かく感じます


▲夕方の風景写真。17〜18時頃の太陽(夕日)に照らされた風景は、14〜16時よりもさらに赤色(暖色)が増し、ピンク色に変わります


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Lesson51:時間経過による
リンゴの色の変化をペイントする

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Lesson51:時間経過による、リンゴの色の変化をペイントする

連載 第22回でもペイントした赤リンゴと青リンゴを、3つの時間帯(午前、午後、夕方)における色のちがいを考えながら描き分けてみましょう。どの時間帯も、同じパレット(色の組み合わせ)で描くことができます。第22回と同じく、温度のちがいに注意しつつ、光が当たっている部分と、影(あるいは陰)になっている部分のちがいを表現していきましょう。連載 第19回で解説したように、時間帯に応じて明暗のコントラストも変化するため、この点も考慮に入れます。

▲赤リンゴを描く場合のパレット


▲青リンゴを描く場合のパレット


以降の作例では、リンゴの周囲の空間の色も、簡単ではありますが時間帯に応じて変更しています。周囲からの反射光によって周囲の色がリンゴに反映されるのに加え、リンゴ自体の色も周囲に反射するため、これらも考慮する必要があります。


・午前の自然光

▲午前の自然光が当たった赤リンゴと青リンゴ。光が当たっている部分はローカルカラー(モチーフの本来の色)に近い色になります。赤リンゴの場合は赤色、青リンゴの場合は明るい緑色をローカルカラーとして、明暗をつけていきます。最も明るい部分が最も暖かくなりますが、午前の光はまだ冷たいため、あまり暖かな色を使っていません。投影(キャストシャドウ/Cast Shadow)(※)部分は最も冷たいため、青色を加えて温度を下げます

※ 光に照らされた物体によって生じる、別の物体の上に落ちる影のことをキャストシャドウと呼びます。詳しくは連載 第2回をご覧ください。


・午後の自然光

▲午後の自然光が当たった赤リンゴと青リンゴ。午後は気温が上昇し、3時頃になると太陽が傾きキャストシャドウが長くなります。空間全体が暖かくなるため、光が当たっているローカルカラーの部分はもちろん、キャストシャドウ部分にも暖色を加えます。リンゴの周囲の空間にも暖色を加えてあります


・夕方の自然光

▲夕方の自然光が当たった赤リンゴと青リンゴ。さらに太陽が傾き、リンゴの表面のハイライトの位置が低くなっています。気温はさらに上昇するので、全体的に暖色となります。光が当たる部分は特に暖かい色となり、彩度が高くなります。画面全体の明暗のコントラストは低いため、光が当たる部分が輝いているように描写することで、夕日が当たっていることをさらに強調できます


以上のように、各時間帯の特徴を理解し、それが伝わるように強調して描くことを心がけましょう。なお、前述の時間帯の間はそれぞれの中間の色となります。また、キャストシャドウの形、光が当たる部分の形、ハイライトを入れる位置などに注意し、常に画面をデザインすることも大切です。




今回のレッスンは以上です。第24回も、ぜひお付き合いください。
(第24回の公開は、2019年3月を予定しております)

プロフィール


  • PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
  • 伊藤頼子
    ビジュアルデベロップメントアーティスト

    三重県出身。短大の英文科を卒業後、サンフランシスコのAcademy of Art Universityに留学し、イラストレーションを専攻。卒業後は子供向け絵本のイラストレーション制作に携わる。ゲーム会社でのBackground Designer/Painterを経て、1997年からDreamWorks AnimationにてEnvironmental Design(環境デザイン)やBackground Paint(背景画)を担当。2002年以降はVisual Development Artistに転向し、『Madagascar』(2005)でAnnie Award(アニー賞)にノミネートされる。2013年以降はフリーランスとなり、映画やゲームをはじめ、様々な分野のアートディレクションとビジュアルデベロップメントを担当。2013年からはAcademy of Art UniversityのVisual Development Departmentにて後進の育成にも従事。
    www.yorikoito.com
    www.artstation.com/yorikoito

本連載のバックナンバー

第1回∼第13回まではこちらで総覧いただけます。
No.14:画の中のスケールとディテール
No.15:ダイナミックな動きのある画を描く
No.16:イメージづくりに使うレイアウトコンポジション
No.17:ライティングデザイン
No.18:ライティングデザインによる感情表現
No.19:自然光を使い分け、ライティングをデザインする
No.20:人工の光を使い、ライティングをデザインする
No.21:ライティングと天候を使い、ムードを表現する
No.22:自然光でのペイントにおける、色とその温度