5月27日(金)と28日(土)の2日間にわたって、CGWORLD主催のオンラインイベント「CGWORLD JAM ONLINE 2022」が開催された。27日(金)の「3DCGで描く!『進撃の巨人 The Final Season』地ならし・始祖・女型の巨人メイキング」では、大ヒットアニメ『進撃の巨人 The Final Season part2』の作中に描かれた様々な巨人のうち、始祖、女型(めがた)、地ならしの巨人たちのモデリングやセットアップについて、現場スタッフ陣が制作時の苦労やこだわりを語ってくれた。

記事の目次

    イベント概要

    「CGWORLD JAM ONLINE 2022」
    日時:5月27日(金)17:00〜22:00/5月28日(土)11:00〜19:00
    会場:オンライン配信
    主催:CGWORLD、株式会社ボーンデジタル
    cgworld.jp/special/jam/vol4/

    Information

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    shingeki.tv/final/
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    限界を超えたスケールで制作された始祖の巨人

    本講演の登壇者

    まずは巨大なスケールで制作された始祖の巨人の紹介からスタート。モデリングを担当したのはMAPPAの池田 昴氏。詳細な設定画は用意されておらず、ラフなデザイン画から3Dモデルを起こし、それをたたき台にしてディテールを詰めていくという手法だった。

    はじめは高さ250mくらいのサイズ感でつくりはじめたが再検討を重ねたところ、最終的には2.5倍にもなったという。他にも、首の裏などは細かい設定がないため、デザインと並行しながらモデリングを進めていった。

    シガンシナ地区と比べた始祖の巨人の最終的なサイズ。いかに巨大かわかる

    「とにかく始祖の巨人はモデリングの量が多くて大変だった」と池田氏。ディテールは人体の解剖図を基に、アナトミー的な考察をしてモデリング。もともとディテールがないオファーのため、後からの修正も多く苦労の連続だったという。

    CGモデルを様々な角度でレンダリングしたものが、作画用の設定画として使われた

    続いて、始祖の巨人のリギングを担当したPAGODAのテクニカルディレクター澤田元春氏が登場。MAPPAからは複雑で難しいリギングを依頼されることも多い、プロデューサーからの信頼が厚いアーティストだ。澤田氏がリギングにあたってまず心配したのは、始祖の巨人の巨大さだった。経験上、このサイズを動かすとトラブルが発生することが多かったため、事前に大きなサンプルをつくってみてストレステストを重ねて、ちゃんと動かせるかの確認をしたという。

    肋骨部分は最終的に左右で96本もの骨にコントローラを仕込まないとならなかった。まずは1本だけ要望に応えてなるべく軽いものをつくりチェックした。3ds MaxのIKとスプラインを組み合わせ、それに対してボーンを配置。ボーンを増やせばきれいになるが、反比例して重くなるのでバランスをとり、最終的にボーンを11個ほど使ってきれいに曲がるようにした。このリグを複製して、肋骨のリグを増やしていった。

    澤田氏は、複雑なしくみでもアニメーターが簡単に扱えるようなリグを心がけているという。特に、今回のような多くの部分が有機的に動くリグでは、なるべく軽くするのが重要とのこと。

    はじめはクオリティを追求したため、どうしても重くなってしまい、アニメーションが困難になってしまった。最終的にはコントローラの数を減らしたり、カーブの品質を落としたりして軽量化を図った。納品直前から自主的に軽量版を検討してテストを重ねていたため、最終的な軽量化の要望には早く応えられたという。

    軽量化したリグ

    上記以外にも細かいリグの設定はたくさんある。CGIプロデューサーの淡輪雄介氏(MAPPA)は「自然に動いて見えるのは、細かい仕込みがあるから。どこで曲げても自然に可動してくれたので、(制作者の)腕が良くて助かりました」と澤田氏の技術力を絶賛。

    一方の澤田氏は「MAPPAさんからの依頼は形のないものが多く、全部がカスタムなので楽しくもあり、辛くもあり(笑)。でも、辛いのを乗り越えて、動いているのを見るとありがたいと感じます」と語った。発注側と制作側の信頼関係を感じるやり取りだった。

