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No.11(後編)>>ジェムドロップ

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最低でも3~4ヶ月の3D研修を実施

C:須田さんは3D未経験の状態で入社したそうですね。

須田正広氏(以下、須田):はい。日本工学院八王子専門学校で、2Dのキャラクターデザインや、スマホゲーム用の立ち絵などの2Dイラスト制作を学んだ後、新卒として2年前に入社しました。3Dの勉強を始めたのは入社してからです。

  • 須田正広
    アーティスト。『CRYSTAR -クライスタ-』では777の異形のエピクロスや、そのほかの守護者、犬のセレマ、人型エネミーなどのモデリングに加え、UIデザインも担当。日本工学院八王子専門学校のキャラクターデザインコースを卒業後、2016年にジェムドロップへ入社。


C:3Dの勉強は、どのくらいの期間やりましたか?

須田:卒業後に就職活動を始めたので、入社が7月になってしまい、10月まで3Dを勉強しました。周りの先輩方に面倒をみてもらいながら、ひたすら新人研修用の課題をやっていましたね。

北尾:当社のアーティストは、最低でも3~4ヶ月、長い人は5ヶ月くらい3D研修をやります。

C:大手ゲーム会社並の、気の長い研修期間ですね。

北尾:中小の開発会社としては、相当珍しいことだと思います。そういう点では、当社はおかしいです(笑)。たいていの会社は3Dができる人を採りますが、当社は入社時のスキルよりも、今後の伸びを見極めて気長に研修をします。ただ、仕事で使えるレベルになるのは簡単ではないので、皆それなりに苦労しています。須田の場合もなかなか芽が出なくて、3~4ヶ月目くらいに「どうしようか。もうちょっとがんばらないと仕事にならないよ」という話をして、そこからメキメキ上手くなりました。

須田:既に同期の新卒が仕事を始めている中で、僕だけずっと1人で課題をやる状況が続いたので、精神的につらかったですね。寂しかったですし、本当に、本気でがんばんなきゃなと思いました。

C:3D未経験なのに加え、7月入社だったから、かなり不利な状況だったのでしょうね。今は普通にモデラーとして仕事をなさっているわけですが、『CRYSTAR -クライスタ-』で特に印象に残っていることは何ですか?

須田:零の愛犬のセレマですね。林さんからは「零が白髪だから、白色の犬がいいですね」という要望をいただいた程度で、犬種などの指定はありませんでした。そうしたら北尾が「サモエドが良い!」と言い出しまして......。

北尾:サモエドって長毛種の犬で、めっちゃもふもふしてて、かわいいんですよ。

C:つまり、めっちゃ3Dで表現するのが大変ってことですね......。

北尾:そんなの知りません(笑)。

小寺:かわいいは正義(笑)。

北尾:我ながら無茶を言ったなと思いましたが、つくってもらったら、ほかのスタッフからは「いいですね。もふもふですね」と好評でした。

須田:サモエドについて調べてみたら、カッコ良い顔をした犬もいたのですが、本作ではマスコットキャラ的な存在になりそうだったので、ユーザーに愛着をもっていただけるように、かわいい感じのルックを目指しました。セレマは老犬という設定で、本来の老犬は目が細く小さくなるのですが、かわいい要素を追加するため、あえて子犬のような丸い大きな目にしてあります。

▲セレマの3Dモデル


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セレマをもふもふする零


▲同じく、セレマをもふもふする零

「キャラクターをつくるのが好き」という思いは、どうすれば伝わるか

C:中西さんは、DLCの水着のデザインとモデリングを担当したそうですね。

中西奎吾氏(以下、中西):それ以外に、本作ではプレイヤーキャラクターの777や、零の守護者のヘラクレイトス、エネミーなどのモデリングも担当しました。

  • 中西奎吾
    アーティスト。『CRYSTAR -クライスタ-』ではプレイヤーキャラクターや守護者、エネミーなどのモデリングに加え、DLCの水着のデザインとモデリングも担当。京都精華大学 漫画学部 アニメーション学科を卒業後、2017年にジェムドロップへ入社。


C:水着のデザイン画の物量がすさまじいですね。

▲零と千の水着のデザイン画


増田:採用されたのは、零と千、それぞれ1着ずつです。林さんから「水着のDLCもつくりたい」という話をいただいたので、「デザインもさせていただけませんか」とお願いしたところ、「じゃあデザインからどうぞ。楽しんでくださいね」と快諾いただきました。それを受けて中西と須田に頼んだら1日くらいでこれらが全部上がってきまして、ほかの仕事とは明らかにペースがちがったので「早すぎるだろ! どっから出してきたの?!」と思いました(笑)。

北尾:中西や須田に限らず、当社のスタッフは楽しみ屋さんというか、変態が多いです。

C:文字通り楽しんだわけですね(笑)。実際に採用されたのは、どの案ですか?

中西:自分でもびっくりしたんですが、零に関してはこれ(下図)が採用されました。

▲前述のデザイン画を基に制作された零(弐式水獄潜水装備)の3Dモデル。本作のコンセプトを踏まえたゴシックテイストや、一般的な水着もデザインされていたが、リウイチ氏らにも意見を聞きつつフリューにて検討した結果、上のデザインが採用された


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同じく、3Dモデルのベースマップ


C:やはりスク水ですか!!!

中西:本作での名称は、弐式水獄潜水装備です。

C:に、にしき......?

増田:「にしきすいごくせんすいそうび」です。この名前を考えたのも中西です。

C:す、素晴らしい......。よく見るとゴーグルやらボンベやら網やら、手間のかかりそうな小物が山ほど付いてますが、モデリングも中西さんの担当ですよね?

