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No.13(前編)>>グラフィニカ

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怪獣のモデリングでは、布やウレタンなどの素材をイメージ

C:本作に着手した時点で、大島さんの特撮に対する理解はどの程度でしたか?

大島:どちらかといえば、詳しい方ではなかったと思います。本作への参加が決まってから、『電光超人グリッドマン』や『ウルトラマン』シリーズなどの特撮作品を時間の許す限り見まくって勉強しました。怪獣のモデリングでは、素材は布、ウレタン、針金などで、目は電球が使われている......といったことをイメージしながらつくっています。例えば、一般的なクリーチャーや生き物の口であれば、ちゃんと喉の奥までつくるんですが、グールギラスの場合は手前の方で完全に縫い合わせてあります。舌も生物的な動きではなく、揺れ物のように揺れるリグにするなどして工夫しました。

C:1体あたり、完成までにどのくらいの期間がかかっているのでしょうか?

大島:グリッドマンとグールギラスは3ヶ月近くかかっています。本作に限らず、最初につくるCGモデルはその後のモデルのひな形になるので、時間をかけて試行錯誤を重ねます。その後に着手したアシストウェポンの場合は2ヶ月、怪獣は1.5ヶ月くらいでつくっているので、方向性が決まれば制作期間は短くなります。

▲先の修正指示を反映させ、さらにディテールを追加したグリッドマンのCGモデル


▲【左】先のCGモデルのワイヤーフレーム/【右】同じくリグ。「そのキャラクターらしい格好良いポーズをとるためには、どんなリグが必要か、アニメーターの意見も聞きながら提案するよう心がけていました。例えばグリッドマンの場合は、カメラに応じて前腕の小手のようなパーツを回転させた方が格好良い画になるので『前腕のパーツは、回したり外したりできるようにしましょう』といった提案をしました」(大島氏)


▲グリッドマンのチェック用ターンテーブル


▲先の修正指示を反映させ、さらにディテールを追加したグールギラスのCGモデル


▲【左】先のCGモデルのワイヤーフレーム/【右】同じくリグ。「グールギラスの首から頭部にかけても、舌と同様にあえて揺れ物として扱い、ゆらゆら揺れるように設定しました。本作の怪獣は『中に人が入っている着ぐるみ』という設定だったので、そういう設定を踏まえたリグを組むケースが多かったですね」(大島氏)


▲グールギラスのチェック用ターンテーブル


C:本作を通して、どのような学びがあったと思いますか?

大島:今回は自分なりに試行錯誤して効率的につくる方法を考えたり、ディレクターやアニメーターに提案や相談をしたりと、これまで以上に主体的に動く機会が多かっです。自分の提案が採用されるケースもそれなりにあったので、次につながる良い経験ができたと思います。


板橋紗綾香氏(モデリングディレクター)からのコメント

  • 大島はリギングが得意なモデラーなので、本作ではキャラクターモデリングからリギングまでのワークフローと手続きを通して学んでもらいたいと思っていました。当初はできるところまでで良いと思っていましたが、本当にがんばって食らいついてきてくれたので驚いています。グールギラスはほぼひとりでつくってくれました。リギングは普段から熱心に勉強しているので、安心して任せられました。主体的に提案を上げてくれたので、今後はほかのスタッフへの指示出しなどもできるようになってほしいと期待しています。また、モデリングとリギングに加え、怪獣のヂリバー(第7回、第11回登場)のUFOのエフェクトも担当してもらいました。当社ではモデラーがエフェクトまで担当する機会は少ないので、経験できて良かったと思います。

学生時代は独学でCGを学び、最初にグラフィニカへ応募

C:締めくくりに、学生時代の話もお聞かせください。大島さんのポートフォリオは、1秒でロボやCGに対する熱量が伝わりますね。この画をつくった学生さんが、4年後にグリッドマンやグールギラスをつくるというながれは、とても首尾一貫していて納得できます。学生時代は、どのようにCGを勉強したのでしょうか?