    ポリゴン数を確保し形状をしっかりとつくった女型と地ならしの巨人

    女型(めがた)の巨人と地ならしの巨人のモデリングを担当したのは、北村しゅん氏(ARecT)だ。

    女型の巨人は、レイアウトモデルまでは前作の巨人よりもポリゴン数を少なくする方向で制作が進められたが、制作途中で最低限の形状はしっかりつくった方が良いと発注側がモデリングの方向性を見直し、ポリゴン数を増やしていくこととなった。「モデルに対して直接描き込んだり、ポリゴンの角を増やすなどしてポリゴン数アップを図りました」(北村氏)。

    実作業では、おでこ部分の描き込みと形状のバランスや、目元の描き込みが難しかったが、納得するかたちに描き上げられたという。「セル調CGはモデリングであり、ドローイングでもある。いい絵を描かなければ、いいモデリングになりません」と淡輪氏は描き込みの重要性を語った。

    「地ならし」は、無数の超大型巨人が群れをなして歩くという、本作でも重要なシーンだ。当初、「地ならし」に登場する巨人も女型と同じ手法でつくろうとしたが、身長が50mと巨大なため、テクスチャのサイズ感がつかめず苦労したという。最終的に、UVを贅沢に使い解像度も高めでつくられた。

    地ならしの巨人は、近距離、中距離、遠距離と3種類のモデルがつくられたが、初めに近距離用のハイポリモデルをつくり、徐々にポリゴン数を減らして中距離用や遠距離用のモデルをつくっていくという方法が採られた。

    さらに、顔を6種類、体は3種類用意し、テクスチャで切り替えている。パターンを増やすことにより、コピー感をなくすのがねらいだ。

    女型と地ならしの巨人のリギングを担当したのは、同じARecTの野中稜也氏だ。野中氏は、これまでにも3体ほど巨人のリグ作業を担当しており、Bipedをベースとしてキャラクターごとに特徴を捉えてリギングをしているという。

    例えば女型の巨人では、胸にリグを仕込んでいる。これは揺らすためではなく、格闘アクションが多い女型の巨人がパンチを出すときに、腕と干渉しないよう胸を潰すためだった。

    女型の巨人の胸部のリグ。胸が潰れるようになっている

    『進撃の巨人』のフェイシャルリグは、モーフにリグが追従する珍しいつくり方なので、それに準拠してリグを仕込んでいる。モーフでベースを動かした後にリグで微調整していく操作方法だが、リグとモーフのズレがなくアニメーターの作業が快適に進められる。

    ところが、舌のリグはモーフとずれていたため、舌だけ特殊な処理をしてモーフと同じようにコントローラが動くよう調整を入れているという。「あまり使われない部分ですが、一番苦労しました」(野中氏)。女型の巨人の顔がアップになったときは、ぜひ口に注目してほしいとのことだ。

    一方の地ならしの巨人は髪がなく、体も四肢のみで足の指もなく、さらに顔のモーフィングもないシンプルな構成だった。シンプルなモデルだからこそ、筋肉の動きにはこだわってしっかりとつくることを心がけたという。

    ボディリグは1種類で、顔のリグを差し替えてバリエーションに対応

    近距離、中距離、遠距離と、モデルのバリエーションが多いため、リグもモデリングと同様にハイポリからローポリへ移植するかたちを採っている。この方法は珍しいが、想像以上にウェイトの転写が上手くいったとのこと。

    最も苦労したのは、他の巨人の3倍ほどもあるそのサイズだ。3ds Maxのスケールの限界値を超えそうなギリギリのところだったという。ちなみに、さらに巨大な始祖の巨人は限界を超えてしまったので、リグは2本をつなげて対処したと澤田氏が補足した。

    最後に各スタッフの今後の目標が語られ、講演は締めくくられた。

    「作業効率のための努力をしたいですね。次に同じ仕事をもらっても、より良いものを早くつくれるように切磋琢磨をしていきたい」(澤田氏)。

    「アニメーションの仕事を、表現しやすいようなモデルにしたい」(北村氏)。

    「リグに役立つ知識を増やしたい。機械系の学校に言っていたので、ロボットなどに興味があります」(野中氏)。

    「終わり良ければ全部良しということで、日々頑張っていきたい」(池田氏)。

    CGIを取りまとめた淡輪氏は「皆さんの力をお借りして、現場が飽きない難題をお願いできるように。面白い仕事を、楽しくつくっていきたい」と総括してくれた。

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    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada