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    こんにちは。ビジュアルデベロップメントアーティスト(Visual Development Artist)の伊藤頼子です。今回は、ライティングと天候を使い分け、様々なムードを表現する方法を学びましょう。第17回で説明したように、ライティングにはリーダビリティー(Readability) とストーリーテリングという、2つの役割があります。ストーリーテリング、すなわちショットのムードや登場人物の感情を表すときには、ライティングに加え、晴天・雨・雪などの天候も使い分けると表現の幅が広がります。 

    TEXT&ARTWORK_伊藤頼子 / Yoriko Ito
    EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    Lesson44:逆光を使い、ムードを表現する

    画面の中の焦点(Focal Point)を逆光で照らすと、表情やディテールがよく見えない一方で、シルエットや輪郭線が際立ちます。さらに空気感が出るため、神秘的、あるいはロマンチックなムードを表現できます。あえてFocal Pointのディテールを見せないことで、観る人の想像力をかきたて、惹きつける効果もあります。

    ▲『The Last Emperor(邦題:ラストエンペラー)』(1987)(ベルナルド・ベルトルッチ(Bernardo Bertolucci)監督)の中のショットを筆者が引用目的で模写したものです。画面の左上からの逆光によって、Focal Pointとなる人物の輪郭線が輝き、空気感が出ることで、神秘的なムードを表現しています


    ▲『マダガスカル3』(2012)のために筆者が描いたビジュアルデベロップメント。路地に差し込む夕日が、Focal Pointとなるキャラクターの輪郭線を際立たせ、ロマンチックなムードを表現しています。夕日による逆光は、画面全体を暖かなムードにする効果もあります


    ▲『The Third Man(邦題:第3の男)』(1949)(キャロル・リード(Carol Reed)監督)の中のショット。逃げる男のシルエットが逆光によって強調され、顔やディテールが隠されることで、画面を観る人に「誰だろう?」という興味をもたせる効果があります

    Lesson45:霧やモヤを使い、ムードを表現する

    逆光と同様、霧やモヤも、Focal Pointのディテールを隠しシルエットを際立たせる効果があるため、ミステリアスなムードを表現できます。また霧やモヤを使うと画面をシンプルに整理できるため、第10回で紹介したレイヤリング(Layering)を使ったレイアウトデザインにも応用できます。

    ▲ヘンリー・セリック(Henry Selick)監督の『Shadowking』のために筆者が描いたビジュアルデベロップメント(この作品はキャンセルされました)。霧によって全てを見せないことで、ミステリアスさや不気味さを表現しています 


    ▲筆者のオリジナル作品。Focal Pointの象を霧で隠し、シルエットだけを見せることで、ミステリアスなムードを表現しています。このように、霧やモヤを使うと見せたくないものを隠すことができます。なお、この作例では遠くに位置するものほど明度を高くすることで、画面をシンプルなレイヤーへと整理し、遠近感を出しています

    Lesson46:天候を使い分け、ムードを表現する

    ライティングに加え、晴天・雨・雪などの天候も使い分けると表現の幅が広がります。

    ▲筆者のオリジナル作品。静かに降る雪が、ロマンチックなムードを表現しています


    ▲筆者のオリジナル作品。激しい吹雪のような極端な天候は、気持ちの乱れ、困難な状況、ネガティブなムードを誇張します

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    Lesson47:逆光とほかの光を組み合わせ
    ムードを表現する

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    Lesson47:逆光とほかの光を組み合わせ、ムードを表現する

    強い逆光(リムライト)に、セカンドライトやサードライトを組み合わせ、Focal Pointを表現してみましょう。光の組み合わせ方によって、画面のムードやリーダビリティを調整することができます。このライティングは、主にキャラクターや人物を見せるショットに使われます。

    ▲ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ制作の『Zootopia(邦題:ズートピア)』(2016)の中のショットを筆者が引用目的で模写したものです。画面の左後方からの白色のライトに、右下方からの赤色のライトが組み合わさっており、赤色のライトによってキャラクターと状況の恐ろしさが誇張されています


    ▲『The Last Emperor』の中のショットを筆者が引用目的で模写したものです。人物の後方にある窓からの光(リムライト)が、椅子と人物の輪郭線を綺麗に際立たせています。さらに画面右からのセカンドライトが人物の顔を照らし、画面のリーダビリティを高めています