▲大島氏がグラフィニカへの応募時に提出したポートフォリオの一部。好きなものに対するひたむきな熱意が伝わるのに加え、キャラクターを棒立ちのままレンダリングするのではなく、しっかりリグを組んでポーズを付け、画づくりをしようとする姿勢は今に通じるものがある。「アニメーションと撮影はやりませんでしたが、モデリングからリギングまでは新しいCGモデルをつくるたびに通して実践していました。おかげで制作のながれを理解できたし、知識が偏ることもなかったので、やっておいて良かったと感じます」(大島氏)


大島:大学では情報工学を専攻しており、プログラミングなどの講義を受けていました。CGの講義はなかったので、放課後の部活やプライベートの時間にCGをつくっていましたね。3DCGソフトはMetasequoiaやBlenderから使い始めて、Mayaも学生なら無料でダウンロードできると聞き、使うようになりました。すごく短い期間でしたが、地元のゲーム会社にインターンシップに行ったりもしました。

C:独学でCGをここまでつくる根気のある人はそうそういないので、びっくりしました。リギングはスクリプトの知識も必要とされるので、大学でのプログラミング経験が役立っていそうだなと思うのですが、実際のところは如何でしょうか?

大島:順序立てて考えるという姿勢はリギングにも通じるので、役に立っている部分はあると思います。思い付くままにやっつけでつくって、後で収拾がつかなくなる......という失敗は学生時代に経験したので、どういうアニメーションが求められるのか、先々のことを想像しながらリグを組むようにしています。ポートフォリオに関しては、今見ると、直したいところだらけで辛いです。

C:この連載の取材をやっていると、皆さんそうおっしゃいます。「本当に掲載するんですか?」と辛そうに聞かれるのが常なんですが、現役の学生さんにはすごく励みになると思うので、ぜひ紹介させてください。ところで、数あるCGプロダクションの中から、どうしてグラフィニカへの応募を決めたのでしょうか?

大島:ちょうど就職活動のタイミングで公開された『楽園追放 -Expelled From Paradise- 』(以下、『楽園追放』/2014年11月公開)のPVがすごくセンセーショナルで、「まずは、ここだっ!」という思いで応募しました。だから就職活動では、グラフィニカしか受けなかったです。

C:『楽園追放』のCGによるキャラクターやメカの自然な描写は、当時話題を呼びましたね。一方で、今だから言える、学生時代に勉強しておけば良かったと思うことはありますか?

大島:学生時代から画づくりをしようという意識はあったものの、カメラやレイアウトなど、画づくりの基礎的な知識が身に付いていなかったことに入社してから気付きました。

C:例えば、同じシーンを撮るのでも、カメラの画角やアングルによって印象が大きく変わってくるので、演出意図に応じたカメラワークを選択する必要がある......といったことでしょうか?

大島:そうですね。イラストや絵を描く経験をほとんどしてこなかったこともあり、学生時代はそこまで深く考えていなかったです。入社後の1年間くらいは、講習や仕事などを通してそのあたりを毎日のように指摘されました。

C:講習というのは、いわゆる新人研修のことですか?

大島:はい。グラフィニカに入社した新卒は、モデラーの場合は共通課題のモデリングをやりながら、実作業のワークフローを学びます。トレーニング期間は3ヶ月で、課題は無機物(ボート)と有機物(人体)の2種類があります。期間中はトレーナーと呼ばれる指導係がつき、課題のチェックをしたり、日々の相談にのってくれます。

及川:アニメーターの場合もトレーニング期間は3ヶ月で、2D先行、3D先行、フル3Dの3パターンにおける画づくりのワークフローを学びます。そのほかにモデラーとアニメーターの共通トレーニングとして、撮影(コンポジット)のセミナーや、アドバイザーの板野一郎さん(※1)によるレンズと画づくりの講習などもあります。一連のトレーニングが終了したら、実際の現場にアサインされます。

※1「板野サーカス」と呼ばれるメカやミサイルのアクロバチックな作画で知られる演出家/アニメーター。『SSSS.GRIDMAN』ではヂリバー(第7回、第11回登場)のデザインも担当。グラフィニカには設立当初からクリエイティブアドバイザーとして在籍しており、同社の作画と3DCG、両分野のスタッフの指導育成にあたっている。案件に対するアドバイスに加え、演出やシナリオなどの講習も実施している。

長濵:グラフィニカは社内に作画、仕上げ、美術、撮影、編集などのセクションもあるので、アニメ制作の全体像を把握しやすいというメリットがあります。実際、撮影のセミナーでは社内の撮影監督が講師となり、撮影のやり方を教えてくれました。

©円谷プロ ©2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

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