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No.13(中編)>>グラフィニカ

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入社して以来、一番苦労した板野サーカスのカット

C:続いて、及川さんのハイライトを教えてください。

及川恭平氏(以下、及川):参加した第7回と第10回から、担当カットをひとつずつ挙げていきます。第7回は、アシストウェポンのスカイヴィッターが、アンチに向かってアンプレーザーサーカスでトドメを刺すカット(第7回 20:06あたり)です。いわゆる板野サーカスのカットだったので、絵コンテにも「大変なカットですが、何卒よろしく」と書いてありました。ちょうど新宿スタジオに出張したタイミングで打ち合わせがあったので、雨宮監督から直々に「よろしく」とも言われましたね。

C:かなり重たい一言ですね。第7回の登場怪獣のヂリバーは板野さんがデザインなさっていましたし、ここぞというタイミングでの板野サーカスでしたね。『楽園追放 -Expelled From Paradise- 』をはじめ、板野サーカス的なカットは様々な作品に登場していますが、本カット以前につくった経験はありましたか?

及川:今回が初めてでした。尺も物量もあったので、かなり大変でした。まちがいなく、グラフィニカに入社して以来、一番苦労したカットでしたね。宮風も特に慎重にチェックしてくれたし、板野さんにも見ていただいたので、レイアウトのテイク1の段階でそれなりの完成度になっていると思います。社内チェック前のテイク1はもっと酷かったので、もう見たくないです(苦笑)。

C:社外に出すテイク1の前に、社内でそれなりの数のリテイクがあったわけですね。

及川:はい。中途半端なものを社外の方にお見せしたくなかったので、社内でしっかり詰めました。スピード感や格好良さを大事にする一方で、画面をごちゃごちゃさせないよう、空間や隙間のもたせ方に注意しています。


  • レイアウトのテイク1(64フレーム・1/2)

  • T撮のテイク1(64フレーム・1/2)


  • レイアウトのテイク1(65フレーム・1/2)

  • T撮のテイク1(65フレーム・1/2)


  • レイアウトのテイク1(66フレーム・1/2)

  • T撮のテイク1(66フレーム・1/2)


  • レイアウトのテイク1(67フレーム・1/2)

  • T撮のテイク1(67フレーム・1/2)


  • レイアウトのテイク1(68フレーム・1/2)

  • T撮のテイク1(68フレーム・1/2)


  • レイアウトのテイク1(69フレーム・1/2)

  • T撮のテイク1(69フレーム・1/2)

▲及川氏が担当した、第7回のカット(第7回 20:06あたり)。【左列】はレイアウトのテイク1、【右列】はT撮のテイク1。基本的にフルコマで制作されているが、画面手前の広範囲にビームが映る瞬間は2コマ(65フレームと66フレーム)を使い、次の1コマ(67フレーム)で一気に画面の奥へ飛ばすことで、気持ちの良いスピード感と遠近感を表現している。レイアウトとT撮の67フレーム目を比較すると、奥へ飛んだ後のビームの面積が減らされており、空間が整理されている点も面白い


▲レイアウトのテイク1の映像


▲T撮のテイク1の映像


C:どのビームもすごく複雑な動きをしていますが、どんなプロセスでつくっているのでしょうか?

及川:最初に3ds Max上で3本くらいのメインのビームの動きを付け、ちょっとずつサブ的なビームを足していきました。最初・真ん中・最後という感じで全体のキーフレームをざっくりと打ってから、段階的に間を詰めています。絵コンテには大枠のながれだけが描いてあったので、細かい軌道は自分で考えながらつくりました。

板野さんが「ビームにも1人1人ちがう性格があって、相手に真っ直ぐ飛んでいくやつもいれば、くねくね曲がっていくやつもいる」という話をよくなさっているので、ひとつひとつの個性を考えながら、面白い動きをさせるように気を付けました。最終的には、After Effects上で描き足したビームもあります。着手してから、レイアウトのテイク1までに1週間半、トータルだと2週間半くらいかかりましたね。


  • T撮のテイク1(96フレーム・1/2)

  • T撮のテイク1(99フレーム・1/2)

▲96フレーム、99フレームあたりになると、個々のビームの軌道がかなり個性的になっている

背景の小道具も併用し、怪獣の重量感を表現

C:第10回は、怪獣のナナシBがアンチに向かって一直線に突進するカット(第10回 19:43あたり)ですね。

及川:怪獣が突進するだけの何てことはないカットですが、ナナシBの気持ち悪さがよく表現できたと思うので気に入っています。本カットでも電線を盛大に揺らしたし、街路樹の葉も揺らしました。キャラクターの動きだけで重量感を表現するのは難しいので、こういった背景の小道具も併用できるのは有り難いです。