    Lesson48:サムネイルを描き、ライティングの可能性を探る

    これまでに学んだことを意識しながら、同じショットのサムネイルを、いくつかの異なるライティングで描き、その可能性を探ってみましょう。サムネイルを描くときには、画面のデザインとリーダビリティに気を配ることが大切です。

    ▲この線画のライティングの可能性を探ってみます


    ▲サムネイルを描くときには、線画の細かいディテールにとらわれず、画面の要素を5〜6個のシンプルかつ大まかな明暗の塊でとらえ、リーダビリティに注意しつつデザインすることが大切です。様々なアイデアを試し、最適なライティングを探りましょう


    ▲先に紹介した3つのサムネイルの中から、1番上のサムネイルを選び、さらにディテールを描き込んでみました。この段階でも、元のサムネイルの明暗と、リーダビリティは常にチェックしましょう

    実写映画の撮影監督から学ぶ

    実写映画の撮影監督はシネマトグラファー(Cinematographer)と呼ばれ、卓越したライテイングの技術をもち、実写映画におけるライティングデザインを監督します。映画の名監督の多くは、自らの専属と呼べるくらい信頼を置いた撮影監督と共に仕事をしています。以下に、代表的な撮影監督と監督の組み合わせを記します。

    ● ロジャー・ディーキンス(Roger Deakins)撮影監督 /コーエン兄弟(Coen Brothers)監督
    ● コリン・ワトキンソン(Colin Watkinson)撮影監督/ターセム・シン(Tarsem Singh)監督
    ● ヴィットリオ・ストラーロ(Vittorio Storaro)撮影監督/ベルナルド・ベルトルッチ(Bernardo Bertolucci)監督
    ● ロバート・D・イェーマン(Robert D. Yeoman)撮影監督/ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)監督
    ● ヤヌス・カミンスキー(Janusz Kamiński)撮影監督/スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督
    ● ロバート・リチャードソン(Robert Richardson)撮影監督/クエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)監督、マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督、オリバー・ストーン(Oliver Stone)監督
    ● エマニュエル・ルベツ(Emmanuel Lubezki)撮影監督/テレンス・マリック(Terrence Malick)監督
    ● クラウディオ・ミランダ(Claudio Miranda)撮影監督/アン・リー(Ang Lee)監督
    ● グレッグ・トーランド(Gregg Toland)撮影監督/オーソン・ウェルズ(Orson Welles)監督

    優れた撮影監督は、映画業界における制作側のスターと呼べる存在です。彼らが手がけた映画を見て、ライティングデザインを学びましょう。




    今回のレッスンは以上です。第22回も、ぜひお付き合いください。
    (第22回の公開は、2018年11月を予定しております)

    プロフィール

    • 伊藤頼子
      ビジュアルデベロップメントアーティスト

      三重県出身。短大の英文科を卒業後、サンフランシスコのAcademy of Art Universityに留学し、イラストレーションを専攻。卒業後は子供向け絵本のイラストレーション制作に携わる。ゲーム会社でのBackground Designer/Painterを経て、1997年からDreamWorks AnimationにてEnvironmental Design(環境デザイン)やBackground Paint(背景画)を担当。2002年以降はVisual Development Artistに転向し、『Madagascar』(2005)でAnnie Award(アニー賞)にノミネートされる。2013年以降はフリーランスとなり、映画やゲームをはじめ、様々な分野の映像制作に携わる。2013年からはAcademy of Art UniversityのVisual Development Departmentにて後進の育成にも従事。2017年以降は拠点をロサンゼルスに移し、現在はアートディレクター・ビジュアルデベロップメントアーティストとしてアニメーション長編映画を制作中。
      www.yorikoito.com
      www.artstation.com/yorikoito

    本連載のバックナンバー

    第1回∼第13回まではこちらで総覧いただけます。
    No.14:画の中のスケールとディテール
    No.15:ダイナミックな動きのある画を描く
    No.16:イメージづくりに使うレイアウトコンポジション
    No.17:ライティングデザイン
    No.18:ライティングデザインによる感情表現
    No.19:自然光を使い分け、ライティングをデザインする
    No.20:人工の光を使い、ライティングをデザインする