中西:「零ちゃんだったら、こういう勘違いをしそうだな」と思いながら、やりたい放題デザインしたものの、モデリングする段階で後悔しました(苦笑)。

C:やりたい放題やったデザインが、ちゃんとクライアントに受け入れられ、そのまま採用され、モデリングから実装まで自分の手でできるのは、貴重で素敵な仕事だと思います!!!

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中西氏の学生時代のポートフォリオ。「今の自分の原点になっていると思う作品」を選んでもらった。「つくったのは2年前なので今見ると恥ずかしいですが、大事な作品たちです。自分の好きなゲームを意識しつつ、メカやファンタジーなど好きなモチーフをたくさん詰め込み、多様な世界観を表現しました。ポートフォリオの最初のページだったので、最後まで見てもらえるように『これなら!』と思える作品を厳選して掲載しました」(中西氏)


▲同じく、中西氏の学生時代のポートフォリオ。「ゲームのアーティストを志望して就活イベントに参加したものの、当時のポートフォリオには2Dイラストしかありませんでした。『このままだと絵にしか興味がないように見えてしまう。これじゃダメだ』と思い、3D制作に初挑戦したときの作品です。プロから見れば褒められたものではないですが、今の仕事につながる将来性を感じていただけた作品だったと思います」(中西氏)


北尾:今回の取材で中西のポートフォリオをお見せするにあたり「加筆していいですか」と聞かれましたが、もちろん当時のままです(笑)。

C:感謝します。中西さんは居たたまれないと思いますが、記事を読む学生の皆さんにはその方が参考になります。先ほど「2Dの絵を見せてもらい、2D・3Dの両面での将来性を感じたら採用する」とおっしゃっていましたが、「将来性」というのはどこで推し量るのでしょうか?

北尾:キャラクター制作志望の場合は、ポートフォリオに「キャラクターをつくるのが好き」という思いが伝わる作品が入っているかどうかを重視します。さらに理想を言うと、デッサンがよく描けているかどうかも大事です。

C:「キャラクターをつくるのが好き」という思いは、どうすれば伝わりますか?

北尾:「このキャラクターはこんな身の上で、こんな性格で、こんな性癖をもっているから、それが伝わるコスチュームやポージングにしました」というように、キャラクターのバックボーンを基にビジュアルを考えることが重要です。単に綺麗な絵を描ける人ではなく、物語が想像できる絵を描ける人を採用する傾向にありますね。実際、小寺も、須田も、中西も、そういう絵を描けるアーティストです。だから本作でも、ゲームの世界観を汲んだデザインや、キャラクターの性格を反映させたコスチュームを提案でき、クライアントに喜んでいただけました。当社では「求められる物は創らない。それ以上の物を創る」という理念を掲げているので、「勝手にやっちゃいました」「こんな感じどうですか」というように、相手の思いを汲み取った上で、相手の期待を上回る提案ができる人を採用したいと思っています。

増田:さらに補足すると、同じようなキャラクターばかり描いている人よりも、幅広いキャラクターを描いている人、キャラクターだけでなく背景も含めた世界観が描けている人、全体のレイアウトや絵づくりにも気を配っている人の方が採用される傾向にあります。当社は受託開発の案件が多いので、つくるゲームの世界観やキャラクターは日々変化します。『CRYSTAR -クライスタ-』のような作品だけでなく、過去には『いけにえと雪のセツナ』のような作品もつくりましたし、今は『狼と香辛料VR』などを開発中です。ひょっとしたら、つぎは大型タイトルのようなフォトリアルな作品を求められるかもしれません。あるいは「オリジナルIPのゲームをつくりたいんですけど、何かできないですか?」というご相談をいただくかもしれません。様々な期待に応えられる会社でありたいので、特定のジャンルや作風に偏っていない人を採用するようにしています。

小寺:今だから実感できることですが「学生のときにもっといろんな種類のモデルをつくっておけばよかった」と感じています。キャラクターモデラーを目指す人はわりと多くいて、人型だったり、自分の好きなキャラクターだったりをつくることに熱中しがちです。自分がまさにそうでした。でも実際の業務だと、必ずしも人型のキャラクターをつくるとは限りません。だからこそ、4本脚だったり、鳥だったり、人型をつくるにしても着物を着せてみたりして、いろんな形をつくる経験を積んでおくことが大切です。たとえ上手くできなかったとしても、つくった経験は後で生きてきます。2Dの絵についても、同じことが言えますね。自分ではたくさんインプットしているつもりでも、いざアウトプットしようとすると、2~3種類の自分好みの傾向に偏ってしまいがちですから、アウトプットのことも考えつつインプットをして、自分の引き出しの中のバリエーションを増やしておくことをお勧めします。

北尾:女子学生はイケメンを描き、男子学生は美少女を描くというのは、皆が通る道なんですが、それ以外もあった方が確実に目立ちますね。

C:仕事にするからには、「『いろんな』キャラクターをつくるのが好き」であることが求められるのですね。一方で『CRYSTAR -クライスタ-』のような受託開発であっても、エネミーやコスチュームのデザインのように、アーティストが妄想を膨らませる余地があることが意外でした。

北尾:そこがアーティストのやりがいやモチベーションにつながると思うので、妄想に関してはなるべく放置するようにしています(笑)。私自身、そういう妄想や提案の余地のある案件をやらせていただけるよう、努力しています。

C:今後発表されるゲームにも期待しています。お話いただき、ありがとうございました。

©FURYU Corporation. 

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