  • レイアウトのテイク1(1フレーム・1/1)

  • T撮のテイク1(1フレーム・1/1)


  • レイアウトのテイク1(30フレーム・1/1)

  • T撮のテイク1(30フレーム・1/1)


  • レイアウトのテイク1(51フレーム・1/1)

  • T撮のテイク1(51フレーム・1/1)


  • レイアウトのテイク1(56フレーム・1/1)

  • T撮のテイク1(56フレーム・1/1)


  • レイアウトのテイク1(60フレーム・1/1)

  • T撮のテイク1(60フレーム・1/1)


  • レイアウトのテイク1(64フレーム・1/1)

  • T撮のテイク1(64フレーム・1/1)


  • レイアウトのテイク1(68フレーム・1/1)

  • T撮のテイク1(68フレーム・1/1)


  • レイアウトのテイク1(71フレーム・1/1)

  • T撮のテイク1(71フレーム・1/1)

▲及川氏が担当した、第10回のカット(第10回 19:43あたり)。【左列】はレイアウトのテイク1、【右列】はT撮のテイク1。基本的に2コマ打ちで制作されている。レイアウトとT撮とでナナシBの動きに大きな変化はないが、土煙・瓦礫・跳ねるクルマなどが加わったことで、重量感や迫力が増している


▲レイアウトのテイク1の映像


▲T撮のテイク1の映像


C:本作を通して、及川さんはどんな学びがあったと思いますか?

及川:長濵も言っていたように、本作ではこれまで以上にエフェクトを多用したので、最初からエフェクトを盛る前提でシーンの組み立て方を考える習慣が身に付きました。


宮風慎一氏(3DCG監督)からのコメント

  • 及川は、アニメーションから、エフェクト、コンポジットまで満遍なくこなせるので、どこに配置しても確実に成果を上げられる、アサインする側が安心して任せられる存在に成長しています。本作では、第7回の板野サーカスカットの仕事が特に印象的でした。既にディレクションもほかの作品で経験しているので、今後は打ち合わせ段階で画面設計などを提案できるようになると、さらにカット発注時の精度が上がっていくと思います。

アナログ作品だけのポートフォリオでグラフィニカに応募

C:及川さんは、3DCG未経験の状態でグラフィニカに入社したそうですね。入社までの経緯も教えていただけますか?

及川:母校の札幌マンガ・アニメ学院(現、札幌マンガ・アニメ&声優専門学校)ではアナログのイラスト制作を勉強していたので、イラストやデザイン分野での就職を目指したものの、なかなか上手くいきませんでした。そんな折、当社の社長(伊藤暢啓氏)が学校に来て、会社説明をしてくれたのです。「3DCG未経験でも選考対象になる」「イラスト制作を通して学んだことは、3DCG制作にも活かせる」という話を聞き、だったら応募してみようと思いました。応募時のポートフォリオは全部アナログ作品だったのですが、無事に採用されて今にいたります。

C:アナログからデジタル、おまけに2Dから3Dへの転向となると、勉強することだらけだったでしょうね。

及川:そうですね。しかも1年目から『楽園追放』のカット制作を担当したので「僕なんかがやって良いのかな?」と思っていました。3DCGのことは入社後に教えてもらいましたが、専門学校でちゃんと勉強してきた周囲の人たちとの間には大きな差があって、今も全然追いつけていないと思います。

C:板野サーカスのカットをつくっても、まだそう思うとは(苦笑)。及川さんが謙虚なのか、周りがすごいのか、両方なのか......。とはいえ『楽園追放』を見て入社した大島さんや田口さんと一緒に『SSSS.GRIDMAN』をつくったわけですから、素敵な巡り合わせですね。近い将来、『SSSS.GRIDMAN』を見た人が、新たな若手として入ってくるかもしれません。かれこれ約6年この仕事を続けてきて、学校で学んだことは活かされていると感じますか?

及川:はい。学校ではクロッキー、デッサン、イラストなど、ずっと絵を描いていましたが、そこで身に付けたことはCGアニメーションをつくる上でも重要だと思います。

C:イラストだけでなく、クロッキーやデッサンも描いていたんですね。

及川:結構な時間がカリキュラムに組み込まれていましたね。石膏像を描いたり、学生同士でお互いを描き合ったり、自分の手や靴を描いたりと、色々やっていました。CGアニメーションをつくるときには、参考用の動画を見たり、写真を見たりするんですが、観察力が弱いと、見たものと全然ちがうものをつくってしまうんです。動画や写真のどこが重要なのかを読み取る力は、学生時代にたくさん絵を描くことで身に付いたように思います。

C:クロッキーやデッサンは、観察・理解・表現の反復練習とも言えますからね。



中編は以上です。 後編はこちらでご覧いただけます。

©円谷プロ ©2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